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017 ゲンゾウの店

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 裏技――ステータスモードに、使用制限はない。
 ゲームを始めたその瞬間から、使おうと思えば使えるのだ。
 だから、ネネイやエリゼだって、この裏技を使えるに違いない。

「サクッと最強になれば、チマチマ雑魚を狩る必要もないぞ」
「たしかにその通りですね」
「おとーさん、天才なのー!」
「むしろ、今まで気づかなかったから馬鹿だろう」

 俺は2人にステータスモードの使い方を教えた。
 といっても、ただ「ステータスモード」と念じるだけだ。

「さぁ最強になるがいい」
「はいなのー!」
「わかりました」

 これは予定変更だな。
 しばらく雑魚狩りに精を出す予定だったが、もはやその必要はない。
 最強になった2人を連れて、A級のクエストでも受けてみよう。
 ――と思いきや。

「あれれぇ?」
「何も起きませんよ、ゼクス」
「なに? どういうことだ?」

 どういうわけか、ステータスモードが使えないらしい。

「おかしいな、ちょっと待てよ」

 俺も試してみる。
 すると、こちらは何の問題もなかった。
 きっちりとパラメータが表示されたのだ。

「俺の方は問題ないが……」

 原因を考え込む。
 思い当たる節があった。

「一度、街の外へ行ってみよう」

 初めてステータスモードを開いたのは、ダンジョンの中だ。
 もしかしたら、最初はダンジョンでなければならないのかもしれない。
 実際に試してみた。

「この辺りでいいか」

 近くの森にやってきた。
 ミラーフォックスではないが、C級の魔物が棲息している。
 環境としては、俺が覚醒した時と似ているはずだ。

「どうだ?」

 早速、2人に試してもらう。

「なにも起きないなの」
「駄目ですね」

 ステータスモードは起動しなかった。
 ここで俺も試すが、やはり俺は普通に起動する。

「うーむ、何が原因なんだ?」
「とりあえず街に戻りましょう。ここは危険です」
「そうだな」

 街に向かって歩きながら、俺は原因を考えた。

「もしかしたら、前世の記憶が関係しているのかもしれないな」

 街に着いた頃、俺が導き出した結論がそれだった。

「前世の記憶が? どういうことですか?」
「ステータスモードを起動するには前世の記憶が必要ってことさ」

 物を異次元空間に保管するには、冒険者でなければならない。
 〈ライト〉のスキルを使うには、魔法使いでなければならない。
 そんな感じで、ステータスモードにも起動条件があるのだろう。
 そしてその条件で思い当たるのが、前世の記憶ということ。

「なるほど。たしかに、ゼクスだけが前世の記憶を持っていますね」
「じゃあ、おとーさんしか使えないってことなの?」
「俺だけかは分からないが、誰でも使えるわけではないようだ」

 残念だが諦めよう。
 ネネイとエリゼを超速で最強にすることは、現状の知識では不可能だ。
 変更した予定を再び変更し、元に戻す。

「仕方ない、雑魚狩りに精を出すとしよう」

 ◇

 適当なクエストを受注した後、武器を買うことにした。

「ここは鍛冶職人が営む武器屋で、商品の幅が広いんだぜ」

 エリゼに説明しながら武器屋の中に入る。
 やってきたのは、以前、ネネイの武器を買った店だ。
 広大な店内には、ありとあらゆる種類の武器が置いてある。
 工房が隣接されていて、そこで店主の鍛冶職人が武器を作っていた。

「あら、こんな所に子連れのおじさまが何の用かしら?」

 精算カウンターの向こうから、妖艶な雰囲気の女性が話しかけてきた。
 俺と同じくらいの背丈で、長い黒髪と黒のローブが特徴的だ。
 ローブは胸元が緩くて、豊満な胸を惜しみなく強調している。
 まともな男なら、十人中十人が胸をチラ見するだろう。俺もそうだ。

「武器を探しにきたんだ」
「ふぅん、おじさまは冒険者なんだ?」
「俺もだけど、この2人もそうだよ」

 女が驚く。

「そうだったのね。そんな風には見えないけど」
「ハハッ、よく言われるよ」

 女の感想は無理もなかった。
 俺と手を繋ぐ幼女に、腕を絡めるエルフの少女。
 そして、真ん中にいるのは、ただの服をきたおっさんだ。

「お父さんは武器作りに忙しいみたいだね」

 前にここへ来た時、この女は居なかった。
 俺達の相手をしてくれたのは、俺より少し上の男だった。
 この店の経営者であり、鍛冶職人でもある男だ。

 この女は、鍛冶職人の娘に違いない。
 前に職人と雑談した時、娘が居ると言っていた。
 20代後半という年齢に漂う雰囲気、まさに言葉通りだ。

「お父さんって、ゲンゾウのこと?」

 そういえばそんな名前だったな、と思い出す。
 俺が頷くと、女は笑った。

「ゲンゾウはお父さんじゃなくて、私の旦那よ?」
「え、そうなの? 娘が居るって聞いていたからてっきり」
「嘘よ。私がゲンゾウの娘で合っているわ」
「嘘かよ! なんで不要な嘘をつくんだ……」
「ふふっ。とにかく、好きに見ていってね」
「はいよ」

 つかみどころがない女との会話を切り上げる。
 店内の物色を開始した。

「ゼクス、剣を見てきます」

 エリゼが腕を解き、剣のコーナーに向かう。
 剣は一番人気のジャンルだから、棚の数が多い。

「ネネイはあっちに行くのー!」

 エリゼと正反対の方向に、ネネイは走って行った。
 彼女の行く先にあるのは“その他”と書かれた商品棚だ。
 こちらには変わり種の武器が陳列されている。

「俺はここだな」

 今回は俺も武器を買うつもりだ。
 魔法使いらしく、使用する武器は杖にする。

「しっくりくるな」

 適当な杖を持って思った。
 やはり武器は杖に限るな、と。
 現世では剣の一辺倒だったとは思えない。

「ゼクスが杖を持つ姿、初めて見ましたよ」

 エリゼが棚の隙間からこちらを見て言う。

「剣よりも馴染んでいるよ。これで魔弾と飛ばせる」

 魔弾とは、魔法使いが杖を使って行う通常攻撃のことだ。
 魔法の弾丸を飛ばすというもの。
 クールタイムは存在しないが、威力はスキルに比べて遥かに低い。

「この杖でいいか」

 紺色の杖を選んだ。
 名前はオーシャンズロッド。
 デザインは無骨だが、色合いが美しい。
 性能は可も無く不可も無く。
 手持ちの金と考慮した結果、最適なのがこの杖だった。

「ネネイはコレにするのー!」

 同じ頃、ネネイも新調するスリングを決めていた。
 まるでネネイの為に作ったかのような、ピンク色のスリングだ。
 性能面では、現在使っている物よりいくらかグレードアップしている。

「お待たせしてすみません。私も決めました」

 エリゼはエストック系の細い剣を選んでいた。
 この種の剣は軽くて扱いやすいので、女からの人気が高い。

 全員が武器を選んだので、レジにて支払いを済ませた。
 ついでに、ネネイがこれまで使っていた武器を下取りに出す。

「お、あんたはこの前の!」

 鍛冶職人ことゲンゾウが店に入ってきた。

「今日は三人分の武器を買わせてもらったよ」
「嬢ちゃん用に作ったスリングも買ってくれたようだな」

 やはり、あれはネネイ用だったか。
 えらく可愛い見た目をしていると思った。

「これらの武器で頑張らせてもらうよ」
「おうよ。また利用してやってくれ」
「じゃーね、おじさま」

 武器の購入が済み、準備は整った。
 狩りの時間だ。
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