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第009話 魔法院
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上位魔法【フレイムバード】を発動したリーナ。
それに驚き固まるアルフレッド、シャーロット、ゴブちゃん。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
リーナは息を切らして震えていた。
「リーナ、記憶が戻ったのか?」
アルフレッドが驚いた様子で尋ねる。
無理もない。彼は【フレイムバード】を教えていないのだ。教えていないのだから、本来であればリーナが使えるはずはない。しかし、リーナはそれを使ってみせた。それも刹那の詠唱による発動。日頃から使っていないと到達できない達人級の詠唱速度だ。
「わ、わからない。私……一体……?」
リーナ自身にも分かっていなかった。
「ゴブちゃんが危ないと思ったら、身体が勝手に……」
アルフレッドとシャーロットが目を合わせる。
それからアルフレッドが、「そうか」と微笑んだ。
「分からないなら無理に思い出そうとしなくていいさ。とにかく、リーナが謎の覚醒をしたおかげでワイルドボアを倒せて、ゴブちゃんを救うことが出来たんだ。そのことを素直に喜ぼう」
リーナは「う、うん」と詰まらせ気味に頷く。
「リーナ、【フレイムバード】をもう一度発動出来るかい?」
「……無理。魔法歌詞が分からないから詠唱できない」
アルフレッドは「そうか」と頷き、リーナの頭を撫でる。
それからゴブちゃんに対し、アルフレッドは質問を出した。
「ゴブちゃん、さっきの魔法をリーナが使ったのはこれが初めてか?」
ゴブちゃんが「ゴブ! ゴブ!」と激しく頷く。
「じゃあ、ゴブちゃんがリーナにテイムされたのは結構前か?」
「ゴブブゥ……」
ゴブちゃんが首を傾げる。
どうやら“結構”がどのくらいか分からないようだ。
そう判断したアルフレッドは、具体的な期間を言ってみる。
「一年前?」
ゴブちゃんは「ゴブブ」と首を横に振った。
「もっと昔?」
またしても「ゴブブ」と首を横に振るゴブちゃん。
「すると一年未満か」
今度は「ゴブ!」と首を縦に振った。
「最近になってテイムされたんじゃ、細かいことは分からないか。それにしても5歳で上位クラスのスキルを刹那の詠唱で見事に発動するとは凄いな。記憶を失う前のリーナはよほど過酷な訓練を乗り越えていたようだ」
そう言った後、アルフレッドは「それとも才能かな?」と茶化し気味に笑って、リーナの頭をクシャクシャと撫でた。リーナは「もっと優しく撫でてよ」と怒りながらアルフレッドの手を払う。頬を膨らますリーナに「ごめんごめん」と謝りながら、アルフレッドは別のことを考えていた。
「(おそらく下手すれば死にかねない拷問にも似た訓練を日常的に受けていたはずだ。どういう理由で呪いに掛けられたのかは知らないが、記憶障害はむしろこの子にとって良かったかもしれないな……)」
「でも、さっきのじゃ、倒した感じがしない」
リーナが不満そうに言う。
アルフレッドは「別の奴と戦う?」と尋ねた。
しかし、リーナはこの問いに対して首を横に振る。
「今日はやめとく。ゴブちゃんを危険な目に遭わせてしまうから」
「ならゴブちゃんの代わりにお父さんが敵を止めてやろうか?」
アルフレッドが冗談を飛ばす。
冗談だと分かっていたから、リーナは乗っかった。
「じゃあ戦う! ガンガン魔法撃っちゃうもん!」
「ふふ、アルフレッド様、防御魔法の訓練が捗りますね」
予想外のことがあるも、アルフレッド達は楽しく活動を終えた。
◇
王都に戻ると、アルフレッドが言った。
「俺は寄り道するから、皆は先に戻ってくれ」
「ご夕食はいかがなされますか?」
「今日は家で食べるよ。戻りはちと遅くなるから3人で先に済ませておいて」
「かしこまりました」
アルフレッドが「2人を頼むぞ」とシャーロットに言う。
シャーロットは笑顔で「はい」と頷いた。
「リーナ、魔力を回復する為にも今日はほどほどにして寝るんだぞ」
「ん、わかった」
たくさん訓練したいリーナは不満そうだ。
それでも、師匠であるアルフレッドの教えに従う。
「それじゃあ、俺はあっちに行くから」
そう言って、アルフレッドは3人と別れた。
そうしてやってきたのは魔法院と呼ばれる場所だ。
魔法や魔導師に関する資料が多く貯蔵されている。
端的にいえば、魔導師向けの図書館といったところ。
「えーっと……」
アルフレッドが望む資料を探していく。
しばらくして「あったあった」と目的の物を見つけた。
高位魔導師のプロフィールが書かれている本だ。
「リーナの年齢が5歳だから……」
アルフレッドがパラパラと本をめくっていく。
約5年前に子を授かった魔導師について調べているのだ。
早い話がリーナの親探しである。
「(リーナの親を見つけたら呪いのことも分かるはずだ。理由次第では俺がおしおきしてやるからな!)」
リーナが使った【フレイムバード】を教えられる人間は少ない。
その時点である程度絞られる。
更にリーナの年齢から逆算すれば、該当する人間は3人も居れば多い方。
だったのだが――。
「なん……だと……」
アルフレッドはもう一度本を調べた。
そして、先ほどと同じ結論にたどり着く。
「誰もいない……だと……!」
そう、該当する人間は0人だったのだ。
高位の魔導師に、5歳前後の子供を持っている者はいなかった。
「じゃあ、あの子に魔法を教えたのは誰なんだ……」
アルフレッドはモヤモヤしながら家に帰るのであった。
それに驚き固まるアルフレッド、シャーロット、ゴブちゃん。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
リーナは息を切らして震えていた。
「リーナ、記憶が戻ったのか?」
アルフレッドが驚いた様子で尋ねる。
無理もない。彼は【フレイムバード】を教えていないのだ。教えていないのだから、本来であればリーナが使えるはずはない。しかし、リーナはそれを使ってみせた。それも刹那の詠唱による発動。日頃から使っていないと到達できない達人級の詠唱速度だ。
「わ、わからない。私……一体……?」
リーナ自身にも分かっていなかった。
「ゴブちゃんが危ないと思ったら、身体が勝手に……」
アルフレッドとシャーロットが目を合わせる。
それからアルフレッドが、「そうか」と微笑んだ。
「分からないなら無理に思い出そうとしなくていいさ。とにかく、リーナが謎の覚醒をしたおかげでワイルドボアを倒せて、ゴブちゃんを救うことが出来たんだ。そのことを素直に喜ぼう」
リーナは「う、うん」と詰まらせ気味に頷く。
「リーナ、【フレイムバード】をもう一度発動出来るかい?」
「……無理。魔法歌詞が分からないから詠唱できない」
アルフレッドは「そうか」と頷き、リーナの頭を撫でる。
それからゴブちゃんに対し、アルフレッドは質問を出した。
「ゴブちゃん、さっきの魔法をリーナが使ったのはこれが初めてか?」
ゴブちゃんが「ゴブ! ゴブ!」と激しく頷く。
「じゃあ、ゴブちゃんがリーナにテイムされたのは結構前か?」
「ゴブブゥ……」
ゴブちゃんが首を傾げる。
どうやら“結構”がどのくらいか分からないようだ。
そう判断したアルフレッドは、具体的な期間を言ってみる。
「一年前?」
ゴブちゃんは「ゴブブ」と首を横に振った。
「もっと昔?」
またしても「ゴブブ」と首を横に振るゴブちゃん。
「すると一年未満か」
今度は「ゴブ!」と首を縦に振った。
「最近になってテイムされたんじゃ、細かいことは分からないか。それにしても5歳で上位クラスのスキルを刹那の詠唱で見事に発動するとは凄いな。記憶を失う前のリーナはよほど過酷な訓練を乗り越えていたようだ」
そう言った後、アルフレッドは「それとも才能かな?」と茶化し気味に笑って、リーナの頭をクシャクシャと撫でた。リーナは「もっと優しく撫でてよ」と怒りながらアルフレッドの手を払う。頬を膨らますリーナに「ごめんごめん」と謝りながら、アルフレッドは別のことを考えていた。
「(おそらく下手すれば死にかねない拷問にも似た訓練を日常的に受けていたはずだ。どういう理由で呪いに掛けられたのかは知らないが、記憶障害はむしろこの子にとって良かったかもしれないな……)」
「でも、さっきのじゃ、倒した感じがしない」
リーナが不満そうに言う。
アルフレッドは「別の奴と戦う?」と尋ねた。
しかし、リーナはこの問いに対して首を横に振る。
「今日はやめとく。ゴブちゃんを危険な目に遭わせてしまうから」
「ならゴブちゃんの代わりにお父さんが敵を止めてやろうか?」
アルフレッドが冗談を飛ばす。
冗談だと分かっていたから、リーナは乗っかった。
「じゃあ戦う! ガンガン魔法撃っちゃうもん!」
「ふふ、アルフレッド様、防御魔法の訓練が捗りますね」
予想外のことがあるも、アルフレッド達は楽しく活動を終えた。
◇
王都に戻ると、アルフレッドが言った。
「俺は寄り道するから、皆は先に戻ってくれ」
「ご夕食はいかがなされますか?」
「今日は家で食べるよ。戻りはちと遅くなるから3人で先に済ませておいて」
「かしこまりました」
アルフレッドが「2人を頼むぞ」とシャーロットに言う。
シャーロットは笑顔で「はい」と頷いた。
「リーナ、魔力を回復する為にも今日はほどほどにして寝るんだぞ」
「ん、わかった」
たくさん訓練したいリーナは不満そうだ。
それでも、師匠であるアルフレッドの教えに従う。
「それじゃあ、俺はあっちに行くから」
そう言って、アルフレッドは3人と別れた。
そうしてやってきたのは魔法院と呼ばれる場所だ。
魔法や魔導師に関する資料が多く貯蔵されている。
端的にいえば、魔導師向けの図書館といったところ。
「えーっと……」
アルフレッドが望む資料を探していく。
しばらくして「あったあった」と目的の物を見つけた。
高位魔導師のプロフィールが書かれている本だ。
「リーナの年齢が5歳だから……」
アルフレッドがパラパラと本をめくっていく。
約5年前に子を授かった魔導師について調べているのだ。
早い話がリーナの親探しである。
「(リーナの親を見つけたら呪いのことも分かるはずだ。理由次第では俺がおしおきしてやるからな!)」
リーナが使った【フレイムバード】を教えられる人間は少ない。
その時点である程度絞られる。
更にリーナの年齢から逆算すれば、該当する人間は3人も居れば多い方。
だったのだが――。
「なん……だと……」
アルフレッドはもう一度本を調べた。
そして、先ほどと同じ結論にたどり着く。
「誰もいない……だと……!」
そう、該当する人間は0人だったのだ。
高位の魔導師に、5歳前後の子供を持っている者はいなかった。
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