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第008話 覚醒の幼女

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 アルフレッドがリーナを養子に迎えてから1週間が経過……。
 その間、リーナは簡単な攻撃魔法を手当たり次第にマスターしていた。
 そして今日――。

「おとーさん、お空に魔法を撃つのに飽きた」
「思ったより筋がいいから、実戦で試してみるか」
「いいの? やったー!」

 わずか5歳にして、リーナは戦闘デビューを果たすことになった。

 ◇

 アルフレッド一行――アルフレッド、リーナ、シャーロット、ゴブちゃん――は、王都の近くにある<入門の草原>にやってきた。
 可愛らしい動物の代わりに雑魚モンスターが棲息している草原だ。ここのモンスターはかなり弱く、獰猛さも控え目ということで基本的に無視されている。最近では魔法やスキルの試し打ちに利用される程度だ。

「実戦形式で戦ってみるか?」

 アルフレッドが尋ねる。
 リーナは「うん」と頷いた。

「そうしたい」
「分かった。なら敵はリーナとゴブちゃんで倒すんだ」
「ゴブちゃんは見学でいいよ」
「駄目だ。リーナのペットなんだから一緒に戦わないと」
「でもおとーさんはいつも1人なんでしょ?」

 リーナはアルフレッドが1人で戦っていると思っていた。
 だから自分も1人で戦おうとしていたのだ。負けず嫌いである。
 アルフレッドは「そんなわけない」と笑いながら首を振った。

「魔導師はPTで戦うのが基本だよ。優秀な仲間が安全を確保してくれて、その隙に魔法を発動して敵を倒すんだ。または俺のように怪我した仲間を治療する。1人で戦う魔導師なんていないよ」

 リーナが「そうなの?」と驚く。
 アルフレッドが頷くと、彼女は考えを修正した。

「じゃあ、ゴブちゃんと一緒に戦う」

 ゴブちゃんが「ゴブ!」と力コブを作る。
 アルフレッドは「おうおう」と笑顔になった。

「それでは私が敵を見つけますね」
「ありがとー、シャーロットさん」

 シャーロットは「はい」と微笑み、その場で跳躍した。
 アルフレッドの支援魔法が掛かっていることもあり、彼女の跳躍力は人間の限界を遙かに凌駕している。垂直跳びにも関わらず、20メートル近い高さまで上がった。

「あそこに居ます」

 シャーロットが空中で斜め前方を指す。

「はーい! ゴブちゃん、行こ!」
「ゴブブゥー!」

 即座にリーナとゴブちゃんが駆けだした。
 落下するシャーロットについては無視である。2人とも分かっているからだ。アルフレッドに任せれば問題ないということを。
 実際、アルフレッドは落ちてくるシャーロットをキャッチした。強化魔法で腕を強化している上に、風魔法でシャーロットの落下速度を和らげていたこともあり、両者ともに無傷である。

「ありがとうございます、アルフレッド様」

 シャーロットは地に足を着けると、アルフレッドに頭をペコリ。
 アルフレッドは「気にするな」と流し、視線をリーナ達に向ける。

「ゴブちゃん、頑張って敵を倒そうね」
「ゴブー! ゴブブー!」

 2人の敵はワイルドボア。
 逆立った体毛が特徴的な猪だ。
 見た目はしっかりしているがパワーは弱い。

「ゴブちゃん、敵の動きを止めて!」
「ゴブー!」

 まずはゴブリンが突っ込む。
 真っ向からワイルドボアに向かって走っている。
 ――が、ゴブリンも雑魚モンスターの一角だ。
 走っているとは言ってもその動きはとても遅い。
 当然、ワイルドボアには冷静に対処する時間があった。

「フンガァー!」

 ワイルドボアが迎え撃つように突進。
 地面を後ろ足で三度踏みならしてからのダッシュ。
 ゴブちゃんよりも遙かに速い。

「ゴブーンッ!」

 ゴブちゃん、あっさり敗北。
 なかなか盛大に吹き飛ばされてしまった。
 しかしゴブちゃんは諦めない。
 スッと立ち上がり、服の泥を落としてリベンジ。
 今度はワイルドボアの側面から飛びつくことに成功した。

「フンガァー! フンガァー!」
「ゴブ! ゴブ! ゴブブー!」

 暴れ狂うワイルドボア。
 しかし、ゴブちゃんはしがみついて離れない。

「ゴブ! ゴブブ!」

 ゴブちゃんがリーナに向かって吠える。
 今のうちに攻撃をぶちかませ、という合図だ。

「分かった! 今、魔法を発動するからね!」

 リーナが詠唱に入る。
 一番得意な【ファイヤーボルト】を使うつもりだ。
 家の庭では1秒で発動出来るようになっていた。
 しかし、実戦では――。

「失敗した!」
「また失敗!」
「もー! 駄目!」

 何度も失敗する。
 慌てるあまりに詠唱で手こずるのだ。
 詠唱に意識が集中しすぎると、今度は魔力の調整で失敗する。
 火属性の魔法なのに、別の属性でチューニングしてしまうのだ。
 それでも、何度目かの挑戦で無事に発動した。

「いっけぇー!」

 リーナの右手から火の粒が飛ぶ。
 だが、粒はかすることもなく盛大に外れた。
 これも庭で練習している時なら問題なく出来たことなのに。

「なんで当たらないのよ! なんでー!」

 リーナが苛立ちをあらわにする。
 そこへアルフレッドが笑いながら寄っていく。

「実戦は難しいだろー。練習とはちが――」
「おとーさんは黙ってて! リーナの戦いなんだから!」
「あ、はい、すみません」

 アルフレッド、怒ったリーナに一蹴される。
 それを後ろで見ていたシャーロットは、一人でクスクスと笑った。

「ゴブーンッ」
「あ、ゴブちゃん!」

 ついにゴブちゃんが振り落とされた。
 更に――。

「フンガァー!」

 転がるゴブちゃんにワイルドボアが突っ込む。
 既に体力を消耗しているゴブちゃんに避ける力はない。
 このままでは直撃は免れずそうなると――まずい!

「アルフレッド様!」

 シャーロットが叫んだ。
 アルフレッドも「分かっている!」と助太刀に入ろうとする。
 しかし、その時――。

「キュイイイイイイイイイイイイイン!」

 ワイルドボアを火の鳥が襲った。
 火の鳥はワイルドボアを丸呑みにしてそのまま上空に飛ぶ。
 そして、ド派手に爆発した。

「こ、この魔法は……」

 アルフレッドは火の鳥のことを知っていた。
 火属性の中でも上位クラスの魔法【フレイムバード】だ。
 アルフレッドでさえ、発動には数秒の時間を要する。
 そんな魔法を――。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
「リーナ、お前が使ったのか?」

 リーナが使ったのだ。一瞬の詠唱時間で。
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