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第003話 幼なじみ
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役場で小一時間をかけて養子登録を終えたアルフレッド一行は、大衆食堂に移動した。
やってきたのは、アルフレッドが懇意にしている馴染みの大衆食堂『ハナビシ』だ。規模は一般的で、味付けは薄め。
「アルフレッドさんだ」
「おお、S級魔導師のアルフレッドさん」
「先日はPTに入っていただきどうもでした」
「アルフレッドさんまたPT組んでくださーい」
「アルフレッドさんのおかげでC級になれましたっす!」
店に入るなり、大勢の人間がアルフレッドに声を掛けた。
アルフレッドはそれらを適当に受け流し、空いているテーブルに座る。
リーナはアルフレッドの対面に、ゴブちゃんはリーナの隣に座った。
「こんにちは、アル君!」
アルフレッドのテーブルに水を置きながら、看板娘の“トワナ”が話しかける。ダークブラウンの長い髪を後ろで束ねている彼女は、アルフレッドの幼なじみだ。本人はアルフレッドに対して少なからず好意を抱いているが、アルフレッドはそのことに気がついていない。
「今日も精が出るな、トワナ」
「えへへー♪ ところでアル君、その子は!?」
トワナがリーナを見て驚く。
リーナも「おとーさん、この人は?」はアルフレッドに尋ねた。
当然、トワナは「おとーさん!?」と尚更に驚愕する。
アルフレッドは軽く笑った後、冷静に答えた。
「トワナ、この子は今日から養子に迎えたリーナだよ。リーナ、この人はこの店屈指のモテモテ女トワナだよ。可愛いって言うと一品サービスしてくれるから、嘘でも可愛いって言うんだぞ」
トワナが「最後は余計だよー!」とアルフレッドの頬を引っ張る。
そのやり取りをクスクスと笑いながら、リーナは「はーい」と答えた。
「それでアル君、どうしてまた養子を!?」
「色々と事情があってな。それより注文していい? お腹ペコペコなんだ」
「あっ! そうだった! じゃあアル君はハンバーグ定食として、リーナちゃんとそこのゴブリンは何がいいかな?」
アルフレッドが「なぜ勝手に決める」とツッコミ。
トワナは「でもハンバーグ定食でしょ?」とニヤリ。
アルフレッドは「たしかにそうだが」と苦笑い。
そう、彼はこの店で食べるハンバーグ定食が大好きなのだ。
「私もおとーさんと同じのにする。あとゴブちゃんにも同じのを」
「じゃあハンバーグ定食3人前だね! りょーかい!」
トワナは敬礼してから厨房に走って行った。
「楽しみだね、ゴブちゃん」
「ゴブッ! ゴブッ!」
2人はまだ見ぬハンバーグ定食に想いを馳せている。
店内を食事の良い匂いが充満していることもあり、食欲全開だ。
「さーて、詳細を聞かせてもらうよー!」
厨房に注文を伝えたトワナが戻ってきた。
他所のテーブルから椅子を持ってきて、アルフレッドの席に参加する。他の客が「トワナちゃーん」と注文しようとしたら、「今から大事な話をするからあとでねー!」と接客業にあるまじき対応をぶちかます。そんなトワナに代わって、別の給仕が大慌てで注文を伺いに行くのであった。
「多忙極まるアル君が育児をしようと思った理由を教えてよ!」
「そんな大それたことじゃないよ。森を散歩していたら、ゴブちゃんがリーナを抱えてやってきたんだ。で、その時のリーナは呪いに掛けられて意識を失っていた。それを俺が治療したんだけど、呪いの後遺症で記憶障害に陥っていて……こうなった」
アルフレッドが「要するに成り行きさ」と締めくくる。
トワナは「なっるほどー!」と納得した。内心ではホッとしている。彼女はアルフレッドによもや恋人が出来たのではないかと気になっていたのだ。
「それにしてもトワナの言う通りだな」
アルフレッドがポツリと呟く。
トワナは「へっ?」と首を傾げた。
「多忙極まるってやつ。後のことを考えていなかったよ。今後は今までみたいに困っているPTを手当たり次第に救うってことが出来なくなる。なんせダディとして育児に専念せねばならないからな」
リーナが「ダディじゃなくておとーさん」と頬を膨らます。
アルフレッドが「気づいた?」と笑うと、リーナは「バレバレ」と即答。
「アル君が子育てかー。イメージできないけどいいんじゃない?」
「そうかな?」
「最近はシャカリキになりすぎていたもん。いつ倒れるかって、私は冷や冷やしていたんだよー。お金を稼ぎたいというわけでもないのに働き過ぎだよ!」
アルフレッドは既に使い切れない額のお金を持っている。
それでも多くのPTに協力していたのは、求められていたからだ。
他人が喜ぶことで、自分も喜ばしい気分になっていた。
「冷や冷やさせていたとは知らなかったよ」
「私、いつも冷や冷やしてるって言ってたじゃん!」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ! アル君、私の話だけ無視しすぎー!」
アルフレッドが「ははは」と笑う。
リーナはアルフレッドとトワナを交互に見て幼心に思った。
「(トワナさんはおとーさんのことが大好きなんだ。でも、おとーさんはそれに気づいていない。おとーさんもトワナさんのことが好きだけど、トワナさんがおとーさんに感じている“好き”とはまた違う感じがする)」
リーナはなんとなくゴブちゃんの頭を撫でる。
それから、トワナに向かって言った。
「トワナさん、頑張って!」
何を応援されたのか気づいていないトワナが「えっ」と固まる。
リーナはどう言おうか一瞬だけ悩み、もう一度「頑張って!」と言った。
「う、うん、頑張る! 何か分からないけど任せて!」
トワナが親指をグッと立てる。
そんな時、厨房から強面のオヤジが出てきた。
「トワナ! ハンバーグ定食3人前出来たつってんだろ! さっさと取りにこんか!」
「ひぃぃぃぃ! おやっさん! ごめんなさぁーい!」
強面オヤジに叱られ、トワナは大慌てで厨房に駆け込むのであった。
やってきたのは、アルフレッドが懇意にしている馴染みの大衆食堂『ハナビシ』だ。規模は一般的で、味付けは薄め。
「アルフレッドさんだ」
「おお、S級魔導師のアルフレッドさん」
「先日はPTに入っていただきどうもでした」
「アルフレッドさんまたPT組んでくださーい」
「アルフレッドさんのおかげでC級になれましたっす!」
店に入るなり、大勢の人間がアルフレッドに声を掛けた。
アルフレッドはそれらを適当に受け流し、空いているテーブルに座る。
リーナはアルフレッドの対面に、ゴブちゃんはリーナの隣に座った。
「こんにちは、アル君!」
アルフレッドのテーブルに水を置きながら、看板娘の“トワナ”が話しかける。ダークブラウンの長い髪を後ろで束ねている彼女は、アルフレッドの幼なじみだ。本人はアルフレッドに対して少なからず好意を抱いているが、アルフレッドはそのことに気がついていない。
「今日も精が出るな、トワナ」
「えへへー♪ ところでアル君、その子は!?」
トワナがリーナを見て驚く。
リーナも「おとーさん、この人は?」はアルフレッドに尋ねた。
当然、トワナは「おとーさん!?」と尚更に驚愕する。
アルフレッドは軽く笑った後、冷静に答えた。
「トワナ、この子は今日から養子に迎えたリーナだよ。リーナ、この人はこの店屈指のモテモテ女トワナだよ。可愛いって言うと一品サービスしてくれるから、嘘でも可愛いって言うんだぞ」
トワナが「最後は余計だよー!」とアルフレッドの頬を引っ張る。
そのやり取りをクスクスと笑いながら、リーナは「はーい」と答えた。
「それでアル君、どうしてまた養子を!?」
「色々と事情があってな。それより注文していい? お腹ペコペコなんだ」
「あっ! そうだった! じゃあアル君はハンバーグ定食として、リーナちゃんとそこのゴブリンは何がいいかな?」
アルフレッドが「なぜ勝手に決める」とツッコミ。
トワナは「でもハンバーグ定食でしょ?」とニヤリ。
アルフレッドは「たしかにそうだが」と苦笑い。
そう、彼はこの店で食べるハンバーグ定食が大好きなのだ。
「私もおとーさんと同じのにする。あとゴブちゃんにも同じのを」
「じゃあハンバーグ定食3人前だね! りょーかい!」
トワナは敬礼してから厨房に走って行った。
「楽しみだね、ゴブちゃん」
「ゴブッ! ゴブッ!」
2人はまだ見ぬハンバーグ定食に想いを馳せている。
店内を食事の良い匂いが充満していることもあり、食欲全開だ。
「さーて、詳細を聞かせてもらうよー!」
厨房に注文を伝えたトワナが戻ってきた。
他所のテーブルから椅子を持ってきて、アルフレッドの席に参加する。他の客が「トワナちゃーん」と注文しようとしたら、「今から大事な話をするからあとでねー!」と接客業にあるまじき対応をぶちかます。そんなトワナに代わって、別の給仕が大慌てで注文を伺いに行くのであった。
「多忙極まるアル君が育児をしようと思った理由を教えてよ!」
「そんな大それたことじゃないよ。森を散歩していたら、ゴブちゃんがリーナを抱えてやってきたんだ。で、その時のリーナは呪いに掛けられて意識を失っていた。それを俺が治療したんだけど、呪いの後遺症で記憶障害に陥っていて……こうなった」
アルフレッドが「要するに成り行きさ」と締めくくる。
トワナは「なっるほどー!」と納得した。内心ではホッとしている。彼女はアルフレッドによもや恋人が出来たのではないかと気になっていたのだ。
「それにしてもトワナの言う通りだな」
アルフレッドがポツリと呟く。
トワナは「へっ?」と首を傾げた。
「多忙極まるってやつ。後のことを考えていなかったよ。今後は今までみたいに困っているPTを手当たり次第に救うってことが出来なくなる。なんせダディとして育児に専念せねばならないからな」
リーナが「ダディじゃなくておとーさん」と頬を膨らます。
アルフレッドが「気づいた?」と笑うと、リーナは「バレバレ」と即答。
「アル君が子育てかー。イメージできないけどいいんじゃない?」
「そうかな?」
「最近はシャカリキになりすぎていたもん。いつ倒れるかって、私は冷や冷やしていたんだよー。お金を稼ぎたいというわけでもないのに働き過ぎだよ!」
アルフレッドは既に使い切れない額のお金を持っている。
それでも多くのPTに協力していたのは、求められていたからだ。
他人が喜ぶことで、自分も喜ばしい気分になっていた。
「冷や冷やさせていたとは知らなかったよ」
「私、いつも冷や冷やしてるって言ってたじゃん!」
「え、そうだっけ?」
「そうだよ! アル君、私の話だけ無視しすぎー!」
アルフレッドが「ははは」と笑う。
リーナはアルフレッドとトワナを交互に見て幼心に思った。
「(トワナさんはおとーさんのことが大好きなんだ。でも、おとーさんはそれに気づいていない。おとーさんもトワナさんのことが好きだけど、トワナさんがおとーさんに感じている“好き”とはまた違う感じがする)」
リーナはなんとなくゴブちゃんの頭を撫でる。
それから、トワナに向かって言った。
「トワナさん、頑張って!」
何を応援されたのか気づいていないトワナが「えっ」と固まる。
リーナはどう言おうか一瞬だけ悩み、もう一度「頑張って!」と言った。
「う、うん、頑張る! 何か分からないけど任せて!」
トワナが親指をグッと立てる。
そんな時、厨房から強面のオヤジが出てきた。
「トワナ! ハンバーグ定食3人前出来たつってんだろ! さっさと取りにこんか!」
「ひぃぃぃぃ! おやっさん! ごめんなさぁーい!」
強面オヤジに叱られ、トワナは大慌てで厨房に駆け込むのであった。
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