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第002話 マンダリンを目指して
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休み時間が終わったと思いきや、念じるだけでステータスやら何やら表示される謎の世界に転移した俺達。このような状況に陥った場合、スクールカーストのどこに位置しているかによって、反応は大きく異なる。
「ちょっ! スマホが使えない! インスタ出来ないよ! チュイッターもダメ! どうしよう、皆でインスタ映えする派手な綿菓子を食べに行く予定だったのに!」
などと絶叫して絶望するのはカーストの中間層以上の人間である。
いわゆるリア充をはじめとする、現在並びに将来の明るい者達だ。
では、俺や眼鏡岡のような最下層のウジ虫だとどうなるのか?
「只野氏! これは激アツなイベントではござらぬか!」
「だな! やばいぞ! 謎のゲームチックな世界にきちまったぜ!」
素直に大喜びである。
現実世界で負け組の俺達にとって、ゲームチックなこの世界は「ヒャッハー!」と手放しで喜ぶほかあるまい。現実逃避にこの上なく適している上に、カーストの底辺層から脱出できるかもしれないからだ。
当然、新たな世界にはリスクもある。
もしかしたら現実よりも遙かに過酷かもしれない。それでも、勝者と敗者の決まったレールを走る必要がないと思えるだけで、未来への希望が沸々と溢れてくるものだ。
「只野氏! もしや我々は、知らぬ間に何かしらのゲームを始めてしまったのでござらぬか!?」
「いや、そう判断するのは時期尚早だろう。本当に肉体が転移したという可能性もある。いや、むしろそうであってほしい。そうであってくれ。ゲームだったらいずれはログアウトしなければならないが、ここが新たな現実ならばその必要もないからな!」
俺と眼鏡岡は「ガッハッハ」と声高に笑った。
「なんにせよここはゲームのような世界でござる。となれば、まずはPTを組むのが適切と判断するのでござるが」
「たしかにそれもそうだな。でもどうすればいいんだろう。“PT”って念じたらPTを組めるのかな?」
「組めるでござるよ! 既に実験済みでござる!」
「流石だな、眼鏡岡」
俺達は早々にPTを組んだ。
すると、視界の右隅に情報が表示される。
===============
1.ヤスヒコ
【レベル】1
【状 態】普通
【H P】50/50
【M P】50/50
===============
「ヤスヒコってなんだ?」
「拙者の名前でござるよ! 只野氏こそ、マサトになっているでござる!」
「苗字は省略されるのか」
「そのようでござるな」
この仕様には互いに困惑した。
俺達は苗字で呼び合う仲なのだ。
リア充みたいに下の名で呼び合ったりしない。
「どうする? ここではヤスヒコって呼んだほうがいいのか?」
「そ、そうすると、拙者はマサト氏って呼ぶでござるか?」
俺達は見つめ合ったまま、しばらく沈黙した。
考えていることは互いに同じだろう。
相手を下の名で呼ぶシーンをイメージしているのだ。
その結果――。
「ないな」
「ないでござる」
意見が一致した。
俺達はこれからも苗字で呼び合うのだ。
◇
その場に居ても仕方ないので移動を開始した。
これまでと同じ要領で表示させた簡易マップによれば、今居る場所から北東に進むと<マンダリン>という街に着くはずだ。距離はそれほど遠くない。おそらく徒歩で数十分だ。ちなみに、今居るのは<はじまりの森>である。
「街に着いたらどうするでござる?」
眼鏡岡が尋ねてくる。
俺は「相場の調査が賢明だろう」と答えた。
「手持ちの10,000ゴールドって金がどれほどの価値か分からないとな」
「その通りでござるな。あと、お金の調達手段も知りたいところでござる」
「ステータスがあるくらいだし、MOBをしばけば手に入りそうだが」
「その辺りも明確にしておきたいでござるな」
もはや新たな世界に動じることはない。
ここまでゲームチックなら、ゲームの常識が通用するはずだ。
そうなると、ゲームオタクを自負する俺達の動きは迅速極まりない。
「久々に効率厨になれるでござるな」
「うむ。どれだけ通用するか楽しみだ」
俺と眼鏡岡はネットゲーム界隈だとかなりの有名人だ。
新しいゲームが出ればすぐさまプレイし、サクッと名を轟かせる。
で、多くのプレイヤーが俺達の真似をし始めたところで華やかに引退。
そんな調子だから、この世界には大いに期待している。
「ところで、眼鏡岡のステータスは見られないのかな?」
「PTメンバーのステータスなら見られるでござるよ」
「どうやるんだ? 念じても見られないが」
「PTリストで拙者の名を指でタッチしてみるでござる」
「オーケー」
視界の隅に映る眼鏡岡の名を、人差し指でタッチしてみた。
傍から見れば、何もない空間に指をトントンしているだけだ。
===============
【名 前】ヤスヒコ
【年 齢】17
【種 族】人間
【レベル】1
【筋 力】5
【敏 捷】5
【健 康】5
【魔 力】5
【H P】50
【M P】50
【攻撃力】
├物理攻撃力:5
└魔法攻撃力:5
【防御力】
├物理防御力:5
└魔法防御力:5
【装備】
├武器:なし
└防具:なし
【スキル】
└なし
===============
たしかに表示された。
物の見事に同じステータスだ。
平等という点もまたゲームっぽい。
「眼鏡岡は俺より詳しいな」
「拙者はオタクの中のオタクでござるからな」
ドヤ顔で言う眼鏡岡。
なかなかに頼もしい男だ。
「お、あれが街じゃねーか?」
「たしかにそのように見えるでござるな」
森を歩いていると、前方に街らしきものが見えてきた。
石の壁に覆われているのでハッキリとは見えないが、門の向こうに建物が並んでいることくらいは分かる。十中八九、あそこが目的地の<マンダリン>だろう。
「よっしゃ! 一気に駆け抜けるか!」
「50メートル15秒の底力を見せるでござるよ!」
俺達は「うおおお!」と叫び駆けようとした。
……が、駆けるどころか後退することとなる。
「ゴブゥ!」
前方の草むらよりモンスターが飛び出してきたからだ。
「ちょっ! スマホが使えない! インスタ出来ないよ! チュイッターもダメ! どうしよう、皆でインスタ映えする派手な綿菓子を食べに行く予定だったのに!」
などと絶叫して絶望するのはカーストの中間層以上の人間である。
いわゆるリア充をはじめとする、現在並びに将来の明るい者達だ。
では、俺や眼鏡岡のような最下層のウジ虫だとどうなるのか?
「只野氏! これは激アツなイベントではござらぬか!」
「だな! やばいぞ! 謎のゲームチックな世界にきちまったぜ!」
素直に大喜びである。
現実世界で負け組の俺達にとって、ゲームチックなこの世界は「ヒャッハー!」と手放しで喜ぶほかあるまい。現実逃避にこの上なく適している上に、カーストの底辺層から脱出できるかもしれないからだ。
当然、新たな世界にはリスクもある。
もしかしたら現実よりも遙かに過酷かもしれない。それでも、勝者と敗者の決まったレールを走る必要がないと思えるだけで、未来への希望が沸々と溢れてくるものだ。
「只野氏! もしや我々は、知らぬ間に何かしらのゲームを始めてしまったのでござらぬか!?」
「いや、そう判断するのは時期尚早だろう。本当に肉体が転移したという可能性もある。いや、むしろそうであってほしい。そうであってくれ。ゲームだったらいずれはログアウトしなければならないが、ここが新たな現実ならばその必要もないからな!」
俺と眼鏡岡は「ガッハッハ」と声高に笑った。
「なんにせよここはゲームのような世界でござる。となれば、まずはPTを組むのが適切と判断するのでござるが」
「たしかにそれもそうだな。でもどうすればいいんだろう。“PT”って念じたらPTを組めるのかな?」
「組めるでござるよ! 既に実験済みでござる!」
「流石だな、眼鏡岡」
俺達は早々にPTを組んだ。
すると、視界の右隅に情報が表示される。
===============
1.ヤスヒコ
【レベル】1
【状 態】普通
【H P】50/50
【M P】50/50
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「ヤスヒコってなんだ?」
「拙者の名前でござるよ! 只野氏こそ、マサトになっているでござる!」
「苗字は省略されるのか」
「そのようでござるな」
この仕様には互いに困惑した。
俺達は苗字で呼び合う仲なのだ。
リア充みたいに下の名で呼び合ったりしない。
「どうする? ここではヤスヒコって呼んだほうがいいのか?」
「そ、そうすると、拙者はマサト氏って呼ぶでござるか?」
俺達は見つめ合ったまま、しばらく沈黙した。
考えていることは互いに同じだろう。
相手を下の名で呼ぶシーンをイメージしているのだ。
その結果――。
「ないな」
「ないでござる」
意見が一致した。
俺達はこれからも苗字で呼び合うのだ。
◇
その場に居ても仕方ないので移動を開始した。
これまでと同じ要領で表示させた簡易マップによれば、今居る場所から北東に進むと<マンダリン>という街に着くはずだ。距離はそれほど遠くない。おそらく徒歩で数十分だ。ちなみに、今居るのは<はじまりの森>である。
「街に着いたらどうするでござる?」
眼鏡岡が尋ねてくる。
俺は「相場の調査が賢明だろう」と答えた。
「手持ちの10,000ゴールドって金がどれほどの価値か分からないとな」
「その通りでござるな。あと、お金の調達手段も知りたいところでござる」
「ステータスがあるくらいだし、MOBをしばけば手に入りそうだが」
「その辺りも明確にしておきたいでござるな」
もはや新たな世界に動じることはない。
ここまでゲームチックなら、ゲームの常識が通用するはずだ。
そうなると、ゲームオタクを自負する俺達の動きは迅速極まりない。
「久々に効率厨になれるでござるな」
「うむ。どれだけ通用するか楽しみだ」
俺と眼鏡岡はネットゲーム界隈だとかなりの有名人だ。
新しいゲームが出ればすぐさまプレイし、サクッと名を轟かせる。
で、多くのプレイヤーが俺達の真似をし始めたところで華やかに引退。
そんな調子だから、この世界には大いに期待している。
「ところで、眼鏡岡のステータスは見られないのかな?」
「PTメンバーのステータスなら見られるでござるよ」
「どうやるんだ? 念じても見られないが」
「PTリストで拙者の名を指でタッチしてみるでござる」
「オーケー」
視界の隅に映る眼鏡岡の名を、人差し指でタッチしてみた。
傍から見れば、何もない空間に指をトントンしているだけだ。
===============
【名 前】ヤスヒコ
【年 齢】17
【種 族】人間
【レベル】1
【筋 力】5
【敏 捷】5
【健 康】5
【魔 力】5
【H P】50
【M P】50
【攻撃力】
├物理攻撃力:5
└魔法攻撃力:5
【防御力】
├物理防御力:5
└魔法防御力:5
【装備】
├武器:なし
└防具:なし
【スキル】
└なし
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たしかに表示された。
物の見事に同じステータスだ。
平等という点もまたゲームっぽい。
「眼鏡岡は俺より詳しいな」
「拙者はオタクの中のオタクでござるからな」
ドヤ顔で言う眼鏡岡。
なかなかに頼もしい男だ。
「お、あれが街じゃねーか?」
「たしかにそのように見えるでござるな」
森を歩いていると、前方に街らしきものが見えてきた。
石の壁に覆われているのでハッキリとは見えないが、門の向こうに建物が並んでいることくらいは分かる。十中八九、あそこが目的地の<マンダリン>だろう。
「よっしゃ! 一気に駆け抜けるか!」
「50メートル15秒の底力を見せるでござるよ!」
俺達は「うおおお!」と叫び駆けようとした。
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