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第013話 幼女と子犬と作法
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お隣さんが引っ越してきた。
そのことに気づいたのは、洗濯物を干していた昼頃だ。
レオンが「ワン、ワン」と吼えて私に合図を出してきた。
「はじめましてなの!」
幼女だ。
水色の長い髪に、純白のワンピースを纏った幼女。
クリッとした目が可愛らしくて、思わずギュッとしたくなる。
私の幼稚園児時代もこんなに可愛かったのだろうか。
自分では分からないが、そうであってほしい。
「あ、はじめまして。お嬢ちゃん、迷子?」
私が尋ねると、幼女は首を横に振った。
「今日から隣のお家で暮らします、ネネイなの! お姉ちゃん、どうかよろしくお願いしますなの!」
ネネイが頭をペコリと下げる。
随分としっかりしている子だと思った。
「ワンッ!」
レオンとは違う犬の鳴き声がする。
声はネネイの斜め下から聞こえてきた。
そこに目を向けると。
「あら可愛い!」
子犬が居た。
犬種は柴犬に見えるが……おそらく違う。
この世界の犬種は、地球とは違っているのだ。
ちなみに、レオンのような大型犬はとても少ない。
「ネネイのワンちゃんなの!」
ネネイが子犬を抱える。
それから、子犬の顔をこちらに向けてきた。
「ワンッ!」
子犬はもう一度吠えた後、頭をペコリと下げる。
よく躾られている。親が親なら子も子だなと思った。良い意味で。
「ネネイちゃんのワンちゃんかぁー。名前はなんていうの? あ、その前に。私の名前はシオリだよ。こっちは愛犬のレオン。それと3体のゴブリン達」
遅まきながらの自己紹介。
私の方が大人なのにみっともない。
「シオリお姉ちゃんとレオンちゃん、それにゴブちゃんなの!」
ネネイが言うと、ゴブリン達がお辞儀した。
レオンも「ワンッ」と軽く吠えてから頭をペコリ。
躾がなっていないのは私だけのようだ。トホホ。
「それでネネイちゃんのワンちゃんは、なんて名前なの?」
「ワンちゃんはワンちゃんなの!」
「へっ?」
「ネネイのワンちゃんはワンちゃんなの!」
数秒考えて理解した。
ワンちゃん……それが子犬の名前なのだ。
日本的にいうとポチと名付けるようなものかな?
異国人の私は違和感を抱くのであった。
「じゃあ、これからよろしくね! ネネイちゃん、ワンちゃん!」
「よろしくお願いしますなの! シオリお姉ちゃん!」
もう一度頭をペコリとした後、ネネイはレオンを撫でた。
レオンは頭を垂れて、ネネイに撫でやすいように調整する。
「レオンちゃんは大きくてカッコイイなの!」
「甘えん坊さんだから、たくさん遊んであげてね」
「はいなのー♪」
ネネイは子犬と共に右隣の家に向かって歩いて行った。
その姿をぼんやりと眺めていて、はたと気づく。
「お隣さんが越してきた場合のマナーってどうなっているんだろ!?」
日本では、越してきた側が挨拶をする。
洗剤などを渡し、「今後ともよろしく」と言葉を交わすのが一般的だ。
この世界においてもそうなのだろうか。
ネネイの親御さんはまだ来ていないみたいだから、今のうちにその辺りのマナーを身につけておこう。
今度は幼女に後れを取るような残念なお姉さんにはならないぞ!
◇
そんなわけで、レオンを連れていつもの酒場にやってきた。
空いている席に腰を下ろし、マリーに作法を乞う。
「この国だとお隣さんに挨拶したりはしませんよー! シオリさんの住んでいる所は冒険者用の居住区だから、一般的には長く住み着いたりしないんですよね。冒険者って、往々にしてクエストで全国各地に移動しますから」
周囲が空き家だらけであることに合点がいった。
「するとマリーさんみたいな冒険者ではない人には別の居住区があるんだ?」
「ありますよー! 私達の場合は周囲の人が入れ替わることがないので、これはこれで挨拶の必要がありません。ですから、やっぱり引っ越しの挨拶とかは特にしないですねー」
つまり何もしなくて良いということだ。
いい歳してコミュ障の私にはありがたい作法といえる。
「よく分かりました。ありがとうね、マリーさん」
「いえいえー! お得意さんのお悩みですからねん♪」
マリーがウインクして去って行く。
とても自然なウインクが出来て羨ましい。
私が同じ事をやろうとしたら酷い有様になるぞ。
よし、試しにやってみよう。
「レオン、いつもありがとねん♪」
パチッとウインク。
レオンは口をポカーンとして固まった。
「ですよねー……」
レオンに「このことは内緒だよ」と口止めするのであった。
そのことに気づいたのは、洗濯物を干していた昼頃だ。
レオンが「ワン、ワン」と吼えて私に合図を出してきた。
「はじめましてなの!」
幼女だ。
水色の長い髪に、純白のワンピースを纏った幼女。
クリッとした目が可愛らしくて、思わずギュッとしたくなる。
私の幼稚園児時代もこんなに可愛かったのだろうか。
自分では分からないが、そうであってほしい。
「あ、はじめまして。お嬢ちゃん、迷子?」
私が尋ねると、幼女は首を横に振った。
「今日から隣のお家で暮らします、ネネイなの! お姉ちゃん、どうかよろしくお願いしますなの!」
ネネイが頭をペコリと下げる。
随分としっかりしている子だと思った。
「ワンッ!」
レオンとは違う犬の鳴き声がする。
声はネネイの斜め下から聞こえてきた。
そこに目を向けると。
「あら可愛い!」
子犬が居た。
犬種は柴犬に見えるが……おそらく違う。
この世界の犬種は、地球とは違っているのだ。
ちなみに、レオンのような大型犬はとても少ない。
「ネネイのワンちゃんなの!」
ネネイが子犬を抱える。
それから、子犬の顔をこちらに向けてきた。
「ワンッ!」
子犬はもう一度吠えた後、頭をペコリと下げる。
よく躾られている。親が親なら子も子だなと思った。良い意味で。
「ネネイちゃんのワンちゃんかぁー。名前はなんていうの? あ、その前に。私の名前はシオリだよ。こっちは愛犬のレオン。それと3体のゴブリン達」
遅まきながらの自己紹介。
私の方が大人なのにみっともない。
「シオリお姉ちゃんとレオンちゃん、それにゴブちゃんなの!」
ネネイが言うと、ゴブリン達がお辞儀した。
レオンも「ワンッ」と軽く吠えてから頭をペコリ。
躾がなっていないのは私だけのようだ。トホホ。
「それでネネイちゃんのワンちゃんは、なんて名前なの?」
「ワンちゃんはワンちゃんなの!」
「へっ?」
「ネネイのワンちゃんはワンちゃんなの!」
数秒考えて理解した。
ワンちゃん……それが子犬の名前なのだ。
日本的にいうとポチと名付けるようなものかな?
異国人の私は違和感を抱くのであった。
「じゃあ、これからよろしくね! ネネイちゃん、ワンちゃん!」
「よろしくお願いしますなの! シオリお姉ちゃん!」
もう一度頭をペコリとした後、ネネイはレオンを撫でた。
レオンは頭を垂れて、ネネイに撫でやすいように調整する。
「レオンちゃんは大きくてカッコイイなの!」
「甘えん坊さんだから、たくさん遊んであげてね」
「はいなのー♪」
ネネイは子犬と共に右隣の家に向かって歩いて行った。
その姿をぼんやりと眺めていて、はたと気づく。
「お隣さんが越してきた場合のマナーってどうなっているんだろ!?」
日本では、越してきた側が挨拶をする。
洗剤などを渡し、「今後ともよろしく」と言葉を交わすのが一般的だ。
この世界においてもそうなのだろうか。
ネネイの親御さんはまだ来ていないみたいだから、今のうちにその辺りのマナーを身につけておこう。
今度は幼女に後れを取るような残念なお姉さんにはならないぞ!
◇
そんなわけで、レオンを連れていつもの酒場にやってきた。
空いている席に腰を下ろし、マリーに作法を乞う。
「この国だとお隣さんに挨拶したりはしませんよー! シオリさんの住んでいる所は冒険者用の居住区だから、一般的には長く住み着いたりしないんですよね。冒険者って、往々にしてクエストで全国各地に移動しますから」
周囲が空き家だらけであることに合点がいった。
「するとマリーさんみたいな冒険者ではない人には別の居住区があるんだ?」
「ありますよー! 私達の場合は周囲の人が入れ替わることがないので、これはこれで挨拶の必要がありません。ですから、やっぱり引っ越しの挨拶とかは特にしないですねー」
つまり何もしなくて良いということだ。
いい歳してコミュ障の私にはありがたい作法といえる。
「よく分かりました。ありがとうね、マリーさん」
「いえいえー! お得意さんのお悩みですからねん♪」
マリーがウインクして去って行く。
とても自然なウインクが出来て羨ましい。
私が同じ事をやろうとしたら酷い有様になるぞ。
よし、試しにやってみよう。
「レオン、いつもありがとねん♪」
パチッとウインク。
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