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033 アンズの能力
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現在の状況を整理しよう。
まず、アンズの加入により、リアルの問題は概ね解決された。
税金やら取引先との商談を、彼女が引き受けてくれるからだ。
また、マンションを貸し切りしたので、倉庫も確保できた。
この点も懸念材料だったが、当面は問題ないだろう。
問題があるとすれば、倉庫より『商品の運搬』だ。
仮に商品を仕入れられたとしても、運搬する人手が足りない。
現状では、十三人による同時運搬が限界だ。
内訳は俺・アンズ・リーネと骸骨一〇体。
これでは、大量の商品を移しきれない。
この問題については苦肉の改善策がある。
数日に分けて運搬するというものだ。
つまり、店の営業日にも運搬を続けるというもの。
現在は商品を開封せずに渡している為、骸骨達は忙しくない。
商品の受け渡し用に数体残し、残りは俺と運搬作業にあたるわけだ。
この策で、仮に運搬の問題を解決したとしよう。
それでも、手放しに「やったー」と喜ぶことはできない。
最大の問題である『販売能力の限界』が残っているからだ。
現状では、販売窓口がマリカしかない。
彼女がいかに有能だろうと、販売速度には限界がある。
現に、営業中は長蛇の列が延々と続く有様だ。
考えられる対策は、販売窓口を増やすこと。
具体的には、支店を作るか、又は接客担当者を増やす。
その二択なら、後者が望ましい。
ただしそれは、どちらかから選ぶならの話だ。
俺としては、そのどちらを選ぶ気もない。
なぜなら、どちらも簡単ではないからだ。
いかんせん、こちらの要求する条件が厳しすぎる。
長期間に渡って働いてくれる人間で、意気投合できれば尚更に良い。
もちろん、客商売なので、仕事ぶりは丁寧でないと困る。
意気投合できるかどうかは別として、他は難しい。
冒険者の多くは、ちょっと稼いでは遊び呆ける自由人だからだ。
それが普通なのであって、マリカの様な働き者はむしろ少数派である。
ノウハウのない現状で人員を増やしても、不安定になるだけなのだ。
ノウハウといえば、この問題を改善できる男が居る。
俺に共同経営を提案してきたラモーンだ。
彼の提案に乗れば、販売能力の問題はなくなる。
しかし、現状では彼と提携することができない。
商品の供給能力が追い付かないからだ。
また、収益源を増やす必要もあった。
現状では、マグボトルへの収益依存度が高すぎる。
リスクを軽減させる為にも、新たな商品が必要だ。
「――以上が、俺の抱える問題だ」
「分かりやすい説明ですね。流石です、ユートさん」
エストラの自宅三階にて、俺は皆に説明した。
皆とは、リーネ・ネネイ・マリカ・アンズの四人だ。
俺を含む、ネネイ以外の人間はソファに座っている。
俺の横はリーネ、対面にアンズとマリカだ。
ネネイは、床に置いたらくがき君で絵を描いていた。
「それで、これからの計画だが――」
まずは新商品の追加だ。
何を売り出すかについては既に考えてある。
これの問題は、これまでのように大量受注が出来るかだ。
新商品の取引相手は、これまでと別の企業になる。
だから、再び一から関係を構築していく必要があるのだ。
「その点は私に任せてくれていいよ!」
ドンと胸を張ったのはアンズだ。
着ているのは、初めて会った時と同じスーツ。
ボストンバッグに入れていたからか、所々に皺が目立つ。
「なら、後はアンズの冒険者登録くらいかな?」
「いえーい! 楽しみだねー!」
「固有スキルが役に立つものであることを祈らないとな」
固有スキルは、冒険者登録と同時に習得する。
その為、アンズはまだ固有スキルを習得していない。
「では、今日の予定は以上の二つということで!」
「新商品の受注と私の冒険者登録?」
「そういうこと」
「了解! 先に冒険者登録に行こうよ!」
「だな。サクッと済ませよう」
そんなわけで、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
「うわぁ、すごい! 日本にはない光景だぁー!」
ラングローザの街並みを観て、アンズが興奮する。
それを見て、俺はクスリと笑った。
自分が初めて来たときのことを思い出したからだ。
アンズと同じくらい、当時の俺も興奮していた。
「ここが冒険者ギルドだ」
「大きいなぁ!」
「街で一番大きいなのー!」
「そうなんだ!? すごいねー!」
ウキウキのアンズを連れ、冒険者ギルドに入る。
入ってからも「すごい!」と大興奮のアンズ。
その様子を笑いながら、受付カウンターへ向かう。
「こんにちは、ユートさん」
担当の受付嬢はティアだった。
受付嬢はたくさんいるけど、彼女に当たることが多い。
偶然だとは分かっていても、なんだか妙な感じがした。
「ティア、今日は彼女の冒険者登録を頼む」
俺がアンズに手を向ける。
アンズは「よろしくお願いします!」と元気よくペコリ。
それに対し、ティアは笑顔で応えた。
「かしこまりました。ではこの用紙にご記入ください」
俺の時と同じ流れだ。
用紙が置かれ、その横には羽根ペンとボトルインク。
アンズはペンを手に取り、俺に尋ねる。
「日本語で記入していいの?」
「うん。俺はカタカナで書いたよ」
「イエッサー!」
アンズが自分の名前を記入する。
リーネと同じく字が綺麗だ。
「書けました!」
「お預かりします」
ティアは用紙を回収し、白紙の冒険者カードを取り出した。
あとは、渡されたカードに触るだけで終了だ。
「どんなスキルになるのか楽しみー!」
アンズがティアからカードを受け取る。
それと同時にカードが光り、冒険者登録が完了した。
「なにこれー! スキルの情報が頭に入ってきた!」
その感覚を、俺は味わったことがなかった。
なぜなら、最初から固有スキルを習得していたからだ。
だから、アンズのことが少しだけ羨ましく思った。
「ほほー! 私のスキルはこういうものかぁ! なるほどぉ!」
嬉しそうにニコニコするアンズ。
ネネイが「何のスキルを覚えたなの?」と尋ねる。
マリカも「早く話せ、楽しみだ」と興味津々。
「ふっふっふ! 私の固有スキルは!」
そこまで言ったところで「あっ」と止まるアンズ。
「やっぱり、今は内緒! その時が来たら披露しよう!」
「ネネイは今知りたいなの!」
「くぅー! でも内緒! 楽しみにしておいて!」
「むぅーなの!」
頬を膨らますネネイを見て、俺は声をあげて笑った。
「汎用スキルを内緒にされた俺の気持ちが理解できたかな?」
ネネイは以前、汎用スキルを四つも習得した。
それについて、何を習得したのか訊いたら、内緒だと言われたのだ。
今の状況は、まんまあの時と同じである。
「おとーさんもむぅーなの!」
ネネイは顔をぷいっと背ける。
アンズは「あはは」と笑った。
「結構いい感じだから期待していてね!」
「オーケー。固有スキルは今後のお楽しみということで、次に行くか」
「そうだね! 次はリアルに戻って電話かな?」
「おう。アンズの手腕に期待しているよ」
「お任せあれー!」
アンズの冒険者登録が完了したので、冒険者ギルドを出ようとする。
その時、リーネとマリカが同時に待ったをかけた。
「むきゅ?」
「なんだ?」
俺とアンズが同時に反応する。
その後、俺は「むきゅってなんだよ」と突っ込む。
アンズが「可愛いかなと思って」と舌を出した。
「それより、二人してどうかしたのか?」
俺が尋ねると、リーネはマリカに顔を向けた。
「マリカさんからどうぞ」
「うむ。では言うが、まだアンズの冒険者カードを見ていない」
「あ、私もそれを言おうとしていました」
二人の要望は、冒険者カードを見せろということだ。
つまり、ステータスの確認である。
「え? 登録したてのステータスが見たいの?」
きょとんとするアンズ。
俺は「初期値が人によって違うんだよ」と説明する。
「なにそれ、不公平じゃん!」
「そういう仕組みなんだから仕方がない」
「なるほど、それでカードが見たいわけかぁ」
「うむ。私達のカードも代わりに見せよう」
「はーい! じゃあ、交換だね!」
俺達四人とアンズで、冒険者カードの交換を行う。
さて、アンズの初期値はどのようになっているのか。
ワクワクしながら、四人でカードを確認した。
名前:アンズ
年齢:24
レベル:1
所持金:0ゴールド
攻撃力:1
防御力:8
魔法攻撃力:9
魔法防御力:6
スキルポイント:6
俺は思わず「おい」と声を荒げる。
「初期値高すぎだろ!」
アンズの初期ステータスは平均で六だ。
一方、俺の平均は二だ。その差は三倍である。
ちなみに、アンズが特別高すぎるわけではない。
以前聞いた話だと、大体の人間は平均六から八だ。
だから、アンズの初期ステータスは至極普通である。
どちらかといえば、俺が低すぎるのだ。
そうは分かっていても、悲しくなった。
同じネトゲ廃人なのに、この差は一体……。
「おっ、もしかして当たりを引いた感じ?」
「当たりという程でもないが悪くない」
「そうなんだ!」
「ちなみに、私の平均は五だ」
ステータスを確認したので、カードの交換を終える。
アンズは自分のカードを懐にしまうと、俺に訊いてきた。
「ユート君は戦闘だとどういう役割になるの? タンク?」
「相手によるけど、タンク兼アタッカーって感じ」
「じゃあヒーラーは誰が担当するの? ネネイちゃん?」
「ネネイはデバッファー兼アシストだ」
「じゃあマリカちゃんがヒーラーかな?」
「いや、マリカはバッファー兼メインアタッカーだよ」
「たしか、リーネさんは戦闘に参加しないんだよね?」
「うん。でも、終了後に回復してくれるよ」
「分かった! じゃあ、私はヒーラー兼バッファーでいい?」
「おお、それは助かるよ!」
ウキウキで会話する俺達。
まるでネトゲ時代のようだ。
他の三人は呆然と眺めていた。
「おとーさん、何を言っているのか分からないなの!」
「マスター、用語の解説をしてくれ」
「私も解説していただけると助かります」
俺はポリポリと頭を掻きながら謝った。
その後、ネトゲ用語について一つ一つ説明する。
アタッカーは攻撃担当のこと。
アシストはアタッカーを支える攻撃担当のこと。
バッファーは仲間を強化する支援担当のこと。
デバッファーは敵を弱化させる支援担当のこと。
「――で、タンクとヒールは以前話したから省略するね」
「なるほど。ネトゲでは細かく役回りを決めるわけか」
「よく分かったなの! ありがとーなの、おとーさん!」
「流石です、ユートさん」
俺の説明に、三人が納得する。
それを確認した後、「行くか」と声をかけた。
「お家へ向けて、出発なのー♪」
「おー!」
ネネイとアンズが、右手を掲げながら外へ歩いていく。
それを見た周囲の冒険者が頬を緩める。
意気揚々と行進する二人の後ろに、俺達三人も続いた。
◇
リアルに戻ってくると、作業に取り掛かる。
といっても、作業をするのは俺とアンズだけだ。
他の三人はノートPCでヨウチューブを観ている。
「欲しいのはこの辺りの商品なんよ」
俺は、デスクトップPCの画面を指して説明する。
その横で適当な相槌を打ちながら、アンズは画面を眺めていた。
「このマンションで収容できる量なら、細かい個数は気にしないでいいよ」
「分かった! じゃあ、ちょっと電話してくるね!」
「おう、よろしく頼んだ」
アンズは「任せて」と立ち上がり、部屋を出て行った。
その後、扉の開閉した時の音が聞こえてくる。
自分の部屋で電話を掛けるようだ。
待っている間、俺はニュースサイトを眺めた。
「昨日の今日だとまだ尾を引いているなぁ」
ニュースサイトでは、いまだアンズについての記事が多い。
大体は『匿名を条件に業界関係者が語った』という形式で書かれている。
その割にはガセネタばかりだ。
本当に業界関係者なんて存在するのか、と疑問に思う。
「お待たせー!」
数分ほどで、アンズが戻ってきた。
思ったより早かったな、と俺は驚く。
「はっはっは! 見事に断られてしまった!」
「まじかよ」
「個人とは取引していないんだってさ!」
「なるほどなぁ」
アンズは「これが普通だよ」と気にしていない様子。
「なら他のメーカーに電話してみるか」
「それもやったけど、どこも同じ反応だったよ」
「うーむ、困ったな」
問屋から仕入れるという選択肢はない。
俺の仕入れたい量が、問屋の融通可能な範疇を越えているからだ。
かといって、複数の問屋を利用するのは面倒くさい。
「なるほど、ユート君はこの程度で困るわけかぁ」
困惑する俺を見て、アンズはニヤニヤと笑っている。
言い方から察するに、アンズにとっては取るに足らない問題のようだ。
「何かアイデアがあるのか?」
「もちろん! 私はプロだよ!」
「凄腕は伊達じゃないんだな」
「はっはっは!」
「で、どうすればいいんだ?」
「それはね――」
アンズのアイデアは、俺が絶対に思いつかないものだった。
まず、アンズの加入により、リアルの問題は概ね解決された。
税金やら取引先との商談を、彼女が引き受けてくれるからだ。
また、マンションを貸し切りしたので、倉庫も確保できた。
この点も懸念材料だったが、当面は問題ないだろう。
問題があるとすれば、倉庫より『商品の運搬』だ。
仮に商品を仕入れられたとしても、運搬する人手が足りない。
現状では、十三人による同時運搬が限界だ。
内訳は俺・アンズ・リーネと骸骨一〇体。
これでは、大量の商品を移しきれない。
この問題については苦肉の改善策がある。
数日に分けて運搬するというものだ。
つまり、店の営業日にも運搬を続けるというもの。
現在は商品を開封せずに渡している為、骸骨達は忙しくない。
商品の受け渡し用に数体残し、残りは俺と運搬作業にあたるわけだ。
この策で、仮に運搬の問題を解決したとしよう。
それでも、手放しに「やったー」と喜ぶことはできない。
最大の問題である『販売能力の限界』が残っているからだ。
現状では、販売窓口がマリカしかない。
彼女がいかに有能だろうと、販売速度には限界がある。
現に、営業中は長蛇の列が延々と続く有様だ。
考えられる対策は、販売窓口を増やすこと。
具体的には、支店を作るか、又は接客担当者を増やす。
その二択なら、後者が望ましい。
ただしそれは、どちらかから選ぶならの話だ。
俺としては、そのどちらを選ぶ気もない。
なぜなら、どちらも簡単ではないからだ。
いかんせん、こちらの要求する条件が厳しすぎる。
長期間に渡って働いてくれる人間で、意気投合できれば尚更に良い。
もちろん、客商売なので、仕事ぶりは丁寧でないと困る。
意気投合できるかどうかは別として、他は難しい。
冒険者の多くは、ちょっと稼いでは遊び呆ける自由人だからだ。
それが普通なのであって、マリカの様な働き者はむしろ少数派である。
ノウハウのない現状で人員を増やしても、不安定になるだけなのだ。
ノウハウといえば、この問題を改善できる男が居る。
俺に共同経営を提案してきたラモーンだ。
彼の提案に乗れば、販売能力の問題はなくなる。
しかし、現状では彼と提携することができない。
商品の供給能力が追い付かないからだ。
また、収益源を増やす必要もあった。
現状では、マグボトルへの収益依存度が高すぎる。
リスクを軽減させる為にも、新たな商品が必要だ。
「――以上が、俺の抱える問題だ」
「分かりやすい説明ですね。流石です、ユートさん」
エストラの自宅三階にて、俺は皆に説明した。
皆とは、リーネ・ネネイ・マリカ・アンズの四人だ。
俺を含む、ネネイ以外の人間はソファに座っている。
俺の横はリーネ、対面にアンズとマリカだ。
ネネイは、床に置いたらくがき君で絵を描いていた。
「それで、これからの計画だが――」
まずは新商品の追加だ。
何を売り出すかについては既に考えてある。
これの問題は、これまでのように大量受注が出来るかだ。
新商品の取引相手は、これまでと別の企業になる。
だから、再び一から関係を構築していく必要があるのだ。
「その点は私に任せてくれていいよ!」
ドンと胸を張ったのはアンズだ。
着ているのは、初めて会った時と同じスーツ。
ボストンバッグに入れていたからか、所々に皺が目立つ。
「なら、後はアンズの冒険者登録くらいかな?」
「いえーい! 楽しみだねー!」
「固有スキルが役に立つものであることを祈らないとな」
固有スキルは、冒険者登録と同時に習得する。
その為、アンズはまだ固有スキルを習得していない。
「では、今日の予定は以上の二つということで!」
「新商品の受注と私の冒険者登録?」
「そういうこと」
「了解! 先に冒険者登録に行こうよ!」
「だな。サクッと済ませよう」
そんなわけで、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
「うわぁ、すごい! 日本にはない光景だぁー!」
ラングローザの街並みを観て、アンズが興奮する。
それを見て、俺はクスリと笑った。
自分が初めて来たときのことを思い出したからだ。
アンズと同じくらい、当時の俺も興奮していた。
「ここが冒険者ギルドだ」
「大きいなぁ!」
「街で一番大きいなのー!」
「そうなんだ!? すごいねー!」
ウキウキのアンズを連れ、冒険者ギルドに入る。
入ってからも「すごい!」と大興奮のアンズ。
その様子を笑いながら、受付カウンターへ向かう。
「こんにちは、ユートさん」
担当の受付嬢はティアだった。
受付嬢はたくさんいるけど、彼女に当たることが多い。
偶然だとは分かっていても、なんだか妙な感じがした。
「ティア、今日は彼女の冒険者登録を頼む」
俺がアンズに手を向ける。
アンズは「よろしくお願いします!」と元気よくペコリ。
それに対し、ティアは笑顔で応えた。
「かしこまりました。ではこの用紙にご記入ください」
俺の時と同じ流れだ。
用紙が置かれ、その横には羽根ペンとボトルインク。
アンズはペンを手に取り、俺に尋ねる。
「日本語で記入していいの?」
「うん。俺はカタカナで書いたよ」
「イエッサー!」
アンズが自分の名前を記入する。
リーネと同じく字が綺麗だ。
「書けました!」
「お預かりします」
ティアは用紙を回収し、白紙の冒険者カードを取り出した。
あとは、渡されたカードに触るだけで終了だ。
「どんなスキルになるのか楽しみー!」
アンズがティアからカードを受け取る。
それと同時にカードが光り、冒険者登録が完了した。
「なにこれー! スキルの情報が頭に入ってきた!」
その感覚を、俺は味わったことがなかった。
なぜなら、最初から固有スキルを習得していたからだ。
だから、アンズのことが少しだけ羨ましく思った。
「ほほー! 私のスキルはこういうものかぁ! なるほどぉ!」
嬉しそうにニコニコするアンズ。
ネネイが「何のスキルを覚えたなの?」と尋ねる。
マリカも「早く話せ、楽しみだ」と興味津々。
「ふっふっふ! 私の固有スキルは!」
そこまで言ったところで「あっ」と止まるアンズ。
「やっぱり、今は内緒! その時が来たら披露しよう!」
「ネネイは今知りたいなの!」
「くぅー! でも内緒! 楽しみにしておいて!」
「むぅーなの!」
頬を膨らますネネイを見て、俺は声をあげて笑った。
「汎用スキルを内緒にされた俺の気持ちが理解できたかな?」
ネネイは以前、汎用スキルを四つも習得した。
それについて、何を習得したのか訊いたら、内緒だと言われたのだ。
今の状況は、まんまあの時と同じである。
「おとーさんもむぅーなの!」
ネネイは顔をぷいっと背ける。
アンズは「あはは」と笑った。
「結構いい感じだから期待していてね!」
「オーケー。固有スキルは今後のお楽しみということで、次に行くか」
「そうだね! 次はリアルに戻って電話かな?」
「おう。アンズの手腕に期待しているよ」
「お任せあれー!」
アンズの冒険者登録が完了したので、冒険者ギルドを出ようとする。
その時、リーネとマリカが同時に待ったをかけた。
「むきゅ?」
「なんだ?」
俺とアンズが同時に反応する。
その後、俺は「むきゅってなんだよ」と突っ込む。
アンズが「可愛いかなと思って」と舌を出した。
「それより、二人してどうかしたのか?」
俺が尋ねると、リーネはマリカに顔を向けた。
「マリカさんからどうぞ」
「うむ。では言うが、まだアンズの冒険者カードを見ていない」
「あ、私もそれを言おうとしていました」
二人の要望は、冒険者カードを見せろということだ。
つまり、ステータスの確認である。
「え? 登録したてのステータスが見たいの?」
きょとんとするアンズ。
俺は「初期値が人によって違うんだよ」と説明する。
「なにそれ、不公平じゃん!」
「そういう仕組みなんだから仕方がない」
「なるほど、それでカードが見たいわけかぁ」
「うむ。私達のカードも代わりに見せよう」
「はーい! じゃあ、交換だね!」
俺達四人とアンズで、冒険者カードの交換を行う。
さて、アンズの初期値はどのようになっているのか。
ワクワクしながら、四人でカードを確認した。
名前:アンズ
年齢:24
レベル:1
所持金:0ゴールド
攻撃力:1
防御力:8
魔法攻撃力:9
魔法防御力:6
スキルポイント:6
俺は思わず「おい」と声を荒げる。
「初期値高すぎだろ!」
アンズの初期ステータスは平均で六だ。
一方、俺の平均は二だ。その差は三倍である。
ちなみに、アンズが特別高すぎるわけではない。
以前聞いた話だと、大体の人間は平均六から八だ。
だから、アンズの初期ステータスは至極普通である。
どちらかといえば、俺が低すぎるのだ。
そうは分かっていても、悲しくなった。
同じネトゲ廃人なのに、この差は一体……。
「おっ、もしかして当たりを引いた感じ?」
「当たりという程でもないが悪くない」
「そうなんだ!」
「ちなみに、私の平均は五だ」
ステータスを確認したので、カードの交換を終える。
アンズは自分のカードを懐にしまうと、俺に訊いてきた。
「ユート君は戦闘だとどういう役割になるの? タンク?」
「相手によるけど、タンク兼アタッカーって感じ」
「じゃあヒーラーは誰が担当するの? ネネイちゃん?」
「ネネイはデバッファー兼アシストだ」
「じゃあマリカちゃんがヒーラーかな?」
「いや、マリカはバッファー兼メインアタッカーだよ」
「たしか、リーネさんは戦闘に参加しないんだよね?」
「うん。でも、終了後に回復してくれるよ」
「分かった! じゃあ、私はヒーラー兼バッファーでいい?」
「おお、それは助かるよ!」
ウキウキで会話する俺達。
まるでネトゲ時代のようだ。
他の三人は呆然と眺めていた。
「おとーさん、何を言っているのか分からないなの!」
「マスター、用語の解説をしてくれ」
「私も解説していただけると助かります」
俺はポリポリと頭を掻きながら謝った。
その後、ネトゲ用語について一つ一つ説明する。
アタッカーは攻撃担当のこと。
アシストはアタッカーを支える攻撃担当のこと。
バッファーは仲間を強化する支援担当のこと。
デバッファーは敵を弱化させる支援担当のこと。
「――で、タンクとヒールは以前話したから省略するね」
「なるほど。ネトゲでは細かく役回りを決めるわけか」
「よく分かったなの! ありがとーなの、おとーさん!」
「流石です、ユートさん」
俺の説明に、三人が納得する。
それを確認した後、「行くか」と声をかけた。
「お家へ向けて、出発なのー♪」
「おー!」
ネネイとアンズが、右手を掲げながら外へ歩いていく。
それを見た周囲の冒険者が頬を緩める。
意気揚々と行進する二人の後ろに、俺達三人も続いた。
◇
リアルに戻ってくると、作業に取り掛かる。
といっても、作業をするのは俺とアンズだけだ。
他の三人はノートPCでヨウチューブを観ている。
「欲しいのはこの辺りの商品なんよ」
俺は、デスクトップPCの画面を指して説明する。
その横で適当な相槌を打ちながら、アンズは画面を眺めていた。
「このマンションで収容できる量なら、細かい個数は気にしないでいいよ」
「分かった! じゃあ、ちょっと電話してくるね!」
「おう、よろしく頼んだ」
アンズは「任せて」と立ち上がり、部屋を出て行った。
その後、扉の開閉した時の音が聞こえてくる。
自分の部屋で電話を掛けるようだ。
待っている間、俺はニュースサイトを眺めた。
「昨日の今日だとまだ尾を引いているなぁ」
ニュースサイトでは、いまだアンズについての記事が多い。
大体は『匿名を条件に業界関係者が語った』という形式で書かれている。
その割にはガセネタばかりだ。
本当に業界関係者なんて存在するのか、と疑問に思う。
「お待たせー!」
数分ほどで、アンズが戻ってきた。
思ったより早かったな、と俺は驚く。
「はっはっは! 見事に断られてしまった!」
「まじかよ」
「個人とは取引していないんだってさ!」
「なるほどなぁ」
アンズは「これが普通だよ」と気にしていない様子。
「なら他のメーカーに電話してみるか」
「それもやったけど、どこも同じ反応だったよ」
「うーむ、困ったな」
問屋から仕入れるという選択肢はない。
俺の仕入れたい量が、問屋の融通可能な範疇を越えているからだ。
かといって、複数の問屋を利用するのは面倒くさい。
「なるほど、ユート君はこの程度で困るわけかぁ」
困惑する俺を見て、アンズはニヤニヤと笑っている。
言い方から察するに、アンズにとっては取るに足らない問題のようだ。
「何かアイデアがあるのか?」
「もちろん! 私はプロだよ!」
「凄腕は伊達じゃないんだな」
「はっはっは!」
「で、どうすればいいんだ?」
「それはね――」
アンズのアイデアは、俺が絶対に思いつかないものだった。
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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