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033 アンズの能力
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現在の状況を整理しよう。
まず、アンズの加入により、リアルの問題は概ね解決された。
税金やら取引先との商談を、彼女が引き受けてくれるからだ。
また、マンションを貸し切りしたので、倉庫も確保できた。
この点も懸念材料だったが、当面は問題ないだろう。
問題があるとすれば、倉庫より『商品の運搬』だ。
仮に商品を仕入れられたとしても、運搬する人手が足りない。
現状では、十三人による同時運搬が限界だ。
内訳は俺・アンズ・リーネと骸骨一〇体。
これでは、大量の商品を移しきれない。
この問題については苦肉の改善策がある。
数日に分けて運搬するというものだ。
つまり、店の営業日にも運搬を続けるというもの。
現在は商品を開封せずに渡している為、骸骨達は忙しくない。
商品の受け渡し用に数体残し、残りは俺と運搬作業にあたるわけだ。
この策で、仮に運搬の問題を解決したとしよう。
それでも、手放しに「やったー」と喜ぶことはできない。
最大の問題である『販売能力の限界』が残っているからだ。
現状では、販売窓口がマリカしかない。
彼女がいかに有能だろうと、販売速度には限界がある。
現に、営業中は長蛇の列が延々と続く有様だ。
考えられる対策は、販売窓口を増やすこと。
具体的には、支店を作るか、又は接客担当者を増やす。
その二択なら、後者が望ましい。
ただしそれは、どちらかから選ぶならの話だ。
俺としては、そのどちらを選ぶ気もない。
なぜなら、どちらも簡単ではないからだ。
いかんせん、こちらの要求する条件が厳しすぎる。
長期間に渡って働いてくれる人間で、意気投合できれば尚更に良い。
もちろん、客商売なので、仕事ぶりは丁寧でないと困る。
意気投合できるかどうかは別として、他は難しい。
冒険者の多くは、ちょっと稼いでは遊び呆ける自由人だからだ。
それが普通なのであって、マリカの様な働き者はむしろ少数派である。
ノウハウのない現状で人員を増やしても、不安定になるだけなのだ。
ノウハウといえば、この問題を改善できる男が居る。
俺に共同経営を提案してきたラモーンだ。
彼の提案に乗れば、販売能力の問題はなくなる。
しかし、現状では彼と提携することができない。
商品の供給能力が追い付かないからだ。
また、収益源を増やす必要もあった。
現状では、マグボトルへの収益依存度が高すぎる。
リスクを軽減させる為にも、新たな商品が必要だ。
「――以上が、俺の抱える問題だ」
「分かりやすい説明ですね。流石です、ユートさん」
エストラの自宅三階にて、俺は皆に説明した。
皆とは、リーネ・ネネイ・マリカ・アンズの四人だ。
俺を含む、ネネイ以外の人間はソファに座っている。
俺の横はリーネ、対面にアンズとマリカだ。
ネネイは、床に置いたらくがき君で絵を描いていた。
「それで、これからの計画だが――」
まずは新商品の追加だ。
何を売り出すかについては既に考えてある。
これの問題は、これまでのように大量受注が出来るかだ。
新商品の取引相手は、これまでと別の企業になる。
だから、再び一から関係を構築していく必要があるのだ。
「その点は私に任せてくれていいよ!」
ドンと胸を張ったのはアンズだ。
着ているのは、初めて会った時と同じスーツ。
ボストンバッグに入れていたからか、所々に皺が目立つ。
「なら、後はアンズの冒険者登録くらいかな?」
「いえーい! 楽しみだねー!」
「固有スキルが役に立つものであることを祈らないとな」
固有スキルは、冒険者登録と同時に習得する。
その為、アンズはまだ固有スキルを習得していない。
「では、今日の予定は以上の二つということで!」
「新商品の受注と私の冒険者登録?」
「そういうこと」
「了解! 先に冒険者登録に行こうよ!」
「だな。サクッと済ませよう」
そんなわけで、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
「うわぁ、すごい! 日本にはない光景だぁー!」
ラングローザの街並みを観て、アンズが興奮する。
それを見て、俺はクスリと笑った。
自分が初めて来たときのことを思い出したからだ。
アンズと同じくらい、当時の俺も興奮していた。
「ここが冒険者ギルドだ」
「大きいなぁ!」
「街で一番大きいなのー!」
「そうなんだ!? すごいねー!」
ウキウキのアンズを連れ、冒険者ギルドに入る。
入ってからも「すごい!」と大興奮のアンズ。
その様子を笑いながら、受付カウンターへ向かう。
「こんにちは、ユートさん」
担当の受付嬢はティアだった。
受付嬢はたくさんいるけど、彼女に当たることが多い。
偶然だとは分かっていても、なんだか妙な感じがした。
「ティア、今日は彼女の冒険者登録を頼む」
俺がアンズに手を向ける。
アンズは「よろしくお願いします!」と元気よくペコリ。
それに対し、ティアは笑顔で応えた。
「かしこまりました。ではこの用紙にご記入ください」
俺の時と同じ流れだ。
用紙が置かれ、その横には羽根ペンとボトルインク。
アンズはペンを手に取り、俺に尋ねる。
「日本語で記入していいの?」
「うん。俺はカタカナで書いたよ」
「イエッサー!」
アンズが自分の名前を記入する。
リーネと同じく字が綺麗だ。
「書けました!」
「お預かりします」
ティアは用紙を回収し、白紙の冒険者カードを取り出した。
あとは、渡されたカードに触るだけで終了だ。
「どんなスキルになるのか楽しみー!」
アンズがティアからカードを受け取る。
それと同時にカードが光り、冒険者登録が完了した。
「なにこれー! スキルの情報が頭に入ってきた!」
その感覚を、俺は味わったことがなかった。
なぜなら、最初から固有スキルを習得していたからだ。
だから、アンズのことが少しだけ羨ましく思った。
「ほほー! 私のスキルはこういうものかぁ! なるほどぉ!」
嬉しそうにニコニコするアンズ。
ネネイが「何のスキルを覚えたなの?」と尋ねる。
マリカも「早く話せ、楽しみだ」と興味津々。
「ふっふっふ! 私の固有スキルは!」
そこまで言ったところで「あっ」と止まるアンズ。
「やっぱり、今は内緒! その時が来たら披露しよう!」
「ネネイは今知りたいなの!」
「くぅー! でも内緒! 楽しみにしておいて!」
「むぅーなの!」
頬を膨らますネネイを見て、俺は声をあげて笑った。
「汎用スキルを内緒にされた俺の気持ちが理解できたかな?」
ネネイは以前、汎用スキルを四つも習得した。
それについて、何を習得したのか訊いたら、内緒だと言われたのだ。
今の状況は、まんまあの時と同じである。
「おとーさんもむぅーなの!」
ネネイは顔をぷいっと背ける。
アンズは「あはは」と笑った。
「結構いい感じだから期待していてね!」
「オーケー。固有スキルは今後のお楽しみということで、次に行くか」
「そうだね! 次はリアルに戻って電話かな?」
「おう。アンズの手腕に期待しているよ」
「お任せあれー!」
アンズの冒険者登録が完了したので、冒険者ギルドを出ようとする。
その時、リーネとマリカが同時に待ったをかけた。
「むきゅ?」
「なんだ?」
俺とアンズが同時に反応する。
その後、俺は「むきゅってなんだよ」と突っ込む。
アンズが「可愛いかなと思って」と舌を出した。
「それより、二人してどうかしたのか?」
俺が尋ねると、リーネはマリカに顔を向けた。
「マリカさんからどうぞ」
「うむ。では言うが、まだアンズの冒険者カードを見ていない」
「あ、私もそれを言おうとしていました」
二人の要望は、冒険者カードを見せろということだ。
つまり、ステータスの確認である。
「え? 登録したてのステータスが見たいの?」
きょとんとするアンズ。
俺は「初期値が人によって違うんだよ」と説明する。
「なにそれ、不公平じゃん!」
「そういう仕組みなんだから仕方がない」
「なるほど、それでカードが見たいわけかぁ」
「うむ。私達のカードも代わりに見せよう」
「はーい! じゃあ、交換だね!」
俺達四人とアンズで、冒険者カードの交換を行う。
さて、アンズの初期値はどのようになっているのか。
ワクワクしながら、四人でカードを確認した。
名前:アンズ
年齢:24
レベル:1
所持金:0ゴールド
攻撃力:1
防御力:8
魔法攻撃力:9
魔法防御力:6
スキルポイント:6
俺は思わず「おい」と声を荒げる。
「初期値高すぎだろ!」
アンズの初期ステータスは平均で六だ。
一方、俺の平均は二だ。その差は三倍である。
ちなみに、アンズが特別高すぎるわけではない。
以前聞いた話だと、大体の人間は平均六から八だ。
だから、アンズの初期ステータスは至極普通である。
どちらかといえば、俺が低すぎるのだ。
そうは分かっていても、悲しくなった。
同じネトゲ廃人なのに、この差は一体……。
「おっ、もしかして当たりを引いた感じ?」
「当たりという程でもないが悪くない」
「そうなんだ!」
「ちなみに、私の平均は五だ」
ステータスを確認したので、カードの交換を終える。
アンズは自分のカードを懐にしまうと、俺に訊いてきた。
「ユート君は戦闘だとどういう役割になるの? タンク?」
「相手によるけど、タンク兼アタッカーって感じ」
「じゃあヒーラーは誰が担当するの? ネネイちゃん?」
「ネネイはデバッファー兼アシストだ」
「じゃあマリカちゃんがヒーラーかな?」
「いや、マリカはバッファー兼メインアタッカーだよ」
「たしか、リーネさんは戦闘に参加しないんだよね?」
「うん。でも、終了後に回復してくれるよ」
「分かった! じゃあ、私はヒーラー兼バッファーでいい?」
「おお、それは助かるよ!」
ウキウキで会話する俺達。
まるでネトゲ時代のようだ。
他の三人は呆然と眺めていた。
「おとーさん、何を言っているのか分からないなの!」
「マスター、用語の解説をしてくれ」
「私も解説していただけると助かります」
俺はポリポリと頭を掻きながら謝った。
その後、ネトゲ用語について一つ一つ説明する。
アタッカーは攻撃担当のこと。
アシストはアタッカーを支える攻撃担当のこと。
バッファーは仲間を強化する支援担当のこと。
デバッファーは敵を弱化させる支援担当のこと。
「――で、タンクとヒールは以前話したから省略するね」
「なるほど。ネトゲでは細かく役回りを決めるわけか」
「よく分かったなの! ありがとーなの、おとーさん!」
「流石です、ユートさん」
俺の説明に、三人が納得する。
それを確認した後、「行くか」と声をかけた。
「お家へ向けて、出発なのー♪」
「おー!」
ネネイとアンズが、右手を掲げながら外へ歩いていく。
それを見た周囲の冒険者が頬を緩める。
意気揚々と行進する二人の後ろに、俺達三人も続いた。
◇
リアルに戻ってくると、作業に取り掛かる。
といっても、作業をするのは俺とアンズだけだ。
他の三人はノートPCでヨウチューブを観ている。
「欲しいのはこの辺りの商品なんよ」
俺は、デスクトップPCの画面を指して説明する。
その横で適当な相槌を打ちながら、アンズは画面を眺めていた。
「このマンションで収容できる量なら、細かい個数は気にしないでいいよ」
「分かった! じゃあ、ちょっと電話してくるね!」
「おう、よろしく頼んだ」
アンズは「任せて」と立ち上がり、部屋を出て行った。
その後、扉の開閉した時の音が聞こえてくる。
自分の部屋で電話を掛けるようだ。
待っている間、俺はニュースサイトを眺めた。
「昨日の今日だとまだ尾を引いているなぁ」
ニュースサイトでは、いまだアンズについての記事が多い。
大体は『匿名を条件に業界関係者が語った』という形式で書かれている。
その割にはガセネタばかりだ。
本当に業界関係者なんて存在するのか、と疑問に思う。
「お待たせー!」
数分ほどで、アンズが戻ってきた。
思ったより早かったな、と俺は驚く。
「はっはっは! 見事に断られてしまった!」
「まじかよ」
「個人とは取引していないんだってさ!」
「なるほどなぁ」
アンズは「これが普通だよ」と気にしていない様子。
「なら他のメーカーに電話してみるか」
「それもやったけど、どこも同じ反応だったよ」
「うーむ、困ったな」
問屋から仕入れるという選択肢はない。
俺の仕入れたい量が、問屋の融通可能な範疇を越えているからだ。
かといって、複数の問屋を利用するのは面倒くさい。
「なるほど、ユート君はこの程度で困るわけかぁ」
困惑する俺を見て、アンズはニヤニヤと笑っている。
言い方から察するに、アンズにとっては取るに足らない問題のようだ。
「何かアイデアがあるのか?」
「もちろん! 私はプロだよ!」
「凄腕は伊達じゃないんだな」
「はっはっは!」
「で、どうすればいいんだ?」
「それはね――」
アンズのアイデアは、俺が絶対に思いつかないものだった。
まず、アンズの加入により、リアルの問題は概ね解決された。
税金やら取引先との商談を、彼女が引き受けてくれるからだ。
また、マンションを貸し切りしたので、倉庫も確保できた。
この点も懸念材料だったが、当面は問題ないだろう。
問題があるとすれば、倉庫より『商品の運搬』だ。
仮に商品を仕入れられたとしても、運搬する人手が足りない。
現状では、十三人による同時運搬が限界だ。
内訳は俺・アンズ・リーネと骸骨一〇体。
これでは、大量の商品を移しきれない。
この問題については苦肉の改善策がある。
数日に分けて運搬するというものだ。
つまり、店の営業日にも運搬を続けるというもの。
現在は商品を開封せずに渡している為、骸骨達は忙しくない。
商品の受け渡し用に数体残し、残りは俺と運搬作業にあたるわけだ。
この策で、仮に運搬の問題を解決したとしよう。
それでも、手放しに「やったー」と喜ぶことはできない。
最大の問題である『販売能力の限界』が残っているからだ。
現状では、販売窓口がマリカしかない。
彼女がいかに有能だろうと、販売速度には限界がある。
現に、営業中は長蛇の列が延々と続く有様だ。
考えられる対策は、販売窓口を増やすこと。
具体的には、支店を作るか、又は接客担当者を増やす。
その二択なら、後者が望ましい。
ただしそれは、どちらかから選ぶならの話だ。
俺としては、そのどちらを選ぶ気もない。
なぜなら、どちらも簡単ではないからだ。
いかんせん、こちらの要求する条件が厳しすぎる。
長期間に渡って働いてくれる人間で、意気投合できれば尚更に良い。
もちろん、客商売なので、仕事ぶりは丁寧でないと困る。
意気投合できるかどうかは別として、他は難しい。
冒険者の多くは、ちょっと稼いでは遊び呆ける自由人だからだ。
それが普通なのであって、マリカの様な働き者はむしろ少数派である。
ノウハウのない現状で人員を増やしても、不安定になるだけなのだ。
ノウハウといえば、この問題を改善できる男が居る。
俺に共同経営を提案してきたラモーンだ。
彼の提案に乗れば、販売能力の問題はなくなる。
しかし、現状では彼と提携することができない。
商品の供給能力が追い付かないからだ。
また、収益源を増やす必要もあった。
現状では、マグボトルへの収益依存度が高すぎる。
リスクを軽減させる為にも、新たな商品が必要だ。
「――以上が、俺の抱える問題だ」
「分かりやすい説明ですね。流石です、ユートさん」
エストラの自宅三階にて、俺は皆に説明した。
皆とは、リーネ・ネネイ・マリカ・アンズの四人だ。
俺を含む、ネネイ以外の人間はソファに座っている。
俺の横はリーネ、対面にアンズとマリカだ。
ネネイは、床に置いたらくがき君で絵を描いていた。
「それで、これからの計画だが――」
まずは新商品の追加だ。
何を売り出すかについては既に考えてある。
これの問題は、これまでのように大量受注が出来るかだ。
新商品の取引相手は、これまでと別の企業になる。
だから、再び一から関係を構築していく必要があるのだ。
「その点は私に任せてくれていいよ!」
ドンと胸を張ったのはアンズだ。
着ているのは、初めて会った時と同じスーツ。
ボストンバッグに入れていたからか、所々に皺が目立つ。
「なら、後はアンズの冒険者登録くらいかな?」
「いえーい! 楽しみだねー!」
「固有スキルが役に立つものであることを祈らないとな」
固有スキルは、冒険者登録と同時に習得する。
その為、アンズはまだ固有スキルを習得していない。
「では、今日の予定は以上の二つということで!」
「新商品の受注と私の冒険者登録?」
「そういうこと」
「了解! 先に冒険者登録に行こうよ!」
「だな。サクッと済ませよう」
そんなわけで、俺達は冒険者ギルドへ向かった。
「うわぁ、すごい! 日本にはない光景だぁー!」
ラングローザの街並みを観て、アンズが興奮する。
それを見て、俺はクスリと笑った。
自分が初めて来たときのことを思い出したからだ。
アンズと同じくらい、当時の俺も興奮していた。
「ここが冒険者ギルドだ」
「大きいなぁ!」
「街で一番大きいなのー!」
「そうなんだ!? すごいねー!」
ウキウキのアンズを連れ、冒険者ギルドに入る。
入ってからも「すごい!」と大興奮のアンズ。
その様子を笑いながら、受付カウンターへ向かう。
「こんにちは、ユートさん」
担当の受付嬢はティアだった。
受付嬢はたくさんいるけど、彼女に当たることが多い。
偶然だとは分かっていても、なんだか妙な感じがした。
「ティア、今日は彼女の冒険者登録を頼む」
俺がアンズに手を向ける。
アンズは「よろしくお願いします!」と元気よくペコリ。
それに対し、ティアは笑顔で応えた。
「かしこまりました。ではこの用紙にご記入ください」
俺の時と同じ流れだ。
用紙が置かれ、その横には羽根ペンとボトルインク。
アンズはペンを手に取り、俺に尋ねる。
「日本語で記入していいの?」
「うん。俺はカタカナで書いたよ」
「イエッサー!」
アンズが自分の名前を記入する。
リーネと同じく字が綺麗だ。
「書けました!」
「お預かりします」
ティアは用紙を回収し、白紙の冒険者カードを取り出した。
あとは、渡されたカードに触るだけで終了だ。
「どんなスキルになるのか楽しみー!」
アンズがティアからカードを受け取る。
それと同時にカードが光り、冒険者登録が完了した。
「なにこれー! スキルの情報が頭に入ってきた!」
その感覚を、俺は味わったことがなかった。
なぜなら、最初から固有スキルを習得していたからだ。
だから、アンズのことが少しだけ羨ましく思った。
「ほほー! 私のスキルはこういうものかぁ! なるほどぉ!」
嬉しそうにニコニコするアンズ。
ネネイが「何のスキルを覚えたなの?」と尋ねる。
マリカも「早く話せ、楽しみだ」と興味津々。
「ふっふっふ! 私の固有スキルは!」
そこまで言ったところで「あっ」と止まるアンズ。
「やっぱり、今は内緒! その時が来たら披露しよう!」
「ネネイは今知りたいなの!」
「くぅー! でも内緒! 楽しみにしておいて!」
「むぅーなの!」
頬を膨らますネネイを見て、俺は声をあげて笑った。
「汎用スキルを内緒にされた俺の気持ちが理解できたかな?」
ネネイは以前、汎用スキルを四つも習得した。
それについて、何を習得したのか訊いたら、内緒だと言われたのだ。
今の状況は、まんまあの時と同じである。
「おとーさんもむぅーなの!」
ネネイは顔をぷいっと背ける。
アンズは「あはは」と笑った。
「結構いい感じだから期待していてね!」
「オーケー。固有スキルは今後のお楽しみということで、次に行くか」
「そうだね! 次はリアルに戻って電話かな?」
「おう。アンズの手腕に期待しているよ」
「お任せあれー!」
アンズの冒険者登録が完了したので、冒険者ギルドを出ようとする。
その時、リーネとマリカが同時に待ったをかけた。
「むきゅ?」
「なんだ?」
俺とアンズが同時に反応する。
その後、俺は「むきゅってなんだよ」と突っ込む。
アンズが「可愛いかなと思って」と舌を出した。
「それより、二人してどうかしたのか?」
俺が尋ねると、リーネはマリカに顔を向けた。
「マリカさんからどうぞ」
「うむ。では言うが、まだアンズの冒険者カードを見ていない」
「あ、私もそれを言おうとしていました」
二人の要望は、冒険者カードを見せろということだ。
つまり、ステータスの確認である。
「え? 登録したてのステータスが見たいの?」
きょとんとするアンズ。
俺は「初期値が人によって違うんだよ」と説明する。
「なにそれ、不公平じゃん!」
「そういう仕組みなんだから仕方がない」
「なるほど、それでカードが見たいわけかぁ」
「うむ。私達のカードも代わりに見せよう」
「はーい! じゃあ、交換だね!」
俺達四人とアンズで、冒険者カードの交換を行う。
さて、アンズの初期値はどのようになっているのか。
ワクワクしながら、四人でカードを確認した。
名前:アンズ
年齢:24
レベル:1
所持金:0ゴールド
攻撃力:1
防御力:8
魔法攻撃力:9
魔法防御力:6
スキルポイント:6
俺は思わず「おい」と声を荒げる。
「初期値高すぎだろ!」
アンズの初期ステータスは平均で六だ。
一方、俺の平均は二だ。その差は三倍である。
ちなみに、アンズが特別高すぎるわけではない。
以前聞いた話だと、大体の人間は平均六から八だ。
だから、アンズの初期ステータスは至極普通である。
どちらかといえば、俺が低すぎるのだ。
そうは分かっていても、悲しくなった。
同じネトゲ廃人なのに、この差は一体……。
「おっ、もしかして当たりを引いた感じ?」
「当たりという程でもないが悪くない」
「そうなんだ!」
「ちなみに、私の平均は五だ」
ステータスを確認したので、カードの交換を終える。
アンズは自分のカードを懐にしまうと、俺に訊いてきた。
「ユート君は戦闘だとどういう役割になるの? タンク?」
「相手によるけど、タンク兼アタッカーって感じ」
「じゃあヒーラーは誰が担当するの? ネネイちゃん?」
「ネネイはデバッファー兼アシストだ」
「じゃあマリカちゃんがヒーラーかな?」
「いや、マリカはバッファー兼メインアタッカーだよ」
「たしか、リーネさんは戦闘に参加しないんだよね?」
「うん。でも、終了後に回復してくれるよ」
「分かった! じゃあ、私はヒーラー兼バッファーでいい?」
「おお、それは助かるよ!」
ウキウキで会話する俺達。
まるでネトゲ時代のようだ。
他の三人は呆然と眺めていた。
「おとーさん、何を言っているのか分からないなの!」
「マスター、用語の解説をしてくれ」
「私も解説していただけると助かります」
俺はポリポリと頭を掻きながら謝った。
その後、ネトゲ用語について一つ一つ説明する。
アタッカーは攻撃担当のこと。
アシストはアタッカーを支える攻撃担当のこと。
バッファーは仲間を強化する支援担当のこと。
デバッファーは敵を弱化させる支援担当のこと。
「――で、タンクとヒールは以前話したから省略するね」
「なるほど。ネトゲでは細かく役回りを決めるわけか」
「よく分かったなの! ありがとーなの、おとーさん!」
「流石です、ユートさん」
俺の説明に、三人が納得する。
それを確認した後、「行くか」と声をかけた。
「お家へ向けて、出発なのー♪」
「おー!」
ネネイとアンズが、右手を掲げながら外へ歩いていく。
それを見た周囲の冒険者が頬を緩める。
意気揚々と行進する二人の後ろに、俺達三人も続いた。
◇
リアルに戻ってくると、作業に取り掛かる。
といっても、作業をするのは俺とアンズだけだ。
他の三人はノートPCでヨウチューブを観ている。
「欲しいのはこの辺りの商品なんよ」
俺は、デスクトップPCの画面を指して説明する。
その横で適当な相槌を打ちながら、アンズは画面を眺めていた。
「このマンションで収容できる量なら、細かい個数は気にしないでいいよ」
「分かった! じゃあ、ちょっと電話してくるね!」
「おう、よろしく頼んだ」
アンズは「任せて」と立ち上がり、部屋を出て行った。
その後、扉の開閉した時の音が聞こえてくる。
自分の部屋で電話を掛けるようだ。
待っている間、俺はニュースサイトを眺めた。
「昨日の今日だとまだ尾を引いているなぁ」
ニュースサイトでは、いまだアンズについての記事が多い。
大体は『匿名を条件に業界関係者が語った』という形式で書かれている。
その割にはガセネタばかりだ。
本当に業界関係者なんて存在するのか、と疑問に思う。
「お待たせー!」
数分ほどで、アンズが戻ってきた。
思ったより早かったな、と俺は驚く。
「はっはっは! 見事に断られてしまった!」
「まじかよ」
「個人とは取引していないんだってさ!」
「なるほどなぁ」
アンズは「これが普通だよ」と気にしていない様子。
「なら他のメーカーに電話してみるか」
「それもやったけど、どこも同じ反応だったよ」
「うーむ、困ったな」
問屋から仕入れるという選択肢はない。
俺の仕入れたい量が、問屋の融通可能な範疇を越えているからだ。
かといって、複数の問屋を利用するのは面倒くさい。
「なるほど、ユート君はこの程度で困るわけかぁ」
困惑する俺を見て、アンズはニヤニヤと笑っている。
言い方から察するに、アンズにとっては取るに足らない問題のようだ。
「何かアイデアがあるのか?」
「もちろん! 私はプロだよ!」
「凄腕は伊達じゃないんだな」
「はっはっは!」
「で、どうすればいいんだ?」
「それはね――」
アンズのアイデアは、俺が絶対に思いつかないものだった。
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強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
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だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
エラーから始まる異世界生活
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実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
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能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
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