上 下
15 / 16

第015話 変わり者の大賢者

しおりを挟む
 近づいてくる白衣の女。
 背はそれほど高くなく、髪はロングの黒色。
 見た目はお姉さんといった感じで、ポケットに手を突っ込んでいる。
 女は目の前までくると、俺達を見て言った。

「奴隷商をボコボコにして解放した奴隷に、大量のゴブリンまでいる。いやはや、実に面白い場所だなぁ、ここは」

 よく分からない反応だ。
 分かっているのは敵意がないことくらい。
 皆を代表して俺が尋ねた。

「あんたは何者だ? ここに何か用かい?」

 女が「よくぞ聞いてくれた!」と声を大にする。
 まさかの質問待ちだったとは。気づきもしなかった。

「私の名はユナハ。何を隠そう大賢者だ!」
「「「…………」」」

 沈黙する俺達。
 ユナハは「驚かないの!?」と驚いた。

「大賢者と言われてもピンッと来ないんだよなぁ……」
「なるほど、よかろう。ならば力を見せてしんぜよう!」

 ユナハが右手を挙げる。

「雷よ! 私に力を!」

 すると――ユナハの手から炎の玉が現れた。

「雷じゃないんかい!」

 思わず突っ込む俺。
 ユナハは「失敬、間違った」とすました顔で言う。
 本当に間違ったらしく、炎の玉を消して雷の玉を召喚した。

「これが大賢者の能力さ! どうだね!」

 俺達は素直に「おお」と感心し、拍手する。
 ゴブリン達もゴブゴブ言いながら拍手していた。

「で、その大賢者がどうしてここに?」

 いよいよ本題に入る。
 大賢者様が俺達に何の用なのか。

「見ての通り私は凄腕の大賢者。で、その力で世界を眺めていたところ、君たちが面白いことをしているのを発見したのだ! 無から有を生み出す君の能力は実に興味深い。それに底知れぬ強さを持ったお姉さんも」

 ユナハが一人一人褒めていく。
 その後、「だからだね」と用件を言った。

「私も仲間に加えてほしいのだ!」

 どうやら仲間になりたいらしい。
 回りくどい人だ。それならそうと言えばいいのに。

「分かっている。ダメだよな。こんな得たいのしれない大賢者なんてさ。仲間にしたくないって気持ちは分かるよ。人を簡単に信じるなっていうのは親から教わることだもんね。でもね、私は――」
「いいよ、仲間で。これからよろしくね、ユナハ」
「っていいんかい!」

 今度はユナハが突っ込んだ。

「別にいいよ。来る者拒まず去る者追わずさ。仲間が増えるのはこちらにしたってありがたいからね。それにユナハはなかなか強そうだ。何かあった際にはアリシアと並んで戦力となるんじゃないか」
「なるほど、用心棒を兼ねて受け入れてくれるわけだね!」
「そんなところだ。まだまだ発展途上だし、色々と働いてもらうよ」
「もちろん! それが私の望みだからね!」

 そんなわけで、ユナハが仲間になった。
 大賢者とのことだが、その実力は定かではない。
 しかし、炎や雷の玉を自在に操れるのだから相当だ。

「私の自己紹介は以上として、皆のことを教えてくれたまえ!」
「あぁ、そうだったな」

 俺は順に紹介していった。
 リア、ワンちゃんズ、ゴブリンズ、アリシア、最後に俺。

「よく分かった! ありがとう! ではリュート君とアリシア君のことについて詳しく教えてくれないかい? 君たちは異次元の能力を持っているだろう!?」

 アリシアの強さと俺の【クラフト】について知りたいようだ。

「なら俺のスキル【クラフト】から説明するよ。それがアリシアの強さに対する答えにもなるからね」
「ほほう! 楽しみだ! この歳になっても新たな知識を得られるとは!」
「この歳って、あんたまだ20代後半だろ」
「ふふ、私は大賢者だぞ! 見た目で判断するのは早計だ!」
「ならババアかよ」
「ババアじゃないやい! これでも28歳だよ!」
「見たまんまじゃねーかよ!」

 やれやれ、大賢者とやらは変な性格をしていやがる。
 俺は「それでだな」と話を戻し、ユナハの質問に答えた。

「――とまぁ、そんなわけだ」
「なるほど! アリシア君も【クラフト】で生み出したと!」

 ユナハがアリシアの周りをちょこちょこ動く。
 360度あらゆる確度からアリシアを眺めている。

「すごいものだ、【クラフト】とは」
「まぁな。俺も自分でそう思うよ」
「はっはっは! 素直でよろしい!」

 話が終わった。
 と、思いきやまだ続く。

「ではお礼に私の凄さをもう少し見せよう!」
「ほう?」

 ユナハが海に近づいていく。
 波が足にかする手前で止まった。

「一度しかしないから、海をよく見ているのだぞ!」

 海に向けて何かをするらしい。
 俺達も海に近づき、固唾を飲んで見守る。

「大賢者がその気になれば――」

 ユナハが右手を挙げる。

「こんなことも出来る!」

 そう言うと、ユナハは右手を下ろした。
 その瞬間、信じられないことが起きる。

「「「おおおお!」」」

 海が割れたのだ。
 パックリと、半分に。

「すげぇ……」

 割れた海が大慌てで戻っていく。
 空白箇所に向かって、我先にと海水が突っ込む。

「今後ともよろしく! 皆!」

 28歳の大賢者ユナハ。
 変人だが、その実力は紛れもなく本物だ。
 性格も含めて、俺達の仲間にピッタリな逸材である。

 こうして、また少し賑やかになるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...