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 勇者の特権具合を把握する為、俺は自分が勇者だとアピールしてまわった。冒険者ギルド、娼館、奴隷商館、武器屋、防具屋、宿屋、エトセトラ……。目に付く施設の全てを周り、「俺は勇者だ!」とアピールしては、特別サービスを要求する。
 その結果、とても落胆した。

「勇者様! ひぇぇ! それは凄い!」

 どの店もこのように驚いてくれる。
 しかし、何かしらの特別サービスを要求すると。

「それとこれとは話が違います」

 と、お断りしてきやがるのだ。
 つまり驚かれるだけで、何の恩恵もない。
 全ての店が通常料金だし、他と変わらぬサービスだ。

「やれやれ、これでは働くしかあるまいな」

 簡単な金策はモンスター退治だ。
 俺は武器屋で1,000ゴールドの安い剣を買い、王都の外に出た。
 付近の森へ足を運び、スライムやゴブリンといったモンスターを倒す。

 サクッ、サクッ、サクッ。

 軽く狩ったところで王都に戻り、冒険者ギルドで報酬を受け取った。
 かれこれ2時間かけて、モンスターを10体倒した報酬は……。

================
【戦果】F級:10体
【報酬】3,000ゴールド
================

 2時間頑張って、たったの3,000ゴールドである。
 元々の所持金と合わせても3,500ゴールドしかない。

「しょぼすぎだろ」

 俺は絶望した。
 宿屋は1泊1,000ゴールドである。
 食費は1食500ゴールドだ。
 3,000ゴールドなんざ1日で尽きてしまう。

================
善悪値が 1 上がりました。
理由:モンスターの討伐
================

 ギルドで報告を終えると同時に善悪値が上がった。
 ここにきて初めて、善に傾いた模様。
 ただの労働を善と捉えるなど、社畜精神の賜物だな。

「もっと効率的に稼ぐ方法はないものか」

 冒険者ギルドで考える。
 周囲に並ぶ無数のテーブル席を見渡し、ぼんやりと。

「ギャハハハ!」
「ヒャハハハ!」

 冒険者達の馬鹿笑いが目に付く。
 それを見ていて、「コレだ!」と閃いた。

「なぁ、あんた、ちょっといいか」

 俺は適当な冒険者に声を掛ける。

「いいぜ? どうした?」

 俺に話しかけられたハゲの男が答える。
 悪くない反応に満足した俺は、本題を切り出した。

「俺と一緒にモンスターを狩りにいかないか?」
「なんで見ず知らずのあんたとPTを組むメリットは?」
「俺が勇者様ってことさ」

 チラリーン。

「そ、その首飾りは! 本当に勇者だ!」
「そうだ。勇者の戦いぶり、見たくないかい?」
「た、たしかに見たいな……」

 良い感じに興味を抱かせた。
 俺は「決まりだな!」と笑顔で話を纏める。
 こうして、ハゲことハーゲスとPTを組むことになった。

「どこのダンジョンで狩りをするつもりだ?」

 ハーゲスが尋ねてくる。
 俺は「どこでもいいぜ」と即答。
 それから「どうせなら稼ごうぜ」とニヤリ。
 ハーゲスは「おお!」と歓喜の声を上げた。

「なら<サラマンドラ洞窟>でもいいか?」
「いいぞ。行ったことないけど、ここから遠いのか?」
「徒歩で1時間ってとこさ」
「ちょうどいいな、そこにしよう」

 そんなわけで、俺はハーゲスと2人で王都を出た。
 ハーゲスに道を案内してもらいながら目的地を目指す。

「(そろそろいいか)」

 周囲を確認する。
 静寂に包まれた森の中だ。
 人の気配は欠片もない。

「なぁ、ハーゲス」

 俺は前を歩くハーゲスに話しかけた。
 ハーゲスは立ち止まり、「ん?」と振り向く。
 彼は振り向くと同時に――口から血を吐いた。

「すまんな」
「勇者……な、なぜ……」

 俺が剣で刺したからだ。

「効率良く稼ぐ方法といえば、やっぱりコレ・・だと思ってな」
「グ……グハッ……」

 剣を抜くと、ハーゲスがその場に崩れた。
 俺はトドメにもう数回刺してから、彼の死体を漁る。

「あったあった」

 金の入った巾着袋を発見する。
 中を確認すると1万ゴールド硬貨が10枚も入っていた。

================
【所持金】10万3,500ゴールド
================

 ちびちびモンスターをしばくのがアホらしい稼ぎだ。

「さて、善悪値の変動はどうかな」

 チャラ男を殴った時は1マイナスだった。
 追いかけてきた衛兵に見逃して貰った時もだ。
 すると今回は一気にどん底までいくかも知れないな。
 と、思いきや。

 ………………。
 …………。
 ……。

「あれ?」

 何も起きない。
 増減に関するログが表示されないのだ。
 試しにステータスを確認してみる。

================
【善悪値】
├─────★───────┤
悪党     普通     善人
================

 変動していなかった。
 やはり、一切の増減が起きていないのだ。
 だからなのか、警告も表示されていない。

「どういうことだ?」

 俺はその場で考え込んだ。
 数秒間考えて、自分なりに答えを出す。

「目撃者がいないからか」

 今、周囲には誰も居ない。
 俺の悪行は見られていないのだ。
 だから、善悪に変動が起きていない。

 思い返せば善に傾いた時もそうだ。
 値に変動があったのはギルドで報告を終えた時だった。

「善悪値の変動や警告は、目撃者の有無で決まるわけか」

 目立たずに悪事を働き、大手を振って善行をする。
 そんな生活を送れば、すぐに善人として扱われてしまう。
 前の世界と全く同じ仕組みである。

「この世界も中々に度し難いな」

 ハーゲスの服で剣に付着した血を拭いて、俺は王都に戻った。
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