上 下
16 / 16

016 採掘クエスト③

しおりを挟む
 無数のデビルスパイダーが近づいてくる。

 壁を這うように降下してきているのだ。

 ご主人様アーシャを倒させはしない。

「――!?」

 あれっ? 身体が言うことを聞かない!?

 攻撃したいのに、攻撃しようと思っても出来ない。

 しかし、他の動作は普通に出来る。

 例えば頭をポリポリ掻くとか。

 つまり、身体が麻痺しているわけではない。

 ということは……。

 分かった、命令を受けていないからだ。

 テイムされたペットは、命令を受けねば戦えない。

 今、俺は攻撃の命令を受けていなかった。

 だから、自分の意思で攻撃することが出来ないのだ。

 この状況で俺が戦うには、アーシャの命令が必要だった。

 事前に「敵が居たら倒して」とでも言われていれば可能だ。

 しかし、そのような命令は一切受けていなかった。

 故に不可能。

 今の俺に、デビルスパイダーを倒す術がない。

「「「「シュパァ!」」」」

 その間にも近づいてくる無数の蜘蛛達。

「うんしょ♪ うんしょ♪」

 まるで気づくことなく採掘に明け暮れるアーシャ。

 まずいまずいまずい。

 こんなザコ共に、俺のご主人様アーシャが倒されてしまう。

 なんとかしなくては。

 どうにかして、敵の存在を知らせねばならない。

「グォ! グォ!(敵が来ているぞ! 上に!)」

 アーシャの足をツンツンしながら吠える。

「えへへ、アーシャもお腹がペコペコなの!
 町に戻ったら美味しいご飯をたーんと食べようなの!
 その為にも、アーシャ、掘り掘りを頑張るの♪」

 何か勘違いしていやがる。

 やばいぞ、やばい、やばい、やばい!

 どうすればいいんだ。

 このまま吠えていても、アーシャは気がつかない。

 俺は全力で思考を巡らせた。

 ――やるか、一か八か。

 ペットである以上、バハムートだろうと関係ない。

 自分の意思で攻撃することは出来ないのだ。

 しかし、それ以外のことなら問題なく出来る。

 そこで俺が採った手段は――。

「グォオオオオオオオオオ!(消えろ! ザコ共!)」

 敵に向かって威嚇の雄叫びを放つことだった。

 アーシャの頭上に飛び、四肢を広げて、腹の底から叫ぶ。

 その声は、デビルスパイダーを驚かせ、進行を停止させた。

「シロ君、どうしたの!?」

 同時に、アーシャも異変に気づいた。

 俺を見るために顔を上に向け、そして、敵の存在に気づく。

「わわわっ! 蜘蛛さんなの! シロ君――助けて!」

「グォオオオオ!(待っていたぜ、そのセリフゥ!)」

 アーシャの「助けて」が、待機状態の俺を解き放つ。

 敵を攻撃しようと思っても、身体が止まることはない。

 来た! 来た来た! 来たぁあああああ!

「ヴォオオオオ!(死ねぃ!)」

 ありったけの炎を吐く。

「「「「シュパァ……!」」」」

 デビルスパイダーの群れが丸焼きになった。

 焼け跡すら残さない。

 完全な無にしてやった。

「やったぁー!」

 アーシャが喜ぶ。

 バンザイの格好で、ピョンピョン飛び跳ねる。

「グォオオオオ!(どんなもんじゃい!)」

 俺は空中で腕を組み、左右に飛び回った。

 ◇

 一仕事を終え、俺達は町に戻ってきた。

 今回はいつもより長丁場で、既に日が暮れている。

「アーシャちゃん、心配したよー!
 帰ってこないかと思った!」

 ギルドに入ると、受付嬢がアーシャに飛びついた。

 カウンターから出てきて、駆け寄ってきたのだ。

「うへへぇ、遅くなってごめんなさいなの」

 受付嬢に抱きしめられながら、アーシャは笑顔で謝った。

「アーシャ、たくさん掘り掘りしたなの。
 これで、てっこぉせきはだいじょーぶなの♪」

「ほ、本当に!? 鉄鉱石を採掘してきたの!?」

 驚く受付嬢。

「どーかしたの?」

 きょとんとするアーシャ。

 アーシャの頭上で、俺もきょとんとしていた。

「実は私、間違ったクエストを依頼しちゃったの」

「ふぇぇぇ?」

「正確に言うとね、鉄鉱石の採掘は合っているの。
 ただ、アーシャちゃんに依頼するような内容じゃなかったの。
 採掘クエストね、適性ランクがEじゃなくて、Cだったのよ」

「ほへぇぇ」

 アーシャはよく理解していないようだ。

 無理もない。彼女はランクに興味がないのだから。

「要するに、すっごぉく難しい依頼をしちゃったの!
 でも、アーシャちゃん、クリアしちゃったんだよね!?」

「うん! たくさん掘り掘りしてきたの!」

「凄い、凄いよ! 凄すぎるよ、アーシャちゃん!」

「えへへっ、シロ君がアーシャを守ってくれたの♪」

 このやり取りが聴いていた周囲のおっさん冒険者達が集まってくる。

「すげぇな、アーシャちゃん」

「鉄鉱石を採掘してきたのか」

「もう立派な冒険者だな」

 皆が驚嘆と感嘆の混じった祝いをしてくれる。

「ありがとぉございますなの♪」

 そんなこんなで、アーシャは採掘クエストを達成した。

 この件が評価されて、アーシャの冒険者ランクがDになる。

 またしても、俺の最年少記録が更新されるのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

灰いかぶり令嬢の物語

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
<※再編成しました2021/08/30> 2021/09/30完結 転生したら境遇がお伽噺の世界?え?違う?チート能力で継母も義姉もざまぁ、でも王子様?には嫁がない予定なんだけど! 残酷な描写あり 文章が下手ですみません

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。 「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。 1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。 3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。 けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。 職業とスキルを伝えられた後、神様から、 『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』 と言われる。 この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。 大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。 悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し! 逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。 ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...