11 / 16
011 港のトラブル③
しおりを挟む
皆の視線が集まる中、漁師が言った。
「さっきアーシャちゃんにイカを売る時に見たんだが、
アーシャちゃんの所持金の量は半端なかったんだ」
「ほう?」
他の漁師は口を挟まないで耳を傾けている。
「皆も知っていると思うが、アーシャちゃんは宵越しの金を持たない。
すると、半端ない金は昨日今日で稼いだ金ということになる。
で、アーシャちゃんが言うには、ゴブリンをたくさんやっつけたわけだ」
「へぇ、ゴブリンを」
「もうゴブリンを倒せるくらいになったのか」
話が脱線しかけそうになる。
それをイカの漁師が咳払いをして防ぐ。
「アーシャちゃんがここに来るのは、クエストが早く終わった時だ。
つまり、大量のゴブリンを素早く狩ったということになる。
この小さなドラゴンには、それだけの戦力があるってことだ」
「なるほど」
「たしかに」
「一理ある」
漁師達が納得し始める。
アーシャも誇らしげにウンウンと頷いていた。
「だから、アーシャちゃんに託してみるっていうのはどうだろう?
次は俺の番だから、下手を打っても痛めつけられるのは俺で済む」
「まぁ……」
「俺達は別にかまわないが」
「どうなってもしらないぞ?」
話の風向きが変わった。
アーシャに頼る形で進んでいく。
「アーシャちゃん、本当に頼ってもいいんだよな?」
「もちろんなの! シロ君が海賊さんをやっつけるの!」
「無事に成功すればいいが、失敗すると悲惨だぜ?
海賊はアーシャちゃんだから容赦はしねぇ。
負けたら奴隷にされるのは確実だし、
下手すりゃ性奴隷として人生を壊されかねない。
アーシャちゃんが首を突っ込もうとしているのはそういう世界だ」
漁師の言っていることは、何一つ間違っていなかった。
怖がらせる為に誇張しているとか、そういうことも一切ない。
ただだただ淡々と事実を話しているだけだ。
勝てば問題ないが、負けた後は悲惨である。
後悔するだけでは済まない。
「分かっているの!」
「本当に分かっているのかい?」
「本当はよく分かっていないなの……」
「おい!」
思わず突っ込む漁師。
「えへへ」
アーシャは舌を出してお茶目に笑う。
それから表情をキュッと引き締めた。
「それでも、アーシャは戦うの!
おじちゃん達にイタイイタイするの、許せないのなの!」
「「「アーシャちゃん……」」」
「皆さん、アーシャはEランク冒険者なの!
きっと、悪い悪いしている海賊さんをやっつけるの!
だから安心してくださいなの!」
こうして、アーシャは海賊退治の依頼を引き受けるのだった。
◇
――翌日。
海賊を狩る為、この日はクエストを行わなかった。
言うなれば海賊退治がクエストである。
早朝、アーシャは港にやってきていた。
「おふぁよぉごじゃいますにゃの……」
「がっはっは! 眠そうだなぁ!」
今にも寝そうなアーシャと、お目々パッチリの漁師。
漁師の朝は早い。
アーシャにとって、この時間に起きるというのが最大の試練だった。
「悪い人達は、アーシャがやっつけ……りゅの……」
話している最中に、アーシャの頭がカクンカクンと垂れる。
流石にこんな状態だと、頭の上で座るわけにもいかない。
俺は翼をパタパタさせて、アーシャの肩と同じ高さに浮いた。
「シロ君だっけか? ドラゴンの方は大丈夫か?」
「ギャオーン!(任せろ! 悪は成敗してやる!)」
「良い咆哮だ、頼もしい」
漁船の横に立つアーシャに向けて、漁師が手を伸ばす。
「アーシャちゃん、本当にいいんだな?
今ならまだ引き返せるぜ?」
漁師の顔は真剣だ。
いつになく険しい眼光がアーシャを貫く。
アーシャの目がパッチリと開く。
「大丈夫なの!」
両手で頬を叩き、気合いを高めるアーシャ。
「おじちゃん達とイカさんは、アーシャが守るの!」
「分かった。恥ずかしいが頼らせてもらうぜ」
「任せてなの!」
アーシャが差し伸べられた手を掴み、漁船に乗る。
「シロ君、アーシャ達を守ってなの!」
「ギャオー♪(おうよ!)」
俺とアーシャを乗せた漁船が、広大な海に向かって走り出した。
「さっきアーシャちゃんにイカを売る時に見たんだが、
アーシャちゃんの所持金の量は半端なかったんだ」
「ほう?」
他の漁師は口を挟まないで耳を傾けている。
「皆も知っていると思うが、アーシャちゃんは宵越しの金を持たない。
すると、半端ない金は昨日今日で稼いだ金ということになる。
で、アーシャちゃんが言うには、ゴブリンをたくさんやっつけたわけだ」
「へぇ、ゴブリンを」
「もうゴブリンを倒せるくらいになったのか」
話が脱線しかけそうになる。
それをイカの漁師が咳払いをして防ぐ。
「アーシャちゃんがここに来るのは、クエストが早く終わった時だ。
つまり、大量のゴブリンを素早く狩ったということになる。
この小さなドラゴンには、それだけの戦力があるってことだ」
「なるほど」
「たしかに」
「一理ある」
漁師達が納得し始める。
アーシャも誇らしげにウンウンと頷いていた。
「だから、アーシャちゃんに託してみるっていうのはどうだろう?
次は俺の番だから、下手を打っても痛めつけられるのは俺で済む」
「まぁ……」
「俺達は別にかまわないが」
「どうなってもしらないぞ?」
話の風向きが変わった。
アーシャに頼る形で進んでいく。
「アーシャちゃん、本当に頼ってもいいんだよな?」
「もちろんなの! シロ君が海賊さんをやっつけるの!」
「無事に成功すればいいが、失敗すると悲惨だぜ?
海賊はアーシャちゃんだから容赦はしねぇ。
負けたら奴隷にされるのは確実だし、
下手すりゃ性奴隷として人生を壊されかねない。
アーシャちゃんが首を突っ込もうとしているのはそういう世界だ」
漁師の言っていることは、何一つ間違っていなかった。
怖がらせる為に誇張しているとか、そういうことも一切ない。
ただだただ淡々と事実を話しているだけだ。
勝てば問題ないが、負けた後は悲惨である。
後悔するだけでは済まない。
「分かっているの!」
「本当に分かっているのかい?」
「本当はよく分かっていないなの……」
「おい!」
思わず突っ込む漁師。
「えへへ」
アーシャは舌を出してお茶目に笑う。
それから表情をキュッと引き締めた。
「それでも、アーシャは戦うの!
おじちゃん達にイタイイタイするの、許せないのなの!」
「「「アーシャちゃん……」」」
「皆さん、アーシャはEランク冒険者なの!
きっと、悪い悪いしている海賊さんをやっつけるの!
だから安心してくださいなの!」
こうして、アーシャは海賊退治の依頼を引き受けるのだった。
◇
――翌日。
海賊を狩る為、この日はクエストを行わなかった。
言うなれば海賊退治がクエストである。
早朝、アーシャは港にやってきていた。
「おふぁよぉごじゃいますにゃの……」
「がっはっは! 眠そうだなぁ!」
今にも寝そうなアーシャと、お目々パッチリの漁師。
漁師の朝は早い。
アーシャにとって、この時間に起きるというのが最大の試練だった。
「悪い人達は、アーシャがやっつけ……りゅの……」
話している最中に、アーシャの頭がカクンカクンと垂れる。
流石にこんな状態だと、頭の上で座るわけにもいかない。
俺は翼をパタパタさせて、アーシャの肩と同じ高さに浮いた。
「シロ君だっけか? ドラゴンの方は大丈夫か?」
「ギャオーン!(任せろ! 悪は成敗してやる!)」
「良い咆哮だ、頼もしい」
漁船の横に立つアーシャに向けて、漁師が手を伸ばす。
「アーシャちゃん、本当にいいんだな?
今ならまだ引き返せるぜ?」
漁師の顔は真剣だ。
いつになく険しい眼光がアーシャを貫く。
アーシャの目がパッチリと開く。
「大丈夫なの!」
両手で頬を叩き、気合いを高めるアーシャ。
「おじちゃん達とイカさんは、アーシャが守るの!」
「分かった。恥ずかしいが頼らせてもらうぜ」
「任せてなの!」
アーシャが差し伸べられた手を掴み、漁船に乗る。
「シロ君、アーシャ達を守ってなの!」
「ギャオー♪(おうよ!)」
俺とアーシャを乗せた漁船が、広大な海に向かって走り出した。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
創造魔法で想像以上に騒々しい異世界ライフ
埼玉ポテチ
ファンタジー
異世界ものですが、基本バトルはありません。
主人公の目的は世界の文明レベルを上げる事。
日常シーンがメインになると思います。
結城真悟は過労死で40年の人生に幕を閉じた。
しかし、何故か異世界の神様のお願いで、異世界
の文明レベルを上げると言う使命を受け転生する。
転生した、真悟はユーリと言う名前で、日々、ど
うすれば文明レベルが上がるのか悩みながら、そ
してやらかしながら異世界ライフを楽しむのであ
った。
初心者かつ初投稿ですので生暖かい目で読んで頂くと助かります。
投稿は仕事の関係で不定期とさせて頂きます。
15Rについては、後々奴隷等を出す予定なので設定しました。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~
紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます!
「っていうか、体小さくね?」
あらあら~頑張れ~
ちょっ!仕事してください!!
やるぶんはしっかりやってるわよ~
そういうことじゃないっ!!
「騒がしいなもう。って、誰だよっ」
そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか
無理じゃない?
無理だと思う。
無理でしょw
あーもう!締まらないなあ
この幼女のは無自覚に無双する!!
周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
よろしくお願いいたします。
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~
櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる