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007 オーバーキル

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 謎の幼女でありFランク冒険者アーシャの一日は――。

「もっとぉ……ふにゃぁ……まだだめぇ……Zzz」

 ――思っていたよりも遅い始まりだった。

 ◇

 アーシャが活動を開始したのは昼の少し前だ。

 その頃になって、ようやく目を覚まして、ベッドから這い出た。

 既に労働者の大半が仕事を始めている。

 酒場では朝の仕込みが終わるどころか、昼のラッシュが始まる頃だ。

 そんな中、アーシャは昨晩と同じ寂れた酒場で朝食を摂る。

 寝起き間もなくというのに、今回もとんでもない食事量だ。

 それにもかかわらず、マスターはそれほど金を取らなかった。

 大人用の適当なメニュー1品分の料金しか取っていない。

 客の入りも考えると、経営状況が気になってしまう。

「おじちゃん! またなのー♪」

「おうよ! 今日も頑張ってな、アーシャちゃん!」

「うん! アーシャ、頑張る!」

 食事を終えると、アーシャは冒険者ギルドに向かった。

 頭に俺を載せながら。

 朝から昼に変わったところで、アーシャはギルドに到着した。

 ギルド内はこんな時間帯でも活気に満ちている。

 冒険者は2・3日に1回しか働かないからだ。

 休みの間、大半の冒険者がギルドで駄弁って過ごしている。

 かつての俺みたいに金があれば、娼館を巡るなど、大人の嗜みもあるが。

「アーシャちゃん、こんにちは!」

 昨日と同じ受付嬢が、アーシャに声を掛ける。

 アーシャは右手を挙げて、笑顔で挨拶を返した。

「今日はゴブリン退治のクエストを受けてみる?」

「受けてみるの!」

「りょーかい! じゃあ、ゴブリン退治ね!
 無理しないで、危険だと思ったら逃げてね?」

「大丈夫なの!
 アーシャにはシロ君が一緒!
 シロ君が守ってくれるの!」

「ギャオーン!(任せておけ!)」

「あはは、頼もしいねー!」

 この受付嬢にしたって、他の人間にしたって、

 俺が最強の龍であるバハムートの幼体だとは気づいていない。

 珍しい白色のベビードラゴン、としか思っていない。

 もし、俺がバハムートだと知ったら、どういう反応をするのだろう。

「クエスト登録完了!
 アーシャちゃん、頑張ってねー!」

「はいなのー!」

 アーシャがクエストを受注する。

 そんなことだろうなとは思っていたが、やはりソロで挑むようだ。

 ずっとソロだった俺が言うのもなんだが、これは珍しいことである。

 一般的な冒険者はパーティーを組んで活動するから。

「シロ君、頑張ろぉ!」

 クエストを受けると、アーシャは直ちにギルドを後にした。

 ◇

 緩やかな坂道となっている通りを歩き、町を抜けた。

 その足で、アーシャは森までやってきた。

 昨日、俺をテイムした森だ。

「薬草さんなの!」

 アーシャがテクテクと小走りで木に近づく。

 ひょこっとしゃがんで、木の根元に生えている薬草を摘んだ。

「あっ、今日はゴブリンさんをやっつけるクエストだったの」

 摘んだ後に受注しているクエストを思い出したようだ。

 そう、今日のアーシャが薬草を摘んでも、1ゴールドの金にもならない。

「困ったなの……」

 摘んだ薬草の処分について悩むアーシャ。

 俺ならポイッと適当に投げ捨てる。

 そうしないあたりが、アーシャの優しさを物語っていた。

「シロ君、食べる?」

 アーシャが、薬草を俺の顔に向けてきた。

 薬草って、美味いのだろうか?

 人間だった頃は、苦くて食べられたものではなかった。

 しかし、バハムートになって味覚が明らかに変化している。

 かつては気味悪いとさえ思った生肉が、今では大好物だ。

 そうなると、薬草もいけるかもしれない。

 パクッ。

 アーシャの摘まんでいる薬草を食べてみた。

 その結果――。

「グェェェェェ!(まっずー!)」

 想像以上に不味かった。

 人間だった頃となんら変わりない。

 ただただ苦くて、眉間の皺が増えるだけだ。

「あはは、あはははは♪」

 険しい表情で舌を出す俺を見て、愉快げに笑うアーシャ。

 やれやれ、困ったご主人様だ。

「ゴッブー!」

 そんなやり取りをしている時、ゴブリンが現れた。

 否、正確には気配を絶って伏せていたのだ。

 ゴブリンは真上の木から飛び降りてきた。

 大きめの石を両手で持っている。

 それをアーシャの頭に叩きつけるつもりのようだ。

「ふぇぇ!?」

 ゴブリンの奇襲に驚くアーシャ。

「ギャオオオオオオオ!(させるかよ!)」

 俺はアーシャの頭から飛び、小さな尻尾を全力で振った。

「ゴヴォォ!」

 尻尾がゴブリンの脇腹を捉え、勢いよく前方に吹き飛ばす。

 ゴブリンは数メートル先の木に激突して失神した。

「グォオオオオ!(これでトドメだ!)」

 体内に秘められし暗黒の炎を、全力をもって吐きかける。

 全力といっても、幼体の俺が吐く炎なんざたかが知れて――いなかった。

「グォ!?(なんだこら!)」

「わわわーっ!」

 アーシャと共に驚愕する。

 前方数十メートルが焼け野原になってしまった。
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