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第012話 不意の一撃

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 その後は2階を目指して、ヘルムートに言われた通りの道を進んだ。
 道中では敵と遭遇することがあったものの、そこはクルーガーの【カチカチ】や【ビリビリ】で鮮やかに突破した。それによりクルーガーのレベルが12に上がったのだけれど、ステータスはカンストしており増えることはない。

「ステータスに変化はないけど、強くはなっているのか?」
「うん! ちからがほわぁってなっているのがわかるよぉ!」

 どうやら成長しているようだ。
 数値上の変化はないけれど、レベルアップに意味はある。

「あったぞ、階段だ」
「とおいよぉ。ぼく、あしがいたくなってきちゃったぁ」

 どれだけ強かろうとクルーガーは3歳児だ。
 移動が続けば退屈感を抱き、そうなると駄々をこねる。
 足が痛いと云うが、本音は「移動が面倒!」とかであろう。
 俺は「はいはい」と笑い、クルーガーを抱っこした。

「頑張り屋さんのクルーガーは、俺が運んであげるよ」
「わぁーい! やったぁー! アルト、だいすきー!」

 クルーガーが抱きついてくる。
 痛いはずの足も元気にジタバタしていた。

「やれやれ、この甘えん坊さんは」
「うへへぇー♪」

 俺は苦笑いで階段に足を踏み入れた。

 ◇

「さて、2階だ」

 階段を上り終えると、クルーガーを下ろした。

「長いなぁー」
「ながぁーい」

 2階は長々と廊下が続いていた。
 しばらくは寄り道する部屋もない一本道だ。
 ありがたいことに、敵の姿が見当たらなかった。

「この階の大広間にあるセーフティエリアで待機しているらしいから、サクッと助けてやろうぜ」
「はぁーい! アルト、ぼくががんばったら――」
「分かってるよ。撫で撫でして、抱っこして、グルグルして、それからまた撫で撫でだろ?」

 クルーガーが「うん!」と満面の笑みで頷く。
 それから顔を上げて、俺を見ながらニィっと白い歯を見せる。
 俺はクルーガーを軽く撫でてから「行くぜ!」と気合いを入れた。

「しゅっぱぁーつ!」
「おうよ!」

 クルーガーが走る。
 俺はその横で早歩きだ。
 それで釣り合いが取れてしまう。
 動き出してから約30秒後――。

「アルトぉ」
「おいおい、もうかよ!」

 クルーガーがスタミナ切れを起こした。
 というより、抱っこしてほしいのだろう。

「だっこぉしてぇ!」

 案の定、抱っこを要求してくる。
 軽いから抱っこしてもいいが、まずは確認だ。

「抱っこした状態で【カチカチ】とか使える?」
「だっこのときはだめ! でもあれならつかえるぅ!」
「アレってなに?」
「あれはあれ!」

 クルーガーがその場でピョンピョンと飛び跳ねる。
 かと思ったら、今度は両手を前に伸ばして上下に動かした。
 その動作を見て、俺は何が言いたいのかを察知する。

「肩車のことだな?」
「それ! かたぐるま!」

 前も肩車のことを忘れていた。
 どういうわけか覚えにくいのだろう。

「肩車の時は【カチカチ】とか使えるんだ?」
「うん! お手々がうごかせるから!」

 やはり右手の所作がスキルの発動条件みたいだ。
 抱っこの時は俺に抱きついているから自由に動かせない。

「なら肩車をしてあげるよ」
「ほんとぉー? いいのぉー?」
「おうよ。その代わり頑張って敵を倒すんだぞ」
「やったぁー! ぼくがんばるぅ!」

 利害の一致だ。
 俺は肩車をして、クルーガーは敵を倒す。
 そうすることにより、両者が幸せな気分になれる。

「よーし、移動再開だ!」
「おー♪」

 クルーガーを肩車しながら、俺は廊下を進んだ。

 ◇

 廊下をある程度進むと左に曲がる分岐が出てきた。
 1階の構造から考えるに、曲がった先が大広間だろう。
 そう思って左に身体を向け、「やはりな」と確信する。

「アルト、たくさんいるよぉ!」
「だなぁ。これまたすごい量だ」

 モンスターがウジャウジャ群がっていたのだ。
 俺達の20メートル前方から、隙間のないレベルで敵がいる。
 あと少しでも近づけばこちらに気づかれるだろう。

「セーフティエリアは……」

 俺は天井付近を眺める。
 そして、「あったあった」と声を上げた。

 セーフティエリアは半透明の青いドームだ。
 ドームの頂上はダンジョンの天井近くにあるのが一般的。
 例に漏れず、ここのセーフティエリアもそうであった。

「アルトぉ、【カチカチ】していーい?」
「待ってね。このまま撃てばエリア内の人にも被害が……いや、大丈夫か」

 話している最中に思い出す。
 あのドームはあらゆる攻撃を防ぐのだと。
 ドーム外から【カチカチ】をしても効かないのだ。

「いいぞクルーガー、全力でやってやれ!」
「わかったぁー!」

 クルーガーが【カチカチ】を発動する。
 数百体はいるであろうモンスターがたちまち凍り付く。
 そして、全員まとめてド派手に散った。

「よくやった、クルーガー!」
「うん! ほめてほめてぇ!」
「もちろん! でも少し待ってくれ。救出しないとな」

 俺は砕けていく前方の氷を見つめる。
 大型モンスターの氷が音を立てて崩壊していく。
 そして、セーフティエリアがあらわになった。

「いたぞ!」

 セーフティエリアに約30人の冒険者を発見した。
 その内何人かは血を流して意識を失っている。
 ヘルムートから得た情報と合致していた。

「助けにきましたよー!」

 笑顔で手を振りながら近づいていく。
 ドームの中に居る連中はこちらに何か叫び返していた。
 しかし、何の声も聞こえてこない。

「そうか、ドームは声も遮断するんだったな」

 何も聞こえてこないのは普通だった。
 既に安全だが、声が聞こえないなら分からないか。敵が居なくても警戒感を解かない辺り、流石は上級者だ。一刻も早く伝えるべく、クルーガーを肩車したまま小走りで近づく。
 すると、ドームから1人の男が大慌てで飛び出してきた。そして、俺に向かって大きな声で叫んでくる。

「しゃがめぇえええええええ!」
「えっ」

 理解出来ないが身体が反応して、無意識にしゃがみこむ。
 その瞬間、凄まじい衝撃が肩から首にかけて走った。何事かと、しゃがんだ状態で後ろを向く。なんと、背後に牛頭の巨人“ミノタウロス”がいた。
 ミノタウロスは両手で大きな棍棒を持っており、それを全力で振り切ったようだ。しかし、俺が死んでいないということは、攻撃は当たっていないはず。直撃していれば即死は免れない。
 するとあの衝撃は……。

「――!」

 視線を前に向けて分かった。
 殴られたのはクルーガーだったのだ。俺がしゃがんだ事でクルーガーにヒットしてしまった。肩車をしていたが為に、やられてしまったのだ。
 クルーガーは俺とドームの間で倒れ込んでいる。

「クルーガー!!!!!!!!!!!!!!!」

 俺の悲鳴がその場に響いた。
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