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第010話 紅蓮の騎士団

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 ベヒーモスの討伐後、俺達はしばらく休むことにした。
 クラーケンとベヒーモスを立て続けに瞬殺したことで、思っていた以上に目立ってしまったからだ。

「アルト君、うちのクランに入らないか?」
「我がクランは美女も多くていいぞー!」
「いやいや、私達のクランに入ってよ!」
「アルト君、PT組もうよー!」
「アルトー!」「アルトー!」「アルトー!」

 3日目の冒険者ギルドでは、このように勧誘されまくった。何も言ってこない連中にしたって、俺がどこのクランやPTに入るのかやら、今度はどんな大物を倒すのかやらを話している始末。
 いずれは冒険者として名を馳せたいと思っている俺だけれど、こんな風にチヤホヤされたいわけではない。

「たまの休日ってことで乗馬でもマスターしておこう」
「アルト、お馬さんに乗るのぉ?」
「馬を乗りこなせるようになると移動が楽だからな」

 そんなわけで、俺達は馬屋にやってきた。
 馬屋では金貨1枚で乗馬の指南を受けることが出来る。
 昔は「数時間のレクチャーで金貨1枚とかボリすぎだろ」と思っていたけれど、今の俺からすれば「この程度の端金で技術を習得できるなら安いもの」といった感じだ。俺は自分の所持金を正確には把握していない。金貨どころか白金貨すら、もはや何枚保有しているのか分かっていないのだ。

「そうそう! その調子だよ!」

 馬屋の主人に教わりながら、ゆっくりと馬を進ませる。
 乗馬は今日が初めてな俺だけれど、主人曰く筋が良いらしい。

「アルトぉ、もっとダッシュダッシュー!」
「無茶言うなよクルーガー、まだ歩かせるだけで精一杯さ」

 クルーガーは馬に駆け抜けて欲しいようだ。
 俺が断ると、「むぅー!」と不服そうに頬を膨らませた。
 それを見た主人が声を上げて笑う。

「この調子なら次の訓練で走れるようになるよ!」
「ほんとぉー?」
「本当さ。俺は乗馬の指南を45年続けてきたプロだぜ?」

 主人がドンッと胸を叩く。

「(指南歴45年なら今の年齢は何歳なんだ?)」

 このおじさんの年齢を50歳と推定していた俺は疑問に思った。見た目に反して結構な高齢者なのだろう。

「本日はありがとうございました。また明日、よろしくお願いします」
「こちらこそ! 明日もお待ちしておりやす!」

 俺は馬術訓練を終え、馬屋を後にした。

 ◇

 その後、主人の言葉通り、俺は2日で馬術をマスターした。
 今では多少のじゃじゃ馬ならば問題なく扱える。
 そんなこんなで、ベヒーモスの討伐から2週間程度が過ぎた。

「そろそろ俺達のことも飽きられた頃だろう」

 ということで、冒険者ギルドにやってきた。
 しばらくはD級やC級の敵でも倒して地味に過ごす予定だ。
 ところが――。

「アルトだ!」
「アルトがきたぞー!」
「おお! アルトさん!」
「アルト君だ!」
「アルト!」

 入った瞬間に注目が集まる。
 俺はうんざりしながらも、受付カウンターに向かった。
 しかし、俺の進路を傷だらけの鎧を纏った3人の騎士が妨げる。
 元はピカピカだったであろう、紅蓮の鎧を纏った男達だ。

「アルト君だね?」

 騎士の1人が言う。
 金色のオールバックで、どこか荘厳な感じがする。
 年齢は30前後といった感じ。

「そういう貴方はどちらさんですか?」

 俺が尋ねると、周囲の人間がざわついた。
 主に「知らないとかマジかよ」みたいな言葉が飛び交う。
 どうやらこの騎士達はかなりの有名人みたいだ。
 世俗に疎くてすまんな、と心中で呆れ笑い。

「紹介が遅れてすまない。私はクラン『紅蓮の騎士団』でマスターを務めているヘルムートという者だ」

 クラン『紅蓮の騎士団』は俺でも名を知っていた。
 メンバーの大半がA級で構成されている強豪クランの一角だ。

「大手の人が俺に何の用ですか?」
「結論から言うと、君の力を借りたい」

 クランの誘いではないようだ。
 俺が黙っていると、ヘルムートは詳細を話した。

「今、我々のクランは高難度のレイドに挑戦しており、恥ずかしいことながら苦戦を強いられている。既に何名かは戦死している有様だ。撤退しようにも、安全地帯の周りを敵に包囲されておりそうもいかない。どうか仲間達の救出に協力してはもらえないだろうか」

 ヘルムートが「頼む」と頭を下げる。深々と。
 それに続き、他の2人も「お願いします」と頭を下げた。

「(仕方ないか……)」

 ここまでされると「嫌プー!」とは言えない。
 俺はクルーガーの頭を撫で、「久しぶりにやるか」と言った。

「アルトのためなら、ぼく、がんばるよぉ!」

 クルーガーがニィと微笑む。
 本当に良い奴だ。
 俺は「決まりだな」と頷き、ヘルムートに言った。

「俺達のお力がどこまで通用するかは分かりませんが、出来る限りのことはさせていただきます」

 周囲の野次馬共が拍手喝采を浴びせてくる。

「(本当はこういう目立つことはゴメンなんだがな)」

 こうして、俺達は『紅蓮の騎士団』を助けることになった。
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