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015 D級冒険者のアリサ

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 ケルルが連れてきた客は、赤髪の女だった。

 ふちの部分だけ紺色の白いローブを着ている巨乳の女だ。

 歳は俺と同じくらいで、杖を持っていればさながら神官である。

 しかし、女が持っているのは、杖ではなく紙だった。

「どうもー! 就職希望なのですが! 貴方が牧場主?」

 それが女の第一声だった。

 お淑やかそうな格好に反した雰囲気だ。

「そうだよ。
 俺が牧場主のタケルだよ。
 就職希望なら、手に持っているのは履歴書かな?

「そっそー!
 私の名前はアリサ!
 採用試験のほど、よろしくお頼み申す!」

 アリサが履歴書を渡してくる。

「おにーちゃん、ケルは牛さんのところこにもどるのー!」

「おう。ご苦労だったな」

 ケルルが小屋の外に出て行く。

「採用試験なんて立派なものは行っていないが……」

 履歴書をチェックしていく。

【年齢】20歳

「俺と同い年か」

「そうなんだ!?
 なら敬語じゃなくてもオーケー?」

「別にいいよ。
 あと、“お頼み申す”は敬語じゃないと思うが」

「なんですとー!?」

 なんだか元気な女だ。

 それはさておき、前職は……。

【前職】冒険者・神官・Dランク

「元冒険者なのか」

 それに神官だ。

 神官ぽい見た目だが、実際に神官をしていたのだな。

「そっそー!
 なんとびっくりDランク!」

「……どういう意味でなんとびっくりなんだ?」

「だって20歳にしてDランクだよ!?
 上位45%しか辿り着けないランクなわけで!
 つまり、神官としては優秀だったことの証明ってこと!」

「なるほど」

 俺は20歳にしてSランクだった。

 PTのランクも、個人のランクも、どちらもSだった。

 なので、20歳にしてD、と云われても凄さがしっくりこない。

 俺がDランクだったのは、16歳の時だ。

 つまり、冒険者になった翌年にはDランクだった。

「で、そのDランク神官様がどうして牧場の労働を?
 それに、ウチの日当は決してよろしくないぞ。
 冒険者として活動する方が遙かに儲かると思うが」

 Dランクなら、それなりに稼ぎが良いはずだ。

 冒険者は毎日働くわけではないので計算し辛いが、

 日当に換算すると10万ゴールドくらいは稼ぐはず。

 PTも引く手数多だろう。

 神官は需要があるし、何よりアリサは容姿が優れている。

 妙に元気すぎる性格を差し引いても、食いっぱぐれはない。

「いやー、本当はテイマーになりたかったのさ、私!」

「なるほど。
 【テイミング】を習得出来なくて挫折したクチか」

「そっそー!
 よく分かったねー!
 もしかして、タケルも元冒険者?」

「まぁね」

「じゃあ、ここの魔物は全部タケルがテイムしたの?」

「そうだよ。
 魔物は買うと高いからな」

「うっひゃー!
 それはたまげたなぁ!
 タケルって、メチャ凄い冒険者とか!?」

「そんなことないさ。
 って、俺のことはどうでもいいんだ。
 今はアリサの就職に関するやり取りなんだから」

「なっはっは!
 そうだった、そうだった!
 いやぁ、こう見えて雑談が好きでさぁ!」

「見ての通りだが……」

 やれやれ、なかなかに調子の狂う相手だ。

 しかし、悪い奴には見えない。

 採用の方向で検討して良いだろう。

「話を戻すけど、志望動機は魔物の世話がしたいってことでいいの?
 テイマーからの挫折でウチを選んだのなら、そういうことだと思うけど」

「そっそー!
 本当は自分で好きな子をテイムしたかったのだけどねー!」

「ならこちらとしては問題ないけど、そっちは大丈夫なのか?
 求人票にも書いてある通り、給与は決してよろしくないぞ?
 元冒険者だからといって特別に手当が付くわけでもないし」

「もちオーケー!
 仕事に必要なのはやり甲斐さ!
 お金じゃない!」

「そちらも問題ないようなら採用ってことで」

 今回もあっさりと採用が決まる。

「いえーい!」

 アリサが嬉しそうにニッコリ。

「あ、そうそう、求人票には書いていなかったことだけど」

「なになに!?」

「ウチは住み込みも受け付けているよ。
 部屋はそこにある我が家の、空いている部屋を勝手に使う感じ。
 朝晩のご飯も付くけど、日当は1万2500になる」

「住み込みだってぇー!?」

 アリサの目が輝く。

「いいじゃん! それ!
 宿屋から通うのは面倒だし、
 何よりお金がかかると思っていたんだー!」

「その反応からするに、住み込み希望でいいのかな?」

「そっそー!」

「オーケー。
 ところで、その“そっそー”は口癖?」

「そっそー!
 可愛いでしょ? コレ!」

「いや、あんまり……」

「なんですとー!?」

「可愛く見られたいなら、お淑やかに振る舞うだけでいいだろ。
 アリサは見た目が可愛いから、それだけでモテると思うが」

「うひゃー!
 タケルって、結構ストレートに口説いてくるタイプ!?
 夜這いとかしてこないよね!? してきてもいいけど!」

「口説いているわけじゃないし、夜這いもしないよ」

「なーんだ! 残念!
 そういうイベントはないわけね!」

「はぁ……」

 苦笑いを浮かべる。

 アリサの調子に合わせると、すぐに脱線することが分かった。

「とにかくよろしくな。
 簡単に紹介すると、ここまで案内してくれたエルフの幼女がケルル。
 あと、家の中で料理を作っている女はルナだ」

「りょーかい!
 ケルルちゃんにルナちゃんね!
 早速だけど、家に行ってきていい?
 ルナちゃんに挨拶したいし、使う部屋も決めたい!」

「かまわないよ。
 手が空いているから俺が案内しよう」

「おおー!
 デートってやつですな?」

 なぜか手を繋いでくるアリサ。

「アリサって、冒険者の頃は固定PTあったの?」

 固定PTとは、同じメンバーで組み続けるPTのこと。

 一方、その時のみで作られるPTは野良PTと呼ばれている。

 俺は固定PTだったわけだ。

「私は野良専門だよー!」

「だと思ったよ」

 こうして、我が牧場に新たな従業員が加わった。

 同い年の元D級冒険者、お喋り大好きのアリサだ。
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