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050 国王の依頼

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 王城の最上階にある謁見の間で国王と会った。
 同席しているのは王妃だけで、他は人払いがされている。

「久しぶりじゃ、アレン殿」
「どうも。それより俺に何の用だい?」
「実はお願いしたい仕事があってのう」
「わざわざ俺を指名するってことは“力仕事”なのか」
「いかにも」

 俺が出張る程の敵……分からない。
 またイレギュラーモンスターでも湧いたのだろうか。
 なんでもいいか。サクッと退治してやろう。

「暇だし受けてやるよ。どこのモンスターを狩ればいい?」
「モンスターではないのじゃ」
「ん? モンスター狩りの依頼じゃないのか?」
「相手は人間――賊じゃ」
「賊だと?」
「実は先の一件以来、国の治安は乱れておってな……」

 国王が詳しく説明してくれた。
 魔王の一件以降、悪事に対する取り締まりがままならないとのこと。
 魔王軍との戦いで兵士の大半が戦死したからだ。
 同様の理由によって、国の復興も手間取っているらしい。

「多くの者が賊となった最大の理由は、住むべき家を失ったからじゃ。かといって金もないから街で暮らすことも難しい。老いれば新しい仕事をするのも一苦労じゃ。結果として、他人から奪うしか生きる術がない状況に陥っておる」

 魔王の出現時に起きた暴風雨は、点在する村々を壊滅させた。
 ナーニャ村はまだマシな方で、他の村になると基本的に全壊している。
 その副作用で賊に成り下がる者が増えたというのは悲しい話だ。
 暴君アネモスめ、死してなお足を引っ張りやがる。

「そこでアレン殿には――」
「殺さずに賊を無力化して、俺の村に住まわせてほしいってところか」
「その通り。流石はアレン殿だ。こちらの考えなんぞ一瞬で読み切る」

 敵を殺さずに無力化する。
 言うのは簡単だが、行動にするのは難しい。

「可能な限り全員を無力化しようと思うが……」
「多少の犠牲には目を瞑ろう」
「もしもうっかり皆殺しにしちゃったら?」
「余の人を見る目がなかったと反省するしかあるまい」
「ふっ、俺を責めることはないわけか」
「当然じゃ」

 たしかに当然のこと。
 なぜなら俺は国に仕えていない。
 本来ならこのような仕事は国がするものだ。
 だが、当然のことを当然のように出来る者は少ない。
 この国王もまた、国王としての器量を備えているということ。

「可能な限り頑張ってみるよ」
「感謝する、アレン殿」
「感謝は仕事が終わってからにしてくれ」

 国王直々の依頼を正式に引き受けた。

 ◇

 賊が出現するポイントは限られていた。
 モンスターの棲息していない森や山ばかり。
 魔物の棲息地で活動するだけの力もないのだ。

「危険な目に遭わせたくないと言いつつ付き合わせて悪いな」
「いえ、一緒に居られるだけで幸せですので、私は」

 俺はアップルと馬車に乗って移動していた。
 御者を俺が務め、アップルは後ろの客車に乗っている。
 傍からはアップルが馬車を雇ったようにしか見えない。

 目的地は特になかった。
 山賊が出そうな場所をひたすらうろつくだけだ。
 現在は森の中を進んでいる。

 ペットはゴブ助以外を村に置いてきた。
 ゴブ助は〈下僕収納〉を使ってインベントリの中へ。
 戦闘が起きた際にアップルを守らせる為だ。

「さっさと出てこねーかなぁ」
「襲われたら守ってくださいね、アレンさん」
「俺は攻撃専門さ。守るのはゴブ助だよ」
「私はアレンさんに守ってもらいたいです」
「急にワガママを云うようになったな」
「お別れした時に後悔しないでおきたいからですよ」
「アハハ」

 アップルの同行を認めるべきだろうか。
 再考の余地があるかもしれない。
 ……などと考えていると。

「そこの馬車、止まりな」

 お待ちかねの賊がやってきた。
 茂みからわらわらと現れて囲んでくる。
 ヨボヨボの爺さん婆さんを中心に構成されていて、数は40人余り。
 全員が武器を携帯しているが、見るからに弱そうだ。

「なんだ、あんた達は」

 馬車を止めて怯えたように振る舞う。
 ゴブ助を出すまでもなさそうだ。
 アップルは本気で怯えていた。

「見ての通りワシらは賊だよ。インベントリの食糧と金を渡してくれたら攻撃はしない。怪我をしたくなかったら大人しく言う通りにするのじゃ」

 爺さんが剣をちらつかせながら云う。
 俺が何もしなくてもぎっくり腰で倒れそうな老いぼれだ。

「アレンさん」

 アップルの目は「助けて」と訴えていた。
 怖くて仕方がないのだろう。
 もう少し怯える演技をしていたかったが……まぁいい。
 軽くしばいて力量差を教えてから事情を話すとするか。

「残念ながらあんたらの――」

 俺が話しながら馬を下りた時だ。

「この女ちょー可愛いじゃん! 女も貰っていこうぜ!」
「賛成ー! ムラムラしてたまんねぇよぉ!」

 賊の中でも若い男の二人組が割り込んできた。

「よせ、ワシらは本気で賊になりさがったわけじゃないぞ」

 爺さんが云う。
 他の爺さん婆さんも不快そうにしている。

「でも奴隷は必要だろ? あんたら、まともに作業できねーじゃん」
「ぐぬぬ……それもそうじゃが」

 爺さんの語気が弱い。
 若者の力に依存しているのだろう。多数決の結果を覆せる程に。

「いいじゃん、肉体労働を出来る人員が少ないんだぜ?」
「じゃが、それではあまりにも」
「だったら俺達は街で暮らす。抜けさせてもらうぜ」
「ま、待て、お主らに抜けられるのは困る」
「ならいいだろ? 目を瞑ってくれよ」
「……わかった」

 若い二人組の意見が通ってしまった。

「だったらこの女も貰っていくぜ」
「きゃっ、やめてください!」
「うるせー、ほら、下りろよ」

 男が二人がかりでアップルを引きずり下ろそうとする。
 流石に見過ごすわけにはいかない。

「今すぐ手を離せ」

 俺は1度目の警告を与えた。

「は?」
「なんだお前、雇われのくせに。殺すぞ?」

 男共が俺を睨んでくる。
 しかし、アップルから手を離そうとはしない。

「これが最後の警告だ。今すぐ手を離せ」
「だからなんでお前は偉そうにしてんだよ!」
「こいつうぜぇよ! 半殺しにしてやろうぜ!」

 2度目の警告も通用しなかった。

「3ストライクでアウトだ」
「「えっ」」

 俺は全力で男共の顔面を殴り飛ばした。
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