上 下
43 / 51

043 非道の魔王

しおりを挟む
 魔王との戦闘でもやることは変わらない。
 まずは情報収集からだ。

「トロイを村に送ったのは失敗だったか」

 悔いても仕方がない。
 目の前にいなければ〈下僕収納〉も使えないし、自分で動こう。

「敵影は――なし」

 〈周辺探知〉で隠れている敵が居ないことを確認。
 〈ステルス〉を使って身体を透明化。

「行くぞ」

 〈飛行〉を発動し、空を飛ぶ。
 飛行速度を極限まで高めるべく、新たに〈飛行速度強化・改〉を習得。
 速すぎると目が回りそうで不安だが、そこは気合いで乗り切った。

「凄まじい光景だな……」

 ホビロアの南門上空で進行を止め、街の中を見渡す。
 北門の近くにある王城前に向かって、人々が歩いていた。
 いや、正確には歩かされているのだ。
 逆らう者はその場で殺される。
 人々の両手は、頑丈そうな枷で拘束されていた。

「終着点は城の前か」

 王城を囲んでいたはずの門と壁が取り払われている。
 また、王城の前には、魔王が作ったと思しき骨の壇があった。
 壇は非常に高くて、壇上からだと集まった人々がよく見えそうだ。
 壇の前が終着地点だろう。

 壇上には玉座が2つ並んでおり、片方には王妃が座っていた。
 20代半ばと思しき若くて美しい女だ。
 残念なことに、その顔は恐怖に染まっていた。

 もう1つの玉座には――魔王が座っている。
 国王らしき男は後ろ手に縛られ、魔王の前で跪かされていた。

 魔王の肌は灰色で、見た目は人間に近い。
 禍々しい翼と尻尾、それに2本の角が人間とは異なっていた。

「よし、敵はアネモスだ」

 その姿は第9位魔王“暴君”アネモストロヴィロスに他ならない。
 これで別の魔王である可能性はなくなった。
 あとはどのタイミングでアネモスに仕掛けるかだが……。

「今はタイミングが悪いな」

 壇の前に集められている奴らが邪魔だ。
 もしも戦闘が激化すれば、付近の奴等が死にかねない。
 攻めるのはもう少し後になってからだ。

 まず間違いなく、アネモスは何かを見せつけるつもりだ。
 そうでなければ、わざわざ人間を集めようとはしないだろう。
 見世物の内容は国王の処刑が濃厚だ。

 国王には悪いが、俺が仕掛けるのは見世物の後だ。
 今介入したとしても、どうせ国王を救うことは出来ない。
 俺はチーターではないからな。イカサマは使えない。
 場を眺めながら、アネモスとの戦い方について検討した。

「集まりました、アネモス様!」
「うむ」

 何かが始まるようだ。
 アネモスが玉座から立ち上がった。

「我が輩の言葉をよく聴くがいい、愚かなる人間ゴミ共よ」

 演説が始まる。

「今日よりこの国は我が輩が支配する。お前らの王も承諾した。そうだな?」

 平伏している国王の後頭部に、アネモスが右足を置く。

「そ、その通りでございます……アネモス様……」

 国王が震えながら答える。
 その姿を見せつけられただけで、人々の顔が尚更の絶望に染まった。
 それが愉快だったのか、アネモスはニヤリと笑う。

「お前らゴミ共の役目は、少しでも多く我が輩を愉快にさせることだ。ではどうすれば我が輩が愉快になると思う? そこのお前、答えよ」

 アネモスが最前列の男を指名する。

「え、えっと、美味しい料理を作ることかと」
「それは当たり前のことだ。愉快でも何でもない。ゴミが」

 アネモスの指先から青い稲妻が放たれた。
 稲妻は不正解だった男に命中する。
 絶対即死の攻撃〈死の稲妻〉だ。

「うぎゃああああああ!」

 男は絶叫した後、たちまち灰と化した。

「ひぃいいいいいいいいいいいいい」
「きゃあああああああああああああ」

 悲鳴が沸き起こる。

「五月蠅い! 黙れ! 黙らないと……」

 アネモスが聴衆に指を向ける。
 一瞬にして場が静まった。

「ゴミ共にも考えるだけの知能はあるようだな」

 満足気な表情を浮かべるアネモス。

「では正解発表の時間だ。我が輩がどうすれば愉快になるか。それは――」
「きゃっ」

 アネモスが王妃の首根っこを掴み上げる。
 強引に立たせると、王妃の服を引きちぎった。

「や、やめてくだい、お願いします」
「許可をしていないのに口を開くな」
「は、はい……」

 全裸になった王妃が、聴衆に向かって四つん這いにさせられる。

「いいかゴミ共――」

 アネモスの股間から男性器のようなものが生える。

「我が輩が愉快になることというのはなぁ――」

 王妃の腰に両手を添えるアネモス。
 そして――。

「こういうことだぁ!」

 聴衆の面前で王妃が犯されてしまった。

「アネモスゥ、貴様ァアアア!」

 国王が突っ込む。
 後ろ手に縛られたまま、顔面からタックル。

「ゴミが我が輩の楽しみを妨害するな」

 アネモスが右手の人差し指を国王に向ける。
 そのまま右腕を横に振ると――。

「ウガッ……」

 国王の首が胴体から離れた。

「そんな国王様……」
「王妃様まで……」
「なんという……」

 絶望によってその場に崩落する人々。

「ギャハハハハハハ! それだ! その表情! この上なく愉快! そうやって絶望しろ! 嘆け! 悲しめ! たまらない! たまらないぞ! 人間共ォ!」

 場にアネモスの笑い声が響き渡る。

「たまらん! これこそが魔王! 絶対的支配者なのだぁ!」

 しばらくの間、アネモスは腰を振り続けた。

「そうだ、お前達にも褒美をくれてやろう」

 お前達とは、アネモスの召喚した魔物のことだ。

「なんでございましょうか? アネモス様!」
「この女の喘ぎ声だ! さぞ癒やされるだろう!」
「流石はアネモス様! 素晴らしいお考えでございます!」
「そうだろう!? ――ほら、喘げ!」

 アネモスが云うと、王妃が喘ぎだした。
 目から洪水のように涙が流れている。
 もはや生きた心地はしていないようだ。

「もっとだ! もっと喘げ!」

 アネモスが突く度に、王妃が喘ぐ。
 王妃が喘ぐ度に、国民の心は砕けていった。

「思ったよりも酷いな……」

 俺でさえ、眺めていてきついものがあった。
 今はまだ我慢するしかない。我慢するしか。
 ここで動くくらいなら、今までの我慢が無意味になる。
 クソッ……クソッ! 胸糞悪いぜ!

「あの魔王は絶対に殺す」

 かつてない殺意を滾らせながら、俺はその時を待った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

望まれて王様の王妃になったのに他に妾がいたなんて。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:34

婚約破棄令嬢は健気だった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:38

憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,850

魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:363

〖完結〗妹が妊娠しました。相手は私の婚約者のようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:4,657

婚約破棄された日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:9

便利すぎるスキルを手に入れた少年

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:57

俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:59

婚約者の密会現場を家族と訪ねたら修羅場になりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,136pt お気に入り:70

処理中です...