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042 レジェンドモンスター

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 ホビロアに向かう道中には大量のモンスターがいた。
 どいつもこいつも、揃いも揃ってイレギュラーモンスターだ。
 この時点で、俺は予感の的中をほぼ確信していた。
 街が見えた所で、“ほぼ確信”は完全なる“確信”に変わった。

「止まれ、馬五郎」
「了解ぃ!」
「どうしたのですか? あと少しで到着ですよ」
「もう手遅れだ」
「えっ、どういうことですか?」

 大量のイレギュラーモンスター。
 本来なら不可侵の領域である村への侵入。
 おそらく、先日の暴風雨もそうだ。
 奴が出現すると天候が荒れる。

「ホビロアは――」

 〈視覚強化〉と〈視覚強化・改〉をフルに活かす。
 ホビロアの城門……の更に奥に目を向ける。
 案の定、中には大量のモンスターがいた。
 そして、手枷を付けた大量の人間も。

「――魔王に支配されている」

 ◇

 モンスターは大きく分けて“ノーマル”と“ボス”の2種類。
 グリフォンで例えるなら、ノーマルがグリフォンだ。
 ボスはマザー・グリフォンになる。

 ただ、ひとえにボスと言っても種類は様々だ。
 マザー・グリフォンのような通常のエリアに居るボス。
 〈奈落の庭園〉をはじめとするレイドの最奥部に居るボス。
 そして、“レジェンド”と呼ばれる類のボス。今回のタイプだ。

「レジェンドモンスター又は魔王って言葉は知っているか?」
「魔王って、かつて存在していたというあの?」
「そうだ。俺の知識だと魔王は9体いるのだが、そっちの知識ではどう?」
「こちらもです。最上位の1位から、最下位の9位まで存在していたと」
「同じだな」

 レジェンドモンスター“魔王”は、RLO後期に実装された敵だ。
 ボスの中でも最上級に位置する難敵で、知る限りでは全9種。
 その全てが魔王であり、強い順に1位、2位、3位と順位が付いている。
 最下位の9位でさえ、他の敵とは一線を画す強さだ。

 魔王は原則として、一度倒すと復活しない。
 原則があるのだから、例外も存在していた。
 イレギュラーモンスターとしては出現するのだ。
 おそらく今回はそのクチだろう。

「道中に見かけたモンスターの数々は、魔王の手先ということですか?」
「そういうことだ」

 魔王は出現時に大量のモンスターを召喚する。
 イレギュラーモンスターが大量に出現しているのはコレが原因だ。

「じゃ、じゃあ、モンスターが村や街に入っているのも……」
「そう、魔王の手先だからだ」

 RLOでも、魔王とその下僕は街に入れる仕様だった。
 しかし、RLOでは一度も街まで辿り着いたことがない。
 大量のプレイヤーが全力で狩りに向かうからだ。

 皆の狙いは、魔王を倒すと手に入る“レジェンドアイテム”。
 収集品としても価値が高いけれど、実用性も文句なしの神アイテムだ。
 物によって異なるが、安い物でも日本円で数百万相当の価値がある。

「わざわざ人間を捕まえている辺り、9位の可能性が高いな」
「知っているのですか?」
「まぁな」

 第9位魔王は“暴君”アネモストロヴィロス。
 通称「アネモス」と呼ばれる奴で、人間を毛嫌いしている。
 強さにおいては最弱の魔王だが、残虐さにおいては最強だ。

「アレンさんでも厳しいのですか? 魔王が相手だと」
「ギミックがあるからなぁ……」
「ギミック?」
「即死技と原則無敵ってやつさ」

 魔王は即死技を使ってくる。
 回避不能で、食らえば絶対に死ぬ。
 その上、こちらの攻撃が原則として効かない。

 だから、RLOでは人海戦術で魔王を狩っていた。
 皆で一斉に襲い掛かり、即死技を食らった奴はご愁傷様スタイル。
 無敵についても例外があるから、そこを突いて攻めていく。

「魔王に勝つには頭数が必要なんだ。身体を張って攻撃を防いで名誉の死を遂げてくれる肉の壁がね。かといって誰でもいいわけではない。完全に連携出来る奴じゃないといけないんだ」

 RLOの頃はごり押しが通用した。
 全員が肉の壁であり、火力である。
 しかし、この世界ではそういうわけにもいかない。
 死ぬとおしまいだからだ。

「ど、どうにもならないのでしょうか?」

 怯えるアップル。
 目に涙を浮かべて震えている。

「かなり危険な手だが、どうにか出来るかもしれない」
「ほ、本当ですか!?」
「試したことがないので分からないが、やってみる価値はある」

 俺には妙案があった。
 この世界だから出来る手であり、RLO時代には不可能だった手。

 ただ、この手を使ってもなお、勝率は極めて低い。
 アネモスの攻撃をかすりでもすれば死んでしまうからだ。
 それに、敵がアネモス以外の魔王なら使えない。

「やれるだけやってみるよ」

 アップルの頭を撫でる。
 そうやって落ち着かせた後、ゴブ助の名を呼んだ。

「戦争の時間ゴブか!?」
「いや、ここからは俺が一人で向かう」
「ゴブゥー!? ゴ、ゴブ達はどうするゴブ!?」
「アップルを連れて村に戻るんだ。村で防衛に当たれ」

 出来れば俺も村に戻りたかった。
 村人やアップルを別の大陸に避難させてから戦いたい。
 しかし、この後の展開が読めない以上は、そんな暇などなかった。
 アネモスの性格を考えると、今日中に人間を皆殺しにするかもしれない。
 他人の命に興味はないが、どうせ戦うなら救国の英雄になりたいだろ?

「分かったゴブ! アレン、頑張るゴブよ」
「おう。お前も死ぬなよ。もう一度そこまで育て上げるのは辛いからな」
「任せるゴブ!」

 ゴブ助と見つめ合い、互いに頷く。
 役目を伝えたところで、俺は馬五郎から下りた。

「アップル、明日の昼までに俺が戻らなかったら、皆を連れて村を出ろ」
「分かりました。その際はどうすればよろしいでしょうか?」
「君の知識を活かして舟を造り、それでレッドアイ王国に行くんだ」
「はい!」
「レッドアイに着いたら王都へ行き、国王に会って俺の名を言えばいい」
「レ、レッドアイ王国の国王様は、あまり評判が……」
「大丈夫だ。ちょっとした縁があってな。俺達は仲良しなんだ」
「本当ですか!? それなら安心です!」

 これで問題はないだろう。

「また後で会おう」

 俺は単身でホビロアに向かって歩き出した。
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