上 下
41 / 51

041 緊急事態

しおりを挟む
 目的の村に到着した。

「これは……」
「酷いですね……」

 ナーニャ村よりも被害が激しかった。
 ことごとく全壊しており、半壊で済んでいる家はない。
 しかし、民家の状況よりも気になることがあった。

「村人達はどこに行ったんだ?」

 村が無人なのだ。
 人っ子一人おらず、目の前には瓦礫の山が広がるばかり。

「もしかするとホビロアに向かったのかもしれません」

 ホビロアとはこの大陸にある唯一の都市だ。
 ブルネン王国の首都でもある。

「なるほど。災害時の避難先としては有効だな。城壁もあるし」

 ホビロアであれば、多少は暴風雨にも強いはずだ。
 石造りの立派な城壁があるので、横殴りの暴風に耐えられる。

「あとの村はホビロアより向こうにあるから、次はホビロアでいい?」
「ありがとうございます、アレンさん。よろしくお願いします」
「おう。でもその前に、素材の回収をさせてくれ」

 瓦礫の山といえど、多少の素材にはなるだろう。
 俺は〈高速分解〉を使って、瓦礫の山を掃除していく。

 今は少しでも多くの素材が欲しい。
 ナーニャ村の復興で大量に消耗したからな。

「「あっ」」

 俺とアップルが同時に声を出す。
 瓦礫の下から人間の死体が出てきたのだ。
 死体は成人の男で、全身から大量の血を流している。

「屋根が崩落して下敷きになってしまいましたか……」

 アップルが黙祷を捧げる。
 一方、俺は「違う」と首を横に振った。

「崩れた屋根に轢かれてもこんな傷にはならない」

 全身の傷痕に違和感があったのだ。
 RLOでは何度となく同じような傷を見てきた。
 これは――。

「モンスターの仕業だ」

 断言出来る。

「モンスター!? 村の中にですか?」
「外で傷を負って村に戻ってきたのかもしれない」
「なるほど」
「というか、魔物って村に入るのか?」
「いえ、聞いたことがありません」
「だよな」

 RLOでも村の中は安全だった。
 どれほど軟弱な木の柵であろうと安全だ。
 いかに凶悪な敵といえど、柵を越えることはなかった。
 あったとしても柵を破壊する程度。
 それが仕様だった。

「念のために調べておくか」

 〈周辺探知〉を発動する。

「ありえない……」

 思わず呟いてしまった。

「どうしたのですか? アレンさん」
「アップル、この場を動くなよ」
「えっ」
「村の中だからと油断していた」

 〈ただの剣〉を2本取り出して、両手で構える。

「俺達の周囲には結構な数のモンスターが潜んでいる」
「そ、そんな、本当ですか!?」
「うむ――ゴブ助!」
「ゴブ!?」

 ゴブ助が身体をビクッとさせて驚く。

「周囲に大量の敵が居る。数は40から50体」
「なんですとゴブ!?」
「そんなにも!?」
「〈看破〉はどうなっているゴブ!?」
「遠巻きに囲まれているから反応していないんだ」
「それは厄介ゴブ」
「俺が殲滅するから、お前はアップルを守れ」
「分かったゴブ!」

 〈下僕収納〉を発動し、馬五郎をインベントリに避難させる。

「この辺りに〈ステルス〉を使う奴など居なかったはずだがな……」

 RLOとは棲息している敵の種類が違うのか?
 これまで活動してきた2つの大陸は同じだったが。
 それに、村の中にモンスターが侵入しているのも不自然だ。
 誰かのペットなら理解も出来るが、そういうわけでもない。

「気になることが多いけど、今は殲滅が先だ」

 〈周辺探知〉と〈看破〉を駆使して、俺は敵を皆殺しにしていった。

 ◇

 俺達を包囲していたのは、低位の魔物だった。
 “サイレントグレムリン”と呼ばれるレベル10の雑魚だ。
 〈ステルス〉からの奇襲は得意だが、戦闘能力自体は低い。
 だから、あっという間に殲滅が完了した。

「爪の形と傷痕が一致している。こいつらの仕業で間違いない」

 先ほどの死体は、このモンスターに殺されたようだ。
 不意打ちの引っ掻き攻撃を数体から受けたのだろう。

「どうしてこんなことに……」
「絶望するのはまだ早い。他にも問題がある」
「問題ですか?」
「見ろ、明らかに死体の数が少ない」
「あっ」

 最終的に、瓦礫の下からは6人の死体が出てきた。
 全員が冒険者と思しき連中で、何かしらの武器を持っている。

「常識的に考えたら女子供の死体が多少はあるはず」
「たしかに」
「それがないということは……」
「ということは?」
「さっぱり分からん。謎だ」
「ですよね……」

 分からないと言いつつ、実はある予感を抱いていた。
 RLOで目の当たりにしたことはないが、仕様的にはあり得る展開。

「とりあえず首都ホビロアに行ってみよう」
「そうですよね。街に行けば何か分かると思います」

 俺はインベントリから2体のペットを召喚した。
 馬五郎とトロイだ。

「トロイ、お前はナーニャ村の様子を窺ってきてくれ」
「承知したでござる!」
「アレンさん、それってもしかして」
「もちろん敵の襲撃を想定してのことさ」
「そんな……」
「念を入れているだけだ。おそらく問題ない」

 この村に来る道中でも敵と遭遇した。
 しかし、ペットにした馬五郎以外は普通だった。
 だから問題ないと思っている。

 それよりも、問題なのは首都ホビロアの方だ。
 俺の予感が的中しているとしたら、ホビロアは今頃……。

「俺達はホビロアへ急ぐぞ――乗れ」
「はい!」

 アップルの手を取り、前に乗せる。

「何をしている、お前も早く乗れ!」
「ゴブ!?」
「そうだお前だよゴブ助、早く乗れ」
「ゴブゥー!」

 ゴブ助を後ろに乗せて、準備完了だ。
 右手で手綱を握り、左手でアップルの身体を押さえる。

「ア、アレンさん」
「分かっている。だが今は我慢してくれ」
「は、はい!」

 俺は左手でアップルの右胸を鷲掴みにしている。
 もちろん服の上からだし、当然ながら性的な目的ではない。
 本気の馬五郎に振り落とされないようにするためだ。

 ただ、さりげなく2回揉み揉みしたのは不埒な動機によるもの。
 内緒だ。役得ということで。ありがとう、アップル。

「馬五郎、全力で走ってくれ」
「了解だぁ!」

 馬五郎が自分に〈ヘイスト〉をかける。

「落ちないように気をつけてねぇ! 行くよぉ!」

 俺達は全速力でホビロアへ向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

望まれて王様の王妃になったのに他に妾がいたなんて。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:34

婚約破棄令嬢は健気だった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:38

憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,850

魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:363

〖完結〗妹が妊娠しました。相手は私の婚約者のようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:4,657

婚約破棄された日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:9

便利すぎるスキルを手に入れた少年

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:57

俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:59

婚約者の密会現場を家族と訪ねたら修羅場になりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,136pt お気に入り:70

処理中です...