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040 ナイトメアホース

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 翌朝。
 目を覚ますと右腕が重く感じた。
 なんだろう、と確認する。
 全裸のアップルが腕枕にして眠っていた。

「そういえば、あの後……」

 風呂の後、なんだかんだでこうなったのだ。

 ベッドでは、タエさん仕込みのテクニックとやらを味わった。
 高級娼婦を凌駕するテクニックで感動した。
 今なら村長がタエを薦めてきたことにも納得出来る。

 全身に快楽を伝える〈千手観音〉なる性技が特に凄まじかった。
 何をされたのか分からないまま昇天させられたのだ。

「初体験のアップルでコレなら、タエ婆さんはどれだけヤバイのだろう」

 性の伝道師であるタエのテクニックに興味を持つ。
 しかし、タエにアレコレされる姿を想像すると、息子が萎えてしまった。
 あと65年くらい早く生まれていれば、と思った。

 ◇

 朝食後、村を発つことにした。

「道中にある他の村を確認した後、都に戻ろうと思います」

 などと云うアップルに同行するためだ。
 わりとのどかな場所だが、それでもモンスターは棲息している。
 目的が決まっていない今、護衛をするのはちょうどよかった。

「村の復興に続き護衛までしてくださるとは……本当にありがとうございます」
「気にするな。こっちが勝手にしていることだ」

 俺達は徒歩で移動していた。
 本当は馬車があったようだが、先の暴風雨で逃げてしまったとのこと。

「そろそろ本当に騎乗用のペットを調達しないとな」
「そういえば、アレンさんは冒険者でしたね」
「一応な。騎乗には向いていないが相棒もいるんだぜ?」
「相棒?」
「世界最強のゴブリンさ」

 インベントリからゴブ助を召喚した。

「アレンー! 寂しくしていたゴブー!」

 出てくるなり抱きついてくるゴブ助。

「それほど久しぶりってわけでもないだろ」
「2週間ぶりゴブー!」
「……わりと久しぶりだったな」
「ゴブ!」

 嬉しそうに俺を見てくるゴブ助。
 アップルに気づいたのは、その少し後だった。

「アレンの“コレ”ゴブか?」

 ゴブ助が小指を立たせながらニヤリ。
 どうやら「恋人なのか?」と訊いているようだ。

「まぁな」
「なんですとゴブ!?」
「冗談だ。ただの友達だよ」

 なぜかホッと胸を撫で下ろすゴブ助。
 お前は俺のコレじゃないだろ、とツッコミたくなった。

「はじめまして、ゴブ助さん。私はアップルと申します」

 ゴブ助相手にも丁寧なアップル。
 2つ下の俺にも“さん”付けだし、そういう性格なのだろう。

「ゴブはゴブリンのゴブ助ゴブー!」

 ゴブ助とアップルが握手を交わす。
 その時、俺の〈周辺探知〉に反応があった。
 1体のモンスターが凄まじい速度で接近してきている。

「ゴブ助、敵だ。アップルを守れ」
「――! 分かったゴブ!」

 直ちに臨戦態勢へ突入。
 捉えた方向に視線を集中させる。

「アレは……ナイトメアホースじゃないか」

 敵の正体は“ナイトメアホース”だった。
 地上を走る騎乗用ペットとしては、最速の部類に入る漆黒の馬だ。

「あんな魔物、見たことがありません」
「だろうよ。あいつはイレギュラーモンスターだ」

 ナイトメアホースはこの大陸に棲息していない。
 その時点で、目の前のあいつはイレギュラーモンスターだと分かる。

「ちょうどいい、あいつをペットにしよう」

 あの馬が居れば移動が快適になる。

「ゴブ助、敵に〈グラビティダウン〉を使え」
「任せるゴブ!」

 少し前、ゴブ助は2つのデバフスキルを習得した。
 1つは移動速度を低下させる〈グラビティダウン〉。
 もう1つは敵のバフを強制的に解除するする〈ディスペル〉だ。
 レッドアイ王国で共闘したケットとシーから吸収した。

「ゴブブゥ……ゴブ! 〈グラビティダウン〉ゴブ!」
「ヒヒィィィン! ――ヒヒッッッ!?」

 ゴブ助のデバフにより、馬の速度が一気に鈍る。
 その隙を突いて距離を詰め、額を〈木の棒〉で殴りつけた。
 馬がバランスを崩したので、さらに追撃で殴る蹴るを繰り出す。
 死ぬ寸前まで追い込んだところで、〈テイミング〉を発動。
 ナイトメアホースの“馬五郎”がペットになった。



【名前】馬五郎
【種族】ナイトメアホース
【レベル】23
【攻撃力】
├─★─┼─┼─┼─┼─┤
F E D C B A S
【アクティブスキル】
ヘイスト
【パッシブスキル】
脚力強化・極/看破



 ただでさえ速い上に、〈ヘイスト〉で更に速くなるスピードスター。
 良いタイミングで現れたものだ。
 こいつがいれば、今後の移動は快適になる。

「よろしくねぇ。走るのは僕に任せてぇ」

 馬五郎は子供のような声をしていた。
 話し方もどことなく子供っぽい。

「折角だ。馬五郎に乗っていこう」
「私もよろしいのですか?」
「問題ないよぉ」
「だってさ」
「ありがとうございます、アレンさん、馬五郎さん」

 馬五郎に適当なくらと手綱を装備させる。
 アップルを前に座らせる形で、俺は騎乗した。
 手綱を握るのは俺だ。アップルの後ろから手綱を握る。

「よーし、ゴブも馬五郎に乗るゴ――」
「行け! 馬五郎!」
「はぁーい」

 ゴブ助を乗せる前に走り出す馬五郎。

「ゴブッ!? 何をするゴブかーッ!」

 乗り損ねて馬五郎の尻尾に捕まる形のゴブ助。
 ピカピカの鎧を地面にガンガンこすりつけている。

「助けるゴブー! アレンッ! アレーーーーンッ!」

 ゴブ助の悲鳴が聞こえてくる。

「あははは! ゴブ助、おもしろぉい!」

 愉快げに笑う馬五郎。

「よ、よろしいのですか?」

 アップルがチラリとゴブ助を見る。
 ゴブ助を心配する唯一の存在だ。

「問題ないさ。これも冒険者が行う訓練の1つさ」
「そうだったのですか!? 知りませんでした!」
「嘘を言っているゴブ! アップル、その男は嘘つきゴブ!」

 こんな調子で、俺達は近くの村を目指すのだった。
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