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039 素晴らしき風呂

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 アップルが目の前にやってきた。
 丈の長いワンピースに薄手のカーディガンを羽織っている。
 髪は短い。顎のラインで揃えていて、色はダークブラウン。
 タエなるババアと違って若くて可愛い。普通に及第点だ。

「ア、アレンさん、この度は村を救って下さりありがとうございます」

 アップルが頭を下げる。
 俺は「いえいえ」と手を横に振り、本題へ入った。

「アップルは俺に性的なサービスが出来るの?」

 直球で訊いてみた。

「そ、その、私、そういう経験がなくて……」
「大丈夫よ、アップルちゃん。私が教えたテクを使えば男はメロメロよ」

 タエがアップルを励ます。
 それに対し、周囲の爺さん共が鼻息を荒くして同意する。

「そうだそうだ! タエさん仕込みのテクなら男は絶頂間違いなしだぜ!」
「俺もタエさんには世話になってるが最高だぜ!」
「俺もだ! いつもいつもドピュピュのピュだ!」
「俺だってそうだ! タエさんはたまんねぇよ!」

 見ていて思った。
 タエさんの経験人数やばいな、と。
 モテるというよりこれは……いや、考えないでおこう。

「えっと、その、私は」
「いや、乗り気じゃないならする必要ないよ」

 俺はキッパリと言い放つ。
 アップルは驚いた様子だった。

「ですが、それですと……」
「分かっている。何も要らないというのも皆が満足しないんだろ?」
「はい」

 そこで、皆が満足できるような折衷案を考えた。

「アップルにはマッサージをしてもらう。でも、性的なのじゃなくてノーマルなマッサージだ。肩とか腰とかを揉みほぐしてくれ。お礼はそれでいいよ」
「そ、それだけでよろしいのですか!?」
「十分さ。皆の表情を見ていれば、どれだけ感謝されているかは分かる。謝礼を頂くのはそちらの為に過ぎない。これなら村長さんも満足でしょ?」
「アレン様がそれでよろしいのであれば……」
「もちろんさ。では行こうか、アップル」

 アップルの腰に腕を回す。
 村人達が拍手喝采する中を歩き、家に向かった。

 ◇

 村の隅に建てた我が家で、アップルのマッサージを受ける。
 マッサージ方法は前の世界と大差ない。
 ベッドでうつ伏せとなり、背中や肩を押してもらう。
 あまり期待していなかったが、普通に上手で気持ち良かった。

「なるほど、アップルは国に仕えているのか」
「駆け出しの学者でまだまだ未熟ですが……」

 アップルの話はすごく興味深かった。
 官吏の仕事についてなど、RLOでは知れなかったからだ。
 面接を経て採用された……というありきたりなことですら面白い。

「そんな人にマッサージをさせて、なんだか申し訳ないな」
「とんでもありません! 満足していただけていますか?」
「期待以上なので星5つだな」
「星?」
「とにかく大満足ってことさ」
「それならよかったです」

 マッサージを受けていると眠くなってきた。

「このままだと気持ち良すぎて眠ってしまいそうだ」
「是非お休みになってください」
「いや、寝る前には風呂に入っておかないと」
「風呂?」

 そうか、アップルは風呂を知らないのだな。
 ……と、思いきや。

「最近、ヤマト王国で流行っているモノのことですか?」

 なんと知っていた。
 思わず「知っているのか!?」と驚いてしまう。

「知識だけで、実際にはよく分かっていないのですが……」

 それでも十分に凄い。
 ヤマト王国以外にも風呂の話が広まっているとは。
 近いうちに全大陸の温泉土地を確保しておかないと。

「この家には風呂があるのですか?」
「ヤマトにあるような大きなモノじゃないけどな」
「アレンさんはヤマトの方なのですか? 風呂について興味あります」

 アップルが食いついてくる。
 未知のモノに対する好奇心の強さ。流石は学者だ。

 風呂について語るのは俺も大好きだ。
 前の世界でネトゲ廃人をしていた頃さえ、風呂はかかさなかった。
 脱衣等も込めると、少なくとも日に1時間は風呂に費やしていたはずだ。

「なら教えてあげるよ、風呂について」

 いかに素晴らしいかを力説するべく、アップルを連れて風呂場に向かう。
 我が家の浴槽は、2人の大人が並んで足を伸ばせる程度の大きさだ。
 幸いにもオートポータルを設置する前だったので、そこから実演してみせた。

「なるほど、スキルを使って温泉を運ぶわけですね」
「そういうことだ。マナーについては分かるか?」
「お風呂のマナーですか?」
「かけ湯とか、そういう諸々のことだ」
「いえ、わかりません」
「それも教えようか? どうせなら一緒に入る?」

 アップルが顔を真っ赤にして驚く。

「お風呂には興味あるのですが、裸をお見せすることには抵抗が……」
「じゃあ俺が実践するから、それを見るというのならどう?」
「はい! それでお願いします!」
「おうよ」

 俺はサッと全裸になった。
 脱いだのは俺だけなのに、アップルは顔を赤らめている。
 男のイチモツを見るのは初めてだったようだ。

「まずはこうやって手桶で身体に湯をかけて……」

 説明しながら実践し、そして、湯船に浸かる。

「ぷはぁー! たまらん!」

 マッサージの後に入る風呂は最高だ。
 微かに残っていた疲労が完全に吹き飛ぶ。
 間違いなく、今の俺は恍惚とした表情をしている。

「す……すごく気持ちよさそう……」
「最高に気持ちいいよ。だって風呂だから」
「うぅぅぅ、私も入りたいです」
「入るなら脱衣所で服を脱いでくるといいよ」
「分かりました」

 先ほどとは打って変わり、あっさりと云う。
 よほど風呂を体験したいようだ。

「みっともない身体を見られるのは恥ずかしいですが……」

 アップルがいそいそと脱衣所に消えていく。
 ほどなくして、全裸の状態で戻ってきた。

「すごく良い身体をしているじゃないか」
「そ、そんな。あんまりジロジロと見ないでください」

 恥ずかしそうにしながらも、アップルの動きは素早い。
 サクッとかけ湯を行い、身体を清めてから湯船に浸かった。
 そこからはゆっくりとした動きで、俺の隣に腰を下ろす。

「ふわぁぁぁぁぁ」

 アップルから変な声が漏れる。
 チラリと顔を見ると、この上なく恍惚としていた。

「な、最高だろ?」
「はい! お風呂って素晴らしいですね!」

 こうして、俺達は風呂を楽しむのだった。
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