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036 2章:エピローグ

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 俺達はレッドアイ王国を発つことにした。
 ユライアス国王は好きなだけ滞在していいと云うが、そうもいかない。
 指名手配が解けようとも、大陸全土に広まった悪名はそのままだ。
 この国で過ごしていても居心地の悪さを抱くだけである。

 ――ラプーンの港にて。

「一緒に来なくていいのか?」
「うん。国に帰って、自分の腕を一から鍛え直したいから」

 ミゼルは母国〈ヒノマル王国〉に帰るという。
 フィオナとの戦いで思うところがあったそうだ。
 俺の進路は彼女と正反対で、西へ向かう。

「寂しくなるな」
「アレンでもそういう気持ちになるんだ?」
「俺だって人間だぜ。多少の感情はあるよ」
「あはは」

 言っておいてなんだが、自分でも変な気持ちだった。
 別れを寂しく感じることなど、今まで一度たりともなかったからだ。

「本当に……色々とありがとう、アレン」
「こちらこそ。おかげさまで楽しめたよ」
「いつかきっと、アレンを追い抜くからね」
「そうなってくれることを心から願うよ」

 別れの握手を交わす。
 ミゼルと過ごした日々のシーンが脳裏に流れる。

「ねぇ、アレン」
「なんだ?」
「お別れの前に腕試しさせてもらっていい?」
「いいけど、俺が勝ったら何をしてくれるんだ?」
「なんだっていいよ。戦うからには勝つ気でいくから」
「ならいつもと同じ条件だな」
「私が勝ったら、アレンは私の言いなりね」
「いいよ」

 街外れの空き地に移動する。
 かつて俺達の家が存在していた場所だ。

「少し狭いけど……まぁ問題ないだろう」
「そうね」

 互いに剣を抜く。
 練習用の模造品ではない。
 本物の剣だ。

「格下だからって気を抜かないでね」
「もちろんさ。殺す気でかかってきな」
「元よりそのつもりよ」

 剣を構えて向かい合う。

「勝負よ、アレン!」

 先に動いたのはミゼルだ。
 右手を大きく振り上げる。

「珍しく大振りだな」

 俺がそう言った瞬間だった。
 彼女の右手にあった剣がインベントリに消える。
 そして、即座に再召喚し、左手で掴む。

「右手はフェイクか」
「実は私、両利きなんだよね」

 ミゼルが剣の切っ先を俺の胸に向ける。
 そして、躊躇うことなく刺突を繰り出す。
 本気の殺意が乗っかった全力の一撃だ。

「今までで一番良い攻撃だったよ」
「……これでも届かないのね」
「残念だったな」

 ミゼルの攻撃は、俺に効かなかった。
 意表を突かれて驚いたが、防ぐのは容易だ。
 まだまだ甘い。

「今の攻撃はいつから考えていたんだ?」

 鍔迫り合いをしながら話しかける。

「港で初めて負けた日からよ」
「両利きってこと、この時の為にずっと黙っていたのか」
「うん」
「下手をしたら俺は死んでいたぞ?」
「そうね。殺す気で攻撃したもの」

 第三者がこの会話を見たら誤解するだろう。
 ミゼルが実は俺のことを嫌っていたのか、と。

 実際は違う。
 本気で勝ちたいと思っているからこそ、殺す気だったのだ。
 そうでもしなければ、万に一つも届かないと分かっているから。

「もしも俺が死んだらどうしていたんだ?」
「決まってるでしょ」

 ミゼルがニヤリと笑う。

「大泣きよ」
「ふっ、馬鹿な奴だな、お前は」
「アレンにだけは云われたくないわよ」

 鍔迫り合いの均衡が崩れる。
 ミゼルが力を込めて俺を飛ばしたのだ。

「やぁぁぁぁぁぁ!」

 追撃の一手が迫ってくる。
 今度の攻撃は振りが小さい。
 素早い一撃で確実に傷を負わすつもりだ。

「そうそう好き放題にはさせないぞ」

 ミゼルが使った手で、勝敗を決めてやろう。
 俺は視線を右に誘導した。

「――!」

 ミゼルの視線が見事に誘導される。
 その瞬間、剣を右から左に瞬間移動させた。
 インベントリを使っての超高速スライドだ。

「終わりだ」
「お見通しよ、アレン!」
「うおっ」

 ミゼルが俺の攻撃を防ぐ。

「視線誘導に引っかかったフリをしたのか」
「そうよ。私、成長したでしょ?」
「本当にな。凄い成長だよ。感心した」
「でも?」

 続きがあることを読まれてしまう。
 やれやれ、なんて女だ。
 苦笑いを浮かべながら、俺は続きを言った。

「でも、俺には敵わないよ」

 俺はインベントリから追加の剣を出した。
 万が一に備えて用意しておいた予備の〈ただの剣〉だ。

「実は俺も両利きなんだよね」
「ちょ! 二刀流なんて! そんなの聞いてないよ!」
「今まで言ったことがなかったからな」
「ずるい! ずるいよアレン!」
「それが戦いだ」

 元々は右利きだった。
 ゴブ助を訓練する中で、両利きになったのだ。

「はい、俺の勝ち」
「くっ……」

 両手を使えば、あっけなく決着した。

「負けた以上は仕方ないね……今日も言いなりになってあげる」
「潔くて結構だ。では訊くが、もしも俺に勝ったら何をさせていたの?」
「内緒は……ダメだよね?」
「ダメだ。言いなりだからな」
「分かったよぅ」

 ミゼルが頬を赤らめてもじもじする。
 そして、恥ずかしそうにしながら云った。

「まずはお風呂に入ってもらうでしょ。で、そのあと寝室に行って、たくさん、その、ご奉仕してもおうかなって……」

 ……。

「アレン?」

 ……。

「おーい」

 ……。

「……」

 長い沈黙の末、俺は口を開いた。

「俺の要求と一緒じゃねぇか!」
「えへっ」
「えへじゃねぇよ」

 どっちが勝っても、結局その後の展開は同じだったわけだ。

「この空き地に家を建てて、そこで楽しむとするか」
「この土地、もう売っちゃったんでしょ? 違法行為になっちゃうよ」
「かまわないさ。怒られる前に解体すりゃセーフだ」
「ひどー。そういうの良くないよー」
「じゃあ宿屋の狭いベッドで、風呂も入らずに楽しむ?」
「…………いえ、ここに家を建てましょう」
「だろ」

 〈施設建築〉でサッと家を建てる。

「風呂に入るぞー!」
「お風呂お風呂ー♪」

 風呂にオートポータルを接続して、温泉を楽しむ。
 適度にイチャイチャした後、のぼせる前に寝室へ移動。
 寝室でも全裸でアレコレ楽しんで、気がつけば夜になる。

「最終の便が出るから、私、行くね」
「はいよ。また縁があったらよろしくな」
「うん!」

 改めて握手を交わし、お別れとなった。
 ミゼルが先に家を出る。

「……行くか」

 しばらくして、俺も家を出た。
 家を解体し、〈高速分解〉で素材を収納して、街の外に向かう。
 海辺に着くと潜水艦を召喚して乗り込んだ。

「次の国ではどんな物語が待っているやら」

 未知の展開に胸を膨らませながら、俺はレッドアイ王国を発った。



【名前】アレン
【Lv】224
【戦闘系アクティブスキル】
テイミング/ヘイスト/ヒール/マジックシェル/ステルス/
周辺探知/下僕収納/ガーディアン召喚/吸収合体/マネーモンスター召喚
アローレイン/メテオシャワー

【戦闘系パッシブスキル】
脚力強化/脚力強化・改/腕力強化/腕力強化・改/総合能力強化
視覚強化/視覚強化・改/聴覚強化/聴覚強化・改/看破/
状態異常耐性/状態異常耐性・改/毒耐性/毒耐性・改/窃盗阻止/
麻痺耐性/麻痺耐性・改/魔法強化/魔法強化・改/犯人特定/
自然治癒力向上/自然治癒力向上・改/炎耐性/炎耐性・改/下僕強化/
ガーディアン強化

【生産系アクティブスキル】
弓矢製作/軍艦建造/兵器製作/衣装製作/高速分解/
蛇口製作/施設建築/箱物製作/オートベンダー設置/刀剣製作
盾製作/鎧製作/柵製作/

【生産系パッシブスキル】
生産物連携/生産品質向上/生産品質向上・改/生産効率向上/生産効率向上・改/

【その他系アクティブスキル】
ポータル設置A/B/C/D/E/
オートポータル設置A/B/C/D/飛行/
ライセンス契約

【その他系パッシブスキル】
交渉術/飛行強化/CT短縮/CT短縮・改/
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