上 下
32 / 51

032 第2防衛戦④

しおりを挟む
 敵の作戦に応じるべく、俺とミゼルは左右に展開しながら丘を下った。
 俺の相手はクラウゼを含む8人で、ミゼルの相手はフィオナとルークだ。

「また遭うとは思わなかったよ、団長……いや、クラウゼ」
「いずれ会いたいと思っていたが、こんな形になるとは」
「俺と会いたかったのか?」
「ただならぬ気配を感じていたからね」
「そうかい。俺は今まで忘れていたよ、あんたのこと」

 クラウゼ隊と対峙する。
 相手の陣形はクラウゼのワントップだ。
 奴が剣を振り回し、残りが遠距離からのサポートする模様。
 クラウゼの実力に絶対的な信頼があるからこそ成り立つ陣形だ。

 ミゼルの方は……こちらと同じ様子だ。
 フィオナが前に立ち、後ろにルーク。
 あの2人は相当な手練れなのだろう。
 そうでなければ、もう少し人員を割いているは――ッッ!?

「よそ見するとは大した余裕じゃないか、アレン!」
「チッ……」

 クラウゼが斬りかかってきた。
 俺は〈ただの剣〉を右手に持ち、攻撃を防ぐ。
 なかなかに鋭い斬撃だ。

「油断されるほど甘い環境に身を置いてきたつもりはないぞ!」
「油断なんざしてないさ」
「では耳の下にも目が付いているというのか!」

 真剣な顔して何を言ってやがる。
 鍔迫り合いの最中なのに笑いかけてしまった。

「君ほどの実力者が今まで埋もれていたとはな、アレン!」
「世の中ってのは広いのさ――オラァ!」
「ぐっ……!」

 クラウゼを押し飛ばす。
 バランスが崩れたところに追撃の一撃を――。

「させない!」
「させねぇよ!」

 すかさず後衛の奴等がカバーしてくる。

「チッ」

 相手の底が知れぬ以上、踏み込むのは危険だ。
 俺は追撃を諦めて距離を取った。

「団長だけが相手だと思うなよ!」
「俺達だって伊達に1番隊の隊員じゃねぇんだぞ!」

 スキルのオンパレードで攻め立てられる。
 光の矢を飛ばす〈マジックアロー〉、蔦を絡めて動きを封じる〈蔦の足枷〉、自動追尾能力の付いた魔法の球を飛ばす〈ホーミングボール〉。

「鬱陶しい!」

 矢を避け、蔦と魔法の球は斬り捨てる。

「ゆくぞ! アレン!」

 クラウゼの追撃。
 一転して、今度は俺が攻められる。

「本当なら君とは1対1で戦いたかった」
「なら今からでもそうしてくれてかまわないぞ」
「それは出来ないさ。これは個人戦じゃないからな」
「ま、そうだな」
「仲間を虐殺されておいて言うのも変だが、嬉しく思うよ」
「何が嬉しいんだ?」
「こうやって久しぶりに本気で戦えることがだよ!」

 こいつもライバル不足に悩んでいたクチか。
 RLO時代に同じ経験をしてきたからよく分かる。

「君程の実力者なら分かるだろう!? 俺の孤独が!」
「ああ、分かるよ。張り合い甲斐のある奴がいないのは寂しいものさ」
「だが遂に見つけた! アレン、君は俺のライバルに相応しい男だ!」
「……そうかい」

 クラウゼの攻撃が鋭さを増していく。

「やれやれ、眠れる獅子を起こしてしまったようだな」
「その通り! 俺の本気はまだまだこれからだ! アレン!」

 思っていたよりかは面倒な戦いとなりそうだ。

 ◇

 ――同刻、ミゼルは。

「女のくせにやるわね、貴方」
「そちらも女でしょうよ、フィオナさん」
「名前を知っていたのね、ミゼルさん」

 ミゼルとフィオナの戦いも拮抗していた。
 いや、ミゼルの旗色がやや悪い。

「〈アイススピア〉、〈ライトニング〉。くぅー、当たらん!」

 ルークが援護しているからだ。
 攻撃スキルを巧みに操り、ミゼルに攻めさせない。

「貴方、実戦経験はあまりないでしょ?」
「どうして分かるのよ?」
「剣の筋が素直すぎるからよ」
「もう……アレンと同じこと云っちゃってさ」

 ミゼルは舌打ちする。
 悔しいが、フィオナの言い分は正しかった。
 実戦経験がないことも、剣の筋が素直過ぎることも。

「貴方の剣はたしかに鋭いけど、筋が素直だから読めてしまう」
「上等じゃない。読めても勝てないくらいに鋭くなればいいだけよ」
「云うわねぇ! 貴方とは別の形で出会いたかったわ、本当に!」

 この時、ミゼルは言葉とは正反対のことを考えていた。
 このままだとフィオナ達に勝つのは難しい、と。
 だから、ミゼルは決心した。

「(アレン君の考えた“あの手”。使いたくないけど仕方ない……)」

 どんな手を使ってでも勝つ――それがミゼルの覚悟だ。

 ◇

 留まることなく鋭さを増していくクラウゼの剣。
 右に左にと暴れるその剣を防ぎながら、俺は考えていた。
 どうやって倒そうか、と。

 クラウゼは強い。たしかに強い。
 しかし、実力の底は見えてしまった。
 後方の7人にしてもそうだ。

「戦闘に集中しろ! アレン!」
「しているさ……お前よりもな」
「なんだと?」

 ただ勝つだけではいけない。
 余裕の大勝を以て、王国の心をへし折る。
 その為に、ここは無傷で軽やかに勝っておきたい。
 大陸最強のギルドを余裕で倒せば、王国側は絶望するはずだ。

「クラウゼ、気づいていないのか?」
「なんだ?」

 俺は視線を移した。
 クラウゼから、彼のサポートをする仲間達に。

「熱くなるあまり、仲間達との距離を取り過ぎたな」
「何を云う。我々は一歩も動いていない!」

 クラウゼの言い分は正しい。
 一度は俺が押し進めたが、すぐに押し返された。
 その結果、最初に鍔迫り合いをした地点のままなのだ。

「でも、仲間達は最初の頃よりも離れているぞ」
「そういう陣形なのだよ。何が云いたいんだ、お前は!」
「ふっ」

 真意を理解できなくて苛立つクラウゼ。

「俺を警戒してのことだろうが、距離を取らせたのは誤りだったな」
「なに?」
「俺はソロで生きてきた男だから使えるんだよ。戦闘以外のスキルも」
「戦闘以外……。なっ! まさか! お前、ポータルを!」
「もちろん仕掛けているよ。ここは俺の戦場なんだぜ?」

 鍔迫り合いの最中に、俺は〈ポータル設置〉を発動していた。

「後ろの雑魚共を狩れば、お前など怖くもない」

 ポータルを開き、その中に入っていく。

「しまった! その手を読み忘れてい――」

 仲間の方へ振り返るクラウゼ
 しかし、次の瞬間――。

「なっ…………ガハッ!」
「「「団長ォオオオオオオオ!」」」

 クラウゼの口から大量の血が出るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった

九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた 勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

女神スキル転生〜知らない間に無双します〜

悠任 蓮
ファンタジー
少女を助けて死んでしまった康太は、少女を助けて貰ったお礼に異世界転生のチャンスを手に入れる。 その時に貰ったスキルは女神が使っていた、《スキルウィンドウ》というスキルだった。 そして、スキルを駆使して異世界をさくさく攻略していく・・・ HOTランキング1位!4/24 ありがとうございます! 基本は0時に毎日投稿しますが、不定期になったりしますがよろしくお願いします!

処理中です...