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019 ミゼル

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 ゴブ助には足りないものがたくさんあった。
 レベルは当然として、アクティブスキルも貧相だ。
 しかし何より、実戦経験がまるで足りていない。

 今のゴブ助は、ただ頑丈で身体能力が高いだけ。
 格下の相手には無双できても、同格の相手にはまず勝てない。

「今日からしばらくは実戦経験を培っていくぞ」
「分かったゴブ! 具体的には何をするゴブ?」
「まずは俺との模擬戦。その後はモンスター相手に実戦だ」

 その日から、ゴブ助との稽古が始まった。

「もっと障害物を利用しろ」
「攻撃が素直過ぎるぞ」
「打ち合いで勝てないと思ったら手を変えろ」
「もっとずる賢くなれ。隙を突け。正々堂々と戦う必要はない」
「勝負で負けると死ぬぞ。何をしてでも勝つんだ」

 超絶的なまでのスパルタ指導で鍛え上げていく。
 平野、森林、洞窟……あらゆるフィールドで稽古をつけた。

「いいぞ、その調子だ」
「ゴブ! ゴブ! ゴブ!」

 最初こそ脳筋プレイだったゴブ助だが、次第に成長していった。
 熱血指導の効果は想像以上に良かったみたいだ。
 また、俺自身も、模擬戦を通じて成長していた。

「稽古はこの辺にしておこう」
「どうしてゴブ? 初めてアレンに勝てるかもしれないゴブ」
「それはないけど……これ以上は互いに危険だ」

 俺達の模擬戦で使用しているのは本気の武器だ。
 俺は〈ただの剣〉で、ゴブ助は〈ゴブ助ブレード〉。
 だから、下手すると大怪我を負いかねない。

 ゴブ助が実力をつけてきたことで、これ以上は危険だと判断した。
 勢い余って真っ二つにしてしまったら本末転倒だ。

「今後はモンスターとの実戦で更なる経験を積んでいく。同時進行でレベル上げも行う。アクティブスキルは最後だ。いいな?」
「ゴブー!」
「よろしい。昼飯でも食いに行くか」
「賛成ゴブ! たこ焼きの美味しい店を教えてあげるゴブ」
「街外れにあるタコリンだろ?」
「ど、どうして知っているゴブ!?」
「その店を教えたのは俺だろ、たわけが」
「ゴブーン!」

 ペットにはそれぞれ性格がある。
 ゴブリンだからといって、皆がゴブ助のような感じとは限らない。
 中には凄く丁寧な言葉使いをするお行儀の良い者もいる。

「……最初のペットがお前で良かったよ」
「今何か言ったゴブか?」
「何も言っていない。早く行くぞ」

 馴れ合いを是としない俺だが、ゴブ助とのやり取りは楽しんでいた。

 ◇

 ラプーンに戻り、港付近の酒場に向かっている最中のことだ。

「女だからって舐めやがって!」
「何様のつもりだこのアマ!」

 港沿いの通りで、何やらトラブルが起きていた。
 人だかりをかきわけて、具体的な内容を確認する。

「なんだか問題ゴブねー」
「ナンパにでも失敗したのかな?」

 1人の女を、5人の男が囲むように立っていた。
 男達は例外なく柄の悪いおっさんだ。
 女の方は――。

「美人だな」
「アレンの好みゴブ?」
「俺は性格重視だからなんともだな」

 髪は金色のセミロング。
 ややつり目な点が凜々しさを醸している。
 上半身と脛を真紅の防具で守り、下は短いスカートだ。
 年齢は俺と同じくらいか。
 腰に携えている剣を見るに冒険者だろう。

「泣いて謝ったら許してやるぜ」
「それか俺達と一緒に楽しいことするかだなぁ」
「ヒッヒッヒ」

 モブの典型とも思えるセリフを吐く野郎共。
 男達は全員が抜刀状態で、剣をちらつかせていた。

「そんなに私を好きにしたいなら――」

 女が右手で剣を抜く。

「私を倒してみなさい」
「なぬぃぃ!?」
「私、自分より弱い男に興味ないんだよね」
「んだとぉ!?」
「なんなら全員同時にかかってきてもいいのよ?」

 女の挑発は効果的だった。

「ならお望みどおりにしてやらぁ!」
「俺達に負けたら奴隷よりも酷い扱いをしてやるからなぁ!」
「こんな上玉がベッドでどんな声を出すのか楽しみだぜぇ!」

 野郎共が一斉に襲い掛かる。

「ふっ」

 女は鼻で笑うと、剣をインベントリに戻した。
 そして、次の瞬間には姿が消える。

「「「「「なっ!?」」」」」

 混乱する野郎共。

「差は歴然だな」

 まるで赤子と大人の喧嘩だ。
 赤子が5人で群れようが、1人の大人には勝てない。

「〈看破〉を習得していないなら〈周辺探知〉を使えばいい。どちらも習得していなくとも、〈ステルス〉対策などいくらでも出来るだろうに」

 女が消えたのは〈ステルス〉によるもの。
 武器をインベントリに戻したのはスキルを発動するためだ。

「勝負あったな」

 その後の展開は想像に容易かった。
 反応の遅れた野郎共の後頭部を、女が素早く殴っていく。

「優しい女だな」

 気絶で済ませるとはな。
 俺なら海に投げ捨てていただろう。

「他愛もないねぇ」

 女が、俺を含む野次馬連中を見渡す。

「この中で私に挑もうって男はいない? 見てるだけ?」

 どうやら暴れ足りないようだ。

「なかなか面白そうだな」
「アレンの好みゴブ?」
「結構好きだぜ、ああいうの」

 俺は野次馬の輪から飛び出して、女の前に立った。

「俺が相手をしよう」
「さっきの戦いは見ていた?」
「もちろん」
「なら腕に覚えがあるのね。名前は?」
「アレンだ。そっちは?」
「ミゼルよ」

 ここで負ければ恥もいいところだし、勝てば目立ってしまう。
 どちらにも転びたくない状況といえよう。

 それが分かっていた上で戦いを申し込んだ。
 好奇心に勝てなかったのだから仕方がない。

 RLOにも、この手の“戦闘ガチ勢”が存在していた。
 そういう奴等との戦闘は、技量の向上に繋がるので大好きだ。

「死ぬか、気を失うか、降参したら負けということでいいの?」
「かまわないわよ。アレンが勝ったら、私のことを好きにさせてあげる」
「いいだろう。俺が負けたら、金でも何でもくれてやるよ」
「あはは、なら全財産を頂いちゃうことになるね」
「前口上はこの辺にして……いくぜ」

 ミゼルとの戦いが始まった。
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