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001 1章:プロローグ

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 社会からドロップアウトして久しいが、この度人生からもドロップアウトすることになった。

「どうして……こんな……」

 いつもと変わらぬはずだった。
 バイトを終えて家に帰り、時間の限りをネトゲに費やす。
 今日は給料日だから、下ろした金を課金に突っ込むことも忘れない。
 10代の頃から40近い今になっても変わることのない日を送るはずだった。

「俺が何したっていうんだよ……」

 なのにこの有様だ。
 信号を無視したトラックに轢かれてしまった。

「神様……来世は……ゲームの世界で……生きさせて……」

 遠のく意識。動かない体。全身を襲う激痛。

『その願い、叶えてしんぜよう』

 聞こえてくる幻聴。

『どのゲームの世界で新たな人生を送りたいのじゃ?』

 幻聴とは分かっていても、俺は答えた。

「じゃ……じゃあ……RLOリアルライフオンラインで頼む……」

 RLOは、最近やり込んでいるVRMMOだ。
 変わった仕様のゲームで、他ゲーの常識が通用しない。
 無限の可能性があるゲームだから、あの世界にいけるなら最高だ。

『よかろう』

 ◇

 目が覚めた瞬間に分かった。

「ここは……RLOの世界だ……!」

 自分がRLOの世界に居るのだと。
 視界に映る中世ヨーロッパ風の建物に見覚えがあったからだ。

「ゲームをしながら寝落ちしたのか? ……いや違うな」

 ログアウトをすることが出来ない。
 というか、メニュー画面が開けなかった。

 それに、ゲームでは出来ない動きが可能だった。
 ズボンに手を突っ込んで股間をまさぐる……なんてことも。

「おほっ、これは……!」

 股間の息子を握ると、得も言えぬ快感に襲われた。
 ゲームではあり得ない感触だ。

「本当にゲームの世界へ来てしまったのか」

 死後は天国やら地獄やらに行くと学んできた。
 しかし、実際のところはそうでもないようだ。
 こんなことならさっさと死んでおけばよかった。

「見た目は初期装備のようだが……」

 纏っているのは黄ばんだ布の服。
 なんともみずぼらしい格好だ。

「どうやって確認すればいいんだ」

 ステータスの確認をしようとして躓く。
 ゲームの頃と違い、メニュー画面が開けない。

「なぁ、ちょいと訊きたいんだがいいか?」
「なんだい?」

 適当な男を捕まえて尋ねた。
 分からない時は訊くに限る。

「ステータスの確認方法を知りたいんだが」
「おいおい、変な酒でも飲んでイカれちまったのか?」
「たぶんそうなんだろう。とにかく教えてくれよ」

 もしかして、ステータスの確認方法などないのではないか?
 ここはRLOに限りなく酷似している世界だが、ゲームではない。
 新たな現実・・・・・だ。

「普通に念じりゃ分かるだろ? やってみな」

 よかった、この世界でもステータスは存在しているのだ。
 男の言葉に従って念じると、ステータスが脳によぎった。

【名前】アレン
【レベル】1
【スキル】なし

 相変わらず簡素なステータスだ。
 RLOの時と同じで、HPやらの項目が存在しない。

 RLOのプレイヤーステータスにHPや防御の概念は存在しない。
 Lv999だろうと、戦闘系のスキルがなければ、Lv1の敵に負けることもある。

「その様子だとPTの組み方なんかも忘れてそうだな?」
「なんならスキルや装備の確認方法も忘れているが?」
「ドヤ顔で言うことか。面白い奴だな、教えてやるよ」

 男から教わったおかげで、最低限のことが分かった。
 防具――というかアバター装備は、案の定〈黄ばんだ布の服〉だ。
 で、武器はというと――。

【名前】木の棒
【属性】なし
【攻撃力】
★─┼─┼─┼─┼─┼─┤
F E D C B A S

 こちらも初期装備だった。

「出でよ! 〈木の棒〉!」

 装備している武器を召喚してみる。
 口にする必要はなかったが、なんとなくセリフ付き。

「おお……!」

 本当に武器が召喚された。
 RLOの時と同じで軟弱そうな棒だ。

「消えろ! 〈木の棒〉!」

 召喚した武器を異次元の収納箱インベントリに収納してみた。
 手に持っていた〈木の棒〉がポンッと消える。
 必要なことは理解したし、どうにかやっていけそうだ。

「サンキュー、助かったよ」

 男に礼を言って、俺は近くに噴水に向かった。

「名前はゲームの頃と同じだ。だったら……!」

 噴水に近づき、覗き込む。
 水面に映る自分の顔を確認する為だ。

「おお!」

 歓喜の声を上げてしまう。
 水面には、ゲームのキャラと同じ顔が映っていた。
 つまり、黒の短髪が似合う好青年の顔だ。18歳の。
 残念なアラフォーのおっさんではない。

「今度こそ充実した人生を送るぞ」

 新たな世界で、新たな人生が幕を開けた。
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