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第018話 合理的判断

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 サラとの資本提携は、合理的に考えても圧倒的に得な話だと感じた。
 俺自身の価値との釣り合いということは除外して考えても、今の手詰まり感がある中では資本提携の道は渡りに船というもの。

 まず、今の俺達の状況を整理しよう。
 俺はこの世界のことを無知と断ずるに等しいレベルで知らない。
 そして我が資産であるアリサは、無能と言うに他ならない戦闘能力だ。
 この状況を打破するには、新たな手段が必要になる。

 サラとの資本提携が無い状態で考えよう。
 その場合、新たな手段とはスキルの習得ということになる。
 この世界には、金によって習得出来る汎用スキルというものがあるのだ。
 スキルの内容は多岐にわたり、中にはモンスターを攻撃するものも存在する。

 他にはなにがある?
 そう言われると、何もないのが現状だ。
 となれば、汎用スキルの効果次第で未来が決まってしまう。

 俺達が目下取り組むべきことは、生活費の確保である。
 収入を支出よりも多くすることが最優先なのだ。
 そうしなければ、さほど遠くない内に餓死することになってしまう。

 汎用スキルが思ったとおりの効果を発揮すれば問題はない。
 しかし、この世界の戦闘は想像よりも遙かに厳しいものなのだ。
 想像通りに汎用スキルでモンスターが軽やかに死ぬとは限らない。
 いや、むしろ、経緯を考えればその可能性は低いだろう。

 ただ、零か百かで考えるのは良くない。
 間を取った想定もしてみよう。
 そう、汎用スキルが中々使えた場合だ。
 軽やかではなく、苦戦はするがどうにかなる場合。

 その場合、俺達はゴブリンを毎日三体は狩ることになる。
 常に休みなく狩り続けたとして、収支はそれほど明るくはない。
 武器の手入れなどを考慮すれば、マイナスになる可能性もある。

 もちろん、いずれは戦闘になれて楽になるだろう。
 そうなった頃には、もっと実入りの良いクエストが受けられるかもしれない。
 しかし、そのクエストが順風満帆にいくかといえば、不明だ。

 ――サラと資本提携しなかった場合、
 自転車操業の真っ暗な未来が待っている可能性が濃厚――

 選択肢を広げるという意味において、
 サラとの資本提携は極めて合理的な判断といえた。

 また、資本提携にこちらのデメリットがないことも大きい。
 金銭が生じない株式の交換なので、実質的には無料で手に入れたようなもの。
 それでいて、確実に【配当】の三億ゴールドは手に入るのだ。
 仮に【優待】が皆無だとしても、【配当】だけでも資本提携の価値はある。

 そこまで考えたからこその即決だった。

「ではこれで、株式の交換が完了ね」

 取引は単純だった。
 互いのACをタッチさせただけだ。
 ICの時と同じで、ピカッと光って取引完了。
 ICを確認すると、保有銘柄が追加されていた。

===============
【銘柄名】アリサ・リーンベルト
【保有数】一万株(一〇〇パーセント)

【銘柄名】サラ・コーデリア
【保有数】一千株(一〇パーセント)
===============

 まさか新米Fランカーの次に保有する株がベテランAランカーとはな。
 サラの【配当】である三億だけで考えても、アリサを買収したのは正解だ。

 彼女を買収しなければ、サラには目を付けられていなかった。
 それはつまり、サラとの資本提携が実現していないことを意味する。
 もっといえば、【配当】の三億が手に入っていなかったということ。

 俺はアリサの買収や武具の調達などで五千万以上の金を費やした。
 加えて、自身の株式を一〇パーセント消費。
 それらの“投資”のリターンとして得たのが、サラの株式だ。
 約束された三億ゴールド。
 間接的とはいえ、アリサがもたらした利益だ。

「私の方からはこれでおしまいだけど、トウヤ君から何か質問はあるかな? 質問がないなら去るけれど」

 質問がないかだって?
 答えは一つ。

「あります」

 大ありだ!
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