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第011話 装備完了

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 色々回った末に、俺達は槍を購入した。
 俺達というのは俺とアリサである。
 そう、アリサだけではなく、俺も槍を購入した。

「どうしてトウヤまで槍を買うの?」
「俺だって冒険者になってみたいからな」

 冒険者と投資家の兼業が可能なことは分かっている。
 また、冒険者の多くが投資をしていることも知っていた。
 投資ブックの【保有株】を見れば一目瞭然だ。

 そうと分かれば、俺だって冒険者になってみたい。
 ラノベが好きな俺としては、異世界で冒険者という設定は憧れる。
 それに、アリサから聞いた話で興味深いことがあった。

 スキルについてだ。
 この世界にはユニークスキルと汎用スキルが存在する。

 ユニークスキルは、いうなれば特殊能力だ。
 基本的には、先天的に習得されているものらしい。
 ただ、後天的な発現例もあるそうだ。
 といっても、後天的な発現は期待するだけ無駄である。

 一方、汎用スキルは別だ。
 こちらは『占い師』と呼ばれる業者に金を払うだけで覚えられる。
 占い師は国に仕えており、人によって何かが変わるということはない。
 故に、どの占い師からでも、同じようにスキルを習得できるのだ。

 武器を振り回して、スキルを操る……。
 小難しいことを考えて投資するよりも、よほど俺向きの話だ。
 だから俺は、冒険者になることを決意していた。

「次は防具だが……」

 武器屋と同じく、全ての防具屋を見て回る。
 防具にもいくつかの種類があった。
 大別すると二種類だ。

 一つは、合金や鋼などを用いた重装鎧。
 もう一つは、革などを加工した軽装鎧。

 防具の効果はよくあるRPGと同じだ。
 重装鎧は重くて動きにくいが防御力に優れる。
 反対に、軽装鎧はそこそこの防御だが軽くて動きやすい。
 アリサが軽装鎧ということで、俺も軽装鎧を選択した。

「九五〇万ゴールドになります」
「買うぜ!」
「えええええええええ!」

 驚愕するアリサ。
 その理由は、買った防具が超高いからだ。
 防具屋の並ぶ通りにある中だと最高級である。

「防具は命を守ってくれるものだからな。ケチるわけにもいかんだろ」
「なるほど! トウヤって、何も考えていないように見えて、実はしっかりと考えているんだね! 見直した!」
「アリサに考えていなさそうとか言われたら気がつくよ……」
「えー! 私は考えまくりだもん!」
「ウッカリ買収されたくせによく言うぜ」
「そ、それは……えへへへ、えへへへへぇー!」

 笑ってごまかすところもまた可愛い。
 こんなに可愛い女と並んで歩くだけでも幸せだ。
 日本とかいう国だと絶対に出来ない経験といえる
 サンキュー異世界、サンキュー女神。

「そーれにしても! 武器と防具の価格差が面白いねー!」
「はは、まぁな」

 買ったばかりの軽装鎧を装着する。
 ゲームみたいにボタンクリックであっさり装備とはいかない。
 初めてということもあり、尚更に手際が悪かった。
 それでも、無事に装備を完了する。

「軽すぎて逆に不安だな」
「でも黒くてカッコイイよー!」
「たしかに見た目はいいな。模様もいい感じだ」

 俺の鎧は黒を主調としたもので、金色の模様が入っている。
 模様はゴシック調に近い感じで、見るからに高級そうだ。

「アリサ、試しに叩いてみてくれ」
「いいのー? 全力でいくよー!?」
「おう、どんとこい!」
「任して! おりゃー!」

 アリサは身体を大きく反らしたあと、勢いよく起こした。
 その勢いを利用して、強烈なパンチを俺に繰り出す。
 パンチは俺の鎧に防がれ、俺は余裕の笑みを浮かべる……はずだった。

「いってぇ! いてぇ! なんで! なんで鎧じゃなくて地肌にダイレクトアタックしてくるの!? 普通、そこは鎧にパンチだろ! なんで! なんで!?」

 思わず発狂してしまう。
 アリサは、鎧を避けて攻撃したのだ。
 おかげさまですごく痛い。
 ご褒美だなんて喜ぶ事の出来ない痛さ。

「ご、ごご、ごめん! 鎧を狙ったんだよ! でも逸れちゃって!」
「なんでだよ! 俺は棒立ちだったぞ! 頼むよほんと!」
「こ、今度はちゃんと鎧にパンチするから!」
「いや、怖いからもうやめて! 実戦で確かめるからいいよ!」

 次も鎧を避けられたらたまらない。
 この手の女は、二発連続で外してくるのがお約束だ。
 そんな定番の流れに、可愛い我が身を捧げるわけにはいかない。

「武具は揃ったし、冒険者ギルドにいこうぜ」
「え、でもスキルがまだだよ?」
「スキルはまた今度だ。まずは先にゴブリンと戦おう」
「なんでー?」
「高いからさ。気軽に試せる額じゃない」

 汎用スキルの習得にはお金がかかる。
 細かいことは不明だが、最低でも一〇〇万単位で必要だ。
 容易に払える額だが、看過出来る額ではない。
 故に、スキルの習得は確実性が求められる。
 習得するのは、必ず活用出来るものだけだ。

「じゃあ、今日は占いもしてもらわないの?」
「まぁな。占ってもらっても意味がないし」

 占いとは、スキルの素質を知るものだ。
 スキルは使用者によって攻撃力が異なる。
 同様に、使用者によって使用回数も異なる。
 それらの素質を調べることを“占う”と言うのだ。
 日本における占いとは意味が大きく違う。

 ただ、占いがどの程度のものかは分からない。
 スキルといっても、回復やら攻撃やら色々とあるらしい。
 それらを威力で一括りにするのか、それともタイプ事に違うのか。
 冒険者なら常識ともいえるであろうその情報を、アリサは知らなかったのだ。
 彼女が知らないのだから、彼女から説明を受ける俺もよく分かっていない。

「スキル覚えたかったなー!」
「早ければ明日にでも覚えるさ。まずはゴブリンを軽く倒して生活費を稼ごう」
「トウヤって、お金持ちなのにコツコツ稼ごうとする変わり者だね!」
「俺だってのんびりしたいけど、生計を立てられる状態にはしておかないと」

 俺の所持金は四〇〇〇万をきろうとしている。
 自分に特別な才がないことを考慮すると、心許ない額だ。

 そんなわけで、俺達は冒険者ギルドに向かった。
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