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第010話 トウヤ様と呼ぶな

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 一息ついた俺達は宿屋を出た。
 それから武器屋を目指して通りを歩く。

「それにしても、冒険者なのに武器がないとかどうよ?」
「いやぁ、貧乏なものでして! でもおかげさまで武器も買えるよ!」

 愉快げに笑うアリサと、苦笑いの俺。
 二人でテクテクと歩き、武器屋の集まる通りにやってきた。
 道幅は広く、左右見渡す限りに武器屋が並ぶ。
 一つ横の通りへ行けば、同じように防具屋が並んでいるらしい。

 武器屋は基本的に店舗型であり、露天商の類は存在していなかった。
 また、武器屋の他には鍛冶屋がちらほらと散見される。
 どちらも結構な数であり、どの店がいいのかは見当も付かない。

「アリサはどの店で武器を買うの?」
「うーん、分からない! とりあえず全部回ろう!」
「そうなると随分な駆け足になるな」
「だね! 走ろう!」

 アリサに左腕を捕まれる。
 それに気づいた瞬間には、引っ張られていた。
 元気よく俺を引っ張り、アリサは近い店から順に入る。

「武器を作るなら材料を、治すなら武器をだしな!」

 最初に入ったのは、武器屋ではなく鍛冶屋だった。
 どうやら鍛冶屋では、武器の販売を行っていないらしい。
 そのことを俺だけではなくアリサも知らなかった。
 そんなまさかの事態に、俺はひどく驚いた。

「マ、マジで冒険者なんだよな……?」
「えへへ、そのとーり!」
「武器屋と鍛冶屋の違いも知らない冒険者……」

 容姿は文句ないが、冒険者としての素質は不安しかない。
 現実的な話をすると、買収費用をペイ出来るとは思えなかった。

 俺が鬼畜なら、冒険者として不適格でも使い道はあるのだが……。
 パッと閃くだけでも、肉体で奉仕する類の店で働かせるとかね。
 しかし、俺にそんなことをさせる度胸はなかった。

「武器ってこんなにも種類があるんだ」
「だねー! 私もびっくり! どれがいいかなぁ」

 最初に入った武器屋の商品は、どれも二〇〇万前後であった。
 それがどの程度のグレードなのか分からない。
 店主曰く「上質な逸品ばかり」とのことだが、営業トークだからな。
 自分が売っている商品を「ゴミだよー」などと言う奴はいない。

「アリサって、どういう武器で戦う予定だったの?」
「特に決めてなかったぁ。でも、冒険者といえば剣とか槍だよね!」
「あとは弓も定番って感じだな」
「そうそう! でも弓は難しそー!」

 武器屋の商品を適当に持ってみては棚に戻す。
 どの武器も、思っていたより重くて驚いた。
 俺の筋力では、とても剣をぶんぶん振り回せそうにない。
 槍などの両手で持つ物のほうが使いやすそうだ。

「なんだか槍がいいかも!」

 アリサも同じ感想に至ったようだ。

「これだけ重いと片手で振り回すのは難しいもんな」
「そうそう! だから剣より槍のほうがいいかもって!」

 意見が一致したことを嬉しく思う。
 しかし、そのことを喜ぶ間もなく、俺は慌てることになった。
 あろうことか、アリサは適当に持った槍を買おうとしだしたのだ。

「待て、待て待て。まだ一軒目だぞ」
「えー、でも、善は急げって言うし!」
「急がば回れとも言うよ。ていうか、とりあえず全店舗回ろうぜ」

 自身の株式は、言い換えると自分自身である。
 我が身を売ってまで手に入れた金ということだ。
 なのにこの女ときたら、まるで金の重みを感じていない。
 やっぱり馬鹿だ。
 買収したのがクソザコ童貞の俺じゃなかったら終わっていたな。

「まずは一番安い店を探そう。質よりも価格さ。どうせ相手は最弱モンスターのゴブリンなんだろ?」
「たしかにトウヤの言う通りね! そうしよー!」
「俺が居なかったらすぐに【預金】を吐き出しきって<破産>しそうだな……」
「でも、私にはトウヤがいるから!」

 アリサからすると何気ないセリフだったに違いない。
 それでも俺にはキュンときた。
 この女、いちいち俺のツボをついてくるな。

「ば、馬鹿なこと言ってないで、お金は大事に使えよな!」
「はーい! トウヤ様ぁー!」
「それと様付けは止めるんだ! なんだか気持ち悪い!」
「じゃあご主人様もダメ?」
「そ、それは……!」
「えー、トウヤってそんな風に呼ばれたいの?」
「……っせぇ! 行くぞ! 命令だ! ついてこい!」

 この時、俺は論戦に持ち込まれると勝てないと学んだ。
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