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第007話 アリサ・リーンベルトの挨拶
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がっつり半減した所持金。
もうキャンセルは通用しない。
俺は、衝動に駆られて買収したのだ。
「あの、買収した後に訊くのも変ですけど、買収について詳しく教えていただいてもいいですか?」
受付嬢に尋ねる。
俺は後頭部をポリポリと掻き、この上ない苦笑いを浮かべた。
「え、あ、はい、かしこまり、ました……」
受付嬢はいまだ驚いていた。
俺自身、「所持金の半分も飛ばして大丈夫なのかよ」と思い始めている。
だが、買ってしまったのだ。開き直るしかない。
ラノベにありがちなチート的な展開へ繋がることに期待しよう。
「ま、まず、買収された冒険者には、<株主総会>を開く必要がなくなります。同時に三ヶ月ごとに<決算発表>も不要になりますが、その間も決算に関するデータは自動的に収集され、冒険者ギルドに保管されています」
「<株主総会>とか<決算発表>とかよく分からないけど、【預金】や【配当】、それに【月給】はどうなるのですか? たしかそういうのって<株主総会>で決めるのですよね?」
「はい。ですが、買収した場合、それらは支配している株主……アリサさんの件ではトウヤ様の一存によっていつでも変更できます。ただし、【配当】や【月給】を変更するには、その都度、投資ギルドに報告する必要がございます」
すると、【月給】を皆無にすることも可能なわけだ。
それは死の宣告と同義に近い行為だから、することはないだろう。
「また、買収された冒険者は<破産>することがございません。通常ですと、【預金】がマイナスになった冒険者は<破産>認定を受け、冒険者資格を永久的に失うこととなります」
「【預金】がマイナスの状態で、支配株主が支配下を売りにだしたらどうなるのですか?」
「それは不可能になっています。投資ギルドを通した取引だけではなく、個人間の取引による売買もできません」
説明は理解できた。
が、俺には関係なさそうだ。
「買収のデメリットは何かないのですか?」
「支配下の冒険者が罪を犯した場合、支配者も監督責任を問われることがあります。もっとも、支配下の冒険者は命令に絶対服従しますので、そのような問題が起きることはまずありません」
なるほどな。
これなら、俺の判断はあながち悪くなかったかもしれない。
「さっきの話に戻りますけど、【預金】がマイナスでなければ、買収した冒険者を再び投資ギルドに上場させることはできるのですよね?」
「可能です。ところでトウヤ様は、買収したアリサさんをどのように活用されるおつもりなのですか?」
「それなんですか、今の話を聞いてちょっとした案が――」
それは、受付嬢に話している最中のことだった。
後方にある投資ギルドの入り口から大きな声が聞こえたのだ。
「トウヤ・アキフネってのはどこのどいつだー!」
最初、俺を呼んでいるのだと気づかなかった。
気がついたのは、投資ブックに映る俺の名前を見たからだ。
学校では『秋舟』だったし、家族からは『冬哉』と呼ばれていた。
フルネームでも苗字からが普通だったので、まるで馴染みがない。
「俺だけど……」
席を立ち、声のする方向へ振り返る。
そこには、金髪のツインテールをした女が立っていた。
見た目は同年代で、服装は上が革の鎧で、下は丈の短いスカートだ。
スカートは赤を主調としたチェック柄で、中々に露出度が高い。
この女のことを俺は知らない。
セリフから察するに、向こうも俺の名前しか知らないようだ。
そのことから導き出される結論が一つある。
それは――。
「君がアリサ・リーンベルト?」
「そうよ! そういう貴方はトウヤ・アキフネね!?」
案の定、俺が買収した女だった。
おいおい、とんでもなく可愛いじゃないか。
口調はおしとやかとは言えないが、それは問題ない。
これほど可愛い女を言いなりにできる……だと……!?
妙な妄想をしないはずがなかった。
妄想だけで興奮度が極限を超え、血管がぶち切れて鼻血がでそうだ。
そこをかろうじて抑え、ドシドシ歩いてくるアリサに言った。
「はじめまして。名前は知っているみたいだけど一応言うね。俺はトウヤ。つい先ほど、君を買収――」
「なーんで買収したのよ! おかげでドッカーンと入った【預金】が一瞬で消えたじゃない! バッカじゃないの! もー!」
これではどちらが支配者なのか分かったものではない。
そう思いながら、俺はひとまずアリサをなだめるのであった。
もうキャンセルは通用しない。
俺は、衝動に駆られて買収したのだ。
「あの、買収した後に訊くのも変ですけど、買収について詳しく教えていただいてもいいですか?」
受付嬢に尋ねる。
俺は後頭部をポリポリと掻き、この上ない苦笑いを浮かべた。
「え、あ、はい、かしこまり、ました……」
受付嬢はいまだ驚いていた。
俺自身、「所持金の半分も飛ばして大丈夫なのかよ」と思い始めている。
だが、買ってしまったのだ。開き直るしかない。
ラノベにありがちなチート的な展開へ繋がることに期待しよう。
「ま、まず、買収された冒険者には、<株主総会>を開く必要がなくなります。同時に三ヶ月ごとに<決算発表>も不要になりますが、その間も決算に関するデータは自動的に収集され、冒険者ギルドに保管されています」
「<株主総会>とか<決算発表>とかよく分からないけど、【預金】や【配当】、それに【月給】はどうなるのですか? たしかそういうのって<株主総会>で決めるのですよね?」
「はい。ですが、買収した場合、それらは支配している株主……アリサさんの件ではトウヤ様の一存によっていつでも変更できます。ただし、【配当】や【月給】を変更するには、その都度、投資ギルドに報告する必要がございます」
すると、【月給】を皆無にすることも可能なわけだ。
それは死の宣告と同義に近い行為だから、することはないだろう。
「また、買収された冒険者は<破産>することがございません。通常ですと、【預金】がマイナスになった冒険者は<破産>認定を受け、冒険者資格を永久的に失うこととなります」
「【預金】がマイナスの状態で、支配株主が支配下を売りにだしたらどうなるのですか?」
「それは不可能になっています。投資ギルドを通した取引だけではなく、個人間の取引による売買もできません」
説明は理解できた。
が、俺には関係なさそうだ。
「買収のデメリットは何かないのですか?」
「支配下の冒険者が罪を犯した場合、支配者も監督責任を問われることがあります。もっとも、支配下の冒険者は命令に絶対服従しますので、そのような問題が起きることはまずありません」
なるほどな。
これなら、俺の判断はあながち悪くなかったかもしれない。
「さっきの話に戻りますけど、【預金】がマイナスでなければ、買収した冒険者を再び投資ギルドに上場させることはできるのですよね?」
「可能です。ところでトウヤ様は、買収したアリサさんをどのように活用されるおつもりなのですか?」
「それなんですか、今の話を聞いてちょっとした案が――」
それは、受付嬢に話している最中のことだった。
後方にある投資ギルドの入り口から大きな声が聞こえたのだ。
「トウヤ・アキフネってのはどこのどいつだー!」
最初、俺を呼んでいるのだと気づかなかった。
気がついたのは、投資ブックに映る俺の名前を見たからだ。
学校では『秋舟』だったし、家族からは『冬哉』と呼ばれていた。
フルネームでも苗字からが普通だったので、まるで馴染みがない。
「俺だけど……」
席を立ち、声のする方向へ振り返る。
そこには、金髪のツインテールをした女が立っていた。
見た目は同年代で、服装は上が革の鎧で、下は丈の短いスカートだ。
スカートは赤を主調としたチェック柄で、中々に露出度が高い。
この女のことを俺は知らない。
セリフから察するに、向こうも俺の名前しか知らないようだ。
そのことから導き出される結論が一つある。
それは――。
「君がアリサ・リーンベルト?」
「そうよ! そういう貴方はトウヤ・アキフネね!?」
案の定、俺が買収した女だった。
おいおい、とんでもなく可愛いじゃないか。
口調はおしとやかとは言えないが、それは問題ない。
これほど可愛い女を言いなりにできる……だと……!?
妙な妄想をしないはずがなかった。
妄想だけで興奮度が極限を超え、血管がぶち切れて鼻血がでそうだ。
そこをかろうじて抑え、ドシドシ歩いてくるアリサに言った。
「はじめまして。名前は知っているみたいだけど一応言うね。俺はトウヤ。つい先ほど、君を買収――」
「なーんで買収したのよ! おかげでドッカーンと入った【預金】が一瞬で消えたじゃない! バッカじゃないの! もー!」
これではどちらが支配者なのか分かったものではない。
そう思いながら、俺はひとまずアリサをなだめるのであった。
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