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第005話 投資ブックの説明③
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「大株主になると、名前だけではなく保有量も記載されます。これは毎日更新される為、少しでも変動があればすぐに分かります。その為、少しでも売ると『残りも売られるのではないか?』と考え、連鎖的な売りを誘発しやすいのです」
それはつまり、株価が暴落するということだ。
「ただ、大株主にもメリットはあります。保有比率が高いということは、それだけ<株主総会>で自分の意思を反映しやすくなります。また、<株主総会>で議案を提出できるのは、冒険者と株主権利確定日――十二月の月初――に大株主である者のみです。<株主総会>についてはご存じですか?」
「いえ、よく分かりません」
「簡単に説明いたしますと、【配当】などを決める為のものでして、年に一度、一月末に行われます」
メリットとデメリットは理解できた。
しかし、モヤモヤした気持ちはまだ残っている。
それを察したであろう受付嬢が言う。
「投資による稼ぎ方は人によって異なります。買った時より高く売って稼ぐ人もいれば、配当によって稼ぐ人もいます。一般的に、前者のような投資家をキャピタルゲイン派と、後者をインカムゲイン派と呼びます。キャピタルゲイン派は株式を売り抜けることが目的ですので、大株主になって売りにくくなることを嫌います」
この補足情報は非情に分かりやすかった。
「配当狙いのインカムゲイン派からすると、自分の発言権を強めて【配当】を操作するのは大事だな。自分の発言権が強くなることは、相対的に他人の発言権が弱くなるわけだし」
「その通りです。ですから、大株主になることが一概に良いか悪いかということは言えません。その人の投資スタイル次第なのです」
追加で、<株主総会>について一つ訊きたいことが出来た。
だが、口を開くよりも前に、まず【大株主】の一位と二位を再確認。
===============
【大株主】
一位:トウキチ・フジヨシ(三〇〇〇株:三〇・〇〇%)
二位:ネネラ・フジヨシ(二一〇〇株:二一・〇〇%)
===============
トウキチとネネラの保有比率は合わせると過半数になる。
そのことから導き出されるのは――。
「このサンプルだと、トウキチとネネラで過半数を保有していますよね。もしもこの二人が組んだら、<株主総会>は意のままに操れるのではないですか?」
しかも、トウキチとネネラは夫婦だ。
夫婦の意見が割れることなど、そうはないだろう。
「はい、サンプルの場合、トウキチとネネラが結託すれば<株主総会>は意のままとなります。実際にも、夫婦や兄弟、又は仲間と協力して過半数を確保している冒険者は多いです」
予想通りだ。
銘柄である冒険者本人からすると、<株主総会>は意のままが望ましい。
その一方で、インカムゲイン派からすると悩み所だ。
特にこのサンプルみたいな夫婦で過半数を占める相手は嫌だろう。
株主に還元する為の【配当】を著しく低くされかねないからだ。
「他にもご質問はありますか?」
「いえ、次に進んでください」
「かしこまりました」
次の項目は【月給】だ。
これまでの流れから、内容におおよその察しはつく。
そしてそれは的中していた。
「【月給】は、銘柄である冒険者本人が月々に受け取る報酬のことです。【月給】は【預金】から支払われます。【月給】につきましても、【配当】と同じく<株主総会>で決めることになります」
特に問題がなかったので、適当に相槌を打って先を促す。
長かった項目の説明もこれが最後だ。
「最後の【預金】ですが、これはACに貯められたお金を表しています」
「AC?」
「正式名称を『冒険者カード』といいまして、冒険者にのみ与えられるカードです。ICとACにはそれぞれ預金口座が用意されております。冒険者の場合、ICの口座を『自由口座』や『IC口座』と呼び、本人の意思で自由に使用することが出来ます。一方、ACの口座を【預金】や『AC口座』と呼び、こちらは使用に制限がございます」
冒険者は二つの口座を使い分けるのか。
しかし、AC口座に制限があるのならば、自由口座しか使わないはず。
そう思ったところで、受付嬢が補足してくる。
「クエスト報酬をはじめとした冒険者のあらゆる収入は、全てAC口座へ蓄えられます。ですから、冒険者の意思だけでAC口座からIC口座へ移動させることはできません」
そこで【月給】が存在するわけか。
投資家は【配当】を年二回受け取り、冒険者は毎月【月給】を受け取る。
「出来れば【預金】の使用制限について教えてもらえますか?」
「わかりました。【預金】は、【配当】と【月給】の支払い以外だと、武具や道具の購入とスキルの習得にしか使用できません。その他の用途で使用する際には、<株主総会>で議案を提出し、可決される必要がございます」
少し同情するほどに、【預金】の用途は少なかった。
「冒険者になると、必ず株式を売らないといけないのですか? 自分で全部保有しているとか出来ないのでしょうか?」
説明を受けて気になったことだ。
俺が現時点で有している情報だと、冒険者稼業は割に合わない。
自分で自分の株を全て保有出来るのであれば、話は別だが。
「もちろん自分の株式を自分で全て保有するということは可能です。投資ギルドに上場するかどうかは本人の意思で決定することですから」
「少し話は逸れるのですが、冒険者が上場することのメリットは何ですか?」
「資金を調達出来ることですね。冒険者になるのにお金は不要ですので。余談ですが、初上場時の売り出しによって得られるお金は、三割が自由口座に、残り七割がAC口座に振り込まれます」
冒険者になって自分の株を一万株保有するまでに費用はかからない。
一方、上場して自分の株を売れば、それなりのお金が入ってくる。
自分が<株主総会>を操作できれば、【預金】のお金を自由口座に移すのは容易い。
冒険者が上場するメリットを理解できた。
「長くなりましたが、投資ブックの説明は以上になります」
受付嬢が話を締めくくる。
今一度、俺はサンプルページを上から下まで眺めて確認する。
===============
【銘柄名】
トウキチ・フジヨシ
【年齢】
二十七
【性別】
男
【職業】
剣士
【ランク】
C
【活動内容】
妻のネネラ・フジヨシとPTを組み、適正ランクのクエストを行って参ります。
【価格】
売:二万〇〇五〇(五十)/二万〇〇六〇(十五)/二万〇〇七〇(二十四)
買:二万〇〇四〇(二十)/二万〇〇三〇(十三)/二万〇〇二〇(三十二)
【配当】
六〇〇
【優待】
保有比率五%以上:サイクロプスの目(一個)
【支配】
なし
【保有株】
ネネラ・フジヨシ(二一〇〇株:二一・〇〇%)
【目標額】
八〇〇〇万ゴールド
【実績】
[一年前]目標額:四〇〇〇万、結果:四七〇〇万
[二年前]目標額:三〇〇〇万、結果:四五〇〇万
[三年前]目標額:一五〇〇万、結果:二〇〇〇万
【大株主】
一位:トウキチ・フジヨシ(三〇〇〇株:三〇・〇〇%)
二位:ネネラ・フジヨシ(二一〇〇株:二一・〇〇%)
三位:ツキギメ・ゲッキョク(一四五〇株:一四・五〇%)
四位:テイソ・ナンネン(一〇〇〇株:一〇・〇〇%)
五位:ギリ・リュウツウ(九九九株:九・九九%)
【月給】
一二〇万ゴールド
【預金】
二三億二〇一二万ゴールド
===============
今になると、どの項目も理解できた。
受付嬢の説明が分かりやすかった上に、内容も難しくない。
「こちらからは以上になりますが、質問はございますか?」
受付嬢はおそらく「質問はないだろ」と思っているはず。
実際、項目に関する質問はなかった。
だが、俺にはまだ、致命的な問題が残っている。
その問題を解決しない限り、俺は投資することが出来ない。
「項目については分かりましたが、一つだけどうしても気になる点があります」
「なんでしょうか?」
俺の抱えている致命的な問題とは――。
「売られている株が割安なのかどうかの基準が分からないのです」
相場がサッパリであることだ。
たとえばサンプルを眺めても、価格が安いのか高いのか分からない。
どこをどう見れば、「安い」とか「高い」とか判断出来るのか。
株式を石コロに例えるとしよう。
今の俺に分かるのが、石の見た目や重さだけである。
しかし、糞なのかダイヤモンドの原石なのかは分からない。
投資ブックの見方は分かった。
しかし、投資対象の価値は分からない。
そんな俺に対する受付嬢の返答は――。
それはつまり、株価が暴落するということだ。
「ただ、大株主にもメリットはあります。保有比率が高いということは、それだけ<株主総会>で自分の意思を反映しやすくなります。また、<株主総会>で議案を提出できるのは、冒険者と株主権利確定日――十二月の月初――に大株主である者のみです。<株主総会>についてはご存じですか?」
「いえ、よく分かりません」
「簡単に説明いたしますと、【配当】などを決める為のものでして、年に一度、一月末に行われます」
メリットとデメリットは理解できた。
しかし、モヤモヤした気持ちはまだ残っている。
それを察したであろう受付嬢が言う。
「投資による稼ぎ方は人によって異なります。買った時より高く売って稼ぐ人もいれば、配当によって稼ぐ人もいます。一般的に、前者のような投資家をキャピタルゲイン派と、後者をインカムゲイン派と呼びます。キャピタルゲイン派は株式を売り抜けることが目的ですので、大株主になって売りにくくなることを嫌います」
この補足情報は非情に分かりやすかった。
「配当狙いのインカムゲイン派からすると、自分の発言権を強めて【配当】を操作するのは大事だな。自分の発言権が強くなることは、相対的に他人の発言権が弱くなるわけだし」
「その通りです。ですから、大株主になることが一概に良いか悪いかということは言えません。その人の投資スタイル次第なのです」
追加で、<株主総会>について一つ訊きたいことが出来た。
だが、口を開くよりも前に、まず【大株主】の一位と二位を再確認。
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【大株主】
一位:トウキチ・フジヨシ(三〇〇〇株:三〇・〇〇%)
二位:ネネラ・フジヨシ(二一〇〇株:二一・〇〇%)
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トウキチとネネラの保有比率は合わせると過半数になる。
そのことから導き出されるのは――。
「このサンプルだと、トウキチとネネラで過半数を保有していますよね。もしもこの二人が組んだら、<株主総会>は意のままに操れるのではないですか?」
しかも、トウキチとネネラは夫婦だ。
夫婦の意見が割れることなど、そうはないだろう。
「はい、サンプルの場合、トウキチとネネラが結託すれば<株主総会>は意のままとなります。実際にも、夫婦や兄弟、又は仲間と協力して過半数を確保している冒険者は多いです」
予想通りだ。
銘柄である冒険者本人からすると、<株主総会>は意のままが望ましい。
その一方で、インカムゲイン派からすると悩み所だ。
特にこのサンプルみたいな夫婦で過半数を占める相手は嫌だろう。
株主に還元する為の【配当】を著しく低くされかねないからだ。
「他にもご質問はありますか?」
「いえ、次に進んでください」
「かしこまりました」
次の項目は【月給】だ。
これまでの流れから、内容におおよその察しはつく。
そしてそれは的中していた。
「【月給】は、銘柄である冒険者本人が月々に受け取る報酬のことです。【月給】は【預金】から支払われます。【月給】につきましても、【配当】と同じく<株主総会>で決めることになります」
特に問題がなかったので、適当に相槌を打って先を促す。
長かった項目の説明もこれが最後だ。
「最後の【預金】ですが、これはACに貯められたお金を表しています」
「AC?」
「正式名称を『冒険者カード』といいまして、冒険者にのみ与えられるカードです。ICとACにはそれぞれ預金口座が用意されております。冒険者の場合、ICの口座を『自由口座』や『IC口座』と呼び、本人の意思で自由に使用することが出来ます。一方、ACの口座を【預金】や『AC口座』と呼び、こちらは使用に制限がございます」
冒険者は二つの口座を使い分けるのか。
しかし、AC口座に制限があるのならば、自由口座しか使わないはず。
そう思ったところで、受付嬢が補足してくる。
「クエスト報酬をはじめとした冒険者のあらゆる収入は、全てAC口座へ蓄えられます。ですから、冒険者の意思だけでAC口座からIC口座へ移動させることはできません」
そこで【月給】が存在するわけか。
投資家は【配当】を年二回受け取り、冒険者は毎月【月給】を受け取る。
「出来れば【預金】の使用制限について教えてもらえますか?」
「わかりました。【預金】は、【配当】と【月給】の支払い以外だと、武具や道具の購入とスキルの習得にしか使用できません。その他の用途で使用する際には、<株主総会>で議案を提出し、可決される必要がございます」
少し同情するほどに、【預金】の用途は少なかった。
「冒険者になると、必ず株式を売らないといけないのですか? 自分で全部保有しているとか出来ないのでしょうか?」
説明を受けて気になったことだ。
俺が現時点で有している情報だと、冒険者稼業は割に合わない。
自分で自分の株を全て保有出来るのであれば、話は別だが。
「もちろん自分の株式を自分で全て保有するということは可能です。投資ギルドに上場するかどうかは本人の意思で決定することですから」
「少し話は逸れるのですが、冒険者が上場することのメリットは何ですか?」
「資金を調達出来ることですね。冒険者になるのにお金は不要ですので。余談ですが、初上場時の売り出しによって得られるお金は、三割が自由口座に、残り七割がAC口座に振り込まれます」
冒険者になって自分の株を一万株保有するまでに費用はかからない。
一方、上場して自分の株を売れば、それなりのお金が入ってくる。
自分が<株主総会>を操作できれば、【預金】のお金を自由口座に移すのは容易い。
冒険者が上場するメリットを理解できた。
「長くなりましたが、投資ブックの説明は以上になります」
受付嬢が話を締めくくる。
今一度、俺はサンプルページを上から下まで眺めて確認する。
===============
【銘柄名】
トウキチ・フジヨシ
【年齢】
二十七
【性別】
男
【職業】
剣士
【ランク】
C
【活動内容】
妻のネネラ・フジヨシとPTを組み、適正ランクのクエストを行って参ります。
【価格】
売:二万〇〇五〇(五十)/二万〇〇六〇(十五)/二万〇〇七〇(二十四)
買:二万〇〇四〇(二十)/二万〇〇三〇(十三)/二万〇〇二〇(三十二)
【配当】
六〇〇
【優待】
保有比率五%以上:サイクロプスの目(一個)
【支配】
なし
【保有株】
ネネラ・フジヨシ(二一〇〇株:二一・〇〇%)
【目標額】
八〇〇〇万ゴールド
【実績】
[一年前]目標額:四〇〇〇万、結果:四七〇〇万
[二年前]目標額:三〇〇〇万、結果:四五〇〇万
[三年前]目標額:一五〇〇万、結果:二〇〇〇万
【大株主】
一位:トウキチ・フジヨシ(三〇〇〇株:三〇・〇〇%)
二位:ネネラ・フジヨシ(二一〇〇株:二一・〇〇%)
三位:ツキギメ・ゲッキョク(一四五〇株:一四・五〇%)
四位:テイソ・ナンネン(一〇〇〇株:一〇・〇〇%)
五位:ギリ・リュウツウ(九九九株:九・九九%)
【月給】
一二〇万ゴールド
【預金】
二三億二〇一二万ゴールド
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今になると、どの項目も理解できた。
受付嬢の説明が分かりやすかった上に、内容も難しくない。
「こちらからは以上になりますが、質問はございますか?」
受付嬢はおそらく「質問はないだろ」と思っているはず。
実際、項目に関する質問はなかった。
だが、俺にはまだ、致命的な問題が残っている。
その問題を解決しない限り、俺は投資することが出来ない。
「項目については分かりましたが、一つだけどうしても気になる点があります」
「なんでしょうか?」
俺の抱えている致命的な問題とは――。
「売られている株が割安なのかどうかの基準が分からないのです」
相場がサッパリであることだ。
たとえばサンプルを眺めても、価格が安いのか高いのか分からない。
どこをどう見れば、「安い」とか「高い」とか判断出来るのか。
株式を石コロに例えるとしよう。
今の俺に分かるのが、石の見た目や重さだけである。
しかし、糞なのかダイヤモンドの原石なのかは分からない。
投資ブックの見方は分かった。
しかし、投資対象の価値は分からない。
そんな俺に対する受付嬢の返答は――。
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