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020 避難者と野宿(後編)

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 右手に森を見ながら迂回することしばらく。
 左前方に林が見えてきた。
 それほど大きくない林で、モンスターも出現しない。

「あそこで食材を調達するぞ」
「はいなのー♪」

 林に侵入する。
 ここの木はどれも細く感じた。
 栄養不足じゃないのかと思えるほどだ。

「お猿さんがいるなの!」
「あっちにはフクロウが居るゴブ!」

 林には様々な小動物が生息している。
 どれも見ていて可愛く、癒される存在だ。
 ザ・自然といった感じ。

「猿を丸焼きにして食べるゴブ?」
「ゴブちゃん! 駄目なの!」

 ネネイにピシャリと注意されるゴブちゃん。
 頭をポリポリ掻きながら「ごめんゴブ」とペコリ。
 それを笑顔で許した後、ネネイは俺に言った。

「お猿さんを、食べるなの?」

 まるで質問になっていない。
 目が「そんなことをしたら許さん」と言っているのだ。
 俺は「お猿さんは食べないよ」と笑顔で答えた。

「そろそろ見えてくるはず――おっ、噂をすればあったぞ」

 やってきたのは湖だ。
 林の中にポツンとある湖。
 色は綺麗なエメラルドグリーン。
 陽光を反射して燦然さんぜんと輝いている。
 その湖には、様々な魚が泳いでいた。

「うわぁ、すごく綺麗ですね」
「お魚さんがたくさん泳いでいるなの」
「水浴びしたいゴブーッ!」

 三人が声を弾ませた。
 水辺に駆け寄り、口を開けて覗き込んでいる。

「ここで釣りをするぞ」
「それが晩御飯になるゴブ?」
「そうだ」
「やったーゴブ!」
「お魚さんなのー♪」

 ネネイとゴブちゃんが大喜び。
 一方、エリザの表情は浮かない。

「私、釣りをしたことがなくて……」
「教えてあげるよ」
「いいのですか?」
「かまわん」
「ありがとうございます、フリード様」

 エリザの表情もパッと明るくなった。

 今日の晩御飯はここで釣った魚だ。
 釣れたものによって、作る料理は異なる。
 まぁ、なんだって問題はない。
 料理人のスキルで、自動的に調理されるからね。

「ボートと人数分の釣り竿を用意するよ」
「よろしくお願いします」

 エリザが頭をペコリ。
 残りの二人は湖に夢中だ。
 やれやれ。

 まずはボートから作る。
 職業を木工師に変え、スキルをポチッとな。

『木工師のレベルが14に上がりました』

 完成と共にレベルアップ。
 次に鍛冶屋へ職業を切り替える。
 同じ要領で釣り竿を作る為、ポチッとな。

『鍛冶屋のレベルが6に上がりました』

 これまたレベルアップ。
 これで、釣りの準備は完了だ。

「ボートを出すから二人とも離れて」
「はいなのー」
「ゴブーッ!」

 インベントリからボートを展開する。
 湖の上にポンッと木のボートが現れた。
 四人で利用するので、少し大きめに作ってある。

「さぁ、乗ってくれ」

 ボートの端を手で押さえ、三人に搭乗を促す。
 最初にゴブちゃんが「ゴブーッ!」と乗った。
 次いでエリザが「失礼します」と続く。
 最後にネネイ……なのだが。

「ネネイ、どうした?」
「こ、怖いなの」
「湖の上を移動するのが怖いのか?」
「違うなの、乗るのが怖いなの」

 昔、祖母がエスカレーターに苦戦していた。
 最初の一歩を踏み出すタイミングが分からない、と。
 今のネネイもそんな感じなのだろうか。

「じゃあ、俺が乗せてやるよ」
「ふぇぇぇ?」

 ボートから手を離し、ネネイを抱える。

「ネネイ、ずるいゴブー!」
「まぁまぁ、ゴブちゃんも後で抱っこしてあげるよ」
「絶対ゴブ!」
「おうおう」

 適当にゴブちゃんをなだめ、すかさずボートに乗った。
 その後、ネネイをちょこんと座らせる。

「ありがとーなの、おとーさん!」
「おうおう、もう怖くないか?」
「怖くないなのー♪」

 ネネイがニッコリと微笑む。
 よしよし、これで問題は解決だ。

「動かすぜ」

 声をかけてから、湖の真ん中に向けて動かした。

「おとーさん、その棒は何なの?」
「オールだよ。こいつで舟を動かしているのさ」
「すごいなの! おとーさんは流石なの!」

 オールを漕ぐ俺に、ネネイがもたれてくる。
 そして、ニィっと白い歯を見せて笑った。

「ここらでいいか」

 快適に進み、適当な場所でストップ。
 続いて、インベントリから釣り竿を取り出した。
 それを皆に渡した後、エリザに言う。

「今から釣り方を教えるよ」
「ありがとうございます、フリード様」

 エリザが微笑む。
 妙に神秘的な雰囲気が感じられた。
 湖が陽光を反射し、照らしているからだろう。

「おとーさん、ネネイにも釣り方を教えてなの」
「ゴブも教えて欲しいゴブー!」
「何言ってんだよ。二人には前に教えただろ」
「忘れちゃったなのー♪」
「忘れたゴブー♪」
「はぁ……」

 出たな、甘えん坊コンビ!
 やれやれ、俺は苦笑いを浮かべた。

「じゃあ皆に教えるからよく見ててね」
「はーいなの」
「ゴブーッ」
「よろしくお願いします」

 釣り方を簡単に説明する。
 エリザが理解したことを確認すると、釣りを始めた。

 ◇

 約二時間、まったりと釣りを楽しんだ。
 その結果、なかなか良い塩梅に食材が集まった。
 俺は「よしよし」と満足気味。

「二種類しか釣れなかったゴブ」
「もっとたくさんのお魚さんを釣りたかったなの」

 一方、二人は不満そうだ。
 釣れた数は多いが、種類は少なかった。
 テナガエビとアユの二種類のみ。

 しかし、どちらも調理可能な食材だ。
 何の問題もない。
 たらふく食べられるだけ御の字さ。

 ボートから降りると、足早に林を出た。
 そのまま草原の真ん中まで移動する。

「ここらでテントを作ろうか」
「わかりました」

 エリザがリュックからテントを取り出す。
 本人の言った通り、テントは二個あった。
 一つのテントに三人は入れそうな大きさ。

「今すぐ組み立てますね」

 エリザがテントを立てようとする。
 すぐさま「待て」とストップをかけた。

「そんな面倒くさい作業をする必要はない。任せろ」

 俺はテントを手に持ち、インベントリに収納した。
 その後、すぐさまインベントリから外に展開する。
 すると――。

「わお、なの!」

 ポンッと完成したテントが設置された。
 適度な間隔を開け、横に並んでいる。
 冒険者にかかれば、設置など容易いものだ。
 ちまちま手作業で組み立てる必要などない。

「すごい……流石です、フリード様」

 エリザがうっとりした目を向けてくる。
 俺は「造作もないことだよ」と軽く流した。

 テントが出来たので、次は食事の準備に移る。
 木工師に切り替え、すぐさまテーブル席を作成。
 ネネイとゴブちゃんに配慮して、脚は低めに設定。
 完成したテーブル席をテントの前に展開する。

「おとーさん、凄いなの!」
「これが、フリード様のお力……」

 ネネイとエリザが目を輝かせている。
 ゴブちゃんは、ゴブゴブと空腹を訴えていた。

「もうお腹ペコペコゴブーッ!」
「待て待て、今用意するからな」

 最後に料理だ。
 でもその前に、食器を用意しないとね。
 テーブルの四隅に、人数分の取り皿を設置する。
 その後、中央に大皿を二つ置いた。

 調理する為、職業を料理人に切り替える。
 まずはテナガエビからだ。
 作れる料理はいくつかある。
 その中から、パッと目についたものを選んだ。
 料理には興味がないので適当さ。

「出すぞー、それ!」

 そう言って展開したのは、テナガエビの素揚げだ。
 綺麗な赤色にこんがりと仕上がっている。
 大皿の一つが、山盛りのテナガエビで埋め尽くされた。

「美味しそうなの♪」
「食べるゴブーッ!」
「待て、アユがまだだ」
「ワクワクなのー」

 次にアユの調理を開始する。
 これまた何も考えず、適当に選択。
 完成すると、大皿の上に展開した。

「串焼きなのー♪」
「正確には塩焼きだけどね」

 作ったのはアユの塩焼きだ。
 口から尾にかけて、木の串が刺さっている。

「これで準備完了」
「食べるゴブ! 食べるゴブ!」

 ゴブちゃんが急かしてくる。
 よほど空腹のようだ。
 やれやれ。

「「「「いただきます」」」」

 料理が揃ったので食べ始める。
 素揚げと塩焼き、どちらも手掴みだ。
 出来立てだからか、思ったよりも熱かった。

「あちち、なの」

 ネネイがテナガエビを取ろうとして諦める。
 俺は「フォークか箸を作ろうか?」と提案した。
 ネネイは悩みながら、視線をゴブちゃんに移す。

「ゴブブのブー! ゴブブのブー!」

 ゴブちゃんは満面な笑みでバリバリ食べていた。
 テナガエビを一口でペロリと平らげる。
 さらに、今度はすかさずアユをペロリ。
 どちらも気に入ったみたいで、幸せそうだ。

「大丈夫なの、おとーさん!」

 ゴブちゃんに負けじと、ネネイがテナガエビを掴む。
 しかし、すぐに「あちちなの」と表情を歪めた。
 何を勝手に張り合っているんだ、と俺は苦笑い。
 ネネイは妙に負けず嫌いなところがある。

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 楽しい食事が終了する。
 俺を含め、全員が料理に満足していた。
 やっぱり、自分で調達した食材で作る料理は格別だ。

「お月様が綺麗なの♪」
「野宿ならではの楽しみだな」

 夕日が沈み、夜空が訪れていた。
 月と無数の星が出ている。
 どうやら今日は満月らしい。
 くっきりと綺麗な月が見えた。
 月光が周囲を淡く照らしている。

「さて、後は寝るだけだが……」

 問題はここからだ。
 二つのテントにどう別れるか。
 理想は、一つ目に俺とネネイ又はゴブちゃん。
 そして二つ目にエリザと残った一人だ。
 背丈を考慮すると、それが快適である。
 しかし――。

「ネネイはおとーさんと一緒がいいなの!」
「ゴブもフリードと一緒がいいゴブ!」

 現実はこうなってしまう。
 二人とも俺と一緒がいいとわめくのだ。
 さて、どうやって決めようか。

「ネネイ、ここは譲るゴブ」
「嫌なの。おとーさんと一緒がいいなの」
「ゴブブ……!」

 二人はバチバチと火花を散らしている。
 やれやれ、仕方がない。

「決めた。二人は同じテントで寝るんだ。俺はもう一つのテントを使う」
「そ、そんな、酷いゴブ! フリード、酷いゴブ!」
「ネネイ、おとーさんと一緒がいいなの!」
「だって、一方とだけ一緒に寝たら、あとあと問題になりそうじゃん」

 二人が押し黙る。
 俺の発言に納得したのだろう。

「フリード様、私は一人でも別に問題ありませんよ」
「いやいや、PTメンバーにそんな寂しい思いはさせないさ」
「まぁ……! あ、ありがとうございます!」

 エリザが顔を赤らめて頭をペコリと下げる。
 意識していなかったが、クールなセリフになったようだ。
 なんだか俺まで恥ずかしくなってきたよ。

「そんなわけで、二人で仲良く寝るように」
「分かったなの」
「仕方ないゴブ」

 二人はしょげながらも同意した。
 しかし、その数秒後にはケロッと復活。

「テントに入ろうなの、ゴブちゃん!」
「ゴブーッ! ワクワクゴブーッ!」

 手を繋ぎ、仲良くテントに消えていった。
 五歳児のカップルだな、と二人の背中を見て微笑む。

「それじゃ、俺達もテントに」
「あの、その前に、お礼のむふふんをさせていただけませんか?」
「え、お礼のむふふんだって?」
「はい」

 エリザが恥ずかしそうに俺の腕を掴む。
 さらに、掴んだ腕を胸に押し当て、上目遣いで見てくる。
 それだけで、俺の心臓は激しく鼓動し、動揺し、高揚した。

「まだ村に着いてないし、移住の話も終わってないよ?」
「分かっております。ただ、タイミングは今が最適かと思いまして」
「まぁ、後は休むだけだしな」
「はい。それに、村に着いた後、どうなるかもわかりませんから」
「それもそうだな」

 エリザの立場を思うと、確かに今が最適だ。
 明日は移住の可否に関わらず忙しくなるからな。
 許可されれば、移住に向けて慌ただしくなるだろう。
 逆に拒否されれば、その足で別の村を探すことになる。
 のんびりむふふんをする時間はないわけだ。
 出来れば任務完了後に楽しみたかったが、まぁいいだろう。

「オーケー、むふふんを受け入れよう」
「ありがとうございます、フリード様」
「気にするな、事情が事情だからな」

 エリザの頬を軽く撫でる。
 それだけで、エリザの表情が恍惚とした。

「しばし待たれよ」

 エリザに微笑みかけた後、ネネイ達のテントを開ける。

「二人とも、テントの中で大人しく過ごしていなさい」
「はいなの」
「ゴブッ!」

 一応言ったが、言う必要はなかったかもしれない。
 二人は既に寝る体勢に入っていた。
 仲良く手を繋ぎ、仰向けに寝ていたのだ。

「準備が出来たぞ、エリザ」
「はい、ではテントの中へ」
「いや、場所を移そう。ここは二人に近すぎる」
「わかりました、どこがよろしいでしょうか?」
「そうだな――」

 ということで、林にやってきた。
 湖のすぐ傍だ。
 天より降り注ぐ月光を、湖が反射している。
 おかげで、湖の周辺だけほんのり明るかった。

「ここでいいだろう」
「わかりました、では」
「待て。まずは楽しませろ」

 エリザの両肩に手を添え、唇を重ねる。
 そのままゆっくりと押し、エリザを木にもたれさせた。

「フリード様、私、恥ずかしゅう……」
「よきかな、よきかな、たまらんがな」

 エリザの首に唇を当てる。
 舌を出し、チロチロと舐め上げていく。

「あっ、フ、フリード様、あぅ」

 エリザの息遣いが荒くなっていく。
 顔も紅潮していて、熱を帯びている。
 その可愛らしい反応が、俺の心を昂らせた。

「フリード様、んっ」

 エリザの唇を塞ぐ濃厚な接吻。
 胸で彼女の身体を木に押し付けながら行う。
 舌はしつこいくらいにねっとりと絡ませた。
 更に、掌を使いってスベスベの肌を堪能する。
 ドレスを捲し上げ、太腿を撫でた。

「もっと楽しみたいが、そろそろむふふんに入ろうか」
「は、はい……はぁ……はぁ……」

 あまり遅いと、二人が心配する。
 だから、そう長くはお楽しみできない。

「最後に、その綺麗なドレスを剥ぎ取らせてくれないか?」
「か、かまいませんが、他に着るものが……」
「同じ物を作ってやるよ」

 上品な黒のドレス。
 それを全力で剥ぎ取る。
 否、正確には引き裂いた。

「芸術とすら呼べる素晴らしい身体だな」
「そう言っていただけると、エリザは嬉しいです」

 エリザが恥ずかしそうに俯く。

「むふふんはあちらでしようか」

 俺は湖上に泊まっているボートを指した。
 釣りをする際に作った物だ。

「ボートの上でするのですか?」
「そうだ。問題か?」
「初めてのむふふんが慣れない船上ということで不安が……」
「始まれば場所など忘れるさ」
「わ、わかりました」

 裸のエリザと手を繋ぎ、ボートに近づく。
 服を脱いで裸になった後、ボートに乗った。
 静かにオールを漕いでいく。

「ここらでいいか」

 湖の真ん中でボートを停止させた。
 その後、ゆっくりと寝転んだ。

「それでは――」

 エリザが跨ってくる。
 月光にライトアップされ、かつてない妖艶さが漂っていた。
 金色の長い髪もこの雰囲気に合っている。
 思わず鷲掴みしたくなる大きさの胸もグッドォ!

「転覆したら、胸を掴んで陸まで泳いでやるからな」
「もぉ、フリード様ったら……」

 エリザが顔を近づけてくる。
 そして、そのまま接吻を始めた。
 舌を使って、俺の口を攻めてくる。
 まずはストレートのど真ん中からだ。

「目を瞑って下さい、フリード様」
「おう」

 接吻を終えると、エリザが言ってきた。
 俺は直ちに目を瞑り、指示に従う。
 あとはされるがままだ。

 次の球はなんだ。
 変化球か、それとも、もう一度直球か。

「んっ」

 直球だ。
 再び濃厚な接吻が始まる。
 しかし、今度はすぐに終わった。
 これは、直球に見せかけた変化球。
 カットボールだ。

 エリザの舌が、下へ向かっていく。
 口から顎、そして首筋。
 鎖骨で一度、チュッと。
 その後、進行を再開。
 ゆっくりと丁寧に下っていく。
 胸を通過して、腹に到着。

「失礼します」

 エリザがズボンに手をかける。
 そして――。



 むふふん、完了!



「これが……船上のエリザ……グッドォ……」

 俺は尽き果てた。
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