最強無敵の狩猟者 ~孤島で鍛え抜いた俺、一般世界では強すぎました~

たまゆら

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028.盗賊との戦い

 家を囲んでいる盗賊の正確な数は十八。全員が馬に乗り、左手に松明を持っている。上は半袖の布服で、下はニッカーボッカーズのような恰好だ。例外なく無精ヒゲを生え散らかした男で、年齢はアレン達よりもひと回り以上高い。

 四方に設置された窓から見える盗賊を眺めながら、メルがミオに問う。

「ミオ、この家は外部からの攻撃を受け付けないんだよね?」
「うん! どんな攻撃も効かないよぅ」
「鍵をこじ開けて中に入られるってことは?」
「それも大丈夫だよぅ。外からは絶対に開けられないもん」
「なるほどね。あとこの窓だけど、外からは中の様子が見えないんだっけ?」
「うんうん! 内から外は見えても、外から内は見えないの!」
「外からはどういう風に見えてるんだっけ?」
「鏡になってるよぅ」

 ユミィが「へぇ、面白い仕組み」と驚く。
 ミオは「えっへん」と誇らしげな表情を浮かべた。

「すると、盗賊達は中に居る人間……つまり私達についての情報は何もないわけね。とりあえず見つけたから、近づいて囲んでいるってところかしら」
「そうなるな」とアレン。

 メルは少し考え込んだ後、口を開いた。

「今日のところは気にしないで寝ましょうか!」

 アレンが「了解」と答え、ミオとユミィも「賛成!」と同意する。
 盗賊に家を破壊したり中へ侵入する手段がない以上、出来るのは囲むだけだ。
 イフリートの討伐からここへ至るまでの駆け足によって、アレン達の疲労はピークに達している。そんな中、わざわざ家を出て盗賊に絡む気はない。出来れば戦闘を避けたいというのが四人の共通した考えだ。

「それじゃあ、おやすみね」
「おやすみ」
「また明日ね!」
「やっと眠れるよぅ!」

 家を包囲されても知らぬ顔で、四人は個室へと入った。

 ◇

 四人が寝た後も、盗賊の包囲はしばらく続いた。
 盗賊達の行動は、扉を開けようとすることから始まった。鍵がかかっていて開かない事が分かると、今度は強引な手段に打って出る。蹴破ろうとしたのだ。だが、それも上手くいかない。攻撃的な行動は次第にエスカレートしていった。最終的には家をぶち壊そうとしたのだ。それでも傷一つ付けることが出来なかったことで、ついに諦めた。
 盗賊達はその場で話し合った後、包囲を解いて去っていった。

 ――数時間後。
 夜が明けて太陽が昇った頃、アレン達は居間に集まった。
 アレンとメルだけではなく、ミオとユミィの目も冴えている。先日の疲労を落とす為、いつもよりも長めの就寝時間を取っていたからだ。

「ぐっすり眠れた?」

 ミオが作った朝食を食べながら、メルが三人に尋ねる。
 アレン達は口々にイエスを意味する返事をしながら朝食を頬張っていく。

 ミオの作る朝食、それは当然ピザだ。
 朝だから軽いめのやつということで、ミオは定番のマルゲリータを作った。それに対し、メルとユミィは「これのどこが軽いのか」と顔を引きつらせる。一方、アレンだけは大興奮でバクバクと食べていた。

「アレンが居ると作り甲斐があるよぅ」

 嬉しそうに頬張るアレンに、ミオが微笑んだ。
 アレンは「まじで美味いからな。そりゃあ、こんな顔にもなるよ」と笑顔で答えた。そして、口の端についているチーズを指で取り、ペロリと舐める。

 ひとしきりピザを平らげたところで、メルが本日の予定を話し始めた。

「今日もクロスムを目指すわよ。昨夜は【ヘイスト】を使ったことで思いのほか進めたから、夜には到着できそうね」
「オッケー」とアレン。

 メルは一度頷いた後、三人を見て続けた。

「おそらく、道中で昨夜の盗賊が絡んでくるから、戦闘の覚悟をしておいてね」
「え、あいつらまた出てくるのかよ。近くには居ないみたいだけど」

 アレンは席に座ったまま、四方の窓をちらちらと見た。
 外には草原や道が広がっているだけで、盗賊の姿は見えない。

「家の中に居る人間を確かめる為に、遠くから二十四時間監視しているに違いないわ。で、私達が屈強な見た目の大男だったら絡んでこないかもしれないけど……そういうわけでもないしね。女三人に男一人な上、四人とも子供だから、まず絡まれると考えたほうがいいわ」
「俺やユミィは分かるけど、メルとミオは大人に見えそうだけどな」
「盗賊達から見れば、私やミオもユミィと変わらない小娘の一人よ。それに、もしも私達が大人に見えたとしても、女なので結局舐められるわ」

 アレンは「ふっ」と鼻で笑った後に言った。

「性別なんて強さに関係ないのにな」
「おお!」とミオが拍手する。
「良いこと言うわね」とメル。
「アレンかっけぇじゃん! ちょっと惚れたよ!」とユミィ。
「別に、当たり前のことだろ」

 アレンは頭を掻きながら照れ笑いを浮かべた。

「そんなわけで、今日は盗賊との戦闘を覚悟しておいてね」

 三人は「了解!」と答えた。

「よっしゃ、今日も一日楽しんでいこうぜ」
「おー!」

 四人は席を立ち、出発の準備に取り掛かった。

 ◇

 ――一時間後。
 昼になる少し前というところで、四人は家を出た。

「今日はほんとゆったりしてるよな」とアレン。
「私はもっとぐうたらしたーい!」とユミィ。
「私もー!」とミオが乗っかる。

 走り続けた昨日とは打って変わり、四人は歩いて進んだ。
 といっても、歩調はやや速い。次の街『クロスム』へ早く到着したいという気持ちが、その足取りに表れていた。

 歩き始めてすぐに、アレンの右の眉がピクリと動く。

「メルの言う通りだったな」

 ユミィが「え?」と驚く。
 一方、メルは「だね」と答えた。

「なになに? どういうこと!?」と困惑するユミィ。
「盗賊よ。私達、家を出た時から監視されているの」

 今日は高確率で盗賊に絡まれるだろう、とメルは予想していた。
 出来れば当たらないでと願っていたその予想が、見事に的中したのだ。

「まじ? どこから!?」

 視線に気づかないユミィは、首をぶんぶんと左右に振って盗賊を探す。だが、見つけることは出来なかった。それに対し、アレンが笑みを浮かべて言う。

「もう少し奥、森の方を見てみな」

 アレンの言葉に従い、ユミィは視線を草原の奥にある森へと向ける。
 そして――。

「ああっ!」と声をあげた。
「な、居るだろ?」とアレンが笑う。
「ほんとだ! こっち見てる!」

 アレン達が歩いている道の周りにある草原……の、さらに奥にある森から、盗賊は監視していた。木に身体を隠し、顔をそっと覗かせている。

「良く気付いたね! 言われるまで全然分からなかったよ!」
「木に違和感があったからな。すぐに分かったよ」

 驚くユミィに、アレンはすまし顔で答えた。
 その後、アレンは視線をメルに移す。

「俺はともかく、メルはよく分かったよな」
「家を出た時から、どこかに居ると思ってずっと探していたからね」

 ユミィが「二人ともすご!」と驚く。
 それにミオが「だよねだよね!」と頷いた。

「何言ってるのよミオ。私よりあなたの方が先に気付いていたでしょ」
「ええ! ミオも気づいていたの!?」と驚くユミィ。

 ミオは「えへへ」と笑った。

「じゃあ気づいてなかったの私だけじゃん!」

 ユミィは不貞腐れ気味に地面を蹴りつけた。
 アレンは「そんな時もあるさ」とフォローした。

「このまま見られているだけならよかったんだけど……どうやら、そうもいかないみたいね」
「だな」

 メルは足を止めてため息をついた。
 同様にアレン達も動きを止め、武器を取り出す。

 盗賊達が、馬に乗って近づいてきたのだ。
 昨日とは違い、左手で手綱を握り、右手に曲刀を持っている。数は三十名。昨日の倍近い多さだ。メンバーは全員男で、生え散らかした無精ヒゲも健在である。相変わらずむさ苦しいな、とアレンは思った。

 三十名の盗賊は、アレン達の周りをグルッと囲んだ。
 その表情はニヤニヤとしている。

「よーよー、嬢ちゃん坊ちゃんどこいくの?」
「……」

 盗賊の問いに、アレン達は何も答えない。
 それを見て、アレン達が恐怖しているものだと盗賊達は誤解した。

「おじさん達が怖くなっちゃったのかな?」
「嬢ちゃん達、おじさんと仲良く遊ぼうぜぇ」
「そっちの鎧の嬢ちゃん、鎧なんか暑いし脱ぎなよ」
「なんなら俺達が脱がしてやろうか? ヒッヒッヒ」

 盗賊達が口々に言う。
 もはや完全に油断していて、中には曲刀をしまっている者も居る。

「旅の道中なんです。道を開けて通してもらえませんか?」

 道を塞ぐ盗賊に向かってメルが言う。
 盗賊は「そうかそうか、それは悪いことしたな」と道を開けた。

「ありがとうございます」

 メルは丁寧に礼を言うと、スタスタと歩き始めた。三人もそれに続く。
 ニヤニヤしている盗賊達の間を四人が抜けようとしたその時――。

「おじさん達が送ってやるよぉ」

 盗賊がメルに手を伸ばす。
 ――それが、戦闘開始の合図となった。

 メルは盗賊の手を掴むと、後ろに引いて馬から落とした。同時に、アレンが別の盗賊の顔に矢を射る。ミオは馬に向かって鞭を振るった。馬は驚き暴走し、乗っていた盗賊を振り落とす。ミオと同じように、ユミィも念弾で馬を攻撃した。

「舐めやがって、やっちまえ!」

 突然の攻撃に慌てるも、盗賊達はすぐに落ち着き、攻撃態勢に入った。
 馬を飛び降り、全方位からアレン達に突っ込む。

「舐めたのはお前達の方だろ、見た目で判断しやがって」

 アレンが放つ矢は、的確に盗賊の顔面を貫いていく。
 かつて戦った海賊に比べて、今回の盗賊は遥かに弱い。気を引き締めてもなお、真正面から飛んでくる矢を防ぐことはできなかったのだ。そのことにアレンは落胆していた。

「だぁー!」

 ミオはブンブンと鞭を振るって盗賊をなぎ倒す。
 鞭の殺傷能力は極めて低く、命を刈り取ることはまず不可能だ。その為、ミオにやられた盗賊は例外なく気絶しており、死んではいない。だが、中には重傷を負う者も居た。ハートの形をした鞭の先端部が、不運にも目に当たった者だ。光を失った盗賊に対し、ミオはかすかに申し訳なく思っていた。

「数が多いとつらいわね」
「私はまだまだいけるよ、メルおばちゃん!」

 メルとユミィは念弾を飛ばして戦っている。
 念弾の発射には精神力を消費する為、アレンやミオに比べ、二人の表情には苦しみの色が表れていた。額には大玉の汗が浮かんでいて、息遣いも僅かに荒い。大量の敵を相手どるのは、杖で戦う二人にとって厳しいものがある。たとえそれが雑魚でも変わらない。

「言うわねユミィ。じゃあ、おばちゃんの狡猾さを見せてあげるわ」

 念弾の連射が苦しくなったメルは戦闘方法を切り替えた。テールスカートを僅かに捲し上げ、レッグポーチから投擲用ナイフを取り出して投げたのだ。

「あ、メルずるい!」
「お子様とは違うのよ、お子様とは」
「むきぃ!」

 はぁはぁと息を切らせながら、ユミィが念弾を連射する。
 一方、メルはにこやかにナイフを投げた。

「ひ、ひぃいいい!」
「助けてくれぇえ!」

 数分後、盗賊は壊滅した。
 三十名の内、死者はアレンに襲い掛かった十名だ。
 残り二十名の内、十八名は気絶し、他二名は逃走した。

「こんなものか」

 アレンは地面に広がる盗賊を見下ろし鼻を鳴らした。

「実力差は歴然だったしね」

 メルは横たわる盗賊を避けながら、盗賊の乗っていた馬へと近づく。
 馬の半数以上は四散したものの、十頭近くは周囲に待機していた。

「せっかくだし、馬を借りよっか」

 ミオは「さんせーい!」と嬉しそうに右手を挙げてジャンプした。
 一方、ユミィとアレンの表情は暗い。

「俺、馬に乗ったことないんだよね」
「私は何度かあるけど、まともに操れないよ」

 アレンとユミィは馬の操縦ができないのだ。
 馬を乗りこなすにはそれなりの訓練が必要である。いきなり乗ったからといって、上手く操れるものではない。馬屋で馬術訓練を受けたとしても、乗りこなせるようになるまで数日はかかるのだ。

「二人は私とミオの後ろに乗ればいいわ」

 そう言うと、メルはひょいっと馬に乗った。そして、「よしよし」と馬の首を撫でる。メルが乗った馬は穏やかな気性をしていて、暴れる兆しをまるで見せない。

「盗賊の馬とは思えない程大人しいわね」
「この子も良い子だよぅ!」

 ミオも馬に乗り、馬の首を撫でている。

「二人は馬術に長けているんだな」

 アレンの言葉に、「まぁね」とメルは答えた。

「ミオは騎士学校で訓練を受けていたから」
「そうなんだ。騎士学校が何かは分からないけど。で、メルは?」
「私は馬屋で学んだの」

 メルは左手で手綱を握ると、右手をアレンに差し伸べた。

「アレンは私の後ろで、ユミィはミオの後ろね」
「了解」「アイアイサー!」

 メルは、アレンが自身の手を掴んだことを確認すると、手を引いてアレンを後ろに乗せた。同様に、ユミィもミオの後ろに乗る。

「結構揺れるから、しっかりつかまっててね」
「わかった」

 アレンは両腕を左右からメルの腹部へと回し、言われた通りにガッシリとつかむ。身体が密着したことで、アレンは妙にドキッとし、心拍数が一瞬だけ急加速した。
 そんなアレンに気付いてないメルは、すまし顔で言った。

「準備いい? 行くわよ」
「お、おう、いつでも」

 メルは一度頷くと、ふくらはぎで馬の横腹を軽く締めた。そうすることで馬がゆっくりと歩き始める。思ったより揺れが少ないことに、アレンは拍子抜けした。

「そんなに揺れないじゃん」
「何言ってるの、激しくなるのはこれからよ」

 馬の速度が次第に高まっていく。
 それに比例して、馬上の揺れも激しくなる。

「おわっ!」

 アレンは緩めた腕に再び力を込める。
 メルは口元に笑みを浮かべ、横目でアレンを見て言った。

「振り落とされないようにね」
「それは大丈夫だけど、揺れで酔って背中に吐いたらごめんな」
「服を汚したら殺すわよ」
「ひぃぃ」

 メルとミオが操る二頭の馬が、一直線にクロスムへと駆け始めた。
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