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017.クエスト『ダークペガサス』討伐①
翌朝、目が覚めたアレン達は、神父に礼を言って教会を後にした。
「神父さんって、いつ眠ってるんだろ?」
教会を出て少しした時、ユミィが疑問を口にする。ミオは「わからなーい」と適当な返事をし、アレンも分からなかったので沈黙した。少し間を置いてから、メルが「たぶんだけど」と前置きをして答える。
「誰もいない時に眠っていたりするんじゃないかな?」
「誰もいない時?」
「うん。冒険者ギルドの教会って、数が多いわりには、ユニークスキルの習得以外では利用されることが少なくて閑散としているよね。だから、暇な時に眠っているんじゃないかな。推測だけどね」
「なるほど! そうじゃないとおかしいよね! ずっと起きてるとか無理だし!」
ユミィは納得すると、「メルは物知りだね!」と笑顔で言う。メルは口元に笑みを浮かべ、「推測だから実際のところは分からないけどね」と返した。
「早くユニークスキルを披露したいよぅ!」
ミオはリズミカルに身体を揺らす。真紅の鎧が太陽の光を乱射した。艶やかなピンクの長い髪は、風に撫でられ緩やかに靡く。
「じゃあ、互いに覚えたスキルの発表でもする?」
悪戯っぽい笑みで言うメルに、ミオとユミィが口を揃えて叫んだ。「ダメぇ!」
メルは「冗談よ」と声に出して笑う。
「別にいいじゃん、言ってもさ」とアレン。
「ダメだよぅ!」
「そうそう! 楽しみがなくなっちゃうじゃん!」
ミオとユミィが口を尖らせ、アレンに反発する。
自身の覚えたユニークスキルは、他人に話さないのが慣習となっている。だからといって、話してはいけないというわけではない。中には、覚えたスキルをすぐに話す人間もいる。例えば、ロッゾ率いるファミリアファミリーなどがそうだ。上下関係があるマフィアの性質上、ノーマルスキルを含む全てのスキルについて、メンバーはロッゾに報告している。
「ちびちびお披露目するのが楽しいんだよぅ!」
「そーだそーだ! ミオの言う通りだぁ!」
キャンキャン吼える二人に、アレンは「分かった分かった。俺が悪かったからそう捲し立てないでくれよ」と苦笑い。二人は「分かればよろしい!」と満足げに頷いた。
ミオとユミィにとっては、慣習を抜きに、スキルを披露するのが楽しみなのだ。
「お話はそこまで。到着したよ」
目の前にある大きな建物をメルが指さす。
一見すると酒場にも見えるそこの前には、冒険者ギルドであることを示す紫の看板が立ててあった。そう、ここは冒険者ギルドなのだ。やってきたのは、クエストを受ける為である。
「えらく大きな場所だな。俺が試験の申し込みをしたところとはまるで違う」
冒険者ギルドを眺めてアレンが呟く。視界に映る冒険者ギルドこそ、アレンがイメージしていた建物そのものである。
「アレンが行ったところは、たぶんクエストの受注と報告専用の場所ね。冒険者ギルドって、クエストの受注以外にも、PTメンバーを募集したり、冒険者同士で情報交換をする場としても利用されることがあるの。ここは、そういう用途も兼ね備えた施設ね」
「なるほどなぁ」
「一般的に、冒険者ギルドといえばここみたいな場所を指すよ」
アレンが試験を受ける時に訪ねた冒険者ギルドは、一般的にはベテラン冒険者用の施設である。それも、コミュニケーションを求めず、ソロで活動する一匹狼向けの場所だ。それ故に、中は狭く、受付以外の人間が居ることも少ない。
「ま、大きさは違えど機能としては同じだから、深く考える必要はないよ」
説明を終えると、メルは冒険者ギルドの扉を開いた。
中には木製のテーブル席がいくつもある。収容人数は三百人程。その広い空間を、所せましと冒険者が埋め尽くしていた。男女比率は、圧倒的に男が多い。九割がた男だ。テーブル席は見事に満席で、中には立ち話をしている者も居る。もしもここが酒場であれば、注文した飲み物が中々こないぞと喚く客が数人は居るレベルの盛況ぶりだ。
「すごい混み具合だな」とアレン。
「冒険者にとって、ここは何かと便利な場所だからね」とメル。
四人は人混みを掻き分けながら、テーブル席の奥にある受付カウンターへと進んだ。
カウンターには、メイド服を着た黒髪の受付嬢が居た。受付嬢はスイカでも詰め込んでいそうな爆乳で、アレンの目は思わず釘付けとなる。横でミオが「もぉ!」と頬を膨らませるも、アレンの耳には入らない。胸を凝視されることに慣れているのか、受付嬢は気にする様子もなく笑顔でお辞儀した。
「無事、冒険者になられたようですね。メル様、ミオ様」
「はい。これからお世話になります。イオナさん」
メルは受付嬢のイオナにペコリと頭を下げた。右肩に乗っているピノも、メルに倣って小さな頭をちょこっと下げる。それに対し、イオナはニコッと微笑んだ。
「知り合いなんだ?」
アレンは、視線をイオナの胸からメルの顔へと移した。その後、ついついちらりと胸に視線が移る。メルの胸は、巨乳という程の大きさはないが、貧乳という程小さすぎるわけでもない。だが、イオナの後だと、どうしても膨らみに物足りなさを感じる。
そんなことを考えているアレンの額に、メルがゆっくりと指を近づけ、強烈なデコピンを放った。「パチンッ」というレベルを超え、「ゴツン!」と鈍く大きな音が鳴る。ぶっ飛びそうになるほどの痛みがアレンを襲う。アレンは目をぎゅっと閉じ、「うぐぅ!」と唸りながら、両手で額を抑えて天を仰いだ。それを見て、ミオとユミィが「うわぁ、痛そう」と表情を歪ませた。
「イオナさんとは、冒険者試験を申し込みする時にお話ししたのよ」
「そ、そうなんだ」
質問したのはアレンだが、もはや回答に関心はなかった。ヒリヒリとする額の方が、今のアレンにとっては大事だったのだ。
アレンはひたすらに額をこすり、どうにか痛みを打ち消そうとする。それに対し、デコピンを放ったメルは「女性を変態のような目つきで見ないことね」とすまし顔で言い放つ。アレンは「はい……」と素直に従った。
「本日は、早速クエストをお受けになられるのですか?」とイオナ。
「そうです。可能な限り難易度の低いものだと有り難いです」
メルは答えるなり、冒険者カードを取り出してイオナに渡した。メルに続いて、ミオとユミィも冒険者カードを取り出す。一テンポ遅れて、アレンも少し慌て気味に冒険者カードを取り出した。
イオナは四人から冒険者カードを受け取ると、カウンターの内側に置いてある箱型の機械へ挿し込んだ。機械には計十六の挿入口があり、その内四つをアレン達のカードが埋めた。
この機械は『カードリーダー』と呼ばれるもので、冒険者カードの情報を読み取ることが可能だ。クエストの受発注からお金の入出金に至るまで、幅広い場面で使用される。カードリーダーが読み取った情報は、コードで繋がっている横のディスプレイに表示される。ディスプレイにはキーボードとマウスも繋がっており、それらを用いて表示されているデータを操作することも可能だ。
「可能な限り簡単なものとのことでしたので……」
イオナはキーボードをカタカタと打ち込む。
「アルム洞窟のボス『ダークペガサス』の討伐はいかがでしょうか? 移動に時間がかかる反面、戦闘自体の難易度は低いので、初めてのクエストとしては最適かと思われます。報酬は二八〇万ゴールド、四人ですとお一人当たり七〇万ゴールドとなります」
そう言うと、イオナは視線をディスプレイからメル達へ向けた。
「アルム洞窟か……ちょうどいいわね」とメル。
「えー、遠いよぅ」とミオは嫌そうにする。
「帰り道は任せて! 私にとっておきのスキルがあるから!」とユミィ。
一方、アレンだけは「アルム洞窟ってどこだ」と分からずに居た。アレンの場合、リック島以外の地理は全く分からない。バージュの首都についても、名前をうろ覚えで記憶しているくらいだ。場所などはサッパリである。
そんなアレンを無視し、メルは話を進めていく。
「行きも問題ないわ。私が対処できるから」
「おー、さすがメル!」ミオは表情を明るくして拍手する。
「なら行きも帰りも問題ないっしょ!」
ユミィの言葉に頷くと、メルはイオナに「それでお願いします」と頭を下げた。
イオナは「かしこまりました」と答え、マウスをカチカチとクリックし始める。
「なぁ、アルム洞窟ってどういうとこなんだ?」
話がまとまったところで、アレンの質問にメルが答えた。
「ザッカリーの北にある洞窟でね、距離自体はそれほど遠くないの。でも、手前に険しい谷があるせいで、直線距離を進むことは難しいから、普通に行くなら大きく迂回する必要があるの。そうすると、到達までに一週間はかかってしまうわ」
「対処できるってことは、その谷を越えるのに役立つユニークスキルを習得しているわけか」
「そういうこと。直線距離に行けた楽なのに迂回しないといけない……みたいなことって、クエストにはつきものだから。無駄にかかる時間をカットできれば、その分効率的かつ快適だと思ったんだよね」
アレンは「なるほどな」と納得し、ミオは「やっぱりメルは天才だぁ」と嬉しそうにニコニコした。
「クエストの登録が完了しましたので、カードをお返しいたします」
イオナはカードリーダーから冒険者カードを抜き取り、アレン達に返した。
アレンはカードを受け取ると、メルに「あとは指定の魔獣を倒して報告するだけ?」と質問する。メルは「だね」と短く答えた。
「よーし、それじゃあ、早速クエスト攻略にレッツゴー!」
ミオは右手を突き上げ、満面な笑みで叫んだ。そこにユミィが「おー!」と続く。メルの肩の上に居るピノも、ミオ達に合わせて右手を突き上げ、「きゅるっ♪」と鳴いた。テーブル席に座っている多くの冒険者が、「新人は元気があっていいなぁ」と笑う。
「おー、じゃないわよ。出発の前に準備するからね」
メルは恥ずかしさのあまり少し赤くなった顔を右手で覆いながら、苦笑いを浮かべた。アレンも「だな。準備は大事だ」とメルに同意する。
「ぶぅ! なら今すぐ行くよぅ!」
水を差された不機嫌となったミオは、頬を膨らませながら、両手でアレンとメルの腕を引っ張り、ズカズカと大股で冒険者ギルドの外へ歩き始めた。
「初クエストかー、頑張れよ!」
「気合入れろよ!」
「死ぬんじゃねぇぞ!」
「逃げるのも戦略の内だからな!」
新米冒険者の四人に、先輩冒険者達から声援が投げかけられる。アレンは無表情の無反応、メルは恥ずかしそうに頭をペコペコ、ユミィは嬉しそうに手を振って応じる。
ランナーズの初クエスト『ダークペガサスの討伐』が始まった。
翌朝、目が覚めたアレン達は、神父に礼を言って教会を後にした。
「神父さんって、いつ眠ってるんだろ?」
教会を出て少しした時、ユミィが疑問を口にする。ミオは「わからなーい」と適当な返事をし、アレンも分からなかったので沈黙した。少し間を置いてから、メルが「たぶんだけど」と前置きをして答える。
「誰もいない時に眠っていたりするんじゃないかな?」
「誰もいない時?」
「うん。冒険者ギルドの教会って、数が多いわりには、ユニークスキルの習得以外では利用されることが少なくて閑散としているよね。だから、暇な時に眠っているんじゃないかな。推測だけどね」
「なるほど! そうじゃないとおかしいよね! ずっと起きてるとか無理だし!」
ユミィは納得すると、「メルは物知りだね!」と笑顔で言う。メルは口元に笑みを浮かべ、「推測だから実際のところは分からないけどね」と返した。
「早くユニークスキルを披露したいよぅ!」
ミオはリズミカルに身体を揺らす。真紅の鎧が太陽の光を乱射した。艶やかなピンクの長い髪は、風に撫でられ緩やかに靡く。
「じゃあ、互いに覚えたスキルの発表でもする?」
悪戯っぽい笑みで言うメルに、ミオとユミィが口を揃えて叫んだ。「ダメぇ!」
メルは「冗談よ」と声に出して笑う。
「別にいいじゃん、言ってもさ」とアレン。
「ダメだよぅ!」
「そうそう! 楽しみがなくなっちゃうじゃん!」
ミオとユミィが口を尖らせ、アレンに反発する。
自身の覚えたユニークスキルは、他人に話さないのが慣習となっている。だからといって、話してはいけないというわけではない。中には、覚えたスキルをすぐに話す人間もいる。例えば、ロッゾ率いるファミリアファミリーなどがそうだ。上下関係があるマフィアの性質上、ノーマルスキルを含む全てのスキルについて、メンバーはロッゾに報告している。
「ちびちびお披露目するのが楽しいんだよぅ!」
「そーだそーだ! ミオの言う通りだぁ!」
キャンキャン吼える二人に、アレンは「分かった分かった。俺が悪かったからそう捲し立てないでくれよ」と苦笑い。二人は「分かればよろしい!」と満足げに頷いた。
ミオとユミィにとっては、慣習を抜きに、スキルを披露するのが楽しみなのだ。
「お話はそこまで。到着したよ」
目の前にある大きな建物をメルが指さす。
一見すると酒場にも見えるそこの前には、冒険者ギルドであることを示す紫の看板が立ててあった。そう、ここは冒険者ギルドなのだ。やってきたのは、クエストを受ける為である。
「えらく大きな場所だな。俺が試験の申し込みをしたところとはまるで違う」
冒険者ギルドを眺めてアレンが呟く。視界に映る冒険者ギルドこそ、アレンがイメージしていた建物そのものである。
「アレンが行ったところは、たぶんクエストの受注と報告専用の場所ね。冒険者ギルドって、クエストの受注以外にも、PTメンバーを募集したり、冒険者同士で情報交換をする場としても利用されることがあるの。ここは、そういう用途も兼ね備えた施設ね」
「なるほどなぁ」
「一般的に、冒険者ギルドといえばここみたいな場所を指すよ」
アレンが試験を受ける時に訪ねた冒険者ギルドは、一般的にはベテラン冒険者用の施設である。それも、コミュニケーションを求めず、ソロで活動する一匹狼向けの場所だ。それ故に、中は狭く、受付以外の人間が居ることも少ない。
「ま、大きさは違えど機能としては同じだから、深く考える必要はないよ」
説明を終えると、メルは冒険者ギルドの扉を開いた。
中には木製のテーブル席がいくつもある。収容人数は三百人程。その広い空間を、所せましと冒険者が埋め尽くしていた。男女比率は、圧倒的に男が多い。九割がた男だ。テーブル席は見事に満席で、中には立ち話をしている者も居る。もしもここが酒場であれば、注文した飲み物が中々こないぞと喚く客が数人は居るレベルの盛況ぶりだ。
「すごい混み具合だな」とアレン。
「冒険者にとって、ここは何かと便利な場所だからね」とメル。
四人は人混みを掻き分けながら、テーブル席の奥にある受付カウンターへと進んだ。
カウンターには、メイド服を着た黒髪の受付嬢が居た。受付嬢はスイカでも詰め込んでいそうな爆乳で、アレンの目は思わず釘付けとなる。横でミオが「もぉ!」と頬を膨らませるも、アレンの耳には入らない。胸を凝視されることに慣れているのか、受付嬢は気にする様子もなく笑顔でお辞儀した。
「無事、冒険者になられたようですね。メル様、ミオ様」
「はい。これからお世話になります。イオナさん」
メルは受付嬢のイオナにペコリと頭を下げた。右肩に乗っているピノも、メルに倣って小さな頭をちょこっと下げる。それに対し、イオナはニコッと微笑んだ。
「知り合いなんだ?」
アレンは、視線をイオナの胸からメルの顔へと移した。その後、ついついちらりと胸に視線が移る。メルの胸は、巨乳という程の大きさはないが、貧乳という程小さすぎるわけでもない。だが、イオナの後だと、どうしても膨らみに物足りなさを感じる。
そんなことを考えているアレンの額に、メルがゆっくりと指を近づけ、強烈なデコピンを放った。「パチンッ」というレベルを超え、「ゴツン!」と鈍く大きな音が鳴る。ぶっ飛びそうになるほどの痛みがアレンを襲う。アレンは目をぎゅっと閉じ、「うぐぅ!」と唸りながら、両手で額を抑えて天を仰いだ。それを見て、ミオとユミィが「うわぁ、痛そう」と表情を歪ませた。
「イオナさんとは、冒険者試験を申し込みする時にお話ししたのよ」
「そ、そうなんだ」
質問したのはアレンだが、もはや回答に関心はなかった。ヒリヒリとする額の方が、今のアレンにとっては大事だったのだ。
アレンはひたすらに額をこすり、どうにか痛みを打ち消そうとする。それに対し、デコピンを放ったメルは「女性を変態のような目つきで見ないことね」とすまし顔で言い放つ。アレンは「はい……」と素直に従った。
「本日は、早速クエストをお受けになられるのですか?」とイオナ。
「そうです。可能な限り難易度の低いものだと有り難いです」
メルは答えるなり、冒険者カードを取り出してイオナに渡した。メルに続いて、ミオとユミィも冒険者カードを取り出す。一テンポ遅れて、アレンも少し慌て気味に冒険者カードを取り出した。
イオナは四人から冒険者カードを受け取ると、カウンターの内側に置いてある箱型の機械へ挿し込んだ。機械には計十六の挿入口があり、その内四つをアレン達のカードが埋めた。
この機械は『カードリーダー』と呼ばれるもので、冒険者カードの情報を読み取ることが可能だ。クエストの受発注からお金の入出金に至るまで、幅広い場面で使用される。カードリーダーが読み取った情報は、コードで繋がっている横のディスプレイに表示される。ディスプレイにはキーボードとマウスも繋がっており、それらを用いて表示されているデータを操作することも可能だ。
「可能な限り簡単なものとのことでしたので……」
イオナはキーボードをカタカタと打ち込む。
「アルム洞窟のボス『ダークペガサス』の討伐はいかがでしょうか? 移動に時間がかかる反面、戦闘自体の難易度は低いので、初めてのクエストとしては最適かと思われます。報酬は二八〇万ゴールド、四人ですとお一人当たり七〇万ゴールドとなります」
そう言うと、イオナは視線をディスプレイからメル達へ向けた。
「アルム洞窟か……ちょうどいいわね」とメル。
「えー、遠いよぅ」とミオは嫌そうにする。
「帰り道は任せて! 私にとっておきのスキルがあるから!」とユミィ。
一方、アレンだけは「アルム洞窟ってどこだ」と分からずに居た。アレンの場合、リック島以外の地理は全く分からない。バージュの首都についても、名前をうろ覚えで記憶しているくらいだ。場所などはサッパリである。
そんなアレンを無視し、メルは話を進めていく。
「行きも問題ないわ。私が対処できるから」
「おー、さすがメル!」ミオは表情を明るくして拍手する。
「なら行きも帰りも問題ないっしょ!」
ユミィの言葉に頷くと、メルはイオナに「それでお願いします」と頭を下げた。
イオナは「かしこまりました」と答え、マウスをカチカチとクリックし始める。
「なぁ、アルム洞窟ってどういうとこなんだ?」
話がまとまったところで、アレンの質問にメルが答えた。
「ザッカリーの北にある洞窟でね、距離自体はそれほど遠くないの。でも、手前に険しい谷があるせいで、直線距離を進むことは難しいから、普通に行くなら大きく迂回する必要があるの。そうすると、到達までに一週間はかかってしまうわ」
「対処できるってことは、その谷を越えるのに役立つユニークスキルを習得しているわけか」
「そういうこと。直線距離に行けた楽なのに迂回しないといけない……みたいなことって、クエストにはつきものだから。無駄にかかる時間をカットできれば、その分効率的かつ快適だと思ったんだよね」
アレンは「なるほどな」と納得し、ミオは「やっぱりメルは天才だぁ」と嬉しそうにニコニコした。
「クエストの登録が完了しましたので、カードをお返しいたします」
イオナはカードリーダーから冒険者カードを抜き取り、アレン達に返した。
アレンはカードを受け取ると、メルに「あとは指定の魔獣を倒して報告するだけ?」と質問する。メルは「だね」と短く答えた。
「よーし、それじゃあ、早速クエスト攻略にレッツゴー!」
ミオは右手を突き上げ、満面な笑みで叫んだ。そこにユミィが「おー!」と続く。メルの肩の上に居るピノも、ミオ達に合わせて右手を突き上げ、「きゅるっ♪」と鳴いた。テーブル席に座っている多くの冒険者が、「新人は元気があっていいなぁ」と笑う。
「おー、じゃないわよ。出発の前に準備するからね」
メルは恥ずかしさのあまり少し赤くなった顔を右手で覆いながら、苦笑いを浮かべた。アレンも「だな。準備は大事だ」とメルに同意する。
「ぶぅ! なら今すぐ行くよぅ!」
水を差された不機嫌となったミオは、頬を膨らませながら、両手でアレンとメルの腕を引っ張り、ズカズカと大股で冒険者ギルドの外へ歩き始めた。
「初クエストかー、頑張れよ!」
「気合入れろよ!」
「死ぬんじゃねぇぞ!」
「逃げるのも戦略の内だからな!」
新米冒険者の四人に、先輩冒険者達から声援が投げかけられる。アレンは無表情の無反応、メルは恥ずかしそうに頭をペコペコ、ユミィは嬉しそうに手を振って応じる。
ランナーズの初クエスト『ダークペガサスの討伐』が始まった。
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