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006.二次試験【個人技能】①

「一次試験を通過したのは、二百二十五パーティー……つまり九百名です。残りの三百八十三名は失格となります。失格となりました方は、速やかにこの場から離れてください」

 試験が終わるなり、黒服がアナウンスを始める。
 その声に従い、落第者達が去っていく。悔しそうにしている者、言い争いをしている者、無表情な者、ひとえに落第者といっても、その姿は色々であった。

「落第者数が三百人超えとは、思ったより多いな」と呟くアレン。
「きっかり四人で揃えるっていうのは、案外難しいのよね」とメル。

 落第者の大半が、四人に調整することが出来なかった。二人パーティーと三人パーティーで統合に失敗したり、時間ギリギリで引き抜きに遭って一人抜けたりするなど、様々な理由により上手くいかなかったのだ。

「冷静に対処すれば、多少の人数調整くらい容易いんだけど……一時間という微妙な制限時間がいやらしかったわね。普通に組んでいけば長く感じる時間だけど、噴出する文句を抑えて調整するには短すぎる」

 メルの言葉に、「そーだそーだ!」とミオが同意する。

「あなたは何も考えていなかったでしょ、ミオ」
「そーだそーだ!」ミオは笑顔で自分の胸をポンポンと叩く。
「はぁ」メルは盛大にため息をついた。

 その様子を見たユミィが声をあげて笑う。

「メルとミオって本当に仲良しなんだね!」
「まぁね。かれこれ十年来の付き合いだから」

 メルが答えると、「うんうん!」とミオも頷いて同意する。

「そうなんだ。ミオの鎧からすると、出身はビサイド辺りかな?」
「当たりだよぅ! ユミィの出身はどこなの?」

 ミオの問いに、「トランタだよー!」とユミィが答える。
 そこへ、アレンが口を挟んだ。

「ビサイドは知ってるけど、トランタってどこにあるの?」

 ユミィは「ええええ!」と大げさに驚いた。

「アレン、トランタを知らないの? ……まあ、小さい町だから仕方ないかぁ」
「トランタはバージュ本土の東端にある小さな町だよ」

 残念そうにするユミィに代わって、メルが答える。

「アレンはどこの出身なの?」ユミィが尋ねる。
「俺はリック島だよ」
「リック島? それどこ??」

 ユミィが首を傾げる。
 それが普通の反応なんだよな、とアレンは思った。

「リック島は――」

 説明しようとするアレンを、黒服のアナウンスが遮る。

「落第者の退場が済みましたので、これより二次試験を開始致します」

 アレン達は口を閉じ、視線を黒服へ集中させる。

「二次試験では、皆様の個人技能を測らせていただきます」

 黒服の言葉に、多くの受験者がざわめきだつ。セリフは色々だが、要約すると「一次試験で組んだ奴とチームプレイをするんじゃねぇのかよ」というツッコミだ。
 ざわつきが落ち着いた後、黒服は続けた。

「試験内容は、次の四つの任務を、一人につき一つずつこなすこと。
 一.カメレオンモンキーの捕獲
 二.オオイノシシの討伐
 三.薬草『ブルベ』『ラズベ』『ラクベ』の調達
 四.調達してきた薬草の調合
 この任務は、一人でこなすことが条件です。メンバーの任務を手伝うことはルール違反、いかなる理由であれ即失格となりますのでご注意ください。
 また、パーティーメンバーの内誰か一人でも任務をクリアできなければ、そのPT――パーティーのこと――は全員失格となります。
 他にも、担当する任務について全員が納得している必要があります。納得しているかどうかは、我々の主観で判断させていただきます。推奨している行為としましては、試験開始直後に会議を開いて意見をまとめることです。誰か一人でも自分の担当に納得していない場合も、PTメンバー全員の失格となりますのでご注意ください」

 メルは小さな声で「なるほどね」と呟く。
 受験者達が早速会議を始めようとする中、「補足情報になりますが」と黒服が話を続ける。それにより、再び場が静寂に包まれた。

「任務をクリアするための手段は問いません。例えば一のカメレオンモンキー捕獲の場合、既に捕獲した受験者から奪うという手段で入手してもクリアとなります。二のオオイノシシ討伐でいえば、他の受験者が弱らせたオオイノシシに割り込みトドメを刺した場合、トドメを刺した受験者が任務を達成したことになります。三と四につきましても、同様に手段は問いません。ただし、相手を殺すことは禁止となりますのでご注意ください」

 受験者の一人がニヤニヤしながら、「半殺しはOKなんだな」と確認する。

「それ自体は問題ありません。しかし、二次試験中に負わせた怪我が原因で、怪我を負った受験者が二次試験終了後二十四時間以内に命を落とすような事態に陥った場合は、殺人による失格が適用されます」

 黒服の説明に、受験者達が納得する。

「他に、何か質問はございますか?」

 黒服が受験者達に向かって問いかける。
 しばらく沈黙が続いた後、メルが手を挙げた。
 黒服が「どうぞ」とメルを指す。

「自分と違う番号の任務をこなしている受験者への攻撃は可能ですか?」
「いえ、それは仲間の任務を手助けする行為とみなし、失格となります。例えば一のカメレオンモンキー捕獲の任務に臨む受験者は、同じ任務に臨む受験者しか攻撃してはいけません」
「そうですか、わかりました」

 この質問には重大な意味があった。もしも他の番号の受験者への攻撃が可能な場合、いくらでも仲間を手助けすることができるからだ。
 禁止という返事に、メルは安堵する。

「他に質問のある方は?」

 今度は赤いトサカヘッドの男が手を挙げた。アレンのお眼鏡に適った実力者の一人だ。男は黒服が「どうぞ」と言う前に、東の森を指しながら話し始めた。

「任務のこなし方だけどさ、この森以外でやってもいいのか? 一から三の任務って、全部この森でこなせるやつっしょ。あ、あと制限時間も教えて欲しいっしょ。任務内容からすると二時間程度か?」
「質問が複数でましたので、最初の質問から答えさせていただきます。
 任務のこなし方ですが、この森以外でも問題ありません。補足させていただきますと、一と三の任務につきましては、対象をこの場所まで持ってきて初めてクリアとなります。また、四の調合につきましてはこの場所以外で行うことは禁止です。
 次に制限時間ですが、仰る通り、二時間となっております。この制限時間には、試験開始直後に行う会議も含まれておりますのでご注意ください」

「あいあーい。答えてくれてありがとっしょ!」

 トサカヘッドの男が黒服にウインクする。
 黒服はそれを無視すると、「他に質問のある方は?」と受験者に向かって言う。

 今度は、何の質問も出てこない。
 質問がないことを確認すると、黒服は右手を突き上げた。

「それでは、二次試験、始め!」

 個人技能を測る二次試験が幕を開けた。
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