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第052話 官吏闘争の煽動①
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忍従の時を、俺以外のゴブリンや他種族は苦虫を噛み潰したような気持ちで過ごしていたけれど、俺にはそれほど辛く感じなかった。
新聞を読めば読むほど、人間社会の仕組みをしることが出来たからだ。
それはつまり、人間の弱点を知ることにもなる。
日本の与党・野党とは違うけれど、この世界にも派閥争いがあった。
国の政策やらをアレコレ考えるのは、主に武官と文官と呼ばれる二種類の官吏なのだけれど、こいつらの意見が基本的に合わないのだ。
日本で例えるのなら、武官は軍人であり、文官は政治家のようなもの。
新聞をはじめとする多数の資料を参考にした限り、平和な時ほど文官が支持され、治安が悪化しだすと武官の支持が高まる傾向にあるそうだ。
冒険者や衛兵に関する取り仕切りをはじめ、治安維持に関する業務を担うのが武官の連中だから当然である。
その為、俺がなんだかんだと動き出すまでは、文官が指示されていた。
現在の皇帝も文官から輩出されたもので、何かと文官に偏った思考のようだ。
しかし、間違いなく、今は武官の支持力が増している。
俺達が数万人の人間を殺し、複数の村や街を壊滅させたからだ。
そこで、俺は考えた。
このくだらない派閥争いの天秤を動かしてやろう、と。
適当に奇襲をかけるよりも、遙かに強力な混乱と混沌を生み出すはずだ。
「――とまぁ、そんなわけで、これから反撃に出るぞ」
「「「うおおお!」」」
「戦争だー!」
「皆殺しだー!」
「やったるどー!」
本部の広場にて、俺は皆に向かって語りかけた。
既に人間の攻勢が落ち着いてから、数週間が経過している。
準備期間としては十分過ぎたくらいだ。
「今回は少しテクニカルな戦いになるから、皆が作戦を暗記するまで何度でも説明するぞ」
緊張感に包まれるゴブリン達。
ただ一体、そこには例外が混じっていた。
「えぇー、ぼく、むずかしいことはわからないですぅ」
ゴブオだ。
一人称が「ぼく」だけど、ゴブリン界のヒロインである。
どのゴブリンに訊いても、かつてない可愛さという評価だ。
俺から見ればそこらのゴブリンと大差ない。
「テクニカルっていうのは、ただ皆殺しにするわけじゃないってだけさ。攻撃する場所を絞るんだ。難しく考えず、決められた場所だけを攻撃するってわけ」
「それならぼくでもできるぅ!」
俺は「うむ」と頷き、話を続けた。
「これまでにも何度か話している通り、人間には武官と文官という内部勢力が存在する。今は武官の勢いが強まっているけれど、それでも実質的な支配は文官がしているわけだ。だから、俺達が介入して文官の支配を崩してやる」
「なるほど。それでゴブレス、そうすると人間共はどうなるのじゃ?」
「武官は力で解決しようとする奴等だから、待ってましたとばかりに実権を握ろうとするでしょう。でも、文官は法律やら何やらを盾にそれを防ごうとします。その結果、武官はクーデターを行うでしょう」
長老やゴブ朗といったインテリ組が「なるほど」と納得する。
一方で、ゴブオやゴブ太みたいなオバカ組は「???」と首を傾げた。
「人間共が遵守する法律ってのは、基本的に文官が作っている。故に、その内容は文官に有利なものだ。武官からするとそれもまた気に入らないわけで」
話している途中だが、俺は口を止めた。
「ま、人間社会の云々は難しい話だから飛ばそう」
オバカ組の理解が完全に追いついていなかったからだ。
「とにかく、俺はこれからワイバーン族の族長と話して細かい段取りをつける。詳細が決まったらまた集会を開いて言うから、各小隊は技術者と協力して砲弾作りに専念してくれ。ワベ砲弾はもう十分に用意してあるから、通常の砲弾を頼む」
「「「了解!」」」
忍従の時にサヨナラを告げ、俺達の戦いは新たなステージに突入した。
新聞を読めば読むほど、人間社会の仕組みをしることが出来たからだ。
それはつまり、人間の弱点を知ることにもなる。
日本の与党・野党とは違うけれど、この世界にも派閥争いがあった。
国の政策やらをアレコレ考えるのは、主に武官と文官と呼ばれる二種類の官吏なのだけれど、こいつらの意見が基本的に合わないのだ。
日本で例えるのなら、武官は軍人であり、文官は政治家のようなもの。
新聞をはじめとする多数の資料を参考にした限り、平和な時ほど文官が支持され、治安が悪化しだすと武官の支持が高まる傾向にあるそうだ。
冒険者や衛兵に関する取り仕切りをはじめ、治安維持に関する業務を担うのが武官の連中だから当然である。
その為、俺がなんだかんだと動き出すまでは、文官が指示されていた。
現在の皇帝も文官から輩出されたもので、何かと文官に偏った思考のようだ。
しかし、間違いなく、今は武官の支持力が増している。
俺達が数万人の人間を殺し、複数の村や街を壊滅させたからだ。
そこで、俺は考えた。
このくだらない派閥争いの天秤を動かしてやろう、と。
適当に奇襲をかけるよりも、遙かに強力な混乱と混沌を生み出すはずだ。
「――とまぁ、そんなわけで、これから反撃に出るぞ」
「「「うおおお!」」」
「戦争だー!」
「皆殺しだー!」
「やったるどー!」
本部の広場にて、俺は皆に向かって語りかけた。
既に人間の攻勢が落ち着いてから、数週間が経過している。
準備期間としては十分過ぎたくらいだ。
「今回は少しテクニカルな戦いになるから、皆が作戦を暗記するまで何度でも説明するぞ」
緊張感に包まれるゴブリン達。
ただ一体、そこには例外が混じっていた。
「えぇー、ぼく、むずかしいことはわからないですぅ」
ゴブオだ。
一人称が「ぼく」だけど、ゴブリン界のヒロインである。
どのゴブリンに訊いても、かつてない可愛さという評価だ。
俺から見ればそこらのゴブリンと大差ない。
「テクニカルっていうのは、ただ皆殺しにするわけじゃないってだけさ。攻撃する場所を絞るんだ。難しく考えず、決められた場所だけを攻撃するってわけ」
「それならぼくでもできるぅ!」
俺は「うむ」と頷き、話を続けた。
「これまでにも何度か話している通り、人間には武官と文官という内部勢力が存在する。今は武官の勢いが強まっているけれど、それでも実質的な支配は文官がしているわけだ。だから、俺達が介入して文官の支配を崩してやる」
「なるほど。それでゴブレス、そうすると人間共はどうなるのじゃ?」
「武官は力で解決しようとする奴等だから、待ってましたとばかりに実権を握ろうとするでしょう。でも、文官は法律やら何やらを盾にそれを防ごうとします。その結果、武官はクーデターを行うでしょう」
長老やゴブ朗といったインテリ組が「なるほど」と納得する。
一方で、ゴブオやゴブ太みたいなオバカ組は「???」と首を傾げた。
「人間共が遵守する法律ってのは、基本的に文官が作っている。故に、その内容は文官に有利なものだ。武官からするとそれもまた気に入らないわけで」
話している途中だが、俺は口を止めた。
「ま、人間社会の云々は難しい話だから飛ばそう」
オバカ組の理解が完全に追いついていなかったからだ。
「とにかく、俺はこれからワイバーン族の族長と話して細かい段取りをつける。詳細が決まったらまた集会を開いて言うから、各小隊は技術者と協力して砲弾作りに専念してくれ。ワベ砲弾はもう十分に用意してあるから、通常の砲弾を頼む」
「「「了解!」」」
忍従の時にサヨナラを告げ、俺達の戦いは新たなステージに突入した。
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