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第010話 おしおき

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 悪い大人達――奴隷商人とその私兵5人が宿屋に入ってきた。
 ドタバタと激しい足音を伴いながら階段を駆け上がってくる。

「アーシャ、どうすればいいですか!?」
「わからない! わからないよ! どうしよう!」

 リーナとアーシャが混乱する。
 その頃、俺は必死に対応策を考えていた。

「(この様子だと屯所に逃げ込んでも意味がない。むしろ逆効果だ。ナイトハウンドを出すか? それもまずい。ナイトハウンドが派手に暴れると、屯所の兵士が動く為の大義名分が出来てしまう。街中で暴れたとして逮捕されかねん)」

 次第に近づく駆ける音が焦燥感をかき立てる。
 そんな時、リーナとアーシャは行動を起こした。

「リーナ、これで扉を塞ぐよ!」
「わかりましたです、アーシャ!」

 2人がテーブルやイスを扉の前に固めていく。
 諦めることなく、子供ながらに対策を考えているのだ。

「(悪くないアイデアだがそれでは逃げ場がないぞ)」

 宿屋の主人は完全に敵側だ。
 その上、頼みの綱である屯所も買収されている。
 俺達に援軍が居ない中、籠城作戦は意味が無い。
 いずれは扉をこじ開けられておしまいだ。

「(いや、待てよ。この状況は……)」

 俺はふと気づく。
 2人は今、必死に作業を行っている。
 これなら俺はバレることなく魔法を使えるぞ。

「(悪いな、2人共)」

 俺は指を鳴らした。
 その瞬間、部屋の中にピンク色の煙が漂う。

「なに!? この煙!」
「い、意識が……駄目……です……」

 2人がその場に倒れた。
 催眠魔法【スリープススモーク】だ。
 ただ眠るだけであり、副作用などは特にない。

「ゴブゥ(これで思う存分に戦えるな)」

 2人は眠り、部屋には俺しかいない。
 目撃者がいないのであれば、遠慮無く魔法を使える。
 俺は即座に強化魔法で筋力を上げて2人をベッドに運んだ。
 それから扉の前に積まれた家具をどかし、扉を開ける。

「あの部屋です!」

 3階に上がってくるなり、宿屋の主人が俺達の部屋を指す。
 やはりあいつらの狙いは俺達で間違いなかった。

「捕らえるんだ! 大事な商品だからな! 傷を付けるなよ!」

 奴隷商人が命令する。
 5人の私兵は「ハッ」と答えて部屋に向かってきた。

「ゴブゥ! (悪いがお前達には消えてもらうよ)」

 俺は右手を挙げて、親指と中指を合わせる。

「ゴブリンが!」
「我々を止めようというのか!」
「笑止!」
「斬り捨ててくれるわ!」
「うおおおお!」

 俺と私兵との距離が縮まる。
 刀の間合いまでもうすぐの所で、俺は指を鳴らした。
 その瞬間、俺と私兵の間に真っ黒の穴が現れる。

「なんだこれは!」

 穴に気づいて驚くも、急なことなので止まれない。

「「「「「うわあああああああああ!」」」」」

 私兵達は穴に吸い込まれていった。

「な、なにごとですか!?」
「ワシの兵が消えた……!?」

 主人と奴隷商人が驚く。
 無理もあるまい。彼らの知らない魔法だ。
 研究によって生み出した俺だけのオリジナル魔法。
 名付けるならば【ブラックホール】といったところか。
 対象を異次元に飲み込む奈落の口だ。

「貴様の仕業か! ゴブリン!」

 奴隷商人がズカズカと大股で近づいてくる。
 宿屋の主人はビクビクしながらその後ろに続いた。
 2人は【ブラックホール】の前で立ち止まる。

「ゴッブゴブゴブ! (気をつけろよ、その穴は――)」

 俺がもう一度指を鳴らす。
 すると【ブラックホール】が――。

「ゴブッ! (動くぜ)」

 スーッと動いたのだ。
 滑るようにして、穴の位置が商人達の足下へ。

「「うわあああああああああああ!」」

 奴隷商人と宿屋の主人も闇の口に食われてしまった。

「なんだなんだ?」
「騒がしいなぁ、おい」
「夜なんだから寝かせてくれよ」

 他の客室から苛立ちの声が聞こえる。

「(これ以上の騒ぎは禁物だな)」

 俺は【ブラックホール】を解除して部屋に戻った。

「ゴブゴブ(悪い大人達はやっつけておいたぞ)」

 ベッドに上がり、2人の頭を撫でる。
 それから、2人の姿勢をいつも通りの背中合わせにした。

「(よいしょっと)」

 あとは掛け布団をかぶせて、俺も中に入るだけだ。

「ゴブちゃん……むにゃにゃぁ……」

 布団に潜り込んだ俺をリーナが抱きしめてきた。
 だから俺もリーナに抱きつき、彼女の胸に顔を埋める。

「(さーて、寝るか)」

 こうして、ゴブリン生活2日目も平穏に終わるのであった。
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