10 / 12
第010話 おしおき
しおりを挟む
悪い大人達――奴隷商人とその私兵5人が宿屋に入ってきた。
ドタバタと激しい足音を伴いながら階段を駆け上がってくる。
「アーシャ、どうすればいいですか!?」
「わからない! わからないよ! どうしよう!」
リーナとアーシャが混乱する。
その頃、俺は必死に対応策を考えていた。
「(この様子だと屯所に逃げ込んでも意味がない。むしろ逆効果だ。ナイトハウンドを出すか? それもまずい。ナイトハウンドが派手に暴れると、屯所の兵士が動く為の大義名分が出来てしまう。街中で暴れたとして逮捕されかねん)」
次第に近づく駆ける音が焦燥感をかき立てる。
そんな時、リーナとアーシャは行動を起こした。
「リーナ、これで扉を塞ぐよ!」
「わかりましたです、アーシャ!」
2人がテーブルやイスを扉の前に固めていく。
諦めることなく、子供ながらに対策を考えているのだ。
「(悪くないアイデアだがそれでは逃げ場がないぞ)」
宿屋の主人は完全に敵側だ。
その上、頼みの綱である屯所も買収されている。
俺達に援軍が居ない中、籠城作戦は意味が無い。
いずれは扉をこじ開けられておしまいだ。
「(いや、待てよ。この状況は……)」
俺はふと気づく。
2人は今、必死に作業を行っている。
これなら俺はバレることなく魔法を使えるぞ。
「(悪いな、2人共)」
俺は指を鳴らした。
その瞬間、部屋の中にピンク色の煙が漂う。
「なに!? この煙!」
「い、意識が……駄目……です……」
2人がその場に倒れた。
催眠魔法【スリープススモーク】だ。
ただ眠るだけであり、副作用などは特にない。
「ゴブゥ(これで思う存分に戦えるな)」
2人は眠り、部屋には俺しかいない。
目撃者がいないのであれば、遠慮無く魔法を使える。
俺は即座に強化魔法で筋力を上げて2人をベッドに運んだ。
それから扉の前に積まれた家具をどかし、扉を開ける。
「あの部屋です!」
3階に上がってくるなり、宿屋の主人が俺達の部屋を指す。
やはりあいつらの狙いは俺達で間違いなかった。
「捕らえるんだ! 大事な商品だからな! 傷を付けるなよ!」
奴隷商人が命令する。
5人の私兵は「ハッ」と答えて部屋に向かってきた。
「ゴブゥ! (悪いがお前達には消えてもらうよ)」
俺は右手を挙げて、親指と中指を合わせる。
「ゴブリンが!」
「我々を止めようというのか!」
「笑止!」
「斬り捨ててくれるわ!」
「うおおおお!」
俺と私兵との距離が縮まる。
刀の間合いまでもうすぐの所で、俺は指を鳴らした。
その瞬間、俺と私兵の間に真っ黒の穴が現れる。
「なんだこれは!」
穴に気づいて驚くも、急なことなので止まれない。
「「「「「うわあああああああああ!」」」」」
私兵達は穴に吸い込まれていった。
「な、なにごとですか!?」
「ワシの兵が消えた……!?」
主人と奴隷商人が驚く。
無理もあるまい。彼らの知らない魔法だ。
研究によって生み出した俺だけのオリジナル魔法。
名付けるならば【ブラックホール】といったところか。
対象を異次元に飲み込む奈落の口だ。
「貴様の仕業か! ゴブリン!」
奴隷商人がズカズカと大股で近づいてくる。
宿屋の主人はビクビクしながらその後ろに続いた。
2人は【ブラックホール】の前で立ち止まる。
「ゴッブゴブゴブ! (気をつけろよ、その穴は――)」
俺がもう一度指を鳴らす。
すると【ブラックホール】が――。
「ゴブッ! (動くぜ)」
スーッと動いたのだ。
滑るようにして、穴の位置が商人達の足下へ。
「「うわあああああああああああ!」」
奴隷商人と宿屋の主人も闇の口に食われてしまった。
「なんだなんだ?」
「騒がしいなぁ、おい」
「夜なんだから寝かせてくれよ」
他の客室から苛立ちの声が聞こえる。
「(これ以上の騒ぎは禁物だな)」
俺は【ブラックホール】を解除して部屋に戻った。
「ゴブゴブ(悪い大人達はやっつけておいたぞ)」
ベッドに上がり、2人の頭を撫でる。
それから、2人の姿勢をいつも通りの背中合わせにした。
「(よいしょっと)」
あとは掛け布団をかぶせて、俺も中に入るだけだ。
「ゴブちゃん……むにゃにゃぁ……」
布団に潜り込んだ俺をリーナが抱きしめてきた。
だから俺もリーナに抱きつき、彼女の胸に顔を埋める。
「(さーて、寝るか)」
こうして、ゴブリン生活2日目も平穏に終わるのであった。
ドタバタと激しい足音を伴いながら階段を駆け上がってくる。
「アーシャ、どうすればいいですか!?」
「わからない! わからないよ! どうしよう!」
リーナとアーシャが混乱する。
その頃、俺は必死に対応策を考えていた。
「(この様子だと屯所に逃げ込んでも意味がない。むしろ逆効果だ。ナイトハウンドを出すか? それもまずい。ナイトハウンドが派手に暴れると、屯所の兵士が動く為の大義名分が出来てしまう。街中で暴れたとして逮捕されかねん)」
次第に近づく駆ける音が焦燥感をかき立てる。
そんな時、リーナとアーシャは行動を起こした。
「リーナ、これで扉を塞ぐよ!」
「わかりましたです、アーシャ!」
2人がテーブルやイスを扉の前に固めていく。
諦めることなく、子供ながらに対策を考えているのだ。
「(悪くないアイデアだがそれでは逃げ場がないぞ)」
宿屋の主人は完全に敵側だ。
その上、頼みの綱である屯所も買収されている。
俺達に援軍が居ない中、籠城作戦は意味が無い。
いずれは扉をこじ開けられておしまいだ。
「(いや、待てよ。この状況は……)」
俺はふと気づく。
2人は今、必死に作業を行っている。
これなら俺はバレることなく魔法を使えるぞ。
「(悪いな、2人共)」
俺は指を鳴らした。
その瞬間、部屋の中にピンク色の煙が漂う。
「なに!? この煙!」
「い、意識が……駄目……です……」
2人がその場に倒れた。
催眠魔法【スリープススモーク】だ。
ただ眠るだけであり、副作用などは特にない。
「ゴブゥ(これで思う存分に戦えるな)」
2人は眠り、部屋には俺しかいない。
目撃者がいないのであれば、遠慮無く魔法を使える。
俺は即座に強化魔法で筋力を上げて2人をベッドに運んだ。
それから扉の前に積まれた家具をどかし、扉を開ける。
「あの部屋です!」
3階に上がってくるなり、宿屋の主人が俺達の部屋を指す。
やはりあいつらの狙いは俺達で間違いなかった。
「捕らえるんだ! 大事な商品だからな! 傷を付けるなよ!」
奴隷商人が命令する。
5人の私兵は「ハッ」と答えて部屋に向かってきた。
「ゴブゥ! (悪いがお前達には消えてもらうよ)」
俺は右手を挙げて、親指と中指を合わせる。
「ゴブリンが!」
「我々を止めようというのか!」
「笑止!」
「斬り捨ててくれるわ!」
「うおおおお!」
俺と私兵との距離が縮まる。
刀の間合いまでもうすぐの所で、俺は指を鳴らした。
その瞬間、俺と私兵の間に真っ黒の穴が現れる。
「なんだこれは!」
穴に気づいて驚くも、急なことなので止まれない。
「「「「「うわあああああああああ!」」」」」
私兵達は穴に吸い込まれていった。
「な、なにごとですか!?」
「ワシの兵が消えた……!?」
主人と奴隷商人が驚く。
無理もあるまい。彼らの知らない魔法だ。
研究によって生み出した俺だけのオリジナル魔法。
名付けるならば【ブラックホール】といったところか。
対象を異次元に飲み込む奈落の口だ。
「貴様の仕業か! ゴブリン!」
奴隷商人がズカズカと大股で近づいてくる。
宿屋の主人はビクビクしながらその後ろに続いた。
2人は【ブラックホール】の前で立ち止まる。
「ゴッブゴブゴブ! (気をつけろよ、その穴は――)」
俺がもう一度指を鳴らす。
すると【ブラックホール】が――。
「ゴブッ! (動くぜ)」
スーッと動いたのだ。
滑るようにして、穴の位置が商人達の足下へ。
「「うわあああああああああああ!」」
奴隷商人と宿屋の主人も闇の口に食われてしまった。
「なんだなんだ?」
「騒がしいなぁ、おい」
「夜なんだから寝かせてくれよ」
他の客室から苛立ちの声が聞こえる。
「(これ以上の騒ぎは禁物だな)」
俺は【ブラックホール】を解除して部屋に戻った。
「ゴブゴブ(悪い大人達はやっつけておいたぞ)」
ベッドに上がり、2人の頭を撫でる。
それから、2人の姿勢をいつも通りの背中合わせにした。
「(よいしょっと)」
あとは掛け布団をかぶせて、俺も中に入るだけだ。
「ゴブちゃん……むにゃにゃぁ……」
布団に潜り込んだ俺をリーナが抱きしめてきた。
だから俺もリーナに抱きつき、彼女の胸に顔を埋める。
「(さーて、寝るか)」
こうして、ゴブリン生活2日目も平穏に終わるのであった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
異世界ライフの楽しみ方
呑兵衛和尚
ファンタジー
それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。
ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。
俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。
ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。
しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!
神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。
ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。
『オンラインゲームのアバターに変化する能力』
『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』
アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。
ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。
終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。
それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。
「神様、【魂の修練】って一体何?」
そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。
しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。
おいおい、これからどうなるんだ俺達。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる