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第007話 ギルド
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ゴブリン生活の2日目は幸せな幕開けだった。
「むにゃにゃぁ、むにゃにゃぁ、です」
リーナに抱きしめられた状態で目が覚めたのだ。
彼女は俺をギューッと胸に押し当てている。さらに俺の頭に頬をすりすりしていて、なんともまぁ気持ちよさそうだ。
抱かれる側の俺も心地よくて、リーナに抱きつきながら目を瞑るのであった。
◇
朝に寝たので、活動開始は昼からだ。
1階の食堂で昼食を済ませた俺達は、冒険者ギルドにやってきた。
昨日採取した薬草を買い取ってもらう為だ。それほど多くはないが、リーナの背負っていた竹の籠には薬草が入っていた。
「(ここは相変わらずだな)」
冒険者ギルドには無数のテーブルがあり、そこにはむさ苦しい野郎共が座っていた。彼らはモンスターの討伐を生業とする“冒険者”だ。往々にして強面で口調も荒いが、話してみると良い奴だったりすることが多い。奴隷を侍らせて悦に浸る変態共よりはよほどまともな神経をしている。
俺達はテーブル席を通り抜け、奥の受付カウンターに向かった。
「こんにちは! 少ないけど薬草を持ってきたよ!」
アーシャが受付嬢に言う。
受付嬢は「いつもありがとうね」と微笑む。
採取した薬草をここまで売りに来ているみたいだ。
「(苦労してるんだなぁ)」
人攫いに狙われる中、<イヴの森>にある家とここまでを往復するのは大変だ。
「後ろのお嬢ちゃんとゴブリンは、アーシャちゃんのお友達?」
「そう! 一緒に暮らしているリーナだよ! 前に話したでしょ!?」
「うんうん。前に言っていたね。はじめまして、リーナちゃん」
「は、はじめまして、です」
リーナが緊張しながらお辞儀する。
薬草の配達は、いつもアーシャがしているようだ。
「(それで家事の大半をリーナが担っていたわけか)」
家事の役割分担は異常に偏っていた。
調理以外の全てをリーナが担当していたのだ。そのことにリーナが不満を抱かないのが疑問だったけれど、これで合点がいった。アーシャの背負うリスクを考慮すれば、家事を全て担当しても釣り合わない。リーナが文句を言わないわけだ。
「これだと300ゴールドね」
「それでいいよ! ありがとー!」
「いえいえ、こちらこそありがとうね」
無事に商談が成立した。
薬草はあらゆる薬の調合に使うから良い値が付く。
難点はモンスターの多くが好んで食べることくらいだ。
その点、モンスターの居ない<イヴの森>は良い採取場である。
「アーシャ、これからどうしますですか?」
「うーん、とりあえずそこに座って作戦会議だー!」
アーシャが空いているテーブル席を指した。
リーナが「分かりましたです」と頷く。
「ひょいっと!」
アーシャが軽やかに跳躍してイスに座る。
リーナは俺をイスに置いて、自身も座ろうとした。
しかし、幼女には高すぎるイスに苦戦する。
「よいしょ、よいしょ」
アーシャみたいにひょいと跳ぶことは出来ない。
テーブルに手を掛け、小さな身体を必死に上げている。
頑張った結果、どうにかイスに座る事が出来た。
「ふぃー! 疲れたねぇ!」
アーシャがテーブルに突っ伏す。
頭を噛まれるのではないかと焦った俺は、慌てて身体を仰け反らせる。
そんな俺をリーナが隣から抱えて、自身の膝にちょこんと置いた。
イスと違い、リーナの太ももは座り心地が柔らかくて良い感じだ。
「やっぱり私らも戦えるようになるかねぇ」
アーシャが身体を起こして言う。
リーナは「危険ですよ」と首を横に振った。
「でもスキルを習得すればいけるんじゃない?」
「スキルはアーシャが思っている程強力ではありませんです」
「えー! 絶対強いってー!」
実際のところはリーナの言い分が正しい。
スキルは魔法と違い、金を払えば習得出来る。簡単に使える一方で、効果は魔法に比べて弱い。ただ、面倒な訓練を要することなく使える上に、威力が先天的な素質に大きく依存している為、魔法よりも人気が高かった。
ちなみに俺はスキルが嫌いだ。
魔法を極めた大賢者からすると、スキルは邪道である。自然の法則を無視して発動することから既に邪道だが、何よりも研究によって向上を目指せない点が気にくわない。
「それに、スキルの習得にはたくさんのお金がかかりますです。私達のお金では、新たなスキルを習得することは出来ませんです」
アーシャが「うがー!」と机に突っ伏す。
しかし、その直後に「そうだ!」と何かを閃く。
「ゴブスケに働かせよう!」
「ゴブッ!? (えっ!?)」
驚く俺。
リーナも「えっ?」と驚いていた。
「肉体労働! ゴブスケは力持ちだから大丈夫だよ!」
「ゴブゥ! (いやいや、俺には力なんて全くないぞ)」
「なるほどです。ゴブちゃんに働いてもらいますです」
「ゴブゥ!? (マジかよ!)」
ゴブリンは力持ちと思われているようだ。
人狼幼女のアーシャに力負けするような雑魚なのに。
「そうと決まれば建築現場に直行だ!」
「はいです。ゴブちゃん、頑張って下さいです」
「ゴブゥ! (なんてこったい!)」
そんなわけで、元賢者の俺が肉体労働に従事することとなった。
これはコッソリ自分に強化魔法を掛けねばならないな。
「むにゃにゃぁ、むにゃにゃぁ、です」
リーナに抱きしめられた状態で目が覚めたのだ。
彼女は俺をギューッと胸に押し当てている。さらに俺の頭に頬をすりすりしていて、なんともまぁ気持ちよさそうだ。
抱かれる側の俺も心地よくて、リーナに抱きつきながら目を瞑るのであった。
◇
朝に寝たので、活動開始は昼からだ。
1階の食堂で昼食を済ませた俺達は、冒険者ギルドにやってきた。
昨日採取した薬草を買い取ってもらう為だ。それほど多くはないが、リーナの背負っていた竹の籠には薬草が入っていた。
「(ここは相変わらずだな)」
冒険者ギルドには無数のテーブルがあり、そこにはむさ苦しい野郎共が座っていた。彼らはモンスターの討伐を生業とする“冒険者”だ。往々にして強面で口調も荒いが、話してみると良い奴だったりすることが多い。奴隷を侍らせて悦に浸る変態共よりはよほどまともな神経をしている。
俺達はテーブル席を通り抜け、奥の受付カウンターに向かった。
「こんにちは! 少ないけど薬草を持ってきたよ!」
アーシャが受付嬢に言う。
受付嬢は「いつもありがとうね」と微笑む。
採取した薬草をここまで売りに来ているみたいだ。
「(苦労してるんだなぁ)」
人攫いに狙われる中、<イヴの森>にある家とここまでを往復するのは大変だ。
「後ろのお嬢ちゃんとゴブリンは、アーシャちゃんのお友達?」
「そう! 一緒に暮らしているリーナだよ! 前に話したでしょ!?」
「うんうん。前に言っていたね。はじめまして、リーナちゃん」
「は、はじめまして、です」
リーナが緊張しながらお辞儀する。
薬草の配達は、いつもアーシャがしているようだ。
「(それで家事の大半をリーナが担っていたわけか)」
家事の役割分担は異常に偏っていた。
調理以外の全てをリーナが担当していたのだ。そのことにリーナが不満を抱かないのが疑問だったけれど、これで合点がいった。アーシャの背負うリスクを考慮すれば、家事を全て担当しても釣り合わない。リーナが文句を言わないわけだ。
「これだと300ゴールドね」
「それでいいよ! ありがとー!」
「いえいえ、こちらこそありがとうね」
無事に商談が成立した。
薬草はあらゆる薬の調合に使うから良い値が付く。
難点はモンスターの多くが好んで食べることくらいだ。
その点、モンスターの居ない<イヴの森>は良い採取場である。
「アーシャ、これからどうしますですか?」
「うーん、とりあえずそこに座って作戦会議だー!」
アーシャが空いているテーブル席を指した。
リーナが「分かりましたです」と頷く。
「ひょいっと!」
アーシャが軽やかに跳躍してイスに座る。
リーナは俺をイスに置いて、自身も座ろうとした。
しかし、幼女には高すぎるイスに苦戦する。
「よいしょ、よいしょ」
アーシャみたいにひょいと跳ぶことは出来ない。
テーブルに手を掛け、小さな身体を必死に上げている。
頑張った結果、どうにかイスに座る事が出来た。
「ふぃー! 疲れたねぇ!」
アーシャがテーブルに突っ伏す。
頭を噛まれるのではないかと焦った俺は、慌てて身体を仰け反らせる。
そんな俺をリーナが隣から抱えて、自身の膝にちょこんと置いた。
イスと違い、リーナの太ももは座り心地が柔らかくて良い感じだ。
「やっぱり私らも戦えるようになるかねぇ」
アーシャが身体を起こして言う。
リーナは「危険ですよ」と首を横に振った。
「でもスキルを習得すればいけるんじゃない?」
「スキルはアーシャが思っている程強力ではありませんです」
「えー! 絶対強いってー!」
実際のところはリーナの言い分が正しい。
スキルは魔法と違い、金を払えば習得出来る。簡単に使える一方で、効果は魔法に比べて弱い。ただ、面倒な訓練を要することなく使える上に、威力が先天的な素質に大きく依存している為、魔法よりも人気が高かった。
ちなみに俺はスキルが嫌いだ。
魔法を極めた大賢者からすると、スキルは邪道である。自然の法則を無視して発動することから既に邪道だが、何よりも研究によって向上を目指せない点が気にくわない。
「それに、スキルの習得にはたくさんのお金がかかりますです。私達のお金では、新たなスキルを習得することは出来ませんです」
アーシャが「うがー!」と机に突っ伏す。
しかし、その直後に「そうだ!」と何かを閃く。
「ゴブスケに働かせよう!」
「ゴブッ!? (えっ!?)」
驚く俺。
リーナも「えっ?」と驚いていた。
「肉体労働! ゴブスケは力持ちだから大丈夫だよ!」
「ゴブゥ! (いやいや、俺には力なんて全くないぞ)」
「なるほどです。ゴブちゃんに働いてもらいますです」
「ゴブゥ!? (マジかよ!)」
ゴブリンは力持ちと思われているようだ。
人狼幼女のアーシャに力負けするような雑魚なのに。
「そうと決まれば建築現場に直行だ!」
「はいです。ゴブちゃん、頑張って下さいです」
「ゴブゥ! (なんてこったい!)」
そんなわけで、元賢者の俺が肉体労働に従事することとなった。
これはコッソリ自分に強化魔法を掛けねばならないな。
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