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010 屈服のスラちゃん
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その後、幼女はスライムの猛攻を受け続けた。
何度も何度もタックルされては吹き飛び、全身を泥だらけにする。
俺の魔法で深手は避けているものの、体の至る所に擦り傷が目立つ。
「大した根性だな……」
幼女の姿勢には敬意すら覚えた。
使役魔法〈テイミング〉。
それを成功させるには、魔物を屈服させる必要がある。
屈服の手段で定番なのは、ボコボコにして力量差を分からせること。
しかし、幼女は全く違う手段を採っていた。
それは――敵の攻撃を受け続けること。
何度も何度も攻撃を受ける。
その度に立ち上がり、攻撃が効いていないと思わせる。
これによって、敵が「こりゃ敵わない」と屈服するわけだ。
ボコボコにするのが攻撃だとしたら、これは防御による方法といえる。
当然ながら、ボコボコにするよりも遙かに大変だ。
スライムといえど、大人を殺す程の攻撃力を備えている。
タックルされたり妙な液体をかけられたりし続けると、命が危ない。
「わたしは……スラちゃんと……いっしょにいたいです」
それでも幼女はこの方法に拘った。
スライムを攻撃することは絶対にない。
ただ立ち上がり、両腕を広げて、攻撃を受け続ける。
幼女が死ぬことは万に一つもない。
俺の防御魔法で守られているからだ。
それでも、普通ならこんなことは耐えられない。
スライムに対する優しき想いの強さが感じられた。
「ぴゅー! ぴゅー!」
スライムの猛攻が続く。
「きゃぁ! ふぇぇ!」
何度も、何度も、何度も。
「ぴゅー……! ぴゅー……!」
しかし、攻撃の勢いが次第に弱まっていく。
「ぴゅー……」
いよいよ、完全に攻撃が止んだ。
6時間に及ぶ攻撃の末に、単細胞なスライムでさえ悟った。
これは歯が立たない、と。
「今だ! やれ!」
「はいです!」
幼女が動く。
ボロボロの体で駆け出し、スライムに飛びつく。
「ぴゅー!?」
「スラちゃん、おねがい!」
小さな両腕でスライムを抱きしめ、〈テイミング〉を発動。
「………………」
ハートが浮かび上がる。
「どうだ!?」
ハートがグラグラと揺れる。
「やったか!?」
俺でさえも結果は予想出来ない。
この方法でテイムした経験がないからだ。
緊張感が最高潮に達した時、ハートは――。
ピタッ。
割れなかった!
見事に〈テイミング〉が成功したのだ。
「ぴゅー♪」
スライムが甘えた声を出す。
体の一部を棒状に伸ばして、幼女の頬を撫でた。
「こ、これは……」
「成功したんだよ! 〈テイミング〉が!」
「ふぇぇぇぇ! ほんとうですか!?」
「本当だ! そのスライムはペットになったんだ!」
「わわわっ、わぁぁぁぁぁぁ、やったぁー!」
幼女の顔に無垢な笑みがこぼれる。
その目には嬉しさの涙が溢れていた。
「よかったな、本当に」
こちらまで幸せな気持ちになってくる。
「はいです! ありがとうです!」
「ぴゅーい♪」
こうして、初めての依頼は無事に成功した。
◇
日が暮れた頃、俺達は町に到着した。
「召喚魔法と違い、使役魔法でペットにした奴には、きっちりと食事をさせる必要がある。スライムは適当な雑草を食べさせておけばいけるし、それほど食欲も旺盛ではない。2日に1回程度、近くの草原まで散歩することだな」
簡単な飼育法を説明する。
ペットはテイムしたら終了とはいかない。
そこから別れの時まで飼い続けねばならないのだ。
「わかりましたです。ありがとうございましたです」
幼女が頭をペコリと下げた。
ペットのスラちゃんを大切そうに抱えている。
「分からないことがあったらいつでも訊きに来てくれ。じゃあな」
幼女と解散して店に向かった。
「ただいまーって、ルイゼはまだか」
店には誰も居なかった。
鍵は掛けていないが、泥棒が入った気配もない。
もっとも、入ったところで盗む物はないのだが。
ソファに座った。
「良い経験になったけど……赤字だな」
苦笑いを浮かべる。
ルイゼの日当2500ゴールドを支払えば大赤字だ。
なにせ、幼女から貰ったのはたったの500ゴールドである。
俺の生活費も考慮すると、雀の涙とすら言えない額だった。
「でも、素敵なものを見られたから良しとしよう」
ルイゼが戻ってきたら結果を話してやろう。
もしかしたら感動のあまりに涙を流すかもしれない。
そんなことを考えていると、ルイゼが戻ってきた。
「ロイドー! ロイドォー!」
「お、ルイゼ。おかえり」
「お、ルイゼじゃないよ! どこに行ってたのよ!」
「どこって、あの子の依頼をしていたんだが」
「スライムのテイムでしょ!? そんなに時間かかる!?」
「実はちょっと――」
「それより聞いて聞いて!」
話を遮られる。
よほど捲し立てたいことがあるようだ。
「なんだ?」
ルイゼが隣に座った。
体を密着させて、鼻息を荒くして顔を近づけてくる。
「デカイ依頼を引き受けてきたよー! まさに私達向けのヤバい奴!」
何度も何度もタックルされては吹き飛び、全身を泥だらけにする。
俺の魔法で深手は避けているものの、体の至る所に擦り傷が目立つ。
「大した根性だな……」
幼女の姿勢には敬意すら覚えた。
使役魔法〈テイミング〉。
それを成功させるには、魔物を屈服させる必要がある。
屈服の手段で定番なのは、ボコボコにして力量差を分からせること。
しかし、幼女は全く違う手段を採っていた。
それは――敵の攻撃を受け続けること。
何度も何度も攻撃を受ける。
その度に立ち上がり、攻撃が効いていないと思わせる。
これによって、敵が「こりゃ敵わない」と屈服するわけだ。
ボコボコにするのが攻撃だとしたら、これは防御による方法といえる。
当然ながら、ボコボコにするよりも遙かに大変だ。
スライムといえど、大人を殺す程の攻撃力を備えている。
タックルされたり妙な液体をかけられたりし続けると、命が危ない。
「わたしは……スラちゃんと……いっしょにいたいです」
それでも幼女はこの方法に拘った。
スライムを攻撃することは絶対にない。
ただ立ち上がり、両腕を広げて、攻撃を受け続ける。
幼女が死ぬことは万に一つもない。
俺の防御魔法で守られているからだ。
それでも、普通ならこんなことは耐えられない。
スライムに対する優しき想いの強さが感じられた。
「ぴゅー! ぴゅー!」
スライムの猛攻が続く。
「きゃぁ! ふぇぇ!」
何度も、何度も、何度も。
「ぴゅー……! ぴゅー……!」
しかし、攻撃の勢いが次第に弱まっていく。
「ぴゅー……」
いよいよ、完全に攻撃が止んだ。
6時間に及ぶ攻撃の末に、単細胞なスライムでさえ悟った。
これは歯が立たない、と。
「今だ! やれ!」
「はいです!」
幼女が動く。
ボロボロの体で駆け出し、スライムに飛びつく。
「ぴゅー!?」
「スラちゃん、おねがい!」
小さな両腕でスライムを抱きしめ、〈テイミング〉を発動。
「………………」
ハートが浮かび上がる。
「どうだ!?」
ハートがグラグラと揺れる。
「やったか!?」
俺でさえも結果は予想出来ない。
この方法でテイムした経験がないからだ。
緊張感が最高潮に達した時、ハートは――。
ピタッ。
割れなかった!
見事に〈テイミング〉が成功したのだ。
「ぴゅー♪」
スライムが甘えた声を出す。
体の一部を棒状に伸ばして、幼女の頬を撫でた。
「こ、これは……」
「成功したんだよ! 〈テイミング〉が!」
「ふぇぇぇぇ! ほんとうですか!?」
「本当だ! そのスライムはペットになったんだ!」
「わわわっ、わぁぁぁぁぁぁ、やったぁー!」
幼女の顔に無垢な笑みがこぼれる。
その目には嬉しさの涙が溢れていた。
「よかったな、本当に」
こちらまで幸せな気持ちになってくる。
「はいです! ありがとうです!」
「ぴゅーい♪」
こうして、初めての依頼は無事に成功した。
◇
日が暮れた頃、俺達は町に到着した。
「召喚魔法と違い、使役魔法でペットにした奴には、きっちりと食事をさせる必要がある。スライムは適当な雑草を食べさせておけばいけるし、それほど食欲も旺盛ではない。2日に1回程度、近くの草原まで散歩することだな」
簡単な飼育法を説明する。
ペットはテイムしたら終了とはいかない。
そこから別れの時まで飼い続けねばならないのだ。
「わかりましたです。ありがとうございましたです」
幼女が頭をペコリと下げた。
ペットのスラちゃんを大切そうに抱えている。
「分からないことがあったらいつでも訊きに来てくれ。じゃあな」
幼女と解散して店に向かった。
「ただいまーって、ルイゼはまだか」
店には誰も居なかった。
鍵は掛けていないが、泥棒が入った気配もない。
もっとも、入ったところで盗む物はないのだが。
ソファに座った。
「良い経験になったけど……赤字だな」
苦笑いを浮かべる。
ルイゼの日当2500ゴールドを支払えば大赤字だ。
なにせ、幼女から貰ったのはたったの500ゴールドである。
俺の生活費も考慮すると、雀の涙とすら言えない額だった。
「でも、素敵なものを見られたから良しとしよう」
ルイゼが戻ってきたら結果を話してやろう。
もしかしたら感動のあまりに涙を流すかもしれない。
そんなことを考えていると、ルイゼが戻ってきた。
「ロイドー! ロイドォー!」
「お、ルイゼ。おかえり」
「お、ルイゼじゃないよ! どこに行ってたのよ!」
「どこって、あの子の依頼をしていたんだが」
「スライムのテイムでしょ!? そんなに時間かかる!?」
「実はちょっと――」
「それより聞いて聞いて!」
話を遮られる。
よほど捲し立てたいことがあるようだ。
「なんだ?」
ルイゼが隣に座った。
体を密着させて、鼻息を荒くして顔を近づけてくる。
「デカイ依頼を引き受けてきたよー! まさに私達向けのヤバい奴!」
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