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チャプター9
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9
ダークとリュイの真横に、レイディアントが来るのは一瞬だった。
彼の左手が剣の柄にかかる。
それを視認した直後、光が弧を描いた。
ダークは間一髪、レイディアントの放った斬撃を回避した。
リュイの腕に力が入るのがわかった。
バイクのわずかなふらつきを制御し、直線を飛ばす。
レイディアントは苦もなく追いついて、左に現れた。
今度は刺突が襲ってくる。
急ブレーキで躱したが、ダークの目の前を刃が横切っていた。
しかしレイディアントはライトブリンガーを反転させ、真正面から突進してくる。
ダークは銃を抜く。
リュイが叫んだ。
「だめ! 銃は――」
ダークはライトブリンガーを撃った。
レイディアントが弾を回避し、そこに道ができる。
バイクのスロットルを全開にして、ダークは突っ込んだ。
すれ違う瞬間、レイディアントの斬撃が来る。
それを、振り上げた銃ではじき、逃走を続行した。
ダークは銃を納めながら言った。
「道を譲ってもらうのが狙いだったのさ」
彼もまたレイディアントが、こちらの視線と指の動きと、銃口の向きで弾道予測ができるのを知っていた。
二輌のバイクの距離が、また広がる。
けれどほんのわずかな時間で、また縮まった。
鏡にうつるレイディアントは、剣を鞘に納め、追走してくる。
ダークは前方の爆撃痕を迂回し、横転したSUVの脇をすり抜けた。
レイディアントも同じ軌道で走り、また横につく。
加速し、瓦礫をかわして疾走する。
ライトブリンガーは尚も喰いつき、ミラーからその姿が消えることはなかった。
それでもダークはスピードを緩めない。
ここまで長時間の高速走行は初めてだった。両手に冷たさを感じる。
自分でこうなっているということは、リュイはそれ以上に――。
その時、隙ができた。
レイディアントがまたも真横につき、今度は銃口を向ける。
「よせ!」ダークは叫んだ。「リュイに中たったら――」
しかしレイディアントは撃った。
九ミリパラベラム弾がダークの肩と脇腹を叩き、衝撃が内臓を襲う。
その痛みで、ダークは剥いた目をレイディアントに向けた。
バイクごと彼に急接近し、車体が衝突しそうになったところで、手刀を放った。
手刀はレイディアントに直撃こそしなかったが、そのコースを乱し車両の残骸に向かわせ、急停止を強いる。
しかし進路が乱れたのはこちらも同じであった。
ダークのバイクは瓦礫に乗り上げ、そのままジャンプしてしまう。
後ろでリュイの驚く声がした。
ダークはなんとか空中で姿勢を制御し、バイクの跳んだ先にある遮音壁に着地しようと動いた。遮音壁は基部からへし折れて、地上へと垂れ下がっている。
タイヤが壁の骨格に乗ると、両足でバランスを取り、一気に滑った。
遮音壁全体が震え、軋み、ついには剥がれ落ちる。
ダークはブレーキとスロットルを駆使してバイクを九十度横に回頭させ、道路の支柱側に潜り込んだ。
背後で轟音と共に、遮音壁が地面に叩きつけられて横たわる。
ダークとリュイは、その様に見入っていた。
ダークは一旦エンジンを止めて音を消し、上へと視線を移す。
レイディアントがライトブリンガーごと飛び降りてきたのはその瞬間であった。
火花を伴う着地の後、その場で真円を描いて静止し、レイディアントはこちらを見据えた。
彼もバイクのエンジンを停止させる。
静寂が彼らを包み、数秒の睨み合いの後、ダークとレイディアントはバイクを降りた。
ダークはリュイを数歩下がらせ、ヘルメットを脱ぐ。
レイディアントもヘルメットを脱いだ。
あらわになったレイディアントの顔は、戦時中と変わらない、若々しく端麗なものであった。つややかな髪も、高く筋の通った鼻も、鋭利な輪郭もあの頃のままだ。
首から下の、しなやかでありながら逞しい体と、それを包む輝かしい黒革のスーツも当時さながらである。
が、ただひとつ、明確に違うところがあった。
それは目だ。眼差しであった。
眉間に深いしわが寄って、永久凍土を思わせる眼光がダークを射抜く。
「レイディアント……」ダークは言った。「いったいあなたに何があったんだ……?」
けれどレイディアントは何も答えない。
「カツェさんも心配していた。それに、あなたを慕う人間はまだいる。ここにも、二人いるんだ……」
彼はリュイを一瞥し、視線を戻して続けた。
「レイディアント。あなたはわたしにとって、今でもヒーローなんだ。及ばずながら、あなたの助けになりたい。だからどうか――」
「何もなかった」
「なんだって?」
レイディアントは長い息を吐いて、こう言った。
「商隊を自称する賊と、ひと悶着あったそうだな」
「……連中と会ったのか……」
道理でマキュラの拠点を特定できたわけだ、とダークは思う。
レイディアントは続ける。
「私は統合保安局異端取締部隊の特務士として、ああいった輩を腐るほど見てきた。そしてこれからも見ることになるだろう」
「……だから、迫害を正当化するのか?」
ダークの目が鋭さを増す。
「あんたはほんとうに! それでいいのか!?」
「よしとせぬからこそのプロジェクト・ギガンテラだ」
「なおさら許せるか! 子どもに人殺しをさせることと同じだ!」
「起動中の意識は無い。リュイが殺すわけではない。それに……連中は野獣も同然だ」
「……ふざけたことをぬかすな……!」
ダークは剣を抜き、切っ先をレイディアントに突きつける。
「あんたを! 殺してでも止める! そしてこれ以上名誉を穢さないようにしてやる!」
「やってみろ。この偽者め……」
レイディアントも、こちらに刃を向けた。
彼の剣から、高く鈍い音が発生し、剣身がにわかにぼやける。
超振動が発生したのだ。
「ダーク……」
リュイが呟いた。
ダークとレイディアントは同時に駆け出す。
二振りの剣がぶつかり合い、激しい音がこだました。
すかさず次の攻撃を繰り出す。
ダークは相手の脚へと斬りかかった。
レイディアントはそれを蹴り上げて、銃を抜く。銃口はこちらの頭部に向いていた。
撃たれる前に銃を撥ね上げ、払った手を振り下ろす。
肩口に肘鉄を当てた。
レイディアントがにわかにぐらつき、ダークも銃を持つ。
立て続けに撃ち、レイディアントが全てを躱す。
ダークは彼が避けた先に斬撃を放った。
が、紙一重で防がれる。
レイディアントは剣を持ち上げ、ダークの姿勢を崩しにかかる。
ダークは飛び退き、続いた斬り降ろしを回避した。
空気の焦げつくにおいがして、それに気を取られたところで膝蹴りを受けた。
錆びたフェンスに、ダークは背を打つ。
レイディアントの追撃。
それを転がって避けた。
レイディアントの剣が、フェンスを支柱ごと斬り裂く。
紙細工に刃を入れるかのごとき様であった。
ダークは銃を手放し、両手持ちで斬撃を放った。
両者の剣が斬り結ぶ。
拮抗する剣戟で、ダークはレイディアントがわずかに眉をひそめるのを見た。
鍔迫り合いに持ち込む。
レイディアントの剣にも刃こぼれは見られない。が、震えが弱まりつつある。
ダークは剣ごと腕を押し下げようとした。
しかしレイディアントに力負けし、撥ね上げられる。
がら空きになった胴に、レイディアントの蹴りが入ろうとした。
咄嗟に腰をよじり避ける。
風圧を胸と腹に感じ、ダークは回り込んで斬撃を敢行する。
レイディアントがそれを防いだ次の瞬間、超振動が消えた。
バッテリー切れだ。
ダークは一気に攻めかかる。
回転の勢いをつけた横薙ぎを繰り出し、それが受け止められれば肉薄して肘鉄を放つ。
肘はレイディアントの胸にヒットした。
更に正面蹴りで腹を突き、レイディアントをよろめかせる。
間合いが開いたことで、ダメ押しの一撃は防がれた。
が、ダークは突き出した剣を引っ込め、死角からの攻撃を試みる。
その時であった。
引っ込めたはずの右腕が、レイディアントの左手に掴まれていた。
右手首がロックされ、動かせなくなる。
ダークは無理に剥がれようとせず、相手の懐に飛び込んだ。
しかしレイディアントは剣を手放し、右拳を飛ばしてきた。
ダークは左腕でガードする。だが左前腕部は真っ二つにへし折れ、手首から先が宙に弧を描いた。
更なるレイディアントの追い討ち。
手刀が右腕へと降ってくる。
ダークは全身で右腕を引っ張るが、同じように前腕部からもがれた。
結果的に拘束が解けたものの、後ろにふらついてレイディアントのハイキックをまともに喰らう。
地に伏せたダークだが、両腕にはまだ肘関節が残っていた。
レイディアントのヒールドロップを間一髪回避して立ち上がる。
タックルして両肘で胴に組みついた。
が、たやすく引き剥がされ、背負投を受ける。
ダークは背中を地面に叩きつけられ、低く呻く。
レイディアントが、その隙に剣を拾うのが見えた。
直後に横へ転がり、逆手に持った剣の突き降ろしを躱す。
膝立ちになり、地を蹴った。
ダークはラリアートを放ち、レイディアントの喉を狙う。
命中こそしたものの、軽い上に箇所がズレていた。
レイディアントはわずかに揺らいだだけで、左ストレートで反撃してくる。
ダークは拳をまともに喰らい、吹っ飛んだ。
衝撃に顔を歪めていると、レイディアントの刺突が襲う。
ギリギリで回避し、ショルダータックルを繰り出した。
ダークとレイディアントはもろとも転がる。その中で上を取ったのはダークだった。
脚を振り上げ、ダークは踏みつけを放つ。
しかし、レイディアントの指がダークのブーツを掴み、押し返す。
上下が逆転するのは一瞬だった。
レイディアントが勢いをつけて上体を起こすと、ダークは仰向けに倒れていた。
ダークは続けざまに胸ぐらを引っ掴まれる。
そしてヘッドバットを喰らい、額が割れた。
が、ダークは肘をレイディアントの首に絡ませ、頭突きを返す。
その打撃はレイディアントの額を赤くするだけに留まった。
ダークの組み付きはあっという間に剥がされ、左拳でボディーブローを受ける。
終いに、胸へのソバットで吹っ飛ばされた。
ダークは高架道路の柱脚へと叩きつけられ、とうとうダウンした。
内臓が激痛を訴え、両脚にもまともに力が入らない。
戦意は充分なのに、もう体が追いつかない。
「ダーク……ダーク!」
リュイの、悲鳴めいた声がした。けれどその声すら遠くに感じる。
痛み以外の感覚が鈍麻してゆき、視界のダメージアラートが赤信号を灯す。
レイディアントは悠然と立ち、歩いてくる。
その時、リュイが二人の間に割って入った。
彼はレイディアントに面と向かい、両腕を広げていた。
レイディアントが言う。
「リュイ、どきなさい」
「ダークを殺す気なんでしょう……?」
とリュイは言った。
「お願いやめて! もうダークは闘えないよ!」
「ダメだ。彼は殺さねばならん」
「どうして!? ぼくを連れてくのがお父さんの任務なんでしょう?!」
「そうだ」
「じゃあなおさら、ダークはほっといてあげてよ!」
「ではその後は?」
レイディアントの視線がリュイを射抜いた。
「生かしてもらった恩を胸に敵対をやめると思うか? 彼はいずれ復活し、また我々に挑んでくるだろう。恩を仇で返すようにな……。そうやって不毛な争いは続くんだ。リュイ、わからないか?」
彼はホルスターの拳銃を抜き、リュイの足元に投げた。
「どうしてもと言うなら、私を殺すことだ……」
「リュイ……」
ダークはかすれた声で言った。
リュイがレイディアントの銃を拾う。彼の肩が震えているのが見えた。
そして彼はレイディアントへ銃口を向ける。
だが、次の一瞬で銃はリュイの手からはじけ、地を滑っていた。
レイディアントの剣が銃を撥ねたのだ。
彼はリュイを迂回し、ダークへ近づく。
そんな彼の脚に、リュイはしがみついた。
「ダークを、殺さないで!」
「邪魔をするんじゃない」
レイディアントはリュイを剥がす。
リュイは両膝をついて、肩を落とし、一筋の涙を流した。
震えた唇で、リュイが言う。
「お父さん……」
その言葉に、レイディアントは振り向く。
するとリュイは両手をつき、レイディアントに向かって深く頭を下げた。
額が地面について、涙がぽたぽたと落ちる。
「お願いします……どうか……ダークを、殺さないでください……」
リュイの土下座を目の当たりにして、ダークは目を見開いた。
レイディアントもにわかに顔を蒼くし、
「……顔を上げるんだ」
と歯を食いしばる。
けれどリュイは、声を震わせて懇願する。
「ダークをたすけて……赦して……おねがいします……」
ダークは声が出せなかった。そんなことをしなくていいと言いたいのに、そうするほどの余力が、もはや無かった。
レイディアントが目を逸らした。
その時であった。
暗い青の影が翻り、レイディアントを蹴った。
レイディアントは盛大に吹き飛び、フェンスを突き破って転がる。
「子どもを泣かせるとは……ヒーロー失格だな。レイディアント」
リュイとダークの前に現れたのは、アストルだった。
⦿
アストルはシーブルーのコートをなびかせ、マスクの裏で息を吐き出す。
彼人はリュイの前に膝をつき、涙を拭ってやる。
「二人でよくがんばったね……」
「アストルさん……」
「さあ、追手が来る前に逃げようじゃないか」
アストルとリュイは、ダークの方へ駆け寄る。
しかし砲声めいた轟音が響き、その足元に大穴が開く。
リュイがびくつき、アストルも身構えて銃撃の方を見た。
「見事な足止めだった。アストル……」
皆が向き直ると、小高いところに数人の影が立っていた。
「だが我々のリカバリーも、たいしたものだろう?」
「きさま……!」
アストルは拳を握りしめる。
現れたのはブリッツとその親衛隊だった。彼は右手の対物ライフルをアストルに向け、左手はカツェを捕らえていた。
親衛隊に銃を突きつけられるカツェの目が、リュイに向く。
「お母さん!」
「リュイ逃げて!」
「静かになさってください」
親衛隊が言った。
ブリッツは彼女を横目で見てから、またアストルを見る。
「さて、改めて……久しぶりだな、アストル。元気そうで嬉しいよ。と言いたいが……」
彼は困り眉になって言った。
「前に、きみの手下に独裁者呼ばわりされたんだ」
「違うとでも言いたいのか?」
「私は言論を規制してはいない。私への意見、嘆願、風刺、罵詈雑言に誹謗中傷、何を言っても構わないし、私を斃した者に世界総督の座を譲ってやろうとまで思ってるんだ」
「だがそれはオマエの主観で決めた、正当民などという枠組みの中だけの話だろう」
「そうしなければ秩序が維持できない。必要悪だよ」
ブリッツは薄ら笑いを潜め、続ける。
「先の戦争で学んだろう? 全員を救うことはできない。ならばより数の少ない者たちに犠牲になってもらうほかない。でなければかれらは権利を求めて横暴を繰り返す。自分たちの身の程もわきまえずに……やがて破綻するだろう。そんな悲劇を抑止し、限られた富と幸を平等に分配するための、正当民と異端民の区分だ」
「いいや違う」アストルはブリッツを睨みつけた。「身の程だと? しょせんはオマエのケチな選民思想に尤もらしい理屈をつけているだけに過ぎん」
「そこに落とし穴があるんだよ。アストル」
ブリッツがため息をついた。
「私だって不当な迫害は許せないさ。だがそういう過剰な平等志向が人口を爆発させ、価値観にカオスをもたらし、戦争を引き起こした。私の政策は、そんな前時代的な過ちを繰り返さないためにある」
「ほお、オマエがやっているのは正当でほどよい迫害というわけか」
アストルはマスクの裏で歯ぎしりした。
「そんなものがあるわけないだろう!」
「……きみと政策の話をすると、だいたい平行線になるな……」
「富と幸がゼロサムだと勘違いしている時点で話にならん」
ブリッツはカツェの身柄を親衛隊に任せ、両手で対物ライフルを構えた。
アストルは拳を突き出し、応戦体勢に入る。
「闘うならそれもいいが、きみのほうが不利だぞ。リュイを護りながらだし、そこにボロクズのように転がっている醜いパチモノも足手まといだろう。そもそも、我々のほうが数で勝っている。――そうだろう? レイ」
アストルは背後にレイディアントの気配を感じた。
こちらに剣を向け、いつでも攻撃できる状態であるのは察しがつく。
「きみは我々の予算と設備が使えなくなって久しい」ブリッツが言った。「そんな赤貧状態で、このバレットライフルの弾を防げるようなアップグレードができているとは思えんね」
「それはお互いさまだろう。私とそのチームが抜けただけで、ギガンテラとやらの制御に四苦八苦しているそうじゃないか」
「……そうだ。そうだったな」
ブリッツは決まりの悪そうな笑い顔を浮かべ、銃を下ろした。
「何も私たちが争うことはないんだ」
そして彼はリュイに目を向け、言う。
「二つに一つだ、アストル。きみが我々のところに帰るか、リュイを差し出すか。好きな方を選べ。なんならきみとリュイ、二人とも戻ってきてくれてもいいぞ」
「ふざけるな。どちらもお断りだ」
「なら闘うしかないか」
と、ブリッツが再度ライフルを構えようとした時、
「待って!」
リュイが声を上げた。
「ぼくが戻ったら……ダークを見逃してくれる……?」
「リュイくん、いいんだ。きみは――」
アストルの言葉の途中で、彼は進み出る。
ブリッツはダークに一瞥をくれ、言った。
「かまわないが、そいつは父さんの偽者だぞ? レイディアントに及ばぬまがいものに、どうしてそこまで入れ込むんだい?」
「偽者なんかじゃない……ダークは……」
リュイがダークのほうを向くと、ダークは苦しげな声を出して、わずかにうごめいた。
彼はダークへ微笑みかけて、アストルに言う。
「きっと……マキュラにはアストルさんとダークが必要です。だから……」
涙をこぼし、リュイは言った。
「ダークのこと、お願いします」
「リュイくん……」
彼は涙を拭き、カツェの方へ歩く。
息子を目の前にして、彼女は泣きながらうなだれた。
背後ではレイディアントが剣を納め、ライトブリンガーに乗る。
ブリッツたちが姿を消すと、レイディアントもバイクのエンジンを始動させた。
「レイディアント……」アストルは睨む。「オマエには、ほんとうに失望したぞ……」
「……どの口が言うんだ」
レイディアントはヘルメットを被って、睨視を返す。シールドの裏の眼差しがアストルを刺した。
「逃げて何もしなかったくせに、偉そうに……」
ひとつ大きく空ぶかしすると、レイディアントは走り去っていった。
黄色くくすんだ太陽の光が、場に取り残されたアストルとダークを照らしていた。
ダークとリュイの真横に、レイディアントが来るのは一瞬だった。
彼の左手が剣の柄にかかる。
それを視認した直後、光が弧を描いた。
ダークは間一髪、レイディアントの放った斬撃を回避した。
リュイの腕に力が入るのがわかった。
バイクのわずかなふらつきを制御し、直線を飛ばす。
レイディアントは苦もなく追いついて、左に現れた。
今度は刺突が襲ってくる。
急ブレーキで躱したが、ダークの目の前を刃が横切っていた。
しかしレイディアントはライトブリンガーを反転させ、真正面から突進してくる。
ダークは銃を抜く。
リュイが叫んだ。
「だめ! 銃は――」
ダークはライトブリンガーを撃った。
レイディアントが弾を回避し、そこに道ができる。
バイクのスロットルを全開にして、ダークは突っ込んだ。
すれ違う瞬間、レイディアントの斬撃が来る。
それを、振り上げた銃ではじき、逃走を続行した。
ダークは銃を納めながら言った。
「道を譲ってもらうのが狙いだったのさ」
彼もまたレイディアントが、こちらの視線と指の動きと、銃口の向きで弾道予測ができるのを知っていた。
二輌のバイクの距離が、また広がる。
けれどほんのわずかな時間で、また縮まった。
鏡にうつるレイディアントは、剣を鞘に納め、追走してくる。
ダークは前方の爆撃痕を迂回し、横転したSUVの脇をすり抜けた。
レイディアントも同じ軌道で走り、また横につく。
加速し、瓦礫をかわして疾走する。
ライトブリンガーは尚も喰いつき、ミラーからその姿が消えることはなかった。
それでもダークはスピードを緩めない。
ここまで長時間の高速走行は初めてだった。両手に冷たさを感じる。
自分でこうなっているということは、リュイはそれ以上に――。
その時、隙ができた。
レイディアントがまたも真横につき、今度は銃口を向ける。
「よせ!」ダークは叫んだ。「リュイに中たったら――」
しかしレイディアントは撃った。
九ミリパラベラム弾がダークの肩と脇腹を叩き、衝撃が内臓を襲う。
その痛みで、ダークは剥いた目をレイディアントに向けた。
バイクごと彼に急接近し、車体が衝突しそうになったところで、手刀を放った。
手刀はレイディアントに直撃こそしなかったが、そのコースを乱し車両の残骸に向かわせ、急停止を強いる。
しかし進路が乱れたのはこちらも同じであった。
ダークのバイクは瓦礫に乗り上げ、そのままジャンプしてしまう。
後ろでリュイの驚く声がした。
ダークはなんとか空中で姿勢を制御し、バイクの跳んだ先にある遮音壁に着地しようと動いた。遮音壁は基部からへし折れて、地上へと垂れ下がっている。
タイヤが壁の骨格に乗ると、両足でバランスを取り、一気に滑った。
遮音壁全体が震え、軋み、ついには剥がれ落ちる。
ダークはブレーキとスロットルを駆使してバイクを九十度横に回頭させ、道路の支柱側に潜り込んだ。
背後で轟音と共に、遮音壁が地面に叩きつけられて横たわる。
ダークとリュイは、その様に見入っていた。
ダークは一旦エンジンを止めて音を消し、上へと視線を移す。
レイディアントがライトブリンガーごと飛び降りてきたのはその瞬間であった。
火花を伴う着地の後、その場で真円を描いて静止し、レイディアントはこちらを見据えた。
彼もバイクのエンジンを停止させる。
静寂が彼らを包み、数秒の睨み合いの後、ダークとレイディアントはバイクを降りた。
ダークはリュイを数歩下がらせ、ヘルメットを脱ぐ。
レイディアントもヘルメットを脱いだ。
あらわになったレイディアントの顔は、戦時中と変わらない、若々しく端麗なものであった。つややかな髪も、高く筋の通った鼻も、鋭利な輪郭もあの頃のままだ。
首から下の、しなやかでありながら逞しい体と、それを包む輝かしい黒革のスーツも当時さながらである。
が、ただひとつ、明確に違うところがあった。
それは目だ。眼差しであった。
眉間に深いしわが寄って、永久凍土を思わせる眼光がダークを射抜く。
「レイディアント……」ダークは言った。「いったいあなたに何があったんだ……?」
けれどレイディアントは何も答えない。
「カツェさんも心配していた。それに、あなたを慕う人間はまだいる。ここにも、二人いるんだ……」
彼はリュイを一瞥し、視線を戻して続けた。
「レイディアント。あなたはわたしにとって、今でもヒーローなんだ。及ばずながら、あなたの助けになりたい。だからどうか――」
「何もなかった」
「なんだって?」
レイディアントは長い息を吐いて、こう言った。
「商隊を自称する賊と、ひと悶着あったそうだな」
「……連中と会ったのか……」
道理でマキュラの拠点を特定できたわけだ、とダークは思う。
レイディアントは続ける。
「私は統合保安局異端取締部隊の特務士として、ああいった輩を腐るほど見てきた。そしてこれからも見ることになるだろう」
「……だから、迫害を正当化するのか?」
ダークの目が鋭さを増す。
「あんたはほんとうに! それでいいのか!?」
「よしとせぬからこそのプロジェクト・ギガンテラだ」
「なおさら許せるか! 子どもに人殺しをさせることと同じだ!」
「起動中の意識は無い。リュイが殺すわけではない。それに……連中は野獣も同然だ」
「……ふざけたことをぬかすな……!」
ダークは剣を抜き、切っ先をレイディアントに突きつける。
「あんたを! 殺してでも止める! そしてこれ以上名誉を穢さないようにしてやる!」
「やってみろ。この偽者め……」
レイディアントも、こちらに刃を向けた。
彼の剣から、高く鈍い音が発生し、剣身がにわかにぼやける。
超振動が発生したのだ。
「ダーク……」
リュイが呟いた。
ダークとレイディアントは同時に駆け出す。
二振りの剣がぶつかり合い、激しい音がこだました。
すかさず次の攻撃を繰り出す。
ダークは相手の脚へと斬りかかった。
レイディアントはそれを蹴り上げて、銃を抜く。銃口はこちらの頭部に向いていた。
撃たれる前に銃を撥ね上げ、払った手を振り下ろす。
肩口に肘鉄を当てた。
レイディアントがにわかにぐらつき、ダークも銃を持つ。
立て続けに撃ち、レイディアントが全てを躱す。
ダークは彼が避けた先に斬撃を放った。
が、紙一重で防がれる。
レイディアントは剣を持ち上げ、ダークの姿勢を崩しにかかる。
ダークは飛び退き、続いた斬り降ろしを回避した。
空気の焦げつくにおいがして、それに気を取られたところで膝蹴りを受けた。
錆びたフェンスに、ダークは背を打つ。
レイディアントの追撃。
それを転がって避けた。
レイディアントの剣が、フェンスを支柱ごと斬り裂く。
紙細工に刃を入れるかのごとき様であった。
ダークは銃を手放し、両手持ちで斬撃を放った。
両者の剣が斬り結ぶ。
拮抗する剣戟で、ダークはレイディアントがわずかに眉をひそめるのを見た。
鍔迫り合いに持ち込む。
レイディアントの剣にも刃こぼれは見られない。が、震えが弱まりつつある。
ダークは剣ごと腕を押し下げようとした。
しかしレイディアントに力負けし、撥ね上げられる。
がら空きになった胴に、レイディアントの蹴りが入ろうとした。
咄嗟に腰をよじり避ける。
風圧を胸と腹に感じ、ダークは回り込んで斬撃を敢行する。
レイディアントがそれを防いだ次の瞬間、超振動が消えた。
バッテリー切れだ。
ダークは一気に攻めかかる。
回転の勢いをつけた横薙ぎを繰り出し、それが受け止められれば肉薄して肘鉄を放つ。
肘はレイディアントの胸にヒットした。
更に正面蹴りで腹を突き、レイディアントをよろめかせる。
間合いが開いたことで、ダメ押しの一撃は防がれた。
が、ダークは突き出した剣を引っ込め、死角からの攻撃を試みる。
その時であった。
引っ込めたはずの右腕が、レイディアントの左手に掴まれていた。
右手首がロックされ、動かせなくなる。
ダークは無理に剥がれようとせず、相手の懐に飛び込んだ。
しかしレイディアントは剣を手放し、右拳を飛ばしてきた。
ダークは左腕でガードする。だが左前腕部は真っ二つにへし折れ、手首から先が宙に弧を描いた。
更なるレイディアントの追い討ち。
手刀が右腕へと降ってくる。
ダークは全身で右腕を引っ張るが、同じように前腕部からもがれた。
結果的に拘束が解けたものの、後ろにふらついてレイディアントのハイキックをまともに喰らう。
地に伏せたダークだが、両腕にはまだ肘関節が残っていた。
レイディアントのヒールドロップを間一髪回避して立ち上がる。
タックルして両肘で胴に組みついた。
が、たやすく引き剥がされ、背負投を受ける。
ダークは背中を地面に叩きつけられ、低く呻く。
レイディアントが、その隙に剣を拾うのが見えた。
直後に横へ転がり、逆手に持った剣の突き降ろしを躱す。
膝立ちになり、地を蹴った。
ダークはラリアートを放ち、レイディアントの喉を狙う。
命中こそしたものの、軽い上に箇所がズレていた。
レイディアントはわずかに揺らいだだけで、左ストレートで反撃してくる。
ダークは拳をまともに喰らい、吹っ飛んだ。
衝撃に顔を歪めていると、レイディアントの刺突が襲う。
ギリギリで回避し、ショルダータックルを繰り出した。
ダークとレイディアントはもろとも転がる。その中で上を取ったのはダークだった。
脚を振り上げ、ダークは踏みつけを放つ。
しかし、レイディアントの指がダークのブーツを掴み、押し返す。
上下が逆転するのは一瞬だった。
レイディアントが勢いをつけて上体を起こすと、ダークは仰向けに倒れていた。
ダークは続けざまに胸ぐらを引っ掴まれる。
そしてヘッドバットを喰らい、額が割れた。
が、ダークは肘をレイディアントの首に絡ませ、頭突きを返す。
その打撃はレイディアントの額を赤くするだけに留まった。
ダークの組み付きはあっという間に剥がされ、左拳でボディーブローを受ける。
終いに、胸へのソバットで吹っ飛ばされた。
ダークは高架道路の柱脚へと叩きつけられ、とうとうダウンした。
内臓が激痛を訴え、両脚にもまともに力が入らない。
戦意は充分なのに、もう体が追いつかない。
「ダーク……ダーク!」
リュイの、悲鳴めいた声がした。けれどその声すら遠くに感じる。
痛み以外の感覚が鈍麻してゆき、視界のダメージアラートが赤信号を灯す。
レイディアントは悠然と立ち、歩いてくる。
その時、リュイが二人の間に割って入った。
彼はレイディアントに面と向かい、両腕を広げていた。
レイディアントが言う。
「リュイ、どきなさい」
「ダークを殺す気なんでしょう……?」
とリュイは言った。
「お願いやめて! もうダークは闘えないよ!」
「ダメだ。彼は殺さねばならん」
「どうして!? ぼくを連れてくのがお父さんの任務なんでしょう?!」
「そうだ」
「じゃあなおさら、ダークはほっといてあげてよ!」
「ではその後は?」
レイディアントの視線がリュイを射抜いた。
「生かしてもらった恩を胸に敵対をやめると思うか? 彼はいずれ復活し、また我々に挑んでくるだろう。恩を仇で返すようにな……。そうやって不毛な争いは続くんだ。リュイ、わからないか?」
彼はホルスターの拳銃を抜き、リュイの足元に投げた。
「どうしてもと言うなら、私を殺すことだ……」
「リュイ……」
ダークはかすれた声で言った。
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だが、次の一瞬で銃はリュイの手からはじけ、地を滑っていた。
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「邪魔をするんじゃない」
レイディアントはリュイを剥がす。
リュイは両膝をついて、肩を落とし、一筋の涙を流した。
震えた唇で、リュイが言う。
「お父さん……」
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するとリュイは両手をつき、レイディアントに向かって深く頭を下げた。
額が地面について、涙がぽたぽたと落ちる。
「お願いします……どうか……ダークを、殺さないでください……」
リュイの土下座を目の当たりにして、ダークは目を見開いた。
レイディアントもにわかに顔を蒼くし、
「……顔を上げるんだ」
と歯を食いしばる。
けれどリュイは、声を震わせて懇願する。
「ダークをたすけて……赦して……おねがいします……」
ダークは声が出せなかった。そんなことをしなくていいと言いたいのに、そうするほどの余力が、もはや無かった。
レイディアントが目を逸らした。
その時であった。
暗い青の影が翻り、レイディアントを蹴った。
レイディアントは盛大に吹き飛び、フェンスを突き破って転がる。
「子どもを泣かせるとは……ヒーロー失格だな。レイディアント」
リュイとダークの前に現れたのは、アストルだった。
⦿
アストルはシーブルーのコートをなびかせ、マスクの裏で息を吐き出す。
彼人はリュイの前に膝をつき、涙を拭ってやる。
「二人でよくがんばったね……」
「アストルさん……」
「さあ、追手が来る前に逃げようじゃないか」
アストルとリュイは、ダークの方へ駆け寄る。
しかし砲声めいた轟音が響き、その足元に大穴が開く。
リュイがびくつき、アストルも身構えて銃撃の方を見た。
「見事な足止めだった。アストル……」
皆が向き直ると、小高いところに数人の影が立っていた。
「だが我々のリカバリーも、たいしたものだろう?」
「きさま……!」
アストルは拳を握りしめる。
現れたのはブリッツとその親衛隊だった。彼は右手の対物ライフルをアストルに向け、左手はカツェを捕らえていた。
親衛隊に銃を突きつけられるカツェの目が、リュイに向く。
「お母さん!」
「リュイ逃げて!」
「静かになさってください」
親衛隊が言った。
ブリッツは彼女を横目で見てから、またアストルを見る。
「さて、改めて……久しぶりだな、アストル。元気そうで嬉しいよ。と言いたいが……」
彼は困り眉になって言った。
「前に、きみの手下に独裁者呼ばわりされたんだ」
「違うとでも言いたいのか?」
「私は言論を規制してはいない。私への意見、嘆願、風刺、罵詈雑言に誹謗中傷、何を言っても構わないし、私を斃した者に世界総督の座を譲ってやろうとまで思ってるんだ」
「だがそれはオマエの主観で決めた、正当民などという枠組みの中だけの話だろう」
「そうしなければ秩序が維持できない。必要悪だよ」
ブリッツは薄ら笑いを潜め、続ける。
「先の戦争で学んだろう? 全員を救うことはできない。ならばより数の少ない者たちに犠牲になってもらうほかない。でなければかれらは権利を求めて横暴を繰り返す。自分たちの身の程もわきまえずに……やがて破綻するだろう。そんな悲劇を抑止し、限られた富と幸を平等に分配するための、正当民と異端民の区分だ」
「いいや違う」アストルはブリッツを睨みつけた。「身の程だと? しょせんはオマエのケチな選民思想に尤もらしい理屈をつけているだけに過ぎん」
「そこに落とし穴があるんだよ。アストル」
ブリッツがため息をついた。
「私だって不当な迫害は許せないさ。だがそういう過剰な平等志向が人口を爆発させ、価値観にカオスをもたらし、戦争を引き起こした。私の政策は、そんな前時代的な過ちを繰り返さないためにある」
「ほお、オマエがやっているのは正当でほどよい迫害というわけか」
アストルはマスクの裏で歯ぎしりした。
「そんなものがあるわけないだろう!」
「……きみと政策の話をすると、だいたい平行線になるな……」
「富と幸がゼロサムだと勘違いしている時点で話にならん」
ブリッツはカツェの身柄を親衛隊に任せ、両手で対物ライフルを構えた。
アストルは拳を突き出し、応戦体勢に入る。
「闘うならそれもいいが、きみのほうが不利だぞ。リュイを護りながらだし、そこにボロクズのように転がっている醜いパチモノも足手まといだろう。そもそも、我々のほうが数で勝っている。――そうだろう? レイ」
アストルは背後にレイディアントの気配を感じた。
こちらに剣を向け、いつでも攻撃できる状態であるのは察しがつく。
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「それはお互いさまだろう。私とそのチームが抜けただけで、ギガンテラとやらの制御に四苦八苦しているそうじゃないか」
「……そうだ。そうだったな」
ブリッツは決まりの悪そうな笑い顔を浮かべ、銃を下ろした。
「何も私たちが争うことはないんだ」
そして彼はリュイに目を向け、言う。
「二つに一つだ、アストル。きみが我々のところに帰るか、リュイを差し出すか。好きな方を選べ。なんならきみとリュイ、二人とも戻ってきてくれてもいいぞ」
「ふざけるな。どちらもお断りだ」
「なら闘うしかないか」
と、ブリッツが再度ライフルを構えようとした時、
「待って!」
リュイが声を上げた。
「ぼくが戻ったら……ダークを見逃してくれる……?」
「リュイくん、いいんだ。きみは――」
アストルの言葉の途中で、彼は進み出る。
ブリッツはダークに一瞥をくれ、言った。
「かまわないが、そいつは父さんの偽者だぞ? レイディアントに及ばぬまがいものに、どうしてそこまで入れ込むんだい?」
「偽者なんかじゃない……ダークは……」
リュイがダークのほうを向くと、ダークは苦しげな声を出して、わずかにうごめいた。
彼はダークへ微笑みかけて、アストルに言う。
「きっと……マキュラにはアストルさんとダークが必要です。だから……」
涙をこぼし、リュイは言った。
「ダークのこと、お願いします」
「リュイくん……」
彼は涙を拭き、カツェの方へ歩く。
息子を目の前にして、彼女は泣きながらうなだれた。
背後ではレイディアントが剣を納め、ライトブリンガーに乗る。
ブリッツたちが姿を消すと、レイディアントもバイクのエンジンを始動させた。
「レイディアント……」アストルは睨む。「オマエには、ほんとうに失望したぞ……」
「……どの口が言うんだ」
レイディアントはヘルメットを被って、睨視を返す。シールドの裏の眼差しがアストルを刺した。
「逃げて何もしなかったくせに、偉そうに……」
ひとつ大きく空ぶかしすると、レイディアントは走り去っていった。
黄色くくすんだ太陽の光が、場に取り残されたアストルとダークを照らしていた。
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