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チャプター5
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5
誰もが寝静まったであろう真夜中。
レイディアントはイトリの部隊を率いて、異端民の集団を取り締まっていた。リュイの件を報告してきた保証区域へ向かう途中、見つけた連中だ。
彼は、商隊を自称する異端民集団を適当な道路休憩施設跡地へ誘導、包囲した後、然るべき対応を取る。部下たちが車両の中身を押収し、逃亡を図ろうとしていた異端民らを護送車に連行していった。
その様を見てから、商隊長の眼前に迫る。
端末を取り出し、画面を見せて言った。
「我々はこの母子を捜している。心当たりはあるか?」
「言ったら見逃して――」
レイディアントの平手打ち。
「どうなんだ?」
「ああ……あるよ。それどころか、すこし前までトレーラーに乗ってた……」
「前まで? なぜいない?」
「連れの男が仲間を伸して、バイクで消えやがったんだ」
商隊長の言葉で、レイディアントは顔に包帯を巻いたヘルメット男と、簡易ベッドに横たわる男を見た。彼は右腕を失くし、左脚を固定していた。
「連れの男と言ったな……。母親ではないのか?」
「ああ……いたのは写真のガキだけだ」
商隊長は答えてから、こちらを見上げる。
「男のほうは……あんたとそっくりの格好だった……。なあ、これはかなりの手がかりになるだろう?」
「二人はどこへ行った?」
「マキュラの本拠地に行きたいっつってたんだ。尤も、詳しい場所は俺らも知らねえから、噂に聞いた場所の近くで降ろそうと……」
「詳しく教えてもらおうか」
「ああ、わかった……まず、緯度と経度なんだが――」
商隊長が話し出す。
おおかた聴き終えて、必要な情報を得たレイディアントは、
「もういい」
と背を向けた。
「行け」
「え? それは……見逃してくれるってこと――」
「この場で殺されたいか?」
「いや、とんでもねえ……感謝するよ、ミスター・レイディアント」
商隊長は黄ばんだ歯を見せて笑った。
「保証区域の中でも外でも、みんなあんたは権力に溺れたクズだって言ってるが……そうじゃなかったんだな。恩に着るぜ」
そして、商隊はそそくさと車に乗り込み、走り出した。
商隊を見送ったレイディアントに、部下の一人が言った。
「案の定でしたね。しかし異端民のくせにリュイさまと話すなんて……」
レイディアントは彼に見向きもせず、商隊を目で追う。連中は眼下に伸びる道路を、猛スピードで走っていた。
部下がまた言う。
「でも見逃していいんですか? あいつらどうせ――」
レイディアントは背後に停まっていた装甲車へときびすを返すと、ロケットランチャー数挺を取り出した。
部下が声を上げる。
「えっまさか――!?」
レイディアントはランチャー後部を引き伸ばし、安全装置を解除する。
そして肩に担ぎ、撃った。
盛大なバックブラストと共に、ロケット弾が飛ぶ。
それは商隊のトレーラーに命中し、爆破した。
レイディアントは発射済みのランチャーを足元に捨て、さらにもう一発撃つ。
狙いは他の中小車両だ。
持ち出したロケットランチャーを全部撃ち尽くして、彼は商隊を殲滅した。
残ったのは、赤々と燃え上がる残骸ばかりとなった。
「消火隊を呼べ」
レイディアントは言った。
振り返ると、足元に部下の一人がうずくまって呻いている。
別の部下が言う。
「さきほどのバックブラストで、火傷を……」
レイディアントは拳銃を抜き、悶える部下を射殺した。
銃声の後に静寂が場を支配し、レイディアントは部下たちの唖然とした視線を一身に浴びる。
「ロケットランチャーを使うというのに真後ろにいる無能は必要ない」
レイディアントは言い、端末を取り出した。
「私だ。リュイの行き先がわかった。出動だ」
⦿
朝が来て、ダークは廃ビル内を軽く見て回ってから、リュイのところへ戻ってきた。
と同時に、リュイが目を覚まし、上体を起こす。
「おはよう」
ダークは言いながら剣を納める。
「おはよう、ダーク」
リュイが微笑みかけた。
二人は朝食にナッツを食べ、すみやかに出発準備を行う。
ジャケットとヘルメットを着用しながら、リュイが訊ねてきた。
「ねえ、ダーク。マキュラの本部って、どこにあるの?」
「詳しい場所はトップシークレットで、わたしも知らない。けど、おおよその目星はついてる」
ダークは荷物を固定しつつ、続ける。
「ここからだと夕方くらいには到着できるはずだ」
バイクのエンジンをかけ、出発した。
廃墟の街を抜けて山道に入ると、晴れ空も相まってさわやかな風が二人に吹きつける。
緑のにおいを嗅ぎながら、ダークはすこし心持ちが穏やかになった。
すると、腰にリュイを感じる。
背中から抱きしめる形で、腕を回してきたのだ。ダークはそんな彼へ鏡越しに微笑んだ。
順調な道のりであった。
これなら昼過ぎには想定の地域まで行けるだろう。
そう思った矢先、眼前の橋が崩落しているのに気づいた。
ダークはブレーキをかけ、橋を見る。
橋の破壊痕は、まだ新しい。新しすぎる。今日壊れたばかりと考えたほうが自然なくらいだ。
拡張現実モードで、温度を調べてみる。
断面付近が他の箇所に比べて高温だった。
「リュイ」ダークは言った。「右のサイドバッグに、小さなリボルバー拳銃が入ってる」
リュイは件の銃を取り出してみせる。
「これのこと?」
「使い方はわかるかい?」
「いちおうは……」
「念の為に持っておくんだ。この橋は……誰かが壊した」
「え……まさか……」
「わたしたちを狙ってるかもしれない。気をつけて」
ダークはバイクに乗ったまま、背筋を伸ばして迂回ルートを探す。
すこし離れたところに、潜水橋を見つけた。
行くしかないか。
ダークは眉間にしわを寄せ、装備ベルトを巻きつける。腰の拳銃と、ポーチ内の予備弾薬を確認し、斜め掛けのサスペンダーにマウントした剣の固定をチェックする。
そして、潜水橋へと向かった。
堤防を下り、橋の前に至る。
橋は二、三メートルほどの狭い幅に、極めて低い欄干を持つ質素な造りであった。
対岸には伸びに伸びた雑草が壁のごとく生え並び、視界は悪い。
しかしその裏に、複数人の体温と、人数分の熱源反応がある。おそらくオフロードバイクだ。
あからさまな待ち伏せだが、突破するよりほかない。
「全速力で飛ばす。掴まっているんだ」
ダークの言葉に、リュイは頷き、腰を強くホールドした。
深呼吸の後、フルスロットルで走り出す。
熱源からの狙撃に注意しながら、橋の上三分の一ほどまで来た。
その時、草の中からオフロードバイクが飛び出した。
オフロードバイクの一団はダークたちの行く道を阻み、銃口を向けてくる。
ダークは急制動をかけた。
後ろからも仲間と思しき連中が現れ、退路を塞ぐ。
ダークとリュイはバイクを降り、戦闘準備をしつつ敵の一団を見据えた。
黒いライディングジャケットに、鉄色のゴーリーマスクめいた仮面を被る連中だ。構えているのはイトリ制式カービンだが、一人だけフルサイズのアサルトライフルに銃剣を装着していた。
彼らを見て、リュイが言う。
「……お父さんの――直轄部隊だ」
「直轄部隊……?」
ダークの言葉に、リュイは頷く。
「キィとお母さんが言ってた。一度だけ、遠目に見たことがあるんだ……」
次の瞬間、敵の銃が火を噴いた。
弾はダークの右腿を穿ち、片膝をつかせる。
リュイが青ざめて名を叫ぶ。
痛みは無いが、銃創からは赤みを帯びた灰色の液体が流れ、視界にダメージアラートが表示された。
徹甲弾か。
ダークは顔を上げて直轄部隊を見た。
直轄部隊の一人――銃剣アサルトライフルを持つ鉄面が言った。
「リュイさま。お迎えに参りました」
「迎え……? 迎えに銃が――ダークを撃つ必要があったの?」
「その男は危険人物です。我々イトリにも多大な損害を与えた……。少々過激ではありますが、必要な処置と判断しました」
「ダークは危険なんかじゃない!」
リュイが銃を構える。
ダークはその隙に、脚部の自動修復を急がせた。
鉄面が、リュイに向かって言った。
「銃をお下げください」
「あなたたちが消えてくれたらそうする!」
「それはできません。あなたをお父上のところへお帰しするのが我々の任務です」
「ぼくだけ? お母さんはどうなの?」
「お答えしかねます」
「どうして?!」
「複雑な事情があるのです。どうかご理解を」
「いっつもそうだ……みんなぼくにほんとうの事を言わない!」
「それはあなたのためを思って――」
「ナノマシン兵器、それを動かすためにリュイが必要なんだろう?」
ダークは、鉄面の言葉を遮って言った。
彼は顔を上げ、鉄面に睨みを効かせる。
「リュイの母上が亡命の手土産にと持ち出した、ナノマシンでできた巨大な怪物……。その制御にリュイとキィが要る。だがキィは殺され、母上も行方不明。だから死にものぐるいでリュイを確保しようとしている。違うか?」
「きさまは黙っていろ」
「断る」
「ならば死ね」
鉄面が、眉間を狙って撃った。
ダークは大跳躍で弾を避けた。
一瞬で直轄部隊の背後を取り、斬撃を放つ。
鉄面を一人斬り捨てた流れで、突進した。
敵の陣形を崩し、何人かは川に転落させる。
ダークの狙いは退路を塞ぐ敵だった。やつらはリュイを捕縛せんと走り出していた。
「リュイ伏せるんだ!」
彼がしゃがむと、ダークは拳銃を抜き、撃つ。
弾丸が敵の肩や腹を穿ち、あるいは脚を射抜く。
致命傷は与えられなかったが、とどめは後回しでい。
ダークは振り返り、立ち直った敵部隊に斬撃を繰り出す。
また一人仕留めた裏で、カービンが火を噴いた。
斬った敵の身を盾にして弾を防ぐ。
こちらも撃ち返した。
ここで弾切れを起こす。
川に落とした鉄面たちが撃ってきた。
ダークはうつ伏せになって銃撃を躱した。間一髪だった。
自前の武器を手放し、斃した敵のカービンを拾う。
橋上の鉄面たちに威嚇射撃をし、川の鉄面を撃った。
徹甲弾が連中の鉄仮面を砕いて斃す。
起き上がって、後ろの鉄面を撃ち斃し、前の鉄面に狙いをつける。
発砲と同時に、銃剣の鉄面は転がって回避したが、別の敵を仕留めた。
銃剣の鉄面が刺突でこちらのカービンをはじく。
続いた斬撃をバックステップで避け、前に突っ込み肘打ちを放つ。
理想的なクリーンヒットだった。
鉄面が仰向けに倒れ、背を打つ。
すると、後ろで銃声がした。リュイに預けたリボルバーのものだった。
振り向くと、リュイは斃したはずの鉄面に拘束されていた。
鉄面が言う。
「抵抗をやめろ!」
ダークは食いしばった歯牙を剥き出しにし、敵を睨んだ。
リュイが何か言おうとしていたが、首を極められていて、声すら出ていない。
剣を手放そうとした次の瞬間、視界の外で銃声がした。
徹甲弾がリュイを捕縛する鉄面の眉間を撃ち抜き、殺害する。
解放され、駆け寄ってきたリュイを抱きしめ、ダークは銃撃のほうを見た。
銃剣の鉄面が、仲間を撃ったのだ。
「……なんのつもりだ?」
「リュイさまはレイディアント御大のご子息だ。そのリュイさまに手荒な真似を働くことは、たとえ味方といえど許されん」
そう答え、彼は銃を置いて立ち上がる。
そして、仮面を脱いだ。
無機質な鉄仮面の裏の素顔は、予想とそう違わない険しく痩せたものだった。
「見事だ……」
彼は言った。
「我々も強化されている。おまえへの対策もしている。それでいてこの損害だ」
「降参する気なら正直にそう言えばいい」
「そうではない」
彼は笑い、鉄仮面を再び被ると、アサルトライフルから銃剣を取り外した。
切っ先をこちらに向け、構える。
「我が名はキンク」
「……わたしは、ダーク・レイディアント」
ダークも拳銃を手放し、剣を構えた。
誰もが寝静まったであろう真夜中。
レイディアントはイトリの部隊を率いて、異端民の集団を取り締まっていた。リュイの件を報告してきた保証区域へ向かう途中、見つけた連中だ。
彼は、商隊を自称する異端民集団を適当な道路休憩施設跡地へ誘導、包囲した後、然るべき対応を取る。部下たちが車両の中身を押収し、逃亡を図ろうとしていた異端民らを護送車に連行していった。
その様を見てから、商隊長の眼前に迫る。
端末を取り出し、画面を見せて言った。
「我々はこの母子を捜している。心当たりはあるか?」
「言ったら見逃して――」
レイディアントの平手打ち。
「どうなんだ?」
「ああ……あるよ。それどころか、すこし前までトレーラーに乗ってた……」
「前まで? なぜいない?」
「連れの男が仲間を伸して、バイクで消えやがったんだ」
商隊長の言葉で、レイディアントは顔に包帯を巻いたヘルメット男と、簡易ベッドに横たわる男を見た。彼は右腕を失くし、左脚を固定していた。
「連れの男と言ったな……。母親ではないのか?」
「ああ……いたのは写真のガキだけだ」
商隊長は答えてから、こちらを見上げる。
「男のほうは……あんたとそっくりの格好だった……。なあ、これはかなりの手がかりになるだろう?」
「二人はどこへ行った?」
「マキュラの本拠地に行きたいっつってたんだ。尤も、詳しい場所は俺らも知らねえから、噂に聞いた場所の近くで降ろそうと……」
「詳しく教えてもらおうか」
「ああ、わかった……まず、緯度と経度なんだが――」
商隊長が話し出す。
おおかた聴き終えて、必要な情報を得たレイディアントは、
「もういい」
と背を向けた。
「行け」
「え? それは……見逃してくれるってこと――」
「この場で殺されたいか?」
「いや、とんでもねえ……感謝するよ、ミスター・レイディアント」
商隊長は黄ばんだ歯を見せて笑った。
「保証区域の中でも外でも、みんなあんたは権力に溺れたクズだって言ってるが……そうじゃなかったんだな。恩に着るぜ」
そして、商隊はそそくさと車に乗り込み、走り出した。
商隊を見送ったレイディアントに、部下の一人が言った。
「案の定でしたね。しかし異端民のくせにリュイさまと話すなんて……」
レイディアントは彼に見向きもせず、商隊を目で追う。連中は眼下に伸びる道路を、猛スピードで走っていた。
部下がまた言う。
「でも見逃していいんですか? あいつらどうせ――」
レイディアントは背後に停まっていた装甲車へときびすを返すと、ロケットランチャー数挺を取り出した。
部下が声を上げる。
「えっまさか――!?」
レイディアントはランチャー後部を引き伸ばし、安全装置を解除する。
そして肩に担ぎ、撃った。
盛大なバックブラストと共に、ロケット弾が飛ぶ。
それは商隊のトレーラーに命中し、爆破した。
レイディアントは発射済みのランチャーを足元に捨て、さらにもう一発撃つ。
狙いは他の中小車両だ。
持ち出したロケットランチャーを全部撃ち尽くして、彼は商隊を殲滅した。
残ったのは、赤々と燃え上がる残骸ばかりとなった。
「消火隊を呼べ」
レイディアントは言った。
振り返ると、足元に部下の一人がうずくまって呻いている。
別の部下が言う。
「さきほどのバックブラストで、火傷を……」
レイディアントは拳銃を抜き、悶える部下を射殺した。
銃声の後に静寂が場を支配し、レイディアントは部下たちの唖然とした視線を一身に浴びる。
「ロケットランチャーを使うというのに真後ろにいる無能は必要ない」
レイディアントは言い、端末を取り出した。
「私だ。リュイの行き先がわかった。出動だ」
⦿
朝が来て、ダークは廃ビル内を軽く見て回ってから、リュイのところへ戻ってきた。
と同時に、リュイが目を覚まし、上体を起こす。
「おはよう」
ダークは言いながら剣を納める。
「おはよう、ダーク」
リュイが微笑みかけた。
二人は朝食にナッツを食べ、すみやかに出発準備を行う。
ジャケットとヘルメットを着用しながら、リュイが訊ねてきた。
「ねえ、ダーク。マキュラの本部って、どこにあるの?」
「詳しい場所はトップシークレットで、わたしも知らない。けど、おおよその目星はついてる」
ダークは荷物を固定しつつ、続ける。
「ここからだと夕方くらいには到着できるはずだ」
バイクのエンジンをかけ、出発した。
廃墟の街を抜けて山道に入ると、晴れ空も相まってさわやかな風が二人に吹きつける。
緑のにおいを嗅ぎながら、ダークはすこし心持ちが穏やかになった。
すると、腰にリュイを感じる。
背中から抱きしめる形で、腕を回してきたのだ。ダークはそんな彼へ鏡越しに微笑んだ。
順調な道のりであった。
これなら昼過ぎには想定の地域まで行けるだろう。
そう思った矢先、眼前の橋が崩落しているのに気づいた。
ダークはブレーキをかけ、橋を見る。
橋の破壊痕は、まだ新しい。新しすぎる。今日壊れたばかりと考えたほうが自然なくらいだ。
拡張現実モードで、温度を調べてみる。
断面付近が他の箇所に比べて高温だった。
「リュイ」ダークは言った。「右のサイドバッグに、小さなリボルバー拳銃が入ってる」
リュイは件の銃を取り出してみせる。
「これのこと?」
「使い方はわかるかい?」
「いちおうは……」
「念の為に持っておくんだ。この橋は……誰かが壊した」
「え……まさか……」
「わたしたちを狙ってるかもしれない。気をつけて」
ダークはバイクに乗ったまま、背筋を伸ばして迂回ルートを探す。
すこし離れたところに、潜水橋を見つけた。
行くしかないか。
ダークは眉間にしわを寄せ、装備ベルトを巻きつける。腰の拳銃と、ポーチ内の予備弾薬を確認し、斜め掛けのサスペンダーにマウントした剣の固定をチェックする。
そして、潜水橋へと向かった。
堤防を下り、橋の前に至る。
橋は二、三メートルほどの狭い幅に、極めて低い欄干を持つ質素な造りであった。
対岸には伸びに伸びた雑草が壁のごとく生え並び、視界は悪い。
しかしその裏に、複数人の体温と、人数分の熱源反応がある。おそらくオフロードバイクだ。
あからさまな待ち伏せだが、突破するよりほかない。
「全速力で飛ばす。掴まっているんだ」
ダークの言葉に、リュイは頷き、腰を強くホールドした。
深呼吸の後、フルスロットルで走り出す。
熱源からの狙撃に注意しながら、橋の上三分の一ほどまで来た。
その時、草の中からオフロードバイクが飛び出した。
オフロードバイクの一団はダークたちの行く道を阻み、銃口を向けてくる。
ダークは急制動をかけた。
後ろからも仲間と思しき連中が現れ、退路を塞ぐ。
ダークとリュイはバイクを降り、戦闘準備をしつつ敵の一団を見据えた。
黒いライディングジャケットに、鉄色のゴーリーマスクめいた仮面を被る連中だ。構えているのはイトリ制式カービンだが、一人だけフルサイズのアサルトライフルに銃剣を装着していた。
彼らを見て、リュイが言う。
「……お父さんの――直轄部隊だ」
「直轄部隊……?」
ダークの言葉に、リュイは頷く。
「キィとお母さんが言ってた。一度だけ、遠目に見たことがあるんだ……」
次の瞬間、敵の銃が火を噴いた。
弾はダークの右腿を穿ち、片膝をつかせる。
リュイが青ざめて名を叫ぶ。
痛みは無いが、銃創からは赤みを帯びた灰色の液体が流れ、視界にダメージアラートが表示された。
徹甲弾か。
ダークは顔を上げて直轄部隊を見た。
直轄部隊の一人――銃剣アサルトライフルを持つ鉄面が言った。
「リュイさま。お迎えに参りました」
「迎え……? 迎えに銃が――ダークを撃つ必要があったの?」
「その男は危険人物です。我々イトリにも多大な損害を与えた……。少々過激ではありますが、必要な処置と判断しました」
「ダークは危険なんかじゃない!」
リュイが銃を構える。
ダークはその隙に、脚部の自動修復を急がせた。
鉄面が、リュイに向かって言った。
「銃をお下げください」
「あなたたちが消えてくれたらそうする!」
「それはできません。あなたをお父上のところへお帰しするのが我々の任務です」
「ぼくだけ? お母さんはどうなの?」
「お答えしかねます」
「どうして?!」
「複雑な事情があるのです。どうかご理解を」
「いっつもそうだ……みんなぼくにほんとうの事を言わない!」
「それはあなたのためを思って――」
「ナノマシン兵器、それを動かすためにリュイが必要なんだろう?」
ダークは、鉄面の言葉を遮って言った。
彼は顔を上げ、鉄面に睨みを効かせる。
「リュイの母上が亡命の手土産にと持ち出した、ナノマシンでできた巨大な怪物……。その制御にリュイとキィが要る。だがキィは殺され、母上も行方不明。だから死にものぐるいでリュイを確保しようとしている。違うか?」
「きさまは黙っていろ」
「断る」
「ならば死ね」
鉄面が、眉間を狙って撃った。
ダークは大跳躍で弾を避けた。
一瞬で直轄部隊の背後を取り、斬撃を放つ。
鉄面を一人斬り捨てた流れで、突進した。
敵の陣形を崩し、何人かは川に転落させる。
ダークの狙いは退路を塞ぐ敵だった。やつらはリュイを捕縛せんと走り出していた。
「リュイ伏せるんだ!」
彼がしゃがむと、ダークは拳銃を抜き、撃つ。
弾丸が敵の肩や腹を穿ち、あるいは脚を射抜く。
致命傷は与えられなかったが、とどめは後回しでい。
ダークは振り返り、立ち直った敵部隊に斬撃を繰り出す。
また一人仕留めた裏で、カービンが火を噴いた。
斬った敵の身を盾にして弾を防ぐ。
こちらも撃ち返した。
ここで弾切れを起こす。
川に落とした鉄面たちが撃ってきた。
ダークはうつ伏せになって銃撃を躱した。間一髪だった。
自前の武器を手放し、斃した敵のカービンを拾う。
橋上の鉄面たちに威嚇射撃をし、川の鉄面を撃った。
徹甲弾が連中の鉄仮面を砕いて斃す。
起き上がって、後ろの鉄面を撃ち斃し、前の鉄面に狙いをつける。
発砲と同時に、銃剣の鉄面は転がって回避したが、別の敵を仕留めた。
銃剣の鉄面が刺突でこちらのカービンをはじく。
続いた斬撃をバックステップで避け、前に突っ込み肘打ちを放つ。
理想的なクリーンヒットだった。
鉄面が仰向けに倒れ、背を打つ。
すると、後ろで銃声がした。リュイに預けたリボルバーのものだった。
振り向くと、リュイは斃したはずの鉄面に拘束されていた。
鉄面が言う。
「抵抗をやめろ!」
ダークは食いしばった歯牙を剥き出しにし、敵を睨んだ。
リュイが何か言おうとしていたが、首を極められていて、声すら出ていない。
剣を手放そうとした次の瞬間、視界の外で銃声がした。
徹甲弾がリュイを捕縛する鉄面の眉間を撃ち抜き、殺害する。
解放され、駆け寄ってきたリュイを抱きしめ、ダークは銃撃のほうを見た。
銃剣の鉄面が、仲間を撃ったのだ。
「……なんのつもりだ?」
「リュイさまはレイディアント御大のご子息だ。そのリュイさまに手荒な真似を働くことは、たとえ味方といえど許されん」
そう答え、彼は銃を置いて立ち上がる。
そして、仮面を脱いだ。
無機質な鉄仮面の裏の素顔は、予想とそう違わない険しく痩せたものだった。
「見事だ……」
彼は言った。
「我々も強化されている。おまえへの対策もしている。それでいてこの損害だ」
「降参する気なら正直にそう言えばいい」
「そうではない」
彼は笑い、鉄仮面を再び被ると、アサルトライフルから銃剣を取り外した。
切っ先をこちらに向け、構える。
「我が名はキンク」
「……わたしは、ダーク・レイディアント」
ダークも拳銃を手放し、剣を構えた。
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