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チャプター11(終章)
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――それから時が経ち、アリシアの傷とレハイム兄妹の嘆きが癒えつつある中で、別れの日が訪れた。
アリシアとルカは、ネロに自分たちの荷物を固定した後、兄妹の荷造りを手伝う。
二人の大荷物をぐるりと目視して、アリシアは言った。
「これでOKかな?」
「OKありがとう」
アシェルが親指を立てる。
そこにテシルが紙袋を抱えてやって来た。
「準備完了かい?」
「はい」と、アシェラ。「お世話になりました」
テシルが微笑み、訊ねる。
「ここからタンウェイ島まで?」
「ええ。休憩を挟みながら行くつもりです」
アシェルが言った。
「そうか……。気をつけてな」
テシルの言葉に、兄妹は頷く。
そこにアリシアは言った。
「にしても、ほんとうに奇跡的なタイミングだね。親戚の方とは何年も疎遠だったって、先輩から聞いてるけど……」
「いえ……あっちもお兄ちゃんを感じて、それで心配になったみたいなんです」
アシェラがそう答え、向こうの空を見ながら続ける。
「あたし、遺跡の戦艦が浮かび上がった時、そこにお兄ちゃんの苦しみを感じたんです。……お父さんがここに来たのも、たぶん同じように――」
アリシアたちも彼女と同じ空を見つめる。
そよ風が吹いて、アリシアは問う。
「親戚の人には……お二人の関係は話した?」
「……はい」
兄妹が互いの顔を見合わせてから答えた。
「びっくりしてました。当然の反応ですけど……けど――」
「愛の形は人それぞれだって……そう言ってくれて」
「そっか……そうだね……」
言いながら、アリシアはルカのほうを見る。ルカも、アリシアを見て微かに笑った。
「さて、あまり引き止めるのもなんだ」
テシルが言って、紙袋を兄妹に渡す。
「ナナハンサンド。タンウェイ島までは長旅になるだろう? 途中で食べるといい」
「ありがとうございます、店長さん」
「作り方のメモも同封してるから、気が向いたら作ってみなよ」
「タンウェイ島のタマネギ使うんでしょ? 絶対おいしくなるよ~」
アリシアは両人差し指でサンドイッチの袋を差した。
「間違いない!」
アシェルが親指を立て、皆笑い合う。
ひとしきり笑って、彼はまた言った。
「……ほんとうにありがとう。アリシアがいなかったら、僕らは――」
「正しいと思ったことを、できる限りしただけさ」
アリシアはウインクする。
「向こうでもお元気で」
「アリシアたちも」
二人は握手を交わした。硬い皮膚の裏に柔和なぬくもりを感じる手だった。
隣では、ルカとアシェラがためらいがちに向き合っていた。
アシェラがつぶやく。
「お姉ちゃん……」
その言葉に、ルカはひと呼吸置いてから両腕を開く。
そんな彼女の胸に、アシェラは飛び込んだ。
ルカは妹の頭を撫でながら言う。
「落ち着いたら連絡して。会いに行くよ」
「うん……きっと……」
二人の瞳が潤んで、光を放つ。
かくして兄妹はバイクに跨り、エンジン音を轟かせて出発した。
アリシアとルカ、テシルは二人の背を見えなくなるまで見送る。
ルカが言った。
「……ぼくたちも帰ろっか」
「うん」
ネロに乗って、テシルに最後の挨拶をする。
「先輩、ほんとうにありがとうございました」
「いいってことさ」テシルが笑む。「また来てくれるなら、今度こそ江域観光を楽しんでおくれ」
「はい。もちろんです」
「それまでに店を直しておくよ。賠償金でネ」
アリシアは頷き、テシルに握り拳を差し出す。
テシルがそこに拳をこつんと当てた。グータッチだ。
ルカも同じようにテシルとグータッチした。
テシルが一歩下がるのを確かめて、アリシアはネロのエンジンに火を入れる。
Vツインのエキゾーストノートが響いた。
そしてアリシアとルカは江域を去る。
春の温かい陽光とやわらかな風を感じながら、二人は走っていった。
了
――それから時が経ち、アリシアの傷とレハイム兄妹の嘆きが癒えつつある中で、別れの日が訪れた。
アリシアとルカは、ネロに自分たちの荷物を固定した後、兄妹の荷造りを手伝う。
二人の大荷物をぐるりと目視して、アリシアは言った。
「これでOKかな?」
「OKありがとう」
アシェルが親指を立てる。
そこにテシルが紙袋を抱えてやって来た。
「準備完了かい?」
「はい」と、アシェラ。「お世話になりました」
テシルが微笑み、訊ねる。
「ここからタンウェイ島まで?」
「ええ。休憩を挟みながら行くつもりです」
アシェルが言った。
「そうか……。気をつけてな」
テシルの言葉に、兄妹は頷く。
そこにアリシアは言った。
「にしても、ほんとうに奇跡的なタイミングだね。親戚の方とは何年も疎遠だったって、先輩から聞いてるけど……」
「いえ……あっちもお兄ちゃんを感じて、それで心配になったみたいなんです」
アシェラがそう答え、向こうの空を見ながら続ける。
「あたし、遺跡の戦艦が浮かび上がった時、そこにお兄ちゃんの苦しみを感じたんです。……お父さんがここに来たのも、たぶん同じように――」
アリシアたちも彼女と同じ空を見つめる。
そよ風が吹いて、アリシアは問う。
「親戚の人には……お二人の関係は話した?」
「……はい」
兄妹が互いの顔を見合わせてから答えた。
「びっくりしてました。当然の反応ですけど……けど――」
「愛の形は人それぞれだって……そう言ってくれて」
「そっか……そうだね……」
言いながら、アリシアはルカのほうを見る。ルカも、アリシアを見て微かに笑った。
「さて、あまり引き止めるのもなんだ」
テシルが言って、紙袋を兄妹に渡す。
「ナナハンサンド。タンウェイ島までは長旅になるだろう? 途中で食べるといい」
「ありがとうございます、店長さん」
「作り方のメモも同封してるから、気が向いたら作ってみなよ」
「タンウェイ島のタマネギ使うんでしょ? 絶対おいしくなるよ~」
アリシアは両人差し指でサンドイッチの袋を差した。
「間違いない!」
アシェルが親指を立て、皆笑い合う。
ひとしきり笑って、彼はまた言った。
「……ほんとうにありがとう。アリシアがいなかったら、僕らは――」
「正しいと思ったことを、できる限りしただけさ」
アリシアはウインクする。
「向こうでもお元気で」
「アリシアたちも」
二人は握手を交わした。硬い皮膚の裏に柔和なぬくもりを感じる手だった。
隣では、ルカとアシェラがためらいがちに向き合っていた。
アシェラがつぶやく。
「お姉ちゃん……」
その言葉に、ルカはひと呼吸置いてから両腕を開く。
そんな彼女の胸に、アシェラは飛び込んだ。
ルカは妹の頭を撫でながら言う。
「落ち着いたら連絡して。会いに行くよ」
「うん……きっと……」
二人の瞳が潤んで、光を放つ。
かくして兄妹はバイクに跨り、エンジン音を轟かせて出発した。
アリシアとルカ、テシルは二人の背を見えなくなるまで見送る。
ルカが言った。
「……ぼくたちも帰ろっか」
「うん」
ネロに乗って、テシルに最後の挨拶をする。
「先輩、ほんとうにありがとうございました」
「いいってことさ」テシルが笑む。「また来てくれるなら、今度こそ江域観光を楽しんでおくれ」
「はい。もちろんです」
「それまでに店を直しておくよ。賠償金でネ」
アリシアは頷き、テシルに握り拳を差し出す。
テシルがそこに拳をこつんと当てた。グータッチだ。
ルカも同じようにテシルとグータッチした。
テシルが一歩下がるのを確かめて、アリシアはネロのエンジンに火を入れる。
Vツインのエキゾーストノートが響いた。
そしてアリシアとルカは江域を去る。
春の温かい陽光とやわらかな風を感じながら、二人は走っていった。
了
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