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かつてアンジェリアと呼ばれたウィドウ
かつてアンジェリアと呼ばれたウィドウ 2/2
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見渡す限りの、清らかな蒼天だった。
どこまでも続いていて、それは足元にまで広がっている。
アンジェリアは隣に立つマスターと、二人だけで大空を眺めていた。
ふと、彼女はマスターのほうを見る。するとマスターもこちらを見た。
初めて会った時の、虚ろで老け込んだ表情ではない。若々しい眼差しだ。頭には白髪も見受けられるが、櫛を通して整えてあった。首から下もずいぶんと贅肉が落ちている。まだ標準体型には届かないが、幸せ太りといってもいい、どこか健康的な肉のつき方である。そのふくよかな身を、清潔なスーツで着飾っていた。
清楚で、さわやかで、ぬくもりのある出で立ちだ。
そんなマスターが微笑んだ。
アンジェリアも微笑み返す。
すると、マスターはこちらに向き直り、膝をついた。
彼はアンジェリアの左手を持ち上げ、懐から輝くリングを取り出す。
そのリングは、彼女の薬指に――。
ウィドウの電源が、朝の到来と共に再びONになった。
ローディングアニメーションの後、ひび割れたフェイスディスプレイに顔が映し出される。
彼女は身を起こし、周囲を見る。
何も変わらない、家の庭だ。
どうやら墓前でスリープモードに入ったらしい。
が、その間に再生された映像は不可解なものだった。
長らく無縁だった、心地よくて安らかな映像であったものの、あんな場所に行った記録は無い。
ウィドウはまもなく気がつく。
自分が見ていたのは<夢>だと。
しかし今度は、なぜ機械である自分が夢を見たのかという疑問にあたった。
こればかりはあらゆるデータをあたっても答えを得られない。それに、重要な疑問ではない。
彼女は墓に供えた花を見る。すこし色あせていたが、まだ換え時とするには早いような気もする。
けれど、どういうわけか思い立った。せっかくだから換えてしまおうか、と。
ウィドウは立ち上がり、外へ行く準備をする。
ここから数キロ離れた場所に、いつも供える花が咲く地があるのだ。水源近く、良好な日当たり、肥沃な地面。理想的なロケーションである。
彼女は「行ってきます」の言葉と共に玄関の扉をくぐった。
誰もいない壊れかかった町の中を、ウィドウは行く。敵と遭遇することもなく順調に進んでいった。
ありがたいことではあるが、若干の違和感もあった。
長い間この地区を往来してはいるが、敵を見ない日はなかった。いつも巡回のメックトルーパーの姿を、最低でも一度は見るものだが。
戦いすぎて機械側も生産が追いつかなくなった?
まさか。
まだ朝方なのだ。これから会敵するだろう。
ウィドウは思いながら、ホームセンターの前を横切る。
ここで、見慣れない物が目についた。
ライフルを構え、フェイスガードを閉じると、車両の出入り口から近づいてみる。
置き去りにされた車を遮蔽物にしながら、狙撃や不意打ちに用心して、目の前まで至った。
サイドカー付きのオートバイだ。
まだ輝きを失っていないワインレッドの車体で、しっかりと整備してある。
が、これに乗ってきたのはどうやら人間ではないらしい。
ARデバイスで透視してみると、後席や側車の積載スペースに括りつけてある荷物はバイク用、あるいはロボット用の工具と部品ばかり。食糧や薬品といった。生命体が必要とする物品が見当たらない。
奥の方に埋まって、見えないだけという可能性もあるが、それにしたって大容量バッグの中身がほぼ全て機械部品というのは妙だ。
ウィドウは直接、中身を調べてみようかと、恐るおそる手を伸ばす。
その時だった。
死角から風を切る音の直後、銃声が響いた。
伸ばした腕を引き、頭を庇うと、前腕部に鋭い衝撃が走った。
敵の罠か。
そう判断し、彼女は手近な車の陰に隠れた。
店舗の二階の窓が割れる音がする。
メックトルーパーの部隊が飛び降りてきて、ウィドウに銃撃を仕掛けてきた。
彼女は反対側に駆け出しつつ、応戦する。
ざっと見ただけで数十体はいる。久しぶりの、大軍との戦闘であった。
植え込みをジャンプし、歩道に転がる。
膝立ちになって、追ってくる敵兵を枝の隙間から撃った。
銃の威力は互角。射程では勝り、弾数では劣っている。
ウィドウはどんどん近づいてくるトルーパーたちの、防御の隙間を狙った。
数発、敵からの弾を喰らったが、防弾仕様の外装で全身を固めたウィドウにはどうということはない。
いつも通りの対処方法だ。が、また遠方からの狙撃が来る。
予想はしていたため、今度は躱せた。
銃弾が歩道のレンガを穿つ。
ウィドウはその深く、広くえぐれた弾痕を見て、いつものマークスマンライフルではないことに気づく。
口径は同じ.三〇口径のようだが、より長距離精密射撃に適したマグナム弾だ。
まずはスナイパーをなんとかしなければ。
彼女は迫るメックトルーパー隊を銃撃で牽制しつつ、スナイパーのいる方角へ駆けた。
間違いなくスナイパーは場所を移動するだろうが――。
ウィドウはARデバイスの索敵モードをフルに活用し、わずかに検知できる反応をロックした。前方の家屋からである。
背後から銃撃が来た。うち一発がウィドウの背に命中する。しかし弾は装甲の分厚い箇所――ヒトの肩甲骨に相当する部位に中たったため、彼女は意に介さなかった。
それよりも、と、ウィドウはフェンスをよじ登りながら思う。
類型から外れたあのスナイパーの処理が先決だ。
着地の衝撃を前転で逃し、走る。
倒れた電柱の下を滑り、最短ルートでスナイパーへ近づいていった。
廃墟の間に、動く人影を見とめる。スナイパーだ。
スナイパーはこちらに銃口を向け、撃ってきた。
しかしウィドウは避けた。造作もないことだった。ここまで近づけば弾道予測などたやすい。
壁を蹴って頭上を取り、こちらも銃撃する。
だが銃弾ははじかれた。
ウィドウは着地と同時にまた横へ跳び、敵の銃撃を避ける。
スナイパーも、自分のように黒い防弾の外装をまとっていた。
メックトルーパーとはわけが違うようだ。
ウィドウは背後の部隊が来る前に片付けようと決め、スナイパーへ突進する。
スナイパーの銃はボルトアクションライフル。次弾の発射には時間がかかる。
ウィドウの体当たりはスナイパーに届いた。
スナイパーは銃でガードしたが、ウィドウはすかさず脇腹に蹴りを入れる。
するとスナイパーがライフルをこちらの銃に引っ掛け、捻ってきた。
ウィドウはあえて銃を手放し、スナイパーの得物ごと投げ捨てる。
二挺の銃が地面に転がると、スナイパーがサイドアームに手を伸ばした。
ウィドウもナイフを抜き、斬りつける。
刃が相手の装甲に滑った。
返す手で関節部への斬撃を試みるも、スナイパーがそれを払いのける。
にわかに姿勢を崩し、相手が武器を抜く暇を与えてしまう。
それは.四五口径の大振りなリボルバーだった。
リボルバーが火を噴き、弾が横を掠めた。
ウィドウは反撃を敢行しつつも、驚く。
リボルバーが放ったのは鉛弾ではなく、強烈なエネルギーが半ば実体化したものだった。
おそらくあれ一発で、先程のマグナム弾並の威力があるだろう。
肉薄したまま、ウィドウとスナイパーは互いの攻めの手を捌きつつ、有効打を試みる。
が、ウィドウのナイフは外装に線のような傷をつくるばかりであった。
一方でスナイパーの半実体弾は、ウィドウの右肩に命中し、装甲板をえぐった。
彼女は大きく仰け反り、苦し紛れの蹴りで追撃を阻止する。
スナイパーはよろめき、その間にヤツのボルトアクションライフルへと跳んで、鹵獲する。
ボルトを引き、銃口を胸に突きつけて接射。
マグナム弾がスナイパーの胸の装甲に深い亀裂を走らせた。
もう一発!
ウィドウは次弾を薬室に送り込もうとする。
その時だった。
スナイパーがリボルバーの撃鉄を手ずから起こした。
ARデバイスが高エネルギー反応の警告を発する。
彼女は紙一重で、射線から離脱した。
直後、高熱を伴う閃光の柱がウィドウの真横に伸びて、背後で大爆発を起こす。
爆風に背中を押され、彼女はスナイパーごと吹っ飛ばされた。
両者は数メートル先の車道まで転がり、横たわる。
ウィドウもスナイパーも、飛んできた破片に全身をやられていた。が、ウィドウのほうがより深刻なダメージを受けていた。
破片の一部が、よりにもよって右膝の構造を貫き、脚部全体の機能不全を引き起こしていた。
スナイパーは外れたと思しき腕の関節を接ぎ直し、リボルバーを構える。
発砲と共に、ウィドウは突進して腹にナイフを突き立てた。
相手の首根っこを掴み、ナイフを引き抜く。
今度の狙いは心臓部だ。
しかし、刃を振りかぶったところで、彼女は腕を掴まれ、引き倒される。
メックトルーパー隊が追いついてきたのだ。
カービンの銃撃がウィドウを襲う。
彼女は転がって離脱し、体勢を立て直す。
ちょうど手元に、自前のアーマライトがあった。
それを拾い、敵部隊を迎え撃つ。
構えた瞬間に、スナイパーの銃撃がフェイスガードを砕いた。
が、ウィドウは構わず反撃する。
メックトルーパーの弾を浴びたまま左脚で立ち上がり、スナイパーの胸を撃つ。
三発撃って、装甲を完全に砕いた。そして、四発目でついに厄介な相手を仕留める。
直後、ウィドウは左脚を撃ち抜かれ、地に伏せた。
仰向けになって、彼女は残りの雑魚を相手取る。
これが無我夢中という状態か。
彼女はどこかでそんなことを思いながら、弾が切れるまで撃った。
途中、ARデバイスも破壊され、指が飛んでいった。
自分を持ち上げようとする腕が伸びてきて、それをねじ切った途端、ウィドウの左腕ももげた。
ウィドウは再度ナイフに持ち替え、戦闘を続行しようとした。
が、視界にエラー表示が出てきて<意識>が朦朧としてくる。
そんな時、暗くなってゆく視界に、メックトルーパーを次々斬り捨ててゆく二体のロボットの影がうつった。
見渡す限りの、清らかな蒼天だった。
どこまでも続いていて、それは足元にまで広がっている。
アンジェリアは隣に立つマスターと、二人だけで大空を眺めていた。
ふと、彼女はマスターのほうを見る。するとマスターもこちらを見た。
初めて会った時の、虚ろで老け込んだ表情ではない。若々しい眼差しだ。頭には白髪も見受けられるが、櫛を通して整えてあった。首から下もずいぶんと贅肉が落ちている。まだ標準体型には届かないが、幸せ太りといってもいい、どこか健康的な肉のつき方である。そのふくよかな身を、清潔なスーツで着飾っていた。
清楚で、さわやかで、ぬくもりのある出で立ちだ。
そんなマスターが微笑んだ。
アンジェリアも微笑み返す。
すると、マスターはこちらに向き直り、膝をついた。
彼はアンジェリアの左手を持ち上げ、懐から輝くリングを取り出す。
そのリングは、彼女の薬指に――。
ウィドウの電源が、朝の到来と共に再びONになった。
ローディングアニメーションの後、ひび割れたフェイスディスプレイに顔が映し出される。
彼女は身を起こし、周囲を見る。
何も変わらない、家の庭だ。
どうやら墓前でスリープモードに入ったらしい。
が、その間に再生された映像は不可解なものだった。
長らく無縁だった、心地よくて安らかな映像であったものの、あんな場所に行った記録は無い。
ウィドウはまもなく気がつく。
自分が見ていたのは<夢>だと。
しかし今度は、なぜ機械である自分が夢を見たのかという疑問にあたった。
こればかりはあらゆるデータをあたっても答えを得られない。それに、重要な疑問ではない。
彼女は墓に供えた花を見る。すこし色あせていたが、まだ換え時とするには早いような気もする。
けれど、どういうわけか思い立った。せっかくだから換えてしまおうか、と。
ウィドウは立ち上がり、外へ行く準備をする。
ここから数キロ離れた場所に、いつも供える花が咲く地があるのだ。水源近く、良好な日当たり、肥沃な地面。理想的なロケーションである。
彼女は「行ってきます」の言葉と共に玄関の扉をくぐった。
誰もいない壊れかかった町の中を、ウィドウは行く。敵と遭遇することもなく順調に進んでいった。
ありがたいことではあるが、若干の違和感もあった。
長い間この地区を往来してはいるが、敵を見ない日はなかった。いつも巡回のメックトルーパーの姿を、最低でも一度は見るものだが。
戦いすぎて機械側も生産が追いつかなくなった?
まさか。
まだ朝方なのだ。これから会敵するだろう。
ウィドウは思いながら、ホームセンターの前を横切る。
ここで、見慣れない物が目についた。
ライフルを構え、フェイスガードを閉じると、車両の出入り口から近づいてみる。
置き去りにされた車を遮蔽物にしながら、狙撃や不意打ちに用心して、目の前まで至った。
サイドカー付きのオートバイだ。
まだ輝きを失っていないワインレッドの車体で、しっかりと整備してある。
が、これに乗ってきたのはどうやら人間ではないらしい。
ARデバイスで透視してみると、後席や側車の積載スペースに括りつけてある荷物はバイク用、あるいはロボット用の工具と部品ばかり。食糧や薬品といった。生命体が必要とする物品が見当たらない。
奥の方に埋まって、見えないだけという可能性もあるが、それにしたって大容量バッグの中身がほぼ全て機械部品というのは妙だ。
ウィドウは直接、中身を調べてみようかと、恐るおそる手を伸ばす。
その時だった。
死角から風を切る音の直後、銃声が響いた。
伸ばした腕を引き、頭を庇うと、前腕部に鋭い衝撃が走った。
敵の罠か。
そう判断し、彼女は手近な車の陰に隠れた。
店舗の二階の窓が割れる音がする。
メックトルーパーの部隊が飛び降りてきて、ウィドウに銃撃を仕掛けてきた。
彼女は反対側に駆け出しつつ、応戦する。
ざっと見ただけで数十体はいる。久しぶりの、大軍との戦闘であった。
植え込みをジャンプし、歩道に転がる。
膝立ちになって、追ってくる敵兵を枝の隙間から撃った。
銃の威力は互角。射程では勝り、弾数では劣っている。
ウィドウはどんどん近づいてくるトルーパーたちの、防御の隙間を狙った。
数発、敵からの弾を喰らったが、防弾仕様の外装で全身を固めたウィドウにはどうということはない。
いつも通りの対処方法だ。が、また遠方からの狙撃が来る。
予想はしていたため、今度は躱せた。
銃弾が歩道のレンガを穿つ。
ウィドウはその深く、広くえぐれた弾痕を見て、いつものマークスマンライフルではないことに気づく。
口径は同じ.三〇口径のようだが、より長距離精密射撃に適したマグナム弾だ。
まずはスナイパーをなんとかしなければ。
彼女は迫るメックトルーパー隊を銃撃で牽制しつつ、スナイパーのいる方角へ駆けた。
間違いなくスナイパーは場所を移動するだろうが――。
ウィドウはARデバイスの索敵モードをフルに活用し、わずかに検知できる反応をロックした。前方の家屋からである。
背後から銃撃が来た。うち一発がウィドウの背に命中する。しかし弾は装甲の分厚い箇所――ヒトの肩甲骨に相当する部位に中たったため、彼女は意に介さなかった。
それよりも、と、ウィドウはフェンスをよじ登りながら思う。
類型から外れたあのスナイパーの処理が先決だ。
着地の衝撃を前転で逃し、走る。
倒れた電柱の下を滑り、最短ルートでスナイパーへ近づいていった。
廃墟の間に、動く人影を見とめる。スナイパーだ。
スナイパーはこちらに銃口を向け、撃ってきた。
しかしウィドウは避けた。造作もないことだった。ここまで近づけば弾道予測などたやすい。
壁を蹴って頭上を取り、こちらも銃撃する。
だが銃弾ははじかれた。
ウィドウは着地と同時にまた横へ跳び、敵の銃撃を避ける。
スナイパーも、自分のように黒い防弾の外装をまとっていた。
メックトルーパーとはわけが違うようだ。
ウィドウは背後の部隊が来る前に片付けようと決め、スナイパーへ突進する。
スナイパーの銃はボルトアクションライフル。次弾の発射には時間がかかる。
ウィドウの体当たりはスナイパーに届いた。
スナイパーは銃でガードしたが、ウィドウはすかさず脇腹に蹴りを入れる。
するとスナイパーがライフルをこちらの銃に引っ掛け、捻ってきた。
ウィドウはあえて銃を手放し、スナイパーの得物ごと投げ捨てる。
二挺の銃が地面に転がると、スナイパーがサイドアームに手を伸ばした。
ウィドウもナイフを抜き、斬りつける。
刃が相手の装甲に滑った。
返す手で関節部への斬撃を試みるも、スナイパーがそれを払いのける。
にわかに姿勢を崩し、相手が武器を抜く暇を与えてしまう。
それは.四五口径の大振りなリボルバーだった。
リボルバーが火を噴き、弾が横を掠めた。
ウィドウは反撃を敢行しつつも、驚く。
リボルバーが放ったのは鉛弾ではなく、強烈なエネルギーが半ば実体化したものだった。
おそらくあれ一発で、先程のマグナム弾並の威力があるだろう。
肉薄したまま、ウィドウとスナイパーは互いの攻めの手を捌きつつ、有効打を試みる。
が、ウィドウのナイフは外装に線のような傷をつくるばかりであった。
一方でスナイパーの半実体弾は、ウィドウの右肩に命中し、装甲板をえぐった。
彼女は大きく仰け反り、苦し紛れの蹴りで追撃を阻止する。
スナイパーはよろめき、その間にヤツのボルトアクションライフルへと跳んで、鹵獲する。
ボルトを引き、銃口を胸に突きつけて接射。
マグナム弾がスナイパーの胸の装甲に深い亀裂を走らせた。
もう一発!
ウィドウは次弾を薬室に送り込もうとする。
その時だった。
スナイパーがリボルバーの撃鉄を手ずから起こした。
ARデバイスが高エネルギー反応の警告を発する。
彼女は紙一重で、射線から離脱した。
直後、高熱を伴う閃光の柱がウィドウの真横に伸びて、背後で大爆発を起こす。
爆風に背中を押され、彼女はスナイパーごと吹っ飛ばされた。
両者は数メートル先の車道まで転がり、横たわる。
ウィドウもスナイパーも、飛んできた破片に全身をやられていた。が、ウィドウのほうがより深刻なダメージを受けていた。
破片の一部が、よりにもよって右膝の構造を貫き、脚部全体の機能不全を引き起こしていた。
スナイパーは外れたと思しき腕の関節を接ぎ直し、リボルバーを構える。
発砲と共に、ウィドウは突進して腹にナイフを突き立てた。
相手の首根っこを掴み、ナイフを引き抜く。
今度の狙いは心臓部だ。
しかし、刃を振りかぶったところで、彼女は腕を掴まれ、引き倒される。
メックトルーパー隊が追いついてきたのだ。
カービンの銃撃がウィドウを襲う。
彼女は転がって離脱し、体勢を立て直す。
ちょうど手元に、自前のアーマライトがあった。
それを拾い、敵部隊を迎え撃つ。
構えた瞬間に、スナイパーの銃撃がフェイスガードを砕いた。
が、ウィドウは構わず反撃する。
メックトルーパーの弾を浴びたまま左脚で立ち上がり、スナイパーの胸を撃つ。
三発撃って、装甲を完全に砕いた。そして、四発目でついに厄介な相手を仕留める。
直後、ウィドウは左脚を撃ち抜かれ、地に伏せた。
仰向けになって、彼女は残りの雑魚を相手取る。
これが無我夢中という状態か。
彼女はどこかでそんなことを思いながら、弾が切れるまで撃った。
途中、ARデバイスも破壊され、指が飛んでいった。
自分を持ち上げようとする腕が伸びてきて、それをねじ切った途端、ウィドウの左腕ももげた。
ウィドウは再度ナイフに持ち替え、戦闘を続行しようとした。
が、視界にエラー表示が出てきて<意識>が朦朧としてくる。
そんな時、暗くなってゆく視界に、メックトルーパーを次々斬り捨ててゆく二体のロボットの影がうつった。
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