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94.王宮

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魔王を倒して数日後。一時は混乱に陥った王都も、また元の平穏な日々を取り戻し、いつもと変わらぬ日常を迎えていた。
そんな中、私と攻略対象者たちは王宮へと呼ばれた。
あの一件以来、私は『聖女』、攻略対象者たちは『七剣士』として、すっかり認識されてしまったらしい。
下にも置かない待遇で迎えられ、騎士に案内されたのは謁見の間。
そこで、王様と王妃様から直々に礼状が贈られることになった。
厳かな雰囲気と国で一番偉いひとから間近で感謝されるという恐れ多い状況に、私の内心は始終がちがちだった。
そこからようやく解放されると、続いて別の部屋へと通された。先程の目に眩しい謁見の間とは違い、テーブルと椅子だけしか置かれていない装飾が控えめな落ち着いた部屋。そこにおいてある椅子のひとつに座って、私はようやくほっと息をつく。
攻略対象者たちもテーブルを囲むように置いてある椅子に座った。
なんでも私たちの今後の待遇や褒賞について話があるらしい。
メイドによって、お茶が運ばれると、部屋にふたりの人物が入ってきた。
ひとりは先程の謁見の間でも見た、この国の宰相。もうひとりは真っ白な衣服に身を包んだ髭を生やしたお爺さん。もう齢八十くらい過ぎてるんじゃないかと思うほど、腰が曲がっている。
宰相がテーブルの前にくると、お辞儀をする。お爺さんは後ろに控えている。私たちより、その人に椅子を譲ったほうがいいんじゃ……。
そう言葉を出すより先に宰相が口を開くほうが早かった。

「改めて私からも、この世界を救ってくださった聖女様、並びに七剣士の方々に感謝申しあげます。こうして皆様にお集まり頂きましたのは――」

宰相がつらつら話し始めた。
まずはミレイアたちに関する話。
オリビア、セレナ、ガブリエラは恐ろしいことを経験したことと、魔王の洗脳状態から解けたことで、しばらくは放心状態だったものの、今は正気に戻り、「何故あんな恐ろしいことをしてしまったのか」と泣いて反省してるらしい。私はその話を聞いて、ほっとした。魔王の悪の手から脱することができて、本当に良かった。もしかしたらあのままという可能性もあったから。
彼女たちの話によれば、魔王はしばらく前から夢に現れていたということだった。逆算すると、私が命を狙われ始めた頃から。魔王が夢に現れると、思考が奪わて怪しいと思う警戒心もなくなってしまうらしい。そうして夢に現れる度、少しずつ心は蝕われ、剣術大会の凶行に走ったということだろう。
彼女たちの犯行が未遂に終わったのと、魔王に操られていたということで、彼女たちにはしばらく田舎で大人しくしてもらい、反省文百枚書かせれば良いのではないかと提案した。
私の提案が採用されるかはわからないけれど、被害にあった本人が口にしてるのだから、少しは考慮されるだろう。
ミレイアに関しては、今意識不明ということだった。穴が消えたあのあと、穴の中心だったその場所でミレイアはガクリと倒れこんでしまった。もしや死んでしまったのではないかと危惧したけれど、幸い息はしていた。そのまま運ばれ、今は自宅のベッドの上にいる。
神様は「魂を吸い取られた」とは言ったけど「死んだ」とは言わなかった。だから、魔王が斃されたことで、吸い取られていた魂が解放され、ミレイアの体の中にまた戻ったのではないかと私は推測している。
今はそのショックにより気を失っているだけ。医者の話によると、呼吸も安定してきていて、直に目を覚ますだろうとのこと。きっと彼女も目を覚ませば、洗脳から外され正気に戻るだろう。その時の反省具合によっては、彼女にはしばらく田舎で大人しくしてもらい――以下略。
だって、魔王さえいなければ、彼女たちはこんな恐ろしいことはしなかったはずだから。
ただ、好きだという想いを利用されただけ。人を好きになるということは決して悪いことじゃない。初めから私に危害を加えるという思いが増幅されたならともかく、気持ちを交換条件に提案され、正常な思考が奪われただけなのだ。
それに私は斬られたり、投獄されるという『カレンの未来』から誰よりも逃れたかった人間。そんな人間がほかの人をそんな道に追い込むのなんて後味が悪すぎる。できれば平和な道を模索したいと思うのはごく自然なものだった。
私が彼女たちの処遇を口にしたら、イリアスやユーリウスは呆れながらも、「しょうがないな」という感じで納得してくれた。
フェリクスやエーリック、ラインハルトはそれを聞いて、ちょっとだけほっとした顔つきになった。まあ、彼女たちは彼らにとっては赤の他人ではないから、気にかかって当然だ。
宰相も「念頭におきます」と一言添えてくれた。
ちなみにあのとき、彼女たちに私の場所を教えたのは、ミレイアの取り巻きクスクス二人組だった。
だからタイミングよくあの場所に都合よく四人とも現れたのね。恐らくトイレから出て、茂みのほうに向かう私を見かけたんだわ。
私も独りだったし、試合が始まる間際でひと通りも少なくチャンスだと思ったのね。
ミレイアが以前「他の殿方も一緒に守る!」と宣言していたから、クスクス二人組を使って、攻略対象者を好きな彼女たちと共謀したのだろう。
クスクス二人組はミレイアたちがまさかそんな恐ろしいことを考えていることとは知らず、せいぜい四人で脅しつけることくらいしか考えていなかったんだって。うん、あのふたりには反省文二百枚ね。
そして、話は今後のことについて移っていった。
今回の魔王討伐を祝し、改めて後日、大々的な式典と舞踏会を催すから参加してほしいということ。
国を救ってくれた私たちに、永年的な報奨金が月々支払われること。向こうの世界で言う年金みたいなものかもしれない。総合的に計算すると、すごい額になるため、そういう形をとったと説明された。
それから攻略対象者には『七剣士』という称号を与えること。今も彼らは実質七剣士だけど、これは呼び名に近いため、国から改めて『七剣士』という称号を与えて、その立場を自他問わず明確にするというもの。ある意味、爵位に近いかもしれない。この国の貴族が爵位をいくつも持っているように、その中のひとつと考えればいいだろう。でも『七剣士』は彼ら以外はなく、今後も現れることはないから特別なものだ。これも後日、国王よりその身分を賜る陞爵式が大々的に行われるということ。
その話を口にした際、宰相が唯一平民であるバルタザールに目を向け、バルタザールが望むなら『爵位』を授ける叙爵式も行う予定だから前向きに検討してほしい旨を伝えた。
バルタザールは無言だったけど、私はできるならこの話を彼が受けてくれればいいなと思った。貴族のことをよく思っていない彼だけど、貴族という身分が手に入れば、彼が救いたいと思ってる人たちをより多く救えるチャンスが与えられるだろうから。彼はきっと貰った報奨金は全部貧しい人たちに使うんだろうな。  

「とりあえず七剣士の方々に伝えることは以上です」

宰相が私に目を向ける。

「聖女様に関しましては、神殿の管轄なので、今日は大神官をこちらにお呼びしました」 

「えっ?」

急に自分へ話題が移ったことに目を丸くする。
宰相がすって身を引くと、白い服を着た――どうやら神官服だったらしい――お爺さん、否、大神官がにこやかに目を細めた。

「大神官のシーグル・コネンと申します。今世において、聖女様と七剣士の方々とお会いできる栄誉を賜り、光栄に存じます」

どうやら聖女に関することは神殿が関与するらしい。神殿の礼拝堂には聖女像が祀られていたから、言われてみれば納得する。
大神官はゆったりした口調で話し始めた。
神殿が管轄するとは言っても、魔王を倒した今、特に聖女のやることはないため、神殿に毎日通ったり、住まいを移したりする必要はないということだった。つまり、今まで通りの生活とあまり変わらないということ。聖女が持つ神聖魔法は魔王が使う闇魔法にしか効かないため、魔王がいなくなった今、神聖魔法は必要ないし、普通の人と変わらないからというのが理由らしい。
確かにあれから数日経ってはいるけれど、特に変わった力を発揮することもなく、今までと何一つ変わらない生活を送っている。目を瞑っても、攻略対象者たちの姿を遠見することもない。魔王を倒すために発揮された力だったのかもしれない。
あー、良かった。目を瞑るたびに見えてたら、寝られないもの。
それは七剣士である彼らも同じみたいで、普段と変わらない生活を送っている。まあ、あんな危ない状況になることは滅多にないから、日常生活で光魔法を使う機会なんて訪れないものね。
但し、と大神官が言う。

「月初めのお祈りと年に一度ある神殿の記念行事には出席されてください。今回の件も記念日として新たにできるでしょうから、年二回になることでしょう」

「はい。それはかまいません」

「私からは以上です。他に何かありますか。なければ私はこれで――」

大神官が辞そうとしたところで、イリアスが口を開く。

「今回魔王を倒せたがまた千年後、復活する危険性はあるのだろうか」

「いえ。今回は皆々様のおかげで、魔王の一欠片さえ残さず、消滅したと考えています。千年前の文献を開くと、魔王を倒した折、空にのぼった色のひとつが途中で消えたと記録にあります。ですが、今回はみな途中で消えることもありませんでした。それは間違いなく、皆様の魔法が魔王の深部まで届いたということでしょう」

それを聞いた私たちは全員、ほっと息を吐く。
良かった。もう魔王は現れないのね。

「俺からもひとつ」

フェリクスが口を開く。

「俺の弟が『光の聖人』なんだ。けど魔王を倒した日から『光の聖人』の特徴である肌が光ることがなくなった。これについて何か知ってることがあれば詳しく聞かせてほしい」

そうなのよね。あの日、魔王を倒し終わったら、アルバートの皮膚が普通になってたのよね。
イリアスに抱きついた時、フェリクスの驚いた声の正体はこれだった。
以前、『光の聖人』に関することは神殿の管轄だって、フェリクスたちが言ってたから、今訊くのにちょうどいいわ。
大神官の口が僅かに微笑んだ。

「ほお。七剣士の弟が『光の聖人』だったとは、これもまた神のお導きかもしれませんなあ。その子は何か、魔王を倒す際、助言かなにかしませんでしたかな」

「しました。その子のおかげで、魔王を倒す方法がわかったんです」

私が答える。大神官の目がますます細まった。

「『光の聖人』には、お告げの力があるのです。それが果たされると、役目が終えたとばかりに肌の紋様が消え、普通の人に戻るのです」

「でも『光の聖人』には不思議な力はないと――」

「昔は天災や災害が多く、また魔王がいた頃には『光の聖人』もたくさんいました。皆、そのお告げの力を借りて、人々を救いました。けれど、魔王がいなくなり、天災や災害も減ると『光の聖人』は数を減らしていきました。そして時々現れても、その力がうまく作用しないのか、それとも読み取る力がないのか、お告げをすることもなく『光の聖人』のまま生を終える者が増えたのです。そのため、神殿では『光の聖人』を預かることはやめました。『光の聖人』にはそういう経緯があるのです。ですから今はただの迷信扱いなのでしょう。ですが、その子には、ちゃんとお告げを読み取る力があったようですね」

大神官が微笑んだ。
鳩が豆鉄砲を食らった顔になっているフェリクス。あれほど知りたかった『光の聖人』に関する事柄がここにきて、全部知れたのだ。驚くなというほうが無理だろう。それは私も同じ。大神官の言葉に納得する。
確かにアルバートの夢のお告げは――あれがお告げだと気づけたアルバートもすごい――抽象的で分かりづらかった。読解する力が必要だった。なかなかお告げも親切じゃないのね。
だけど、その役割を果たした今、アルバートは普通の人と変わらぬ姿を手に入れたのだ。
これからは人目を気にせず、自由に外を歩ける。どこにでも、連れていってあげられる。一緒に手を繋いで歩くという当たり前のことができるようになったのだ。
驚きが過ぎ去ったフェリクスの顔が嬉しそう。良かったね。

「ああ、過去の文献で、ちょうど思い出しましたが――」

大神官がついでとばかり、口を開く。

「七剣士の方々はしばらくは女性と、その、深い関係にならないほうがよろしいかと」

「どういう意味だ?」

ユーリウスが眉をあげる。

「魔王の側近くにいたため、瘴気が体に残っています。皆々様は光魔法で体を守られているためなんともありませんが、皆様と体の関係を通して深い関係になった女性たちはその瘴気に当てられてしまいます。事前にご忠告をさせて頂きます」

「それは一体いつまでのことでしょう?」

ラインハルトも口を開く。

「期間は正確にはわからないのですが、数年経てば浄化されるのではないかと考えております」

「はっきりしないの?」

エーリックが少し不満げに呟く。

「ええ。お力になれず、申し訳ありません。なにせ千年前の七剣士たちは全員、聖女様と結婚致しましたので」

「え!?」

私は驚愕の事実に思わず目を見開く。

「聖女様は神聖魔法で守られていますから、七剣士の方々と関係を持っても平気なのです。なので、普通の女性とはどれくらい期間をおいたら平気なのかは記録に残されていないのです」

「ぜ、ぜ、ぜ、全員と結婚したなんて、なんでまた」

驚きで目が飛び出そう。

「それはもちろん、聖女様と七剣士が深く愛し合っていたからです。記録にもいつまでも仲睦まじく過ごしたと記されています」

私は全身に汗をかきながら、言葉を紡ぐ。

「この国って、一夫一妻制よね……?」

今度は宰相が口を開いた。
 
「国の法律ではそうなっています。しかし、聖女様は神の加護を受けた時点で、神の子となり、民籍から外れ、神籍のほうに移されます。なので、民における法律は適応されないのです。なので、何人でもお好きな殿方を夫に迎えることができます」

涼しい顔の宰相とは違い、私の顔からは嫌な脂汗がとまらない。
さっきから押し寄せる圧をひしひしと全身で感じて、宰相と大神官しか目に入れたくない。
なんなの。この全身まとわりつくような圧は。
私はぎぎぎと音を立てるかのように、ぎこちなく首を動かす。

「ひっ!?」

七対の目がこちらを向いていた。
私は何故だか身の危険を感じて、彼らから遠ざかろうと咄嗟に立ち上がる。
椅子ががたんと音をたてて、後ろに倒れる。
攻略対象者たちも立ち上がった。
七人が私を見据えたまま、こちらに迫ってくる。
冷や汗を垂らしながら、じりじりと後ろに下がっていく私。
壁がどんと背中にぶつかった。
その間にも、七人が近付いてきて――
七つの影が重なり、私の顔に濃い影をつくった。
真剣な表情の彼らに、私はごくりと唾を飲み込む。

「「「カレン(さん)」」」

「はいっ!!」

恐ろしさのあまり、勢いよく返事をしてしまう。
七人が申し合わせたように一斉に口を開いた。

「「「好きだ
    (です)」」」

『煌めきのレイマリート学園物語』。
『レイマリート』……これは二つの外国語を組み合わせた造語である。
ゲームのサイトではちゃんと意味が書かれている。
『レイ』とは一筋の光。プレイヤーはこれを見て、「一筋の光」は希望とか未来とか恋とか友情とか、この学園で感じる何かを好きに置き換えられるように抽象的な言葉にしたのだろうと考える。実際はもう何を意味するのかわかってしまったけど。
そして『マリート』。『マリッジ』と少し似ているのもあるかもしれないが、意味は『夫』。
「何故、夫?」とプレイヤーは首を捻るが、告白シーンにおける全キャラ共通の最後の言葉をきいて、納得するのである。

「「「どうかこの俺(僕)と」」」

七つの手の平が私の眼の前に差し出される。

「「「
        してほしい

        してくれ
    結婚
        しよう
      
        してください 
                 」」」
      
ヒロインはここで喜んで、攻略対象者の手をとるのだが、私は逆に手を壁に貼り付けて叫んだ。

「なんで、こうなるのよぉー!!」

私の叫びは王宮の壁を突き抜け、空高く登っていった。








#################################




Marito(マリート)はイタリア語です。
Rayは英語で色々意味(一条の光、 光線、光線を出す(光・考え・希望などが)輝く、 きらめく、ひらめくなど)はありますが、ここでは一筋の光です。
もちろん、こっちでは世界は違うのでそんな意味はありませんが、制作陣が考えた学園名が偶然にも一致した感じです。

最初、ゲームの題名は「煌めきのマリアージュ」でした。
掲載前の書いてる途中で変えたんですが、やっぱり変えなきゃ良かったと後悔してます(^_^;)

ところで、「試合はどうなった!?」って感じですよね(汗)。
本当、どこに行っちゃったんでしょう(笑)
イリアス、ユーリウス、フェリクスらへんは話を聞いてるうちに、頭から抜け落ちたんだと思います。唯一、体の関係を結べる相手がカレンだけだとわかって、ますますカレンしか見えなくなって、先走ってプロポーズしちゃったって感じでしょうか(^_^;)
エーリックは一か八かで手に入れるより、(エーリックももちろん試合で負けるつもりはありませんが、みんな選択授業で剣術を選択してるので、お互いの実力はわかってる感じです。イリアスたちが強いの知ってます。練習試合ではまだあたったことありませんが。ちなみにユーリウスももちろん攻略対象者なので強いです。余談ですが、ユーリウスは剣術授業でイリアスとほぼ互角だと悟ったため、剣術大会のために猛特訓した感じです。それで、自信をつけてイリアスに勝つ気満々でした。)確実にカレンを手に入れる方を選んだって感じです。
レコの場合は試合では望み薄なのはわかっていたので、ここに来て眼の前に餌がぶら下がったので、思わず飛びついた感じです。
ラインハルトは教師ですが、千年前聖女と七剣士が結婚しているという大義名分?ができたのと、今回の魔王の件で、「いつ何がおきるかわからない。自分の気持ちを伝えられないままになってたかもしれない」と感じて、教師だとか、卒業するまでとか、色々理由をつけて自分の気持ちを隠すのはやめようと決心した感じです。
バルタザールの場合は他の六人がカレンのことを好きだと勘付いて、盗られる前にすかさずプロポーズした感じですね。
こうなってしまったら、カレンを独り占めしたいイリアスもユーリウスも諦めるしかありませんね(^_^;)真面目に試合しても、カレンさえ結婚に承諾してしまえば、勝った意味ないので。(きっと5人はあれやこれや手を使って、カレンを頷かせてしまいそうですから。そしてそんなカレンの性格もわかっちゃってる感じです)




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