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59.それぞれの視線

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教室に入って教壇の上にプリントをおいた私の目にセレナの姿が目に入った。
セレナは何事もなかったように涼しい顔で席に着いている。
その姿に思わず、怒りがこみあげる。
あと一歩でひとに大怪我させてたのよ。なのに、なんでそんな平静な態度を装えるわけ?
どうやら、ガブリエラと同じく、彼女も見た目に反して、図太い神経をしていたようだ。すっかり騙されていたようね。
私は内心頭を抱えて、大きな溜め息を吐く。
今すぐ詰め寄って問いただしたいけど、周りからすれば、ただ単に言いがかりをつけているようにしか見えないだろう。証拠もないし、それより何よりこの見た目。
セレナはいかにも儚げで繊細で、虫も殺さぬ顔をしているのに対し、私はこの悪役顔だ。セレナが目を潤ませて「ひどい! 私、そんなことしてないのに!」なんて、泣き崩れでもされれば、完璧こちらに非があるようになってしまう。自分の足元に墓穴を掘るようなものだ。
私は諦めの溜め息を吐くと、自分の席へと向かった。

「おはよう」

隣の席から声がかかる。私はさっきとは別の意味で心臓が飛び上がった。

「え、え、え、エーリック、お、おはよう」

ひえっ。告白されてから初めて顔を合わせるわ!
どういう表情をしたらいいの!? 
あれから家に帰ってもあの時のことをおもいだすと混乱の極みに達して、なにも考えられなくなってしまうのだ。
なので、返事の言葉を考えるどころか、エーリックのことを好きか嫌いか考える間さえなかった。いや、もちろん嫌いではないんだけど……。
エーリックと付き合えるわけないんだから、断るほうが良いわよね? でもその場合返事はなんて言うの? ただの一度も告白されたことなんてない身だから、断りの返事さえうまい言葉が見つからない。
こういう時、漫画や小説とかだとどうしてたっけ?
「私、好きなひとがいるの」が鉄板よね。でも、私には好きなひとがいない。じゃあ、「婚約者がいるの」かしら。でも、そうしたら当然、相手が誰か聞かれるわよね。そしたらイリアスと答えるしかないけど、ああ! でもそうしたら私がイリアスの婚約者だって周りにバレてしまう! そして回り回って、「あの悪女、自慢気に吹聴してましたわよ」って、イリアスの耳にねじ曲がって伝わるに違いない。そしたら、「お前を婚約者と認めたことはない」って、冷たい目線で私を見据えながら、腰にある剣を――

「カレン、大丈夫?」

声をかけられ、私の思考はそこで中断した。

「え? なにが!?」

「さっきからぼうっとしたまま、難しい顔してるから」

「ああ、ごめんなさい。考え事してて……」

いけない。どうやらトリップしてたみたい。

「ふうん。まあ、カレンならどんな顔してても可愛いけどね」

思わせぶりに微笑むエーリック。そこにはなんだか下心も見え隠れしているように見えて――

「なっ!」

私の顔が思わず、赤くなる。
口説かれてると思うのは私の気の所為!?

「やっぱ、かわいー。――あ、この前の返事、ゆっくりでいいから。急に言われても考える時間がほしいでしょ」

前半私をどきりとさせる言葉を吐いといて、急に真面目な顔つきになる。

「ええ、まあ……」

自分の命がかかってるから、ここは慎重に対処したいわ。

「本当、ゆっくりでいいよ」

「ありがとう」

エーリックはなんだかんだ言っても、やっぱり人柄がいいわね。ほっ。

「その間に好きにさせればいいだけの話だから」

「えっ?」

驚いて振り向くと、エーリックが頬杖をつきながらにこりと笑った。
邪気がないのに何故か薄黒いオーラを背中に感じて、冷や汗をかいたところで、教室の扉が開いた。
ラインハルトがやってきたのだ。
教壇の前に立ったラインハルトは私と目が合うと、微笑した。その笑みの意味はきっと「義妹と一緒に教室に行ってくれて、ありがとう」だろう。ほんの僅かな仕草だったけど、目が合った私には彼が笑ったのがわかった。そして、もうひとりそれを感知した人間がいた。
ラインハルトが微笑んだ途端、右斜め前方から鋭い目線が送られてくる。
うわっ。めちゃ睨んでくるわ。
私は前からと斜め前方、そして、隣からの視線から自分を守るため、教科書を盾にして開くと、すっと前に掲げたのだった。





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