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46.いるはずのない人物
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ある日の放課後、私は浮き足立っていた。
なぜならやっと、外出禁止がとけたからである。
ずっと家と学校の往復で、ちょっとうんざりしていた。
やっと寄り道ができるわ。色々見て回ろうと、トマスに言って街中でおろしてもらう。
次の休みにはフェレール邸に招待されているから、何か土産でも買ったほうが良いかしら。
物色しつつ、そんなことを思っていると、声がかかった。
「あれ、カレン?」
声の主のほうを振り向く。
「エーリック?」
「カレンも寄り道?」
「ええ、そうよ。エーリックも?」
ゲームでは、ヒロインが街に寄ると道草中の攻略対象者に会えたりした。だから、こうして会うのも別段変ではない。
「うん。最新の武具とかあったら見たいなと思ってさ」
「ふふ。エーリックらしい」
私が笑うと、エーリックが頭を掻いた。
「そういうカレンは何見てるの? アクセサリー?」
私の横にあった髪飾りやネックレス、指輪に目をとめる。高級店と比べ、天台に並べられたそれらは庶民にも買いやすい値段だ。
「やっぱり女の子だね。俺が選んであげようか」
「い、いいわ。たまたまここにいたの」
また恋人同士だと誤解されたら恥ずかしい。慌てたけど、エーリックは気にしなかった。
私の髪に髪飾りを当て始める。
「こっち? うーん、でもこっちも似合うな」
イケメンに私と髪飾りをじっくり見比べられて、顔が赤くなる。いいって言ってるのに!
「よし、決めた。これにしよ」
エーリックが選んだのは、オレンジ色の石を中央に埋め込んだ髪飾りだった。銀の台座と、周りに散らばる透明な石がきらきらと光っている。
「おじさん、これちょうだい」
エーリックが財布をだし、払ってくれる。
「お金なら自分で出すわ」
「いいから。俺が勝手に選んだんだし。――ほらつけてあげる」
エーリックが私の後ろに周り、髪の毛を手に取る。
「――カレンの髪の毛って、やっぱり柔らかいね」
ちょっと引っ張るエーリックの指先がくすぐったい。
「初めて会ったとき、貴族の令嬢なのに、簡単に切るって言って驚いたんだ。こんな綺麗な髪の毛なのにって」
すみません。エセ令嬢なんです。
「あの時、思ったんだ。ああ、この子は自分のことより真っ先に人のことを優先する子なんだなって」
髪飾りをパチリととめる音がする。
「あの時から、君は俺のと__つになったんだ」
最後のほうの小さく呟かれた声は、周りの騒がしい空気に紛れてしまった。
「ほら、できた。うん、よく似合ってるよ。カレンは黒髪だから、こういう色が似合うよ」
「あ、ありがとう」
私は照れながら、礼を言う。さっきの言葉はなんて言ったのかしら。でも、なんか独り言だったような気もするし、あまり突っ込まないほうが良いかしら。
「せっかくだから、一緒に見て回らない?」
「うん、いいわよ」
その後はふたりで、露店を見て回った。
マルシェのほうに足を向けたときだった。
「あれ?」
エーリックが何かに目をとめたみたいに立ち止まる。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと待って――。俺の勘違いかも」
エーリックが首を傾げる。でも、そのあと目についたものを再び確かめるために、振り返った。
私も一緒に振り返る。エーリックの視線の先にいたのは緑色の髪の人。
さっきまで眼の前を歩いていただろう人物は今は後ろ姿を見せている。
どこかで見たことのある髪型だった。
エーリックが首を捻る。
「……なんだか、似てる――」
男を見つめて、目を離さないまま、ぼそりと独りごちる。
「ちょっと待っててくれる? 声かけてくるだけだから」
「あ、エーリック!」
エーリックが駆け出したので、私も慌ててあとを追う。
エーリックの背中越しにある緑色の髪を見て走りながら、なぜ自分も見覚えがあるのか、考える。
エーリックが追いついた。男が肩を掴まれ、振り返った。顔を見た瞬間、思い出した。
「ハーロルト・マクフェイル!!」
私が頭の中で閃いた名を、エーリックが同時に声に出していた。
エーリックの親友だわ! どうして? 登場するのは一年以上先じゃないの?!
私が驚愕で目を見開いていると、ハーロルトが肩を振り払った。
「人違いだ」
「なっ! お前だろう! ――生きて、たのか……」
エーリックが呆然とつぶやくと、ハーロルトが冷めた目線を寄越す。
「そんな男は知らん」
立ち去ろうとするのを、エーリックが肩を掴んで引き止める。
「知らないはずないだろ。お前はハーロだよ。なんで嘘つくんだよ。俺のこと、忘れたのか? 俺、お前の親友の――」
ハーロルトが舌打ちをする。
「人違いだ。離せっ!!」
エーリックを振り払うと、走り出す。
「ハーロ!!」
ハーロルトはいくつもの角を曲がり、細い道に入り込んでいってしまう。エーリックも追いかけたけど、人混みに邪魔されて最後には見失ってしまった。
「……あいつ、絶対ハーロだった」
はあはあと息を吐き、膝に手をつく。
「どうしてあいつが――? 何でここにいるんだよ……」
やるせない思いを押さえつけるように、目元を手のひらで覆う。
「生きてたら、なんで、――なんで俺に会いに来なかったんだよ……」
エーリックの呟きは、薄暗い路地裏に消えた。
返事を返す者はいなかった。
なぜならやっと、外出禁止がとけたからである。
ずっと家と学校の往復で、ちょっとうんざりしていた。
やっと寄り道ができるわ。色々見て回ろうと、トマスに言って街中でおろしてもらう。
次の休みにはフェレール邸に招待されているから、何か土産でも買ったほうが良いかしら。
物色しつつ、そんなことを思っていると、声がかかった。
「あれ、カレン?」
声の主のほうを振り向く。
「エーリック?」
「カレンも寄り道?」
「ええ、そうよ。エーリックも?」
ゲームでは、ヒロインが街に寄ると道草中の攻略対象者に会えたりした。だから、こうして会うのも別段変ではない。
「うん。最新の武具とかあったら見たいなと思ってさ」
「ふふ。エーリックらしい」
私が笑うと、エーリックが頭を掻いた。
「そういうカレンは何見てるの? アクセサリー?」
私の横にあった髪飾りやネックレス、指輪に目をとめる。高級店と比べ、天台に並べられたそれらは庶民にも買いやすい値段だ。
「やっぱり女の子だね。俺が選んであげようか」
「い、いいわ。たまたまここにいたの」
また恋人同士だと誤解されたら恥ずかしい。慌てたけど、エーリックは気にしなかった。
私の髪に髪飾りを当て始める。
「こっち? うーん、でもこっちも似合うな」
イケメンに私と髪飾りをじっくり見比べられて、顔が赤くなる。いいって言ってるのに!
「よし、決めた。これにしよ」
エーリックが選んだのは、オレンジ色の石を中央に埋め込んだ髪飾りだった。銀の台座と、周りに散らばる透明な石がきらきらと光っている。
「おじさん、これちょうだい」
エーリックが財布をだし、払ってくれる。
「お金なら自分で出すわ」
「いいから。俺が勝手に選んだんだし。――ほらつけてあげる」
エーリックが私の後ろに周り、髪の毛を手に取る。
「――カレンの髪の毛って、やっぱり柔らかいね」
ちょっと引っ張るエーリックの指先がくすぐったい。
「初めて会ったとき、貴族の令嬢なのに、簡単に切るって言って驚いたんだ。こんな綺麗な髪の毛なのにって」
すみません。エセ令嬢なんです。
「あの時、思ったんだ。ああ、この子は自分のことより真っ先に人のことを優先する子なんだなって」
髪飾りをパチリととめる音がする。
「あの時から、君は俺のと__つになったんだ」
最後のほうの小さく呟かれた声は、周りの騒がしい空気に紛れてしまった。
「ほら、できた。うん、よく似合ってるよ。カレンは黒髪だから、こういう色が似合うよ」
「あ、ありがとう」
私は照れながら、礼を言う。さっきの言葉はなんて言ったのかしら。でも、なんか独り言だったような気もするし、あまり突っ込まないほうが良いかしら。
「せっかくだから、一緒に見て回らない?」
「うん、いいわよ」
その後はふたりで、露店を見て回った。
マルシェのほうに足を向けたときだった。
「あれ?」
エーリックが何かに目をとめたみたいに立ち止まる。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと待って――。俺の勘違いかも」
エーリックが首を傾げる。でも、そのあと目についたものを再び確かめるために、振り返った。
私も一緒に振り返る。エーリックの視線の先にいたのは緑色の髪の人。
さっきまで眼の前を歩いていただろう人物は今は後ろ姿を見せている。
どこかで見たことのある髪型だった。
エーリックが首を捻る。
「……なんだか、似てる――」
男を見つめて、目を離さないまま、ぼそりと独りごちる。
「ちょっと待っててくれる? 声かけてくるだけだから」
「あ、エーリック!」
エーリックが駆け出したので、私も慌ててあとを追う。
エーリックの背中越しにある緑色の髪を見て走りながら、なぜ自分も見覚えがあるのか、考える。
エーリックが追いついた。男が肩を掴まれ、振り返った。顔を見た瞬間、思い出した。
「ハーロルト・マクフェイル!!」
私が頭の中で閃いた名を、エーリックが同時に声に出していた。
エーリックの親友だわ! どうして? 登場するのは一年以上先じゃないの?!
私が驚愕で目を見開いていると、ハーロルトが肩を振り払った。
「人違いだ」
「なっ! お前だろう! ――生きて、たのか……」
エーリックが呆然とつぶやくと、ハーロルトが冷めた目線を寄越す。
「そんな男は知らん」
立ち去ろうとするのを、エーリックが肩を掴んで引き止める。
「知らないはずないだろ。お前はハーロだよ。なんで嘘つくんだよ。俺のこと、忘れたのか? 俺、お前の親友の――」
ハーロルトが舌打ちをする。
「人違いだ。離せっ!!」
エーリックを振り払うと、走り出す。
「ハーロ!!」
ハーロルトはいくつもの角を曲がり、細い道に入り込んでいってしまう。エーリックも追いかけたけど、人混みに邪魔されて最後には見失ってしまった。
「……あいつ、絶対ハーロだった」
はあはあと息を吐き、膝に手をつく。
「どうしてあいつが――? 何でここにいるんだよ……」
やるせない思いを押さえつけるように、目元を手のひらで覆う。
「生きてたら、なんで、――なんで俺に会いに来なかったんだよ……」
エーリックの呟きは、薄暗い路地裏に消えた。
返事を返す者はいなかった。
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