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29.屋上
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私はお昼休みに屋上へと足を踏み入れた。
引き続き探検中である。
「うーん、いい天気」
頭上にはよく晴れた青空が広がっていた。
私は空に向かって伸びをする。
「あれ? カレンさん?」
私は呼びかけられて、声の方へ振り向いた。
「先生っ!?」
ラインハルトがお弁当らしき包みを持って立っていた。
「びっくりした。一体こんなところでどうしたんですか?」
「ごめん。驚かせちゃったみたいだね。お昼を食べにここに来たんだけど、ちょうど帰ろうとしたら、君が見えて」
「そうだったんですね」
ドアがある建物に隠れて、ラインハルトに気づかなかったみたい。
そういえば、『きらレイ』でも似たような場面があった。屋上で風にあたりに来たヒロインが、お弁当を食べていたラインハルトと偶然出くわすシーンがあった。
教師はどうやら食堂を利用しないみたいで、みんなお弁当を持ってくるみたい。
まあ、あんな高級なランチだったら、お昼代も馬鹿にならないよね。
ラインハルトが空を仰いだ。
ああ! この横顔、ラインハルトの初スチルにそっくり! 柔らかい髪が風に吹かれて、気持ちよさそうに目を細める彼の姿に目が釘付けになる。
端正なシャープな顎のラインといい、完璧なまでの鼻筋といい、大人の男性の色香が漂ってくる。普段柔和なラインハルトだけに、たまに見せるすっとした表情は本当に格好良い。
「こんなに天気がいいと、部屋の中に籠もって食べるより、外で食べたほうが美味しいからね」
艶っぽい表情とは反対に声は低くて柔らかで、聞いてると心が落ち着く。
「気持ちわかります。やっぱり青空の下で食べたほうが気持ちいいですよね」
ラインハルトがこちらに視線を向け、おかしそうに笑う。
「知ってる? 本当の空の色は青じゃなくて七色なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。正確には太陽の光なんだけど。本当は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。青色の光だけ他の色と違う方向に屈折してるから、特別青く見えるんだ」
「へえ」
流石学園の教師。博識だわ。
「今度虹が出たら、見てごらん。あれが本当の空の色で、雨粒のおかげで、色んな角度に反射して他の色も見えるようになってるんだ」
「じゃあ、本当は空って虹色なんですね。ロマンチックですね」
私は顔を輝かせた。
「そう言われると周りを見る目が変わるでしょ。自分の目で見てるものが必ずしも正解なわけじゃないんだ」
「先生はきっとそうやって、私たち生徒を含め、広い視野で物事を見て判断してるんでしょうね。生徒みんなから慕われてるのも、頷けます」
ラインハルトが、ちょっと表情を変えてこちらを見る。
「そんなこと言われたのは、教師になってから初めてだよ。僕自身でも、頼りないとか、威厳が足りないのはわかってるつもりだけど。まあ、最も僕はまだまだ若いから仕方ないけどね」
「いいえ! 先生はもっと自信を持つべきです! 素晴らしい教師なんですから。先生は偏見がなくて、優しいです。誰にでも平等だし、本当にもうそれだけで立派です!」
ゲームをプレイしていた私だからこそ、自信を持って力説できる。
ゲームでのラインハルトは本当にもう始終穏やかで、これが本物の大人の男性なんだなーって何度も感じた。
頭がよくて格好良いのに、気取ってなくて。
ヒロインと仲良くなるきっかけも、ヒロインが数学の試験で赤点をとって補習を受ける羽目になるところから。
頭の悪い生徒なんて、普通なら願い下げで、ラインハルトは教師なんだから尚更と思うけど、ラインハルトは最初から全然色眼鏡なんかで見ないで、ヒロインに接してくれる。
平民出身のヒロインを懇切丁寧に見てくれて、そんな優しいラインハルトを知るからこそ、プレイヤーたちはその後必死こいて、ラインハルトのために勉強を頑張るのだ。
私もそのうちのひとりだった。
ラインハルトは一生懸命勉強を頑張るヒロインを暖かく見守るうちに、その諦めない姿勢と優しい性格に惹かれていく。それこそが、ラインハルトの心の広さと分け隔てない心の持ち主の証明。
だって、落ちこぼれだったヒロインを最初から色眼鏡で見ていたら、恋に落ちてくれるはずなんてないんだから。
私はそんなラインハルトを知っているから、自信を持って言える。
「先生は立派な教師です! 私が保証します!」
私は自分の胸に手を当て、ずいと身を乗り出す。
ラインハルトが目を丸くしたあと、ふはっと息を吐き出した。
「ははは。ありがとう。生徒にそこまで言ってもらえるなんて、教師冥利に尽きるね」
笑いを収めて、私を見つめる。
「今日はカレンさんと話ができて良かった。君はいい子だね」
ラインハルトが目を細めてふわっと笑う。
うわ、この笑顔、ゲームで何度も見たけど、生で見ると、強烈だわ。心が持っていかれそう。
「そ、そんなことないです。先生が素敵だから、当たり前のことを言っただけで、私なんてまだまだです」
「そんなことないよ。教師の僕が言うんだ。信じて。――ね」
ラインハルトが同意を求めるようにふんわり笑う。
そんな穏やかな空気のラインハルトに、私はほわーんと溶けそうになった。
やっぱりラインハルトといると落ち着く。邪念がなくて、裏表がなくて。
無垢というか、誠実というか、しょっちゅう鼓動を落ち着かなくさせるあいつらとは大違い。まあ、誰とは言わないけど。
あの人たちの言動は何故か危険信号が鳴り響くのよね。悪女のカンというものかしら。
そんなことを思っていたら、ラインハルトが朗らかに笑った。
「これから空を見るたびに君のことを思い出しそうだ。――――忘れられない記念をありがとう」
まぶしっ。油断しきっていた私は、きらきらスマイルの攻撃を直に受けて、思わず目を瞑る。
空を見るたびに、ですって?
ラインハルトみたいな爽やか好青年の頭のなかに、しょっちゅう私が無限リピートされるかと思うと恥ずかしくってたまらないわ。
自分の言動がどれだけの女子を惑わすか、ちっともわかっていないラインハルトが憎い。
攻略対象者はやっぱり攻略対象者だったと改めて私は認識したのだった。
引き続き探検中である。
「うーん、いい天気」
頭上にはよく晴れた青空が広がっていた。
私は空に向かって伸びをする。
「あれ? カレンさん?」
私は呼びかけられて、声の方へ振り向いた。
「先生っ!?」
ラインハルトがお弁当らしき包みを持って立っていた。
「びっくりした。一体こんなところでどうしたんですか?」
「ごめん。驚かせちゃったみたいだね。お昼を食べにここに来たんだけど、ちょうど帰ろうとしたら、君が見えて」
「そうだったんですね」
ドアがある建物に隠れて、ラインハルトに気づかなかったみたい。
そういえば、『きらレイ』でも似たような場面があった。屋上で風にあたりに来たヒロインが、お弁当を食べていたラインハルトと偶然出くわすシーンがあった。
教師はどうやら食堂を利用しないみたいで、みんなお弁当を持ってくるみたい。
まあ、あんな高級なランチだったら、お昼代も馬鹿にならないよね。
ラインハルトが空を仰いだ。
ああ! この横顔、ラインハルトの初スチルにそっくり! 柔らかい髪が風に吹かれて、気持ちよさそうに目を細める彼の姿に目が釘付けになる。
端正なシャープな顎のラインといい、完璧なまでの鼻筋といい、大人の男性の色香が漂ってくる。普段柔和なラインハルトだけに、たまに見せるすっとした表情は本当に格好良い。
「こんなに天気がいいと、部屋の中に籠もって食べるより、外で食べたほうが美味しいからね」
艶っぽい表情とは反対に声は低くて柔らかで、聞いてると心が落ち着く。
「気持ちわかります。やっぱり青空の下で食べたほうが気持ちいいですよね」
ラインハルトがこちらに視線を向け、おかしそうに笑う。
「知ってる? 本当の空の色は青じゃなくて七色なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。正確には太陽の光なんだけど。本当は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。青色の光だけ他の色と違う方向に屈折してるから、特別青く見えるんだ」
「へえ」
流石学園の教師。博識だわ。
「今度虹が出たら、見てごらん。あれが本当の空の色で、雨粒のおかげで、色んな角度に反射して他の色も見えるようになってるんだ」
「じゃあ、本当は空って虹色なんですね。ロマンチックですね」
私は顔を輝かせた。
「そう言われると周りを見る目が変わるでしょ。自分の目で見てるものが必ずしも正解なわけじゃないんだ」
「先生はきっとそうやって、私たち生徒を含め、広い視野で物事を見て判断してるんでしょうね。生徒みんなから慕われてるのも、頷けます」
ラインハルトが、ちょっと表情を変えてこちらを見る。
「そんなこと言われたのは、教師になってから初めてだよ。僕自身でも、頼りないとか、威厳が足りないのはわかってるつもりだけど。まあ、最も僕はまだまだ若いから仕方ないけどね」
「いいえ! 先生はもっと自信を持つべきです! 素晴らしい教師なんですから。先生は偏見がなくて、優しいです。誰にでも平等だし、本当にもうそれだけで立派です!」
ゲームをプレイしていた私だからこそ、自信を持って力説できる。
ゲームでのラインハルトは本当にもう始終穏やかで、これが本物の大人の男性なんだなーって何度も感じた。
頭がよくて格好良いのに、気取ってなくて。
ヒロインと仲良くなるきっかけも、ヒロインが数学の試験で赤点をとって補習を受ける羽目になるところから。
頭の悪い生徒なんて、普通なら願い下げで、ラインハルトは教師なんだから尚更と思うけど、ラインハルトは最初から全然色眼鏡なんかで見ないで、ヒロインに接してくれる。
平民出身のヒロインを懇切丁寧に見てくれて、そんな優しいラインハルトを知るからこそ、プレイヤーたちはその後必死こいて、ラインハルトのために勉強を頑張るのだ。
私もそのうちのひとりだった。
ラインハルトは一生懸命勉強を頑張るヒロインを暖かく見守るうちに、その諦めない姿勢と優しい性格に惹かれていく。それこそが、ラインハルトの心の広さと分け隔てない心の持ち主の証明。
だって、落ちこぼれだったヒロインを最初から色眼鏡で見ていたら、恋に落ちてくれるはずなんてないんだから。
私はそんなラインハルトを知っているから、自信を持って言える。
「先生は立派な教師です! 私が保証します!」
私は自分の胸に手を当て、ずいと身を乗り出す。
ラインハルトが目を丸くしたあと、ふはっと息を吐き出した。
「ははは。ありがとう。生徒にそこまで言ってもらえるなんて、教師冥利に尽きるね」
笑いを収めて、私を見つめる。
「今日はカレンさんと話ができて良かった。君はいい子だね」
ラインハルトが目を細めてふわっと笑う。
うわ、この笑顔、ゲームで何度も見たけど、生で見ると、強烈だわ。心が持っていかれそう。
「そ、そんなことないです。先生が素敵だから、当たり前のことを言っただけで、私なんてまだまだです」
「そんなことないよ。教師の僕が言うんだ。信じて。――ね」
ラインハルトが同意を求めるようにふんわり笑う。
そんな穏やかな空気のラインハルトに、私はほわーんと溶けそうになった。
やっぱりラインハルトといると落ち着く。邪念がなくて、裏表がなくて。
無垢というか、誠実というか、しょっちゅう鼓動を落ち着かなくさせるあいつらとは大違い。まあ、誰とは言わないけど。
あの人たちの言動は何故か危険信号が鳴り響くのよね。悪女のカンというものかしら。
そんなことを思っていたら、ラインハルトが朗らかに笑った。
「これから空を見るたびに君のことを思い出しそうだ。――――忘れられない記念をありがとう」
まぶしっ。油断しきっていた私は、きらきらスマイルの攻撃を直に受けて、思わず目を瞑る。
空を見るたびに、ですって?
ラインハルトみたいな爽やか好青年の頭のなかに、しょっちゅう私が無限リピートされるかと思うと恥ずかしくってたまらないわ。
自分の言動がどれだけの女子を惑わすか、ちっともわかっていないラインハルトが憎い。
攻略対象者はやっぱり攻略対象者だったと改めて私は認識したのだった。
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