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18.いざ学園へ
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とうとうこの日がやってきてしまった。今日はレイマリート学園の入学式。
月日が経つのは速いもので、私は十六になった。実年齢は二十歳だけど。
これから三年間、『きらレイ』の舞台である学園で過ごすことを思うと、楽しみなような、怖いような。
制服に着替え終わった私は姿見を見つめる。
紺色のブレザーに、膝丈より少し長いスカート。ゲームではおなじみの格好だ。既に幾度も見て目で馴染んだ制服を改めてまじまじと見つめる。
金色の釦に、胸ポケットには学園のエンブレム。ショルダーラインと袖口、身頃の中心部には洒落た模様が入っている。スカートはふんわり広がっていて、裾のほうにもジャケットと同じようなデザイン。そして中のシャツの襟元を飾る紺と金のストライプのリボン。
流石貴族が通う学園の制服である。オシャレな上、生地も上質なウールで作られ、着心地も抜群だ。
ちなみに男子も同じデザインの上着で、丸っこい女子の襟に対し、角ばっている。紺色のズボンの裾にはジャケットと同じ模様。そして、女子のリボンに対して、男子はネクタイを着用。
男女ともに皆制服を着用するのは同じだが、ジャケットの中に着るシャツだけは違った。
それぞれのキャラに合わせて変わるのは、乙女ゲームならでは。
カレンの場合はその瞳に合わせて、ダークパープルのブラウス。いかにも悪役って感じの色。
他のライバル令嬢たちは、それぞれのキャラに合わせたパステルカラーで、袖や襟にフリルがついてたりした。
男子たちは、イリアスならば青。瞳の色と彼の性格さに合わせたクールで高潔な感じ。ユーリウスは赤。彼の赤色の髪によく似合っていて、ちょっと着崩した感じがワイルドで色っぽかった。ほかにも緑やオレンジなんてのもあった。
現実の私はといえば、シンプルな白にした。ゲームと同じどぎつい紫にして、引かれたくなかったし、悪女のイメージを払拭したかったから。それに制服のブラウスが白だった向こうの世界の固定観念が、頭の奥底にこびりついてしまっている。
決して、オシャレセンスがゼロなわけではないのよ。うん。決して。
私はスカートをひらりと揺らしてみせる。スカートの下はゲームのカレンは真っ黒なタイツをはいていたけど、今の私は短めの紺のソックス。
私は改めて、己の全身像を鏡で眺める。
カレンはヒロインのライバルを張るだけあって、プロポーションは完璧だ。スカートから伸びる長い足に細い腰。胸も発展途上とは思えないくらいボリュームがある。十六歳だった『橘花蓮』と比べるのも恥ずかしいくらいだ。
髪の長さは『きらレイ』のカレンと同じくらいになっていた。腰に少し届くくらいの長さで、肩くらいまではストレートに近いけど、腰に向けて流れるにつれ、うねるようにカールがかっている。これもゲームで見た通り。髪をセットする必要もないなんて、羨ましすぎる。ゲーム補正、様々だわ。
でも、ゲームと違うところもある。それは顔だ。ゲームのカレンはとにかく目元がきつかった。もとからそんな顔立ちだと思っていたけど、どうやら違ったみたい。
私は自分の顔を見つめる。カレンは大きくて猫目がちな瞳をしている。黒くて太いアイラインをやめて、茶系でちょっと目尻を下げて書けば、瞳が大きくて愛らしい顔立ちに変わる。
化粧って本当、大事なんだなあと実感する。
唇も真っ赤なルージュばかりひいて毒々しかったけど、もとからの赤い血色を活かして、淡いピンクの口紅をひけば、印象が様変わり!
大きくて潤んだ瞳。わずかに染まった桜色の頬。ぷるるんとした唇で、全体的なバランスは完璧! 可憐な美少女の出来上がり! 言っておくけど、駄洒落ではない。
あー、自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。言い過ぎだと自分でもわかってるけど、カレンに憑依しているのは、この私。多少贔屓目で見たって仕方ない。
それに、将来カレンを追い詰めることになる人物たちが集結している学園へと、今から足を踏み入れなければならないのだ。
味方もいない、たったひとりのカレン。
自分で自分の味方をしてあげなきゃ、一体誰がなるって言うの。
気分をあげるためにも、褒め称えても罰はあたらないはず。
私が鏡の中の自分に語りかけていると、横から声がかかる。支度を手伝ってくれたアンナだ。
「そんなにご自分のお顔が珍しいですか? まあ、久しぶりのお化粧でしたからね」
私は鏡の中の自分から離れ、アンナに向き直る。
「そうね。お化粧なんて何年ぶりかしら。今までずっとすっぴんだったから、ちょっと変な感じ」
憑依する前はずっと大人顔負けの化粧をしていたカレン。私が憑依してからはずっとすっぴんで通していた。このままずっとすっぴんでいるのも悪くないと思っていたけど、アンナを始めとする使用人たちに猛反対を食らった。
曰く、『化粧はレディの嗜み』だそうだ。私くらいの歳の貴族の令嬢なら、みんな化粧をしているのが当たり前みたい。中にはもっと早くから化粧している令嬢もいるくらいで、学園の入学と合わせて化粧を始めた私は遅いくらいなんだそう。
まあ、貴族の令嬢が集まるお茶会とか行かないから、そこらへんの常識はよくわからない。
「アンナから見ても、変じゃない?」
私は頬に手を当てる。自画自賛だったけど、それは自分の中にだけ。
人の意見もやっぱり気になる。
アンナが大きく目を見開かせ、大股で一歩近付く。
「すっごく可愛いですよ! カレン様の要望にこたえて、薄化粧にしましたが、カレン様の容姿によく似合ってます。まるで天使みたい!」
勢いに押され、私はちょっと仰け反った。
「あ、ありがとう――」
駄目だ。アンナも贔屓目がひどい。長年一緒にいたし、何より私はアンナが仕える家の令嬢なのである。褒め称えるのが当然だし、冷静な判断なんてできるわけない。
私は諦めのため息を吐く。
「今の横顔もとっーても、麗しいです」
まだ続けようとするアンナに対し、私は口元を引きつらせる。
「わかった。もういいわ。――そろそろ時間ね。行かなくちゃ」
「はい。外でトマスが待っていますよ。扉までお見送りいたします」
扉の前までくると、お父様とお兄様も待っていた。
お父様が柔らかく微笑んだ。
「入学おめでとう。制服がよく似合っている」
「ありがとうございます。お父様」
「カレン、綺麗だよ」
お兄様が感極まった顔で私を抱きしめる。
「ありがとうございます。お兄様」
ここ数年で大人の色香が加わってますます美貌に磨きがかかったお兄様に言われると、なんともこそばゆい。
「こんな可愛いと変な虫がつかないか、心配だな」
ちなみにシスコン度も年々磨きがかかっている。
「それから、お前を妬んでやっかんでくる令嬢たちもいるかもしれないな」
私を抱きしめていたお兄様が顔をあげた。
「いいか、カレン。誰かに嫌がらせされたら、真っ先に言うんだぞ」
私を掴んでいた肩に力がこもる。
「我がドロノア家の財力を使って、二度と立ち上がれないほど叩き潰してやるからな」
ひい。私は青ざめた。そんなことをしたら、それこそ悪女街道まっしぐらだわ。
間違いなく悪女の烙印を押されてしまいます、お兄様。
「――お気持ちだけで充分です」
私はぶんぶんと力強く首を振れば、お父様が横から神妙に頷く。
「遠慮することはない。お前のためなら、私とジェイクは何でもする――」
これ以上聞いていたら、話が怪しい方向に向かっていきそうで、私は慌てて話を切り上げた。
「もう時間ですね! 行ってきます!」
トマスが操る馬車に飛び乗る。
「気をつけて行きなさい」
お父様の呼びかけ声に、私は窓から手を振って応える。
屋敷の人々に見送られながら、私が乗る馬車は一路、学園へと向かっていった。
月日が経つのは速いもので、私は十六になった。実年齢は二十歳だけど。
これから三年間、『きらレイ』の舞台である学園で過ごすことを思うと、楽しみなような、怖いような。
制服に着替え終わった私は姿見を見つめる。
紺色のブレザーに、膝丈より少し長いスカート。ゲームではおなじみの格好だ。既に幾度も見て目で馴染んだ制服を改めてまじまじと見つめる。
金色の釦に、胸ポケットには学園のエンブレム。ショルダーラインと袖口、身頃の中心部には洒落た模様が入っている。スカートはふんわり広がっていて、裾のほうにもジャケットと同じようなデザイン。そして中のシャツの襟元を飾る紺と金のストライプのリボン。
流石貴族が通う学園の制服である。オシャレな上、生地も上質なウールで作られ、着心地も抜群だ。
ちなみに男子も同じデザインの上着で、丸っこい女子の襟に対し、角ばっている。紺色のズボンの裾にはジャケットと同じ模様。そして、女子のリボンに対して、男子はネクタイを着用。
男女ともに皆制服を着用するのは同じだが、ジャケットの中に着るシャツだけは違った。
それぞれのキャラに合わせて変わるのは、乙女ゲームならでは。
カレンの場合はその瞳に合わせて、ダークパープルのブラウス。いかにも悪役って感じの色。
他のライバル令嬢たちは、それぞれのキャラに合わせたパステルカラーで、袖や襟にフリルがついてたりした。
男子たちは、イリアスならば青。瞳の色と彼の性格さに合わせたクールで高潔な感じ。ユーリウスは赤。彼の赤色の髪によく似合っていて、ちょっと着崩した感じがワイルドで色っぽかった。ほかにも緑やオレンジなんてのもあった。
現実の私はといえば、シンプルな白にした。ゲームと同じどぎつい紫にして、引かれたくなかったし、悪女のイメージを払拭したかったから。それに制服のブラウスが白だった向こうの世界の固定観念が、頭の奥底にこびりついてしまっている。
決して、オシャレセンスがゼロなわけではないのよ。うん。決して。
私はスカートをひらりと揺らしてみせる。スカートの下はゲームのカレンは真っ黒なタイツをはいていたけど、今の私は短めの紺のソックス。
私は改めて、己の全身像を鏡で眺める。
カレンはヒロインのライバルを張るだけあって、プロポーションは完璧だ。スカートから伸びる長い足に細い腰。胸も発展途上とは思えないくらいボリュームがある。十六歳だった『橘花蓮』と比べるのも恥ずかしいくらいだ。
髪の長さは『きらレイ』のカレンと同じくらいになっていた。腰に少し届くくらいの長さで、肩くらいまではストレートに近いけど、腰に向けて流れるにつれ、うねるようにカールがかっている。これもゲームで見た通り。髪をセットする必要もないなんて、羨ましすぎる。ゲーム補正、様々だわ。
でも、ゲームと違うところもある。それは顔だ。ゲームのカレンはとにかく目元がきつかった。もとからそんな顔立ちだと思っていたけど、どうやら違ったみたい。
私は自分の顔を見つめる。カレンは大きくて猫目がちな瞳をしている。黒くて太いアイラインをやめて、茶系でちょっと目尻を下げて書けば、瞳が大きくて愛らしい顔立ちに変わる。
化粧って本当、大事なんだなあと実感する。
唇も真っ赤なルージュばかりひいて毒々しかったけど、もとからの赤い血色を活かして、淡いピンクの口紅をひけば、印象が様変わり!
大きくて潤んだ瞳。わずかに染まった桜色の頬。ぷるるんとした唇で、全体的なバランスは完璧! 可憐な美少女の出来上がり! 言っておくけど、駄洒落ではない。
あー、自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。言い過ぎだと自分でもわかってるけど、カレンに憑依しているのは、この私。多少贔屓目で見たって仕方ない。
それに、将来カレンを追い詰めることになる人物たちが集結している学園へと、今から足を踏み入れなければならないのだ。
味方もいない、たったひとりのカレン。
自分で自分の味方をしてあげなきゃ、一体誰がなるって言うの。
気分をあげるためにも、褒め称えても罰はあたらないはず。
私が鏡の中の自分に語りかけていると、横から声がかかる。支度を手伝ってくれたアンナだ。
「そんなにご自分のお顔が珍しいですか? まあ、久しぶりのお化粧でしたからね」
私は鏡の中の自分から離れ、アンナに向き直る。
「そうね。お化粧なんて何年ぶりかしら。今までずっとすっぴんだったから、ちょっと変な感じ」
憑依する前はずっと大人顔負けの化粧をしていたカレン。私が憑依してからはずっとすっぴんで通していた。このままずっとすっぴんでいるのも悪くないと思っていたけど、アンナを始めとする使用人たちに猛反対を食らった。
曰く、『化粧はレディの嗜み』だそうだ。私くらいの歳の貴族の令嬢なら、みんな化粧をしているのが当たり前みたい。中にはもっと早くから化粧している令嬢もいるくらいで、学園の入学と合わせて化粧を始めた私は遅いくらいなんだそう。
まあ、貴族の令嬢が集まるお茶会とか行かないから、そこらへんの常識はよくわからない。
「アンナから見ても、変じゃない?」
私は頬に手を当てる。自画自賛だったけど、それは自分の中にだけ。
人の意見もやっぱり気になる。
アンナが大きく目を見開かせ、大股で一歩近付く。
「すっごく可愛いですよ! カレン様の要望にこたえて、薄化粧にしましたが、カレン様の容姿によく似合ってます。まるで天使みたい!」
勢いに押され、私はちょっと仰け反った。
「あ、ありがとう――」
駄目だ。アンナも贔屓目がひどい。長年一緒にいたし、何より私はアンナが仕える家の令嬢なのである。褒め称えるのが当然だし、冷静な判断なんてできるわけない。
私は諦めのため息を吐く。
「今の横顔もとっーても、麗しいです」
まだ続けようとするアンナに対し、私は口元を引きつらせる。
「わかった。もういいわ。――そろそろ時間ね。行かなくちゃ」
「はい。外でトマスが待っていますよ。扉までお見送りいたします」
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お父様が柔らかく微笑んだ。
「入学おめでとう。制服がよく似合っている」
「ありがとうございます。お父様」
「カレン、綺麗だよ」
お兄様が感極まった顔で私を抱きしめる。
「ありがとうございます。お兄様」
ここ数年で大人の色香が加わってますます美貌に磨きがかかったお兄様に言われると、なんともこそばゆい。
「こんな可愛いと変な虫がつかないか、心配だな」
ちなみにシスコン度も年々磨きがかかっている。
「それから、お前を妬んでやっかんでくる令嬢たちもいるかもしれないな」
私を抱きしめていたお兄様が顔をあげた。
「いいか、カレン。誰かに嫌がらせされたら、真っ先に言うんだぞ」
私を掴んでいた肩に力がこもる。
「我がドロノア家の財力を使って、二度と立ち上がれないほど叩き潰してやるからな」
ひい。私は青ざめた。そんなことをしたら、それこそ悪女街道まっしぐらだわ。
間違いなく悪女の烙印を押されてしまいます、お兄様。
「――お気持ちだけで充分です」
私はぶんぶんと力強く首を振れば、お父様が横から神妙に頷く。
「遠慮することはない。お前のためなら、私とジェイクは何でもする――」
これ以上聞いていたら、話が怪しい方向に向かっていきそうで、私は慌てて話を切り上げた。
「もう時間ですね! 行ってきます!」
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