❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫

文字の大きさ
上 下
19 / 105

18.いざ学園へ

しおりを挟む
とうとうこの日がやってきてしまった。今日はレイマリート学園の入学式。
月日が経つのは速いもので、私は十六になった。実年齢は二十歳だけど。
これから三年間、『きらレイ』の舞台である学園で過ごすことを思うと、楽しみなような、怖いような。
制服に着替え終わった私は姿見を見つめる。
紺色のブレザーに、膝丈より少し長いスカート。ゲームではおなじみの格好だ。既に幾度も見て目で馴染んだ制服を改めてまじまじと見つめる。
金色の釦に、胸ポケットには学園のエンブレム。ショルダーラインと袖口、身頃の中心部には洒落た模様が入っている。スカートはふんわり広がっていて、裾のほうにもジャケットと同じようなデザイン。そして中のシャツの襟元を飾る紺と金のストライプのリボン。
流石貴族が通う学園の制服である。オシャレな上、生地も上質なウールで作られ、着心地も抜群だ。
ちなみに男子も同じデザインの上着で、丸っこい女子の襟に対し、角ばっている。紺色のズボンの裾にはジャケットと同じ模様。そして、女子のリボンに対して、男子はネクタイを着用。
男女ともに皆制服を着用するのは同じだが、ジャケットの中に着るシャツだけは違った。
それぞれのキャラに合わせて変わるのは、乙女ゲームならでは。
カレンの場合はその瞳に合わせて、ダークパープルのブラウス。いかにも悪役って感じの色。
他のライバル令嬢たちは、それぞれのキャラに合わせたパステルカラーで、袖や襟にフリルがついてたりした。
男子たちは、イリアスならば青。瞳の色と彼の性格さに合わせたクールで高潔な感じ。ユーリウスは赤。彼の赤色の髪によく似合っていて、ちょっと着崩した感じがワイルドで色っぽかった。ほかにも緑やオレンジなんてのもあった。
現実の私はといえば、シンプルな白にした。ゲームと同じどぎつい紫にして、引かれたくなかったし、悪女のイメージを払拭したかったから。それに制服のブラウスが白だった向こうの世界の固定観念が、頭の奥底にこびりついてしまっている。
決して、オシャレセンスがゼロなわけではないのよ。うん。決して。
私はスカートをひらりと揺らしてみせる。スカートの下はゲームのカレンは真っ黒なタイツをはいていたけど、今の私は短めの紺のソックス。
私は改めて、己の全身像を鏡で眺める。
カレンはヒロインのライバルを張るだけあって、プロポーションは完璧だ。スカートから伸びる長い足に細い腰。胸も発展途上とは思えないくらいボリュームがある。十六歳だった『橘花蓮』と比べるのも恥ずかしいくらいだ。
髪の長さは『きらレイ』のカレンと同じくらいになっていた。腰に少し届くくらいの長さで、肩くらいまではストレートに近いけど、腰に向けて流れるにつれ、うねるようにカールがかっている。これもゲームで見た通り。髪をセットする必要もないなんて、羨ましすぎる。ゲーム補正、様々だわ。
でも、ゲームと違うところもある。それは顔だ。ゲームのカレンはとにかく目元がきつかった。もとからそんな顔立ちだと思っていたけど、どうやら違ったみたい。
私は自分の顔を見つめる。カレンは大きくて猫目がちな瞳をしている。黒くて太いアイラインをやめて、茶系でちょっと目尻を下げて書けば、瞳が大きくて愛らしい顔立ちに変わる。
化粧って本当、大事なんだなあと実感する。
唇も真っ赤なルージュばかりひいて毒々しかったけど、もとからの赤い血色を活かして、淡いピンクの口紅をひけば、印象が様変わり! 
大きくて潤んだ瞳。わずかに染まった桜色の頬。ぷるるんとした唇で、全体的なバランスは完璧! 可憐な美少女の出来上がり! 言っておくけど、駄洒落ではない。
あー、自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。言い過ぎだと自分でもわかってるけど、カレンに憑依しているのは、この私。多少贔屓目で見たって仕方ない。
それに、将来カレンを追い詰めることになる人物たちが集結している学園へと、今から足を踏み入れなければならないのだ。
味方もいない、たったひとりのカレン。
自分で自分の味方をしてあげなきゃ、一体誰がなるって言うの。
気分をあげるためにも、褒め称えても罰はあたらないはず。
私が鏡の中の自分に語りかけていると、横から声がかかる。支度を手伝ってくれたアンナだ。

「そんなにご自分のお顔が珍しいですか? まあ、久しぶりのお化粧でしたからね」

私は鏡の中の自分から離れ、アンナに向き直る。

「そうね。お化粧なんて何年ぶりかしら。今までずっとすっぴんだったから、ちょっと変な感じ」

憑依する前はずっと大人顔負けの化粧をしていたカレン。私が憑依してからはずっとすっぴんで通していた。このままずっとすっぴんでいるのも悪くないと思っていたけど、アンナを始めとする使用人たちに猛反対を食らった。
曰く、『化粧はレディの嗜み』だそうだ。私くらいの歳の貴族の令嬢なら、みんな化粧をしているのが当たり前みたい。中にはもっと早くから化粧している令嬢もいるくらいで、学園の入学と合わせて化粧を始めた私は遅いくらいなんだそう。
まあ、貴族の令嬢が集まるお茶会とか行かないから、そこらへんの常識はよくわからない。

「アンナから見ても、変じゃない?」 

私は頬に手を当てる。自画自賛だったけど、それは自分の中にだけ。
人の意見もやっぱり気になる。
アンナが大きく目を見開かせ、大股で一歩近付く。

「すっごく可愛いですよ! カレン様の要望にこたえて、薄化粧にしましたが、カレン様の容姿によく似合ってます。まるで天使みたい!」

勢いに押され、私はちょっと仰け反った。

「あ、ありがとう――」

駄目だ。アンナも贔屓目がひどい。長年一緒にいたし、何より私はアンナが仕える家の令嬢なのである。褒め称えるのが当然だし、冷静な判断なんてできるわけない。
私は諦めのため息を吐く。

「今の横顔もとっーても、麗しいです」

まだ続けようとするアンナに対し、私は口元を引きつらせる。

「わかった。もういいわ。――そろそろ時間ね。行かなくちゃ」

「はい。外でトマスが待っていますよ。扉までお見送りいたします」

扉の前までくると、お父様とお兄様も待っていた。  
お父様が柔らかく微笑んだ。

「入学おめでとう。制服がよく似合っている」  
  
「ありがとうございます。お父様」

「カレン、綺麗だよ」 
 
お兄様が感極まった顔で私を抱きしめる。

「ありがとうございます。お兄様」

ここ数年で大人の色香が加わってますます美貌に磨きがかかったお兄様に言われると、なんともこそばゆい。

「こんな可愛いと変な虫がつかないか、心配だな」

ちなみにシスコン度も年々磨きがかかっている。

「それから、お前を妬んでやっかんでくる令嬢たちもいるかもしれないな」

私を抱きしめていたお兄様が顔をあげた。

「いいか、カレン。誰かに嫌がらせされたら、真っ先に言うんだぞ」

私を掴んでいた肩に力がこもる。

「我がドロノア家の財力を使って、二度と立ち上がれないほど叩き潰してやるからな」

ひい。私は青ざめた。そんなことをしたら、それこそ悪女街道まっしぐらだわ。
間違いなく悪女の烙印を押されてしまいます、お兄様。

「――お気持ちだけで充分です」

私はぶんぶんと力強く首を振れば、お父様が横から神妙に頷く。

「遠慮することはない。お前のためなら、私とジェイクは何でもする――」

これ以上聞いていたら、話が怪しい方向に向かっていきそうで、私は慌てて話を切り上げた。

「もう時間ですね! 行ってきます!」

トマスが操る馬車に飛び乗る。

「気をつけて行きなさい」

お父様の呼びかけ声に、私は窓から手を振って応える。
屋敷の人々に見送られながら、私が乗る馬車は一路、学園へと向かっていった。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

処理中です...