❲完結❳傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました

四つ葉菫

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 好きな女性から初めて告白されたことで混乱したのだと腑に落ちた私は、これ以上失態を繰り返さないために努めて平静を装った。
 しかし、本人を前にすれば、どうしても愛おしさがこみ上げてくる。
 エレン嬢に気持ちをつたえたいと思うものの、お茶の席の何気ない会話から突然その話題に移るのも情緒がない気がして、結局伝えずじまいに終わってしまった。
 そんなことを、二度ほど繰り返したある日。

「デビュタント用のお花はいかが致しましょう。それもこちらでご用意致しますか」
 
 エレン嬢のデビュタントのためにレヴィンズ家におくるメイドとアクセサリーを手配するよう頼んでいる時、執事がそう口にしてきた。
 デビュタントの時は白い花をつけるのが決まりである。

「そうだな。そうしてくれ」
 
 花を何にしようかと思った瞬間、頭に閃くものがあった。

「――愛に関する花言葉を持っているものが良いんだが」

 言葉で伝えられなければ、花で示すのも良い。
 そう考えた私は、デビュタント用の花に条件をつけた。
 それを聞いた執事が若干驚いたように軽く目を見張った。

「それなら薔薇は如何でしょう」

「薔薇か……」

 デビュタントの花として大概選ばれる花である。あまりにありふれていて、彼女には伝わらないかもしれない。

「ほかはないだろうか」
 
 執事が少し思案したあと、口を開いた。

「なら、デイジーはいかがでしょう」

 華やかさはないが、可憐な花である。

「確か『あなたと同じ気持ちです』という意味があったかと思います。愛に限定はしていませんが、相思相愛の相手ならぴったりかと」
 
 初めて知る花言葉だ。エレン嬢ももしかしたら知らないかもしれない。その場合、デイジーの意図には気付かないだろう。
 しかし、それでもかまわない気がした。
 私の気持ちと同じ想いが込められた花をエレン嬢につけてもらいたかった。

「では、デイジーにしてくれ」

 それに愛を伝える場はほかにもある。
 一月後には結婚式だ。愛を誓う正式な場なら、それに相応しい雰囲気もあるし、真剣な思いだと受け取ってもらえるだろう。
 その時に愛を伝えても遅くはないと、その時の私は考えてしまった。

「ただ花の時期は過ぎてしまっているので、咲いているところから取り寄せることになりますが」

「かまわない。そうしてくれ」  
  
 執事が今度こそ目を見開く。
 これまで効率を一番に、使用人の手間を増やすようなことをわざわざ選択したことがなかった私であったから、驚いているのだろう。

「かしこまりました」

 執事が私の顔をじっと見て、やんわりと微笑んだ。

「どうした」

「いえ。若様にもそういうお相手がようやくできて、よろしゅうございました」

 畏まったいつもの笑みとは違う微笑みを浮かべると、執事は一礼して出ていった。
 残された私はというと、なんとも面映ゆい気持ちにさせられたのだった。



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