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しおりを挟むその後、他の話へと会話が流れ、足も充分休めたため立ち上がろうとした所で、エレン嬢が小さな声をあげた。
「――あ」
「どうした?」
「……いえ、何でもありません」
見ていた方角から視線を外し首を振るものの、私はエレン嬢が気を取られていた方向に顔を向けた。
そこには――
「的にあててぬいぐるみをとる遊戯だな。ほしいのか」
「――いえ、ただちょっと気になっただけで……」
彼女の関心を引いたなら、それで充分だった。
「的あてか。実は少し得意なんだ。とってみせようか?」
剣術、弓術、馬術。武芸と名がつくものはどれも昔から、見るだけでこつを掴むのが早かった。
玩具の得物なら、尚更だろう。もっとも、的あてが武芸の中に入るかは怪しいが、体を使ってやるのは共通している。
「え?」
戸惑うエレン嬢をよそに、私は屋台へと向かった。
「店主、一回頼む」
お金を渡して、得物を構える。
いぬのぬいぐるみ、きつねのぬいぐるみ、とりのぬいぐるみ。どれにしようか迷っていると、白いうさぎのぬいぐるみが目に入った。
白いふわふわの毛。可愛らしいつぶらな瞳とちょこんとのった鼻。
純真無垢で、可愛い顔立ちのエレン嬢。
不思議と白いうさぎとエレン嬢が私の頭の中で結びついた。
たまにみせる仕草にも、小動物を見ているような愛らしさがある。
――あれにしよう。
それにどうせあげるならエレン嬢に似合うものが良い。
的を絞り手を放せば、見事うさぎに当たった。
「はい。君にやろう」
思わず笑顔になって渡せば、エレン嬢が今まで見たことのない表情をした。
「……フェリシアン様は昔、迷子の女の子にくまのぬいぐるみをあげたのを覚えていますか?」
エレン嬢がぬいぐるみをぎゅっと胸に抱いて下を向く。
警備団に入団してからこれまで毎年、たくさんの迷子を保護してきた。だが、ひとりひとりを正解に覚えているわけではない。
何故エレン嬢がそんな質問をするのかわからず、特に深く思い出しもせず答えた。
「……いや、覚えていないな」
それきり、エレン嬢からの返事はない。
まだ顔を伏せたままのエレン嬢にどうしたのだろうと思っていたら――
「……あなたが好きです」
一瞬空耳かと思った。
けれど、目をぎゅっと瞑り、頬を赤くさせたエレン嬢を見て、空耳でないことを悟る。
それから徐々に言葉を呑み込んでいく。
――エレン嬢が私を好き…………。
告白されるのは慣れているのに、どうしたことだろう。
実感した途端、煩いほど鼓動が激しくなっていく。
こんなことは初めてで、私は戸惑った。
何か言わなければ――
けれど何も言葉が見つからず。
こちらを見上げてくるエレン嬢を見て、余計に焦りが生まれる。
『ありがとう。……だが、すまない』
いつも告白される時に返す言葉が咄嗟に頭に浮かんだ。
「……ありがとう……」
返事を考えるゆとりがなかった私は、図らずもそう口にしていた。
エレン嬢に突然告白された混乱と、いつも何事も冷静に対処してきた自分が今の状況に対応できていないことに戸惑い、その時の私はエレン嬢の表情の変化に気を止める余裕はなかった。
その後祭りを見て回るも、混乱と戸惑いを引きずって、まともに振る舞えたかどうかは怪しいものだった。
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