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しおりを挟む店のショーウインドウを見惚れたように覗き込む彼女。
もしかしたら立ち止まったことさえ自覚していないかもしれない。
私たちが今いる場所は高級店が立ち並ぶ通りの店のひとつの前。
ここに降り立った時から、彼女は周りに目を奪われている様子だった。
「気になるなら入ろうか?」
「いいえ」
はっとして慌てて首を振る彼女。
私の腕に掴まり再び歩き出すも、また次の店のショウウインドウに目を奪われた感じで立ち止まる。
彼女の家の内情を察するにつけ、こういった場所には初めて来たのかもしれない。
見るものどれもが珍しくて、目をひくのだろう。
初めてのデートの場所に女性が喜びそうな場所に連れてきたのだが、エレン嬢は一向に店に入ろうとしない。
遠慮しているのだろうと思うものの、見るものの中には紳士物の服や靴も含まれているため、一概にはそう言えないかもしれない。
――あまりこういったものには興味がないのだろうか。
考えれば、彼女はいつも地味な色合いだった。初めて見た時も、今日も。
彼女のおとなしい性格からして、そういった色合いが好みなのかもしれなかった。今まで一流の店のオーダーメイドしか頼んだことがなかった私は、下位貴族の令嬢が購入する既存のドレスの価格に差があることなど考えなかった。
エレン嬢に綺羅びやかなものを無理強いするのも悪くて、私は黙ってショウウインドウを眺める彼女に付き合った。
そのうちに、高級店通りの外れまで来てしまった。
ここからはエレン嬢が物珍しくなるものはないだろうと思い、近くの公園に目を向ける。
「歩いたから、疲れただろう。適当な良いお店もなさそうだから、少し公園で休んでいこう」
「はい」
私たちはベンチを見つけると腰をおろした。
当初の予定とは想定外の成り行きに、私は戸惑っていた。
本来なら今頃、彼女にプレゼントの一つや二つ贈っているはずだったのだが。
しばらく無言を保ったあと、私は口を開いた。
「初めて一緒に出掛けた記念に、君に何かあげたかったんだが、ほしいものはなかったか」
これまで一日だけ付き合った女性は誰もが率先して、この場所をデートに選び、買い物を楽しんだ。
女性が買い物をする時、そこに男性を同伴していれば、男性がお金を出すのが紳士としての礼儀とされていた。
女性も私もそれを当然のように受け止めていたし、私としても一日付き合ってくれた返礼の意味合いとして贈っていた節もある。
「ほしいものなんて、全然――……。……一緒にこうしてフェリシアン様と歩けただけで、充分満足です」
そう言って首を振ったあと、嬉しそうに微笑む彼女。
その姿に私の胸がまたざわついた。
婚約者でもない女性たちに散々ドレスや宝石を贈っておきながら、婚約者である彼女に何ひとつ贈らないだなんて、そんなことできよう筈もない。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、私の気が済まない。何か君に――」
そう言った私の目にその時、公園の通りにある花屋が映り込む。
――花を贈るのはどうだろうか。
けれど、その浮かんだ考えもすぐに打ち消した。
「もう散々贈ったしな……。記念にはならないな……」
度重なれば花もつまらない贈り物になるだけだ。
考えだした私の横でエレン嬢が口を開く。
「なら、あの、手芸用品がほしいです」
「手芸用品?」
「はい。ちょうどこの近くに私が行くお店があるんです」
彼女の提案に救われた気がして、ほっと息を吐いた。
「そうか、君は刺繍が好きだと言っていたな」
「はい」
「なら、そこにいこうか」
エレン嬢の案内で、私たちは手芸店に行くことになった。
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